27話 攻城戦
王都へ向け出陣した兵は45,000兵である。パーディシア軍が撤退したといえ全軍を挙げて領地を空にする訳には行かない。防衛の為に3,000の兵を残した。
グリーン卿達はパーディシア軍が敗走した情報は既に得ているだろう。ガリア帝国兵が戻っている場合はこちらと変わらない戦力を有するに違いない。俺達は少しでも急ぐ為に進軍速度を上げて進む。
2日後、王都が眼下に入る位まで近づいた。だが今だガリア帝国軍やグリーン領兵のどちらも見る事はない。王都内へ入ってみてもそれは同じであった。伏兵が潜伏している事を案じて王都に事前に調査隊を出すと、今だ街に隠れていた民から兵達は王宮へ立て籠もったとの情報を得た。どうやらガリア帝国兵は戻って来ていない様である。
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王城は切り立った丘の上に円形に建てられている。正面の城壁の高さは10m程だ。後ろ半分には崖があり、その崖の高さは約40m。その崖の上に城が建てられている。到着後すぐに連合軍は王城の周囲を取り囲み包囲網を完成させる。それは外と完全に孤立させるためだ。望遠鏡で見ると城壁の上に兵士の姿が多数確認された。これで敵が篭城しているのは確実だと思われた。連合軍は降伏勧告を何回か行なったがその際大量の矢が放たれ、攻める事が決定した。
この後、城を攻める前に貴族や兵を率いる隊長などが集まり軍議を始める事が決まっている。俺とザイクルは軍議が行なわれるテントに来ていた。
「兄貴、俺は城攻めって経験無いんだよな」
俺にそう話すザイクルは分が悪そうな感じだ。
「俺も無いから心配するな。攻城戦は守る方が有利だがらな、こちらもそれなりの損害がでるかもしれん。だがダグウェン卿達もいるんだ。どうにかなるだろう」
「兄貴も無いのかよ! 何か心配になってくるじゃね~か」
そして軍議が開始された。この攻城戦の指揮は経験の豊富なダグウェン卿が勤める事となった。彼なら俺も異存はない。軍議の最初に俺とザイクルは攻城戦を経験した事がない事を伝えた。するとダグウェン卿は前回のパーディシア軍との戦闘の功績から最初は後方支援という形で見学が出来る様に調整してくれた。攻める方法、兵の配置や投石兵器の作製などを話し合い軍議は終了した。
俺とザイクルは軍議の後ダグウェン卿からこの城の事や攻城戦について教えて貰う。
「この王城は難航不落……この場所に王城があるのも敵に攻められた時に守り易いからだ。普通なら城の全方位に兵を配置しなくては行けない。だが王城は前方の半分だけで済む訳だ。それだけ兵を集中して配置する事が出来る。後方も崖があり攻めるのは難しいだろう」
「攻城戦は攻める方が不利なんだろ? 大丈夫なのか?」
「ある程度の被害は仕方ないだろう。城を攻めると言うのはそういう事だ」
「ダグウェン卿はどうやって攻める気でいるか聞かせてくれないか?」
「正攻法だが、正面から攻めるしか方法は無い。最初は投石機や弓を使用し城内に家屋の廃材や矢を叩き込み敵が怯んだ隙に門を破壊しながら城壁に梯子を掛け兵を送り込む」
「後方からは攻めないのか? 崖をよじ登って突入するとか?」
「崖側には城壁が築かれず直接王城の壁となっている為、一番低い場所の窓や通路でも50mを超えている。そんな場所を鎧を着けて上れる者などいる筈が無い。さらに高すぎて梯子やロープを掛ける事も出来ない。正面から攻めるしか方法は無いだろう」
俺は少しの間考えてみる。あれを使えば行けるかも知れない……
「ダグウェン卿、辺境軍は少数で裏側から攻め込み直接グリーン卿を討とうと思う。いいだろうか?」
ダグウェン卿は俺の言葉に驚いている。
「裏から、一体どうやって?」
「あぁ、ロープを張って突入してみようと考えている」
「高さ50mだぞ! 内通者がいて城側からロープを垂らして貰う以外方法は無いぞ」
「方法は色々と考えて見るさ!」
別行動の了解を得た俺達は自軍のテントへと戻った。
「兄貴、一体どうやって登る気なんだ? 俺もダグウェン卿が言う通り崖側からは難しいと思う」
「それは大丈夫だ。城に入る方法は既に思いついている。心配しているのは武器や防具をどうするか。
さすがに武器も無ければ敵を倒す事が出来ない……」
俺が思案していると、ザイクルが俺の肩に手を乗せた。
「入れるなら簡単じゃね~か。装備なら殴り倒して現地で調達できる。そういう事は俺に任せてくれ」
ザイクルは今、肩から先がないラフな服を着ていた。俺の肩に乗せた手を見るとむき出しの腕には幾つもの傷がある。ザイクルは出会ってからずっと俺の為に戦い続けてきてくれていた。
「なぜ、お前はそんなになるまで戦ってくれるんだ?」
「あぁ、傷の事か? これは俺がヘマした結果だから兄貴は気にしないでくれ」
「そういう事を言っているんじゃない。お前は自分の命を掛けて、なぜ俺の指示に従ってくれるのかと聞いているんだ!」
普段は見せない俺の様子にザイクルも思う所があったのだろう。肩に乗せていた手に力を込めてくる。
