11話 テイラー商会
翌朝、カーテンの隙間から差す暖かな朝日で目が覚め、昨日の事が夢だろうかと辺りに視線を配る。
だが、その不安は一瞬で消えて行く。それは俺の胸の中でスヤスヤと寝るリアを見つけたからだ。リアは裸のままで、その姿を見た俺は昨日の事を思い出して頬が熱くなるのを感じた。
「リア、朝だ。起きて食事にしないか?」
「航太郎……様?」
リアの耳元で優しくそう言葉を掛けると、リアも目を擦りながらゆっくりと瞼を開いた。まだ眠いのだろう、目を指で擦っていたが、突然動きが止まり顔が赤くなり始めた。リアは胸を両手で隠す仕草を取ると、上目遣いで俺を見てきた。
「お早う……ございます……航太郎様」
「ああ、お早う。俺は先に着替えるから、リアも落ち着いたら着替えてくれないか? 一緒に食事に行こう」
目のやり場を無くし、俺は頬を指で書きながらそう告げ、そのままベットから抜け出して行った。
隣の部屋で先に着替えを終え、リアを待っている間に昨日の情景が俺の頭をグルグルと駆け巡る。リアと一つになってからリアに対する想いも大きくなっていた。
「お待たせしました。 航太郎様」
着替えを終えたリアは昨日俺が買った服を着ている。とても似合っており、誰もが目を引くほど可愛らしく思えた。今のリアなら貧しい村の出身だと言っても、誰も信じてくれないだろう。
満足した俺が右手を差し出すと、リアは笑顔になり自分の左手で握ってくれた。俺達は手を確りと繋いだまま食堂へと向う。
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食堂で朝食を取っていると、ハイブ村長達が俺達を見つけ近寄ってくