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12話 ディデルの村

 テイラーとの会談の後はゆったりと観光をしながら時間を潰している。もっぱらショッピングと食事メインだが、リアが隣に居るだけで十分楽しめた。


 そんな日々を数日過ごしていると、テイラー商会の使いの者が宿を訪ねて来る。献上会も無事終了し、テイラーのアメ玉がなんと今回の献上品に選ばれたみたいだ。

 商会の職員も興奮を隠す事無く何度も俺にお礼を告げてくれた。支度金として預かった金貨があるのみたいで、その金貨で早速支払いをしたいと申し出してくれた。次の日、俺とハイブ村長は再びテイラー商会へと足を向けた。


---------------------------


「航太郎殿。航太郎殿、君のお陰だ。これで私もアイツ等と肩を並べる事が出来る…… 

 ハイブ……君の無念を必ず果たしてやる」


 熱く語るテイラーを見ていると、以前から気になっていた事だか、やはりハイド村長はこの街で何かやられていたんだろうと推測出来る。だがテイラーにそう声を掛けられた村長の方は何も語らず、ただ瞳を閉じて想いふけっている感じだった。


「テイラーさん。早速、商品の受け渡しをしようじゃないか? アメ玉10,000個、アメ玉1つにつき銀貨3枚だ。大金貨換算なら150枚。用意は出来ていると聞いたが?」


「勿論だ。アメ玉の代金、大金貨150枚。その内、村の改修工事の代金は大金貨50枚。差し引き大金貨100枚が航太朗殿の受取金額になる。工事見積書も作っているから見て貰えるか?」


 俺はテイラーに渡された見積書をそのままハイブ村長へと渡した。


「村長が紹介してくれた取引だ。アンタが見て大丈夫なら、俺は何も言うつもりは無い」


(本当は、見ても相場が判らないからだが……これで恩が売れれば儲け物だ)


 ハイブ村長は一通り目を通すと、俺に頷いて来た。適正価格と言う事だろう。


 そうして、テイラー商会との取引が進められていく。契約書にサインする際は俺の代わりに文字が書けるリアに書いて貰った。

全ての事が滞りなく終了した後、俺とテイラーは握手を交わして締めくくる。

 その後俺達は村に帰る為、街を後にした。


-----------


 来る時は1台の馬車であったが、今は5台の馬車が列になって進んでいる。その殆どが食料を満載にした馬車であった。

 馬車の周りには護衛で雇った傭兵が馬車1台に1名付き添っている。馬車はテイラー商会所有の物を借り、傭兵は商会経由で俺達が雇っていた。傭兵は5人で金貨2枚と銀貨5枚だ。傭兵一人に対し銀貨5枚計算で意外と安い為驚いたが、たった数日の護衛任務ならその位が相場らしい。


 行きは空荷で移動速度も上がっていたが、荷物が大量に積まれた馬車は速度も遅く、少しの凹凸でも馬車に大きな負担を掛けてしまう。その為、少し遠回りになるが比較的に凹凸が少ないルートを選んで進んでいる。


「リア、あの遠くに見える村を知っているか?」


 先頭を進む俺達の馬車から、目測で3km程離れた所に村を囲む柵が見えていた。


「えっと……以前、お父さんから聞いた事があります。この付近に、狩猟が盛んな、ディデルの村が在るって……多分あの村がそうかも知れませんね」


「ディデルの村か……」


 狩猟の村と言う位なら、きっと肉の燻製なども在るだろう。リアの村は滅多に肉は食べる事は無い、彼等の為にも一度は訪れる事になるかもな!


 そんな事を考えていると道の真中で倒れている男を発見する。俺は馬車を停めさせると、倒れている男の元へと向かった。


「おい、大丈夫か!?」


 男は額に汗を大量に流し、息も荒い。熱があるようだ、だが意識はまだあり、俺の肩を掴み助けを求めてきた。


「に……肉の……毒に村がやら……やられた。医者を……早く……」


「肉の毒だと?」


 俺は男の言葉を聞き、瞬時に不安が全身を駆け抜ける。咄嗟に俺に近づいて来るリアに対して声を張り上げた。


「リアァ~。俺から離れろぉぉ~!」


 リアは俺の声に驚きビクンと動きを止めた。俺はそれを確認すると、ハイブ村長を呼ぶ様に言い放つ。リアは不安そうな表情を見せながハイド村長が乗る馬車に向かって走り出した。


「おい、肉の毒とは何だ? しっかりしろ!!」


 男は呂律が回らない口調で何か言おうとしているが、上手く聞き取れない。そうこうしている間にリアがハイブ村長を連れて来た。


「2人ともその場所で止まってくれ。倒れた男が肉の毒にやられたと言っているが、知っているか?」


 俺の問いにハイブは頷いた。


「それは近くにいる者にもうつるのか?」


「肉の毒とは、調理法を誤った場合や保管状況が悪い場合に起こると言われています。嘔吐や便が下り熱も出る怖い病気です。

 私も医者では無いので詳しくは解りませんが、吐き出した体液を身体に含まない限りは大丈夫と聞いた事があります。でも早く医者に見せた方がいいでしょう……」


(ん? 調理法や保管状況だと? それって……食あたり? 食中毒の事か!)