「最初は命を救って貰った恩で出来る限り協力して行こうと決めていた。だけど兄貴とハイブ兄貴と3人で頑張って村を大きくして行って……なんていうのか…… 守りたいんだ。
俺の故郷はディデルだ。だけどディデルを守ってくれてるのはフェリィ全体だ。フェリィ地方を守ってくれてるのは王国だろ? だから俺は国を取り返す為、ディデルを守る為に自分の意思で戦っている。
他の兵士達もみんな同じ気持ちだ。それぞれが守りたい村や家族がある。その為に俺達兵士は全力を尽くしている」
思いはみんな同じだった。俺はリアの為に戦い、村を大きくしてきた。今は自分たちが幸せに暮らす場所を守る為に戦っている。
「ザイクル……ありがとう。俺は戦えば直ぐに殺されてしまう様なヘタれだけど、俺が持てる力は全て出し尽くすつもりだ。信じてくれるか?」
「あぁ、兄貴を疑った事は一度もね~よ。今回も頼むぜ!」
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それから2日後、即席の投石兵器を完成させた連合軍は攻撃を開始する。城壁に向うに飛ばされた瓦礫は、十分な高度まで舞い上がり凶悪な兵器と化す。ダグウェル卿に火炎瓶も渡してある。数はそこまで多くない為、部分的な投下となっていた。だがその威力は凄まじく、場内からは煙が立ち上っている。何処かに引火した可能性が高い。
対する防衛軍は城壁の上から弓による。攻撃を仕掛けて来た、放たれた矢は10mの高さから威力を上げながら襲いかかってくる。盾役の兵が必死で矢を盾で受けている。
投石攻撃の合間を縫って歩兵が梯子を掛ける為に城壁に寄りかかる。敵は上方から矢や石を雨の様に叩き込み前線は凄惨な状況と化していた。
後方の陣営には俺とマリア王女が攻城の様子を見ていた。そしてマリア王女がポツリと言葉をこぼす。
「これが戦争なのね……」
「そうだな、これが戦争だ」
それが本音だ。だがこの戦争には沢山の思いが詰まっている。みんな何かを守る為に戦っている。それをザイクルが教えてくれた。
「みんな必死で国を取り返そうと頑張っているんだ。マリア王女はその事を忘れないでくれ」
「えぇ……絶対に忘れないわ」
「それじゃ、それそろ俺達も動くから、行ってくるわ」
手をプラプラと振りながら俺はマリア皇女の前から去って行く。
「ちょっと待ちなさい!」
マリア王女の声に俺が振り返った。
「死なないでね……」
「王女も知っているだろ?俺は後ろで見ているだけだ。その言葉は前線で戦っている者に掛けてやってくれ」
「それでも…… 絶対に死なないって訳じゃないじゃない。約束して絶対に死なないと……」
心配してくれているのが解る。何時もの強気な表情ではなく、子供が泣くような顔だ。俺は安心させる為にマリア王女の頭をなでながら言い切った。
「約束するよ。絶対に死なない」
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辺境軍の精鋭100は城の裏側で身を潜めている。そろそろ作戦が開始される時間の筈だ。するとトランシーバーから連絡が入る。
「辺境伯様、火炎瓶の投下が開始されました」
その合図を皮切りに俺が動き出した。防衛軍は火炎瓶の攻撃で混乱し消火活動に終われているだろう。チャンスは今しかない。
狙いは城の2階バルコニーだ。何かの部屋なのだろう、窓の外にはバルコニーがあり雨避けの屋根も設置されていた。その雨避けの屋根を支える2本の柱が設置されている。 この場所から高さは約50mを越えるだろう。
俺は使う時が来るだろうと考え、以前からドローンを購入していた。そんなに遠くには飛ばせないが十分だ。まずはドローンに凧紐を括りつける。そして操縦し庇を支える支柱を一回点させ再び俺の元へと戻らせた。横で見ていたザイクルの驚き様は傑作であった。
凧紐の一方に太いロープを括り、もう一方を引っ張っていくと太いロープと入れ替わった。作戦の前に凧紐の強度は事前にロープ束を持ち上げ調べているので切れる事は無かった。太いロープの端を近くの木に括り付けて準備は完了だ。
「後はザイクル達に任せるしかない。俺にはこれを登れないからな……」
目の前に垂れるロープの長さを見上げて俺が言った。
「ああ、任せてくれ。グリーン卿は俺達が必ず倒してやる」
そう言ってザイクルは垂れ下がったロープを掴み上り始めた。今回選んだ精鋭は身が軽く腕力のある者達だ。全員装備は着ていない。ザイクルの後を追うように、また一人、一人と登って行く。ロープが切れる事を恐れ3人以上の負荷が掛からない様登れと指示を出していた。 ロープを掴み足で壁を歩きながら登って行く者や、腕力だけで登る者と様々だ。
途中で休憩を入れながらも登る兵士達の中には手を滑らせ落下した者も数名いた。 下には一応毛布や藁を大量に敷き詰めクッションを作っているが、大怪我をしているだろう。
そうしてザイクルが上りきると、部屋の様子を伺い窓を開けて入って行った。上りきった兵士達もザイクルに続く。
「後は結果を祈るだけだ。兵士達には催涙スプレーを持たせているが……」
全ての兵士が上りきったのを確認した後、落ちた兵士達を運ばせてその場を立ち去った。




