14話 フェリィの村
朝早くから、木に釘を打つ音や鋸で切断する音が村中に響き渡る。テイラー商会が連れて来た職人達は真面目で腕も良くこちらの要望を次々と形にして行く。テイラー自身がこの村を訪れた時とは見違える程、村は大きくなっていた。
「航太郎殿、フェリィの村も随分立派になって来ているな。この分だと後数日で完成しそうだ」
「ああ、全てはテイラー商会のお陰だ。だがフェリィが終わった後は、ライドとディデルにも行って貰わなくてはならない。まだまだ彼等には頑張って貰わないとな」
俺はテイラーにフェリィが終わった後、追加でライドとディデルにも補修や増築などを依頼していた。ハイブもザイクルも恐縮していたが、元は無くなっても良いアメ玉で作った金だ、俺は惜しみなく三村同盟に投資をして行く。
何故テイラーがフェリィに居るかと言うと、俺がテイラー商会と新たな契約を交わしたからだ。
テイラーが一度村へ訪れた時に俺はある提案をしていた。量は多くないが、定期的にアメ玉を納品する事が可能だと、それにテイラーが飛びついて来た訳だ。 条件として定期的にフェリィ・ライド・ディデルに商業を廻る事であった。その為これからは、此方から街へ行かなくても定期的に物資の確保が可能となる。 更にその村特有の商材を卸す事で金銭の取得が出来る様になった。
「航太郎殿の提案はテイラー商会にとっても十分な利益を生んでいる。感謝するのは此方の方だよ」
「所でアメ玉は売れているのか? 一つ銀貨5枚だろ?」
「いやいや、今は在庫を捌いているだけだが、人気が出過ぎて困っているさ。王宮からも定期的に注文が入るし、各貴族達からも引っ張りだこだ。出荷量を抑えている分、どこで手に入れたのかは解らないが闇ルートで1個金貨2枚ってのも聞こえてくる程だ。航太郎殿が、定期的に納品してくれると言ってくれて、胸を撫で下ろしているのが本音さ」
「そうかそれならいいが、こちらも多くは出し続けられないぞ、後はそっちで上手い事やってくれ」
(そんなに人気なら、この村で作って産業にするのも悪く無いかもしれないな。以前よりやり始めているのと合わせて2つ目…… 両方上手く行けば、村は活気を取り戻すぞ!)
この村に産業が無い事を懸念していた俺は様々な事を考えていた。何か無いかと探していた俺は村から半日程度歩いた荒野の一部で有る物を見つけた。
「これは…… 結晶? 何だこの結晶は?」
荒野に転がる岩に付着している白く輝く結晶を見つけ、俺は少しだけ舐めてみる。
「しょっぱい…… これって塩か!」
後でネットで調べてみると、塩が取れる場所を塩水湖とか言うみたいだ。 昔この辺りは海だったと言う事になる。 フィリィで野菜が満足に取れなかった理由もこれで納得する事が出来た。
この荒野は昔から灼熱の大地と呼ばれており、誰も手をつけていないとの事。
村人を集め岩塩採取しテイラー見せてみると十分売り物になるようだ。
そうしてフェリィの最初の産業は塩と言う事になった。村人達も働いた分だけ金を手に入れる喜びを感じ、一生懸命働いている。
今では俺が最初に見た時と違い、ボロボロの服を着た者など一人も居なかった。
俺は元気に働く村人と目前で出来上がる村を見つめながら、これから進む村の発展に想いを募らせる。
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「兄貴~、遊びに来たぞ。手土産に肉を持って来たから、兄貴の所で取れた塩をまぶして焼いてくれよ」
「ザイクル、狩りには行かなくていいのか? 村長だといってサボっていると、蹴落とされるぞ」
「今日の狩りはもう終わった。心配しなくても俺より狩れる者なんていねぇよ」
同盟結束からザイクルがちょこちょこと村へ来る様になっていた。俺の事も勝手に兄貴と呼び年上の癖にウザくてしょうがない。ディデルの村は食中毒から衛生管理に気を付ける様に変わっていた。肉を保存する際にも煙で燻し、燻製や干し肉にしている。焼いて食べる際には確りと火を通す様になった。テイラー商会には毛皮や燻製などを卸し、俺の村より裕福だろう。
