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13話 三村同盟

 村へ戻った俺は長へ村復旧の報告を行う。長は俺のプランを聞いて驚く。 

 俺は職人達がやって来る数日間にやりたい事があった。それはこの世界の文字を書ける様になる事だ。テイラーとの契約時に名前が掛けなかった事がずっと気になっていた。街に居る間に筆と墨、厚紙などは購入済みだ。

 俺はリアに教えて貰いながら、何枚も紙を使い名前の練習を続けて行く。

 

「こんな物かな? 形は悪いが理解してくれるだろう」


 自分の名前だけで3日費やした後、肩のコリをほぐす様に揉みほぐしホッと一息を付いていると、ドアをノックし村人が声を掛けて来た。


「航太朗様。航太朗様に会いたいと男が来ています」


 ドアを開く許可を出し、村人に男の特長を聴いてみると、どうやらディデル村の男のようだ。

 俺は村長の家へ連れて来る様に指示を出す。そのまま俺も村長の家へ向い、到達した後に入って来たのは、ディデル村で最初に助けた男だった。

 

 

「ディデル村を助けて頂き村人全員感謝している。感謝の気持ちで色々と持って来た。どうか受け取ってくれ」


「村人達は大丈夫だったか?」


「あぁ。アンタのお陰で全員無事だ。今回は村長である俺が皆を代表して礼を言いに来た」


「お前が村長だったのか!?」


 俺が驚いたのには訳がある。それはどう見ても30歳前後にしか見えないからだ。若すぎる、それが俺が驚いた理由だった。


「俺が若いから驚いているのか? 何にも不思議な事は無い。 ディデル村は昔から一番強い者が村長になるからな」


(なんだかジャングルの原住民みたいだな……)


「気を悪くしたなら謝る。アンタが言った通り若いから驚いただけだ」


「気にしなくていいさ。恩人に向ける牙は持ってねぇ」


 男はそう言いながらニヤリと口角を上げる。


(牙って、何よ? 動物? こいつ危なくない??)


 やや引きつりながら、俺は腰を引いた。


「村長に対してアンタってのも悪い。良ければ名前を教えてくれないか?」


「あぁ、そうか。挨拶がまだだったな、俺はザイクル。ディデル村の村長をやっている」


「俺は航太朗。遠くの国から旅をしている流れ者だ。今はこの村で世話になっている」


 俺達は互いに名乗ると握手をかわした。密かに握力が強すぎて泣きそうになっていたが気合で耐え抜いた。


「ところで、ザイクル村長……」


「村長はいらねぇ。俺の事はザイクルと呼んでくれ」


「そうか、ならザイクル。お礼の品がやけに多い気がするが……?」


 ザイクルの後ろには山の様に箱が積まれていた。俺の問いにザイクルはニヤニヤと笑う。


「これは俺の村の全ての食料と毛皮など入っている。実は航太朗さんとハイブ村長の所で分けるつもりだったが、先に寄ったライド村で断られてな……俺達を助けたのも全て航太朗さんだってな。食べさせて貰った食料も元を辿れば航太朗さんから、貰った物だと言われた。だから全部、航太朗さんの物だ。

 因みに言っておくが、毒の原因は生肉だと、医者に言われた。今回持って来たのは干し肉だから安心してくれ」


 ザイクルはそう言いながら、持ってきたお礼の中から干し肉を掴み取ると、俺の前で食べ出した。


(これは持って来た肉が安全だというアピールだな。それとハイブ村長は本当に欲がないな、遠慮しないで貰っておけばいいのに)


「全部の食料だとザイクルの方が困るんじゃないのか? 冬を越えるのに保存食も必要だろう……?」


「心配はいらねぇ。動ける者から順番に狩りへ行っている。今回持ってきた食料位ならすぐに集るさ」


 腰に両手を当て威張る様に笑う仕草はジャングルの王者の様で、こいつ等なら本当にやり切りそうな力強さを感じた。


「それとさ、俺の事さん付けで呼ぶの変じゃないか? 俺はまだ18歳でザイクルの方が年上だ」


「いや、こればかりは譲れねぇ。大恩人に対して呼び捨てなど出来る訳がない。気にしないでくれ!」


(ウザイ位に熱いな……いや確実にウザイ……だが狩猟の村か……ザイクルにも声を掛けてみるか?)


