16話 戦う者
重苦しい不陰気が部屋中を包んでいた。今俺が居るのはハイブの家である。領主を殴った件を相談する為に使いを送って連絡をしていた。
「今回は全て俺が悪い。すまなかった!」
ハイブ達も話を聴いて驚いていた、そんな2人に深々と頭を下げる。
「兄貴、気にするなって。俺も家族に手を出されていたら、同じ事をしていたぞ」
「今は今後どうするかです。領主を殴ってすみませんでした、と言っても通用しませんから。潔く処罰を受けるか、それとも戦うか……」
「俺は戦うつもりだ。それで2人に迷惑を掛ける訳にも行かない……だから三村同盟は破棄とさせてくれないか?
フェリィは俺が居なくなったら、きっと領主達の食い物にされちまう。それなら有志を集めて、やれるだけやってみるつもりだ。そこでハイブに頼みがある。今回戦わない者をライド村に移住させて欲しい」
フェリィにはここ1年で移住した者や女・子供も沢山いる。そんな者達にまで命を掛けろとは言えない。俺は深々と頭を下げる。
「避難させるのは構いませんが、同盟を破棄する必要は在りません。ザイクルが言いそうな事ですが、航太朗殿は同盟結束時に言いました。私達は家族だと……私は家族を捨てる事はしない!」
ハイブからは普段は見せない強い意志を感じ取った。さらに彼は語る。
「それに今回もチング商会が絡んでいる。私は彼に大きな借りが在ります。1度ならず2度も私の近しき者に手を掛けられては……私なりのやり方になりますが、ご協力させて下さい」
「ハイブ兄貴だけじゃないぞ。 俺達ディデル村の戦士全員も兄貴の為に戦わせてくれ」
友達も居なかった俺に此処まで言ってくれる者が現れるなんて……もし引きこもりなどしなければ、日本でもこんなに信頼できる友人が出来ていただろうか?
いやそれは無い。上辺だけ友人ならいるかも知れないが、本当の窮地に立った時、共に歩いてくれる友人など普通に暮らしていても出来る訳がない。これは窮地を助け合い、共に同じ目標に向かい苦楽を分かち合った絆……
(この2人だけは疑うのをやめよう。彼等を信用しなければ俺は今後誰も信用できなくなる)
そして俺は彼等に真実を告げた。
「ハイブもザイクルも気付いていると思うが、俺はこの世界より遥かに進んだ文明を持つ国から来たんだ。俺の持つ道具はこの世界の不可能を可能にする。 相手が信じられない事を引き起こす。2人が共に戦ってくれるなら……絶対に勝ってみせる。俺を信じてくれないか?」
「薄々は気づいていました。最初持って来たアメ玉の完成度、ディデル村で村人に飲ませていた薬。この世界の技術では出来ない物ばかりでしたので……待っていましたが、やっと話してくれましたね」
「兄貴、俺には難しい事は解らんが、命を救ってくれた兄貴を信じて付いて行くだけだ。今度は俺に兄貴の命を守らせてくれ!」
笑顔で迎えてくれた2人の手を取り、俺は子供の様に泣いた。
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翌日、俺達は作戦会議を始める。今朝、各村人に状況を説明して共に戦ってくれる者達を集めていた。
フェリィは80名、次にディデルは100名、最後にライドは20名であった。今回ライドは余り関係無い。フェリィとは同盟村と言う関係だけで、無理を強いる訳にも行かない。俺の言葉を受けて20名も集まっただけで十分だった。
「領主が居る街はフロアの街から少し離れたデンバーの街です。街の規模もフロアより一回り大きい。きっと最初は領主が抱える兵士が攻めて来るのではないでしょうか? 確か数は600名程の筈です」
「600名か…… フロアの街や他の村から兵士は出ないのか?」
「小さな村を潰すのに、そこまではしません。もしもの場合を考えて今の内に私やライターのコネを使い、全ての村や街の有力者に声を掛けて行きます。悪政を敷くサイパンとフェリィの戦いに手を出さない様にと……」
「そんな事が可能なのか? 領主の命令は絶対だろ?」
「サイパンはどの村や街にも重い税を強要していました。そんな事は誰もが従いたくは有りません。だがもし声を上げても一人なら潰されてしまいます。 なので今までどの村も我慢をしていました。
だから彼等の心情に訴えこの戦いを傍観する様に意思を統一させます。この戦いの勝った方に付く様、仕向けるのです」
本当にこの人は商人なのだろうか? 俺はハイブが職を間違えている気がしてならなかった。
「兄貴、それで600と言えば俺達の兵力の倍以上だ。それにこっちは全員が戦闘出来る訳でも無い、実際かなり部は悪いぞ」
「ああ、それは俺が何とかしよう。ザイクルにも見せてやるよ。俺の力がどれだけの物なのかを!」
「では私の方はテイラーと連絡を取り合い、サイパンの動きを逐一連絡させて頂きましょう」
その後、兵士をフェリィに集める事を指示し各自準備に入った。
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俺は部屋に戻りネットで検索を開始する。俺が購入出来る物はたかが知れている。火薬などの危険物など到底無理だ。ならばそれらでも戦える方法を探すしかない。俺は色々とキーワードを打ち込んで行った。
「やはり、これしか無いよな。それとこれもきっと使える筈だ。どれが使える状況なのかまだ解らないが、全部買っておこう。絶対に失敗は許されないからな!」
俺は様々な場所を廻り、必要な物資を順番に購入してしていった。
ザイクルの方は集めた兵に色々指示を出していた。主戦力はディデル村の戦士達だ。他の村人はあくまでも、彼等のサポートとなるようだ。
集まった者達は自主的に戦うと決めた者だ。その士気は高かった。
「俺達の村は、俺達の手で守るしかない、サイパンは俺達の村を潰す気だ。絶対に勝つぞ!」
ザイクルの鼓舞に全員が雄叫びを上げて応えている。俺はサポート部隊を集めさせると、日本で購入した物資を見せ、彼等の主力となる兵器を何個も作らせていった。
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それから数日後、俺の元にハイブからの使者が訪れる。彼から預かった手紙には、今朝サイパンの主力部隊がフロアの街に入ったと書いてあった。
フロアの街で一泊した後フェリィへと向かう。テイラーは酒場で兵士から情報を得ているらしく、兵士達は昼間から酒を飲み、小さな村一つ潰すだけだと油断しているらしい。
他の村や街への見せしめを兼ねてサイパン直々に指揮を取る様で、豪華な馬車を引き連れているとの事だ。
編隊は騎馬100名で後は歩兵500、ハイブが最初に言っていた通りの人数であった。
それらの情報を元にテーブルの上に広げた地図を眺めポイントに丸を付けていく。
「歩兵が多いな。徒歩だとこの村に来るまで4~5日掛かる筈だ。きっと最短ルートの道を通るだろう。ならあれを使うか」
俺はザイクルを呼ぶと作戦を告げる。俺の作戦の意味が解らなかったザイクルは首を傾げていた。
「兄貴が言う通りにやるが……これで敵が兄貴の言うとおり翻弄できるのか?」
「大丈夫だ。ザイクルも一度使っておけよ、そうでなければお前の方が驚いてしまうからな」
ニヤリと笑みを浮かべザイクルに使用方法を説明していった。
「これで準備は完了だ、サイパンお前の破滅はもう決まっている。これは決定事項だ!」