ディデル村人全員が俺に対して感謝している様で、村へ行った時には出てくる食事が全て肉で胸やけを起こした。その際リアも連れて行ったのだがザイクルが余計な事を言ったお陰で、リアが変わってしまっている。
「姉貴は、今何人子供がいるんだい?」
突然のザイクルの発言にリアは固まった。
「えっ!? 子供は居ません……」
少し寂しそうな表情をするリアを見て俺も心を痛めた。
(俺ももう少ししたらリアとの子供を……)
そんな事を考えていた迄は良かったのだが、ザイクルの暴走は更に続く。
「兄貴程の種を残さないのは村の恥だ。 姉貴だけでは産める数も少ないだろう。兄貴はどんどん嫁を取るべきだ」
「おまっ!? お前は何を言ってるんだ」
「兄貴こそ何を言っているんだ? 優秀な種を残すのは、強い男の役目だろ? 俺なんか3人の嫁に6人の子供がいるぞ」
ザイクルはいつもの決めポーズであるジャングルの王者スタイルでそう言い放つ。その言葉を受けリアがブツブツと何か呟いていた。
このままだと、悪い事が起こると考えた俺はリアの腕を取り、逃げる様にディデルを後にしたのだが、まさか帰路の馬車内でリアが爆弾を放り込んで来るとは……
「航太郎様は、私以外にもお嫁さんを取るのですか?」
「えっ!? いや俺はリアだけだよ」
俺の言葉を受けリアはパッと表情が輝きそして力強く告げて来た。
「航太郎様。 私頑張ります。5人は産みましょう」
真剣な表情だけに困ってしまい。「そうだな……」とだけ言葉を返した。
因みにその夜からリアのサービスが良くなったので、ザイクルには密かに感謝している。
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ライド村とは騒動以来、良好な関係が生まれている。塩と食料を交換したり、穀物の育て方などを教えて貰ったりと世話になりっぱなしだ。お返しに川に水車を作る事を提案してみた。ライド村の人達は水車がどの様な物か解らなかったので、俺がネットから落とした図面を紙に模写し、職人に一度作らせて見ようと思う。上手くいけば彼等の手間も大分楽になる筈だ。
「ハイブ村長、元気にやっているか?」
「これは航太郎殿、何とかやっています。ですが最近急に野菜と穀物の出来高が増えて、把握に苦労しています。これも皆、航太郎殿から提供して頂いた肥料のお陰です」
「それは良かった。肥料は動物の糞からも作れるから今度紙に書いて持ってくるよ」
「それで、今日はその用件で?」
「いや、そうじゃない。今回来たのは、明日ついにフェリィが完成する。そこで完成式をやるのだが、ハイブ村長にも来て貰いたくてな。ザイクルやテイラーにも声は掛けてある。是非参加して欲しい」
「おお、ついにですか。おめでとうございます。必ず参加させて頂きます」
ハイブ村長は二つ返事で了承してくれた。
俺はそんな彼を見ながら思い返す。ハイブ村長との出会いが無ければフェリィを作る事など出来なかった。彼には返し切れない程の恩が在る。彼に何か在れば全力を上げて協力をするだろう。
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村中に漂う真新しい木の香りが鼻孔を通り、清々しい気分にさせてくれる。目前に建ち並ぶ家屋は確りとした土台があり、地べたで眠る事は二度とないだろう。
今まで存在しなかった、食料庫には溢れるばかりの保存食が入れられており、冬の間もお腹いっぱいになるまで食べる事が出来る。
村の中心の広場には村人全員と三村同盟から重役達が集まって来てくれている。全員がコップに酒や果実酒を入れ、俺の方を向いている。
「みんな今日の事は忘れないで欲しい。これから続くフェリィの歴史で今日と言う日が最初で最も重大な日となるだろう。共にフェリィを発展させて行こう」
そして俺が果実酒を飲み干すと、順番に村人達も飲み干して行く。村人皆が笑顔で、今までの生活を思い出し涙を流している者もいる。リンドウなどは、泣きすぎて引きつけを起こしていた。
それらを見ながら、俺は心に深く刻む。今日がフェリィの誕生日だと。