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2話 異世界での目標

 俺が少女を村へ送った後に、彼女に手を引かれて1人の男が近付き声を掛けて来た。 


「ぜひ娘を助けてくれたお礼がしたい。 どうか家に来て下さい」


 深々と頭を下げるその男性に嫌とは言えず、村へ入り彼の家へ向かう。

 村の周囲を囲む柵の中には、ボロボロの家が立ち並び、家と家の間には、家庭菜園の様な小さな畑が各家に造られていた。


 住人は皆、興味本位に俺の姿を見てくるが、その誰もがボロボロの服を着ている。顔には精気が無く、体は痩せ細っていた。


 不気味さを感じながら男の家へと入ると、少女の母親と思しき女性とその隣には少年の姿があった。


「娘を助けて頂いてありがとうございます。私はこの村の長をやっている。 リンドウと言います」


 長と言う男の重苦しい雰囲気を察した俺は、適当に話を聴いて退散する事に決めた。


「俺は航太朗、旅をしている者で彼女を助けたのは偶然だ。気にしないでくれ」


「航太朗様ですか。余り聞き慣れない響きですね。服装もこの辺りでは見ないですし、何処か遠くの国のご出身ですか?」


「まぁ、そんな所だ。礼も聴いたから俺はこれで失礼させて貰う」


 早く帰ろうと俺が椅子を立ち上がった時に、男は俺の前まで走り、土下座の様に、土の床に頭を擦りつける。


「航太朗様、盗賊を一蹴したそのお力でどうか村をお救い下さい!!」


(ほらきた。どうも嫌な予感がしてたが、そう来たか……)


 俺は貧しい村の様を見ていて思っていた。俺の荷物を奪われるか、もしくは無理難題を頼まれるか、何かあるかも知れない注意しておこうと。


 予想が当たった俺はキッパリと告げた。


「悪いが断らせて貰う。第一助ける道理も無い」


 長は額を擦りつけたまま、悲痛な叫びを漏らしながら、懇願してくる。


「そこをどうかお願いします。私達の村は様々な村で弾かれ追い出された者達が肩を寄せ合い、ひっそりと暮らして居たんです。

 最近盗賊にこの村を見付かってしまいました。この村は貧しいので盗賊に差し出す物なんてまったくありません。襲われれば男、子供は皆殺しされ、女は慰み物になりはてます。

 娘も食料が尽きて、村の外で探していた所を捕まってしまいました。どうか。どうか!」


 たった2人の盗賊なら俺の武器でもどうにかなるかもしれないが、徒党を組まれたら勝てる見込みが全く見えない。


(可愛そうとは思うけど、命までは掛けられない……)


 俺は長の横を通り、ドアへと向って行った。だが俺の前に助けた少女が立っていた。


「外に出たいから邪魔しないでくれ」


「ですが……助けて頂いたお礼がまだ済んでいません。休む場所だけでもお世話させて貰えませんか……?」


 彼女の瞳は僕の目を逸らさず、見つめ続けてくる。今まで、家族以外の人と接した事の無い俺にとって、その瞳の力は強すぎた。一歩後ずさり、彼女から目を逸らす。そして屈服したかの様に頷くしか出来なかった。


---------------------------------------------


 今は誰も住んでいない家に案内されている。長の家も広いとは言えない。家族全員寝れば、俺の寝る場所が確保出来ないので此処に連れ来られた訳だ。


 家の中はテーブルが一つと、木のベッドの上に何か藁の様なものが敷き詰められおり、その上にボロボロのシーツが掛けられていた。 

 俺はそのベットの上に腰を降ろし、壁に一つだけ付けられている窓から夜空を見上げる。

 部屋の中には皿の上にオイルが足された手製のランプが在る。だがその光は弱く部屋の中は薄暗い。その為に夜空の美しさが際立っていた。


「はぁ~ぁ、何か流れ的にこうなってしまったけど、仕方ない此処で寝るのもどうかと思うし、一度帰るか…… また明日の朝戻ってくれば大丈夫だろう」


 そう考えていた時、ドアがノックされる。

「どうぞ」と声を掛けると少女が入ってくる。手には野菜が載った皿を持っていた。

 

「すみません。食事です……この村にはこんな物しかありません。お口に合わないかも知れませんが、どうか食べて下さい」


 そう言って痩せ細った人参の様な野菜が3本載っている皿をテーブルに置いた。


「この野菜は、どうしてこんなに痩せ細っている?」


 それは単なる興味本位であった。自然と口から出た言葉に少女は涙を流す。


「私達が住む場所は、普通の人では住めない様な荒野のすぐ側です。こんな場所でないと、村は直ぐに潰されてしまう。でもこんな場所では土に栄養も無く野菜も動物も満足に取れません……」


 そう言って少女は僕の前で服を脱ぎ捨てた。下着なども付けて無い生まれたままの姿である。15歳に見えるかどうかの少女のする事では無く、驚いてしまう。


「えっ!!」


 女性の免疫が全く、突然の出来事に戸惑う。普通なら興奮したり、色香に惑わされたりする場面だ。だが俺にはそんな感情は起こらなかった。何故なら彼女の身体に女性らしいふくよかな場所は一切なく、骨と皮だけの状態であったからだ。


「こんなみすぼらしい身体では満足させられないかもしれません。ですが、こんな私で良ければ喜んで差し上げます。どうがこの村を助けて下さい」


 先ほどと同様に強い瞳で言葉を放つ少女を見つめる。今度は俺も瞳を逸らさない。

 その時、裸の少女に以前の俺自身を重ねていた。中学でつまらない苛めに合い、尻尾を巻いて引きこもった俺に比べ、この少女はどんなに自分が弱くても、身体を張って周りを守ろうとする強さがある。


(強い…… 君は強いな……)


 俺の瞳からも涙が自然と流れ出す。そしてそのまま少女を抱きしめた。

 少女は自分の願いが聞き入れられたと勘違いしたのであろう。嬉しそうに笑顔を見せると俺に身を委ね、その瞳をそっと閉じた。

 

 彼女の耳元で俺が呟く。


「君の名前を教えて欲しい……」


「私の名前はリアです」


「そうかリア。俺は君の願いを全力で叶えるよ……だから君を抱く! でもそれは今じゃない、この村を豊かにし、君も父親も母親も周りの者全てが、こんな痩せ細った身体では無く元気になってからだ」


「ヒッ。ヒック。やはり……私のみすぼらしい身体では航太郎様には……た……助けていだぁ……のにぃ、何も……返せなくて……」


 俺の言葉がショックだったのか? 瞳から流れる涙を止める事無く、肩を震わせて泣いていた。


「違う。違う。リアは魅力的だ。でも今の俺がリアに釣り合って居ないだけ、この村を豊かにした時に俺は遠慮無く、リアを抱かせて貰う。だからそれまで待ってくれ!」


 リアの肩に手をやり、少し突き放す様に距離を取る。そして今度は俺から彼女を見つめた。


(信じてくれ!)


 ただそれだけの思いを載せて見つめ続ける。するとリアも俺の瞳から目を放さなくなっていた。

 彼女の伸びたままの水色の髪がランプの光に反射して魅惑的に輝いている。

 そのままリアはコクンと首を縦に振った。その様子に俺は笑顔になる。


(絶対に負ける訳には行かない。どんな手を使ってでもこの村を守ってみせる! きっと俺はリアに惚れてしまったのかもしれないな……)


 そんな事を考えながら再度リアを抱きしめた。

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