 この異世界は衛生面で安全とはいえない。食中毒など多々ある筈だ。俺は食中毒と仮定して行動する事とした。

 まずは倒れた男を俺の馬車へ乗せると、男の村へと向う。そして村に到着した俺達はその光景に目を疑った。

 村は何か催しをやっていたのか? 外にはテーブルが置かれ料理が並べられている。だがその周りには何十人……100人を超す村人がその場で倒れている状況であった。まだ時間がそんなに経っていないのか? 誰もがうずくまり、唸り声を上げながら身動きが取れない様子である。余り詳しくは無いが、早い場合は数時間後に症状が出ると何かで読んだ事を思い出す。

 俺はハイド村長に頼み馬車から馬を外すと、傭兵の男に街へ引き返し医者を連れてきて貰う様、指示を出した。

 そして残った者達は村人を日陰に運び各家から毛布を運び出して、一人一人に掛けて行く。

 その間にみんなの隙を付いて見付からない様、現在に戻るとネットで対処方法を検索する。


「食中毒はやけに種類が多いな。時間が経てば治る物が殆どみたいだが、死に至る物もあるのか……その場合、俺には対処が無理だ一般的な対処法を試すしか無さそうだ」


 その後すぐさま家から一番近い薬局へ向うとありったけの整腸剤を購入し、異世界へと戻った。俺が戻った頃は丁度村人を寝かし終えた所であった。俺は水を一度沸騰させ、ぬるま湯になったのを確認した後、村人達に薬を飲ませて行った。俺が出す薬を不思議そうに村長が眺めていたが、俺は無視する事にする。

 薬はあくまで胃腸を整える為の物だ、食中毒は時間が経つにつれ回復に向うと書いてあった。俺は脱水症状が起きない様にリアと協力しながら、村人達に水を飲ませて行った。


---------------------


「ハイブ村長はどうする? 俺達は医者が来るまで、このまま村人の様子を見ているが?」


「私達もお手伝いさせて下さい。これ程までの人数をたった二人で回るのは大変でしょう……助け合わなければこの厳しい世界で生きては行けませんからね」


「アンタならそう言うと思っていたよ。なら彼等が回復するまで頼むよ。それと食料から何か軟らかい食事を作る事は出来ないか? 体力が無くなれば治る物も治らないからな」


 俺の意見に村長も同意し、持ち帰っていた食料から彼等に合いそうな物を食べさせていった。 

 医者が村へ来たのは2日後の午後であった。 


「ふむ、病人の症状も殆ど回復している。毒が軽かったか、処置が適切だったみたいですな。これなら明日には普通の食事も出来るでしょう」


 医者のお墨付きを頂き、この後は医者に任せ俺達は村へ帰る事に決めた。村を出る際に症状が早く回復した村人達から感謝の言葉を告げられる。村人の先頭に立つ男は俺が最初に助けた男だ。

 彼は猟師の様でしなやかな身体と引き締まった身体をしていた。根性もある様で食中毒に冒されていた身体に鞭を打ち、医者を呼ぶ為に村から出た所で俺に助けられたと教えて貰った。


「アンタ達は村の大恩人だ。きっとこのご恩は返させて貰う!」


 片膝を付き、俺とハイブ村長に頭を下げた男は俺達の事を聞いてきた。ライド村の事は知っていたが、リアの村は解らない様だ。だが一生懸命メモを取って場所を覚えようとしている所を見て、不器用だが真面目な男ってのが俺の印象でだった。


 ディデル村を後にした俺達はやがて二手に分かれる。その場所はライド村とリアの村の分岐点だ。そこで俺はハイブ村長に礼を述べる。彼は俺が思っていた以上に信頼できる者だと今回の旅で確信する事が出来た。これは俺にとって大きな意味がある。


 リアの村へ向けて進む馬車の中、俺の横に座るリアはニコニコとしている。俺は首を傾げリアに聞いてみた。


「何がそんなに嬉しいんだ?」


「嬉しいです。航太郎様は私達だけでは無く、他の人達にも優しくしてくださる素晴らしい人だと解ったので……」


(そうじゃない……それは間違っている。俺は打算だけディデルの人達を助けただけだ)


 だがその言葉は喉を通る事は無かった。リアが悲しむ顔が見たく無かったのが理由かも知れない。他人に対して無干渉なのが本来の俺の姿だ。だがリアが心の底から喜ぶ笑顔を見れて、ディデルの村人を助けて良かったと何だか心は充実した物で溢れていた。

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