「ザイクル聞いてくれ、もし良ければの話だが……この村と……」


「解った。言うとおりにさせて貰う!!」


「おい、俺は最後まで言ってないぞ。なぜ言い切る前に了承するんだ?」


「俺達、ディデルの村は大恩人である航太郎の頼みを断らない! 」


 ドヤ顔で言い切るザイクルから視線を床へずらし、俺は額に手をあてている。


「ザイクルと話していると頭が痛くなる」


「大丈夫か?」


「もういい……俺達の村と同盟を組んでくれ。一応ライド村には確認を取るが多分大丈夫だろう。今から向こうへ使いを出すから少し待っていてくれるか?」


 俺が出した使いは翌日、ハイブ村長を連れて村へと帰って来た。内容も紙に書いて渡していたので、ハイブ村長も理解しているだろう。


「ハイブ村長、ディデル村とも同盟を組みたいのだがいいだろうか?」


 俺の問いに、ハイブ村長は頷いて了承してくれた。長の家に各村の村長が集っている。今から行なうのは三村同盟の契約である。俺が司会をする形でテーブルを挟み三村長が向いあっていた。


「じゃあ、今から同盟の契約を始めよう」


 俺が音頭を取ったとき、リアの父親であるリンドウが俺に声を掛けてきた。


「その前に、航太郎様よろしいですか?」


「長か。何か問題があるのか?」


「いえ問題ではありませんが、この村をここまでして下さったのは私ではありません……全て航太郎様です。本来なら野党に襲われて全滅していた私たちが以前より裕福に暮らせている事全てが航太郎様のお力があってからこそ。そこで私からこの同盟の前にお願いがあります。

 航太郎様、今からこの名前も無い小さな村ですが、どうか私の代わりに長になって頂けませんか?」


 その言葉に俺は戸惑う。別に長などなりたくは無い、ただリアを幸せにしたくて我武者羅にやって来ただけだ。


「俺は余所者だ。長になる資格など無い!」


 ぶっきら棒に言い放つが、長は一歩も引かない。俺はハイブ村長へと視線を向けると彼はウンウンと頷いている。逆に立つザイクルは当然の事だと言わんばかりにニヤニヤと笑っていた。


 俺は今までの事を思い返す。異世界に来てリアに出会って、リアの為に様々な人と出会った。これからもきっとそうだろう。

 なら俺も覚悟を決めてこの異世界に向き合うべきなのかもしれない。 

 一度床に頭を向け大きく息を吐き、息と同時に覚悟も吸い込む。そして頭を上げ長へ告げた。


「解った。俺はこの村の長になるよ。それじゃ名前の無い村ってのも同盟の妨げになるな。最初の仕事はこの村の名前を付ける事だ。そうだなこの村の名前は……フェリィ……フェリィだ」


 俺の言葉を受け、リンドウの表情にも笑みが浮かぶ。それは安堵の表情にも見えた。俺は今までリンドウが立っていた場所に立ち三村同盟を宣言する。


「俺達は共に互いの村の発展を願う。この同盟がいつか大きな絆となって、どんな困難にも立ち向かう力になるだろう。ハイブ村長、ザイクル。俺達はこれから家族だ!」


 俺の宣言を聞き村長達も嬉しそうに見えた。テーブルの上には三村同盟の契約書がある。それに最初俺がサインを書き、次にハイブ村長が書くと最後はザイクルだ。 

 その瞬間、三村同盟は結束した。


「俺達が家族なら、二人に助けられた俺は末弟でいいよ。後は二人で話し合ってくれ」


 そう言い出したのはザイクルである。


「待て待て。俺達は互いに同じ条件だ。誰が上とかは無いぞ!」


 俺はザイクルにそう説明したが、それを遮る様にハイブ村長が声を掛けてきた。


「そういう事でしたら、私の村も同じです。同盟に盟主は必要になります。今後、交渉事や決定事項など判断に困る時も出てきます。この同盟を結束させた航太郎殿が盟主に成るべきでしょう」


 ハイブ村長にまで言われると仕方ない。乗りかかった船だ、後は小さいか大きいかの違いだけだ。


「そういう事なら仕方ない。それじゃあ代表は俺が務めよう。 だが安心してくれ俺達の未来には発展しかない!!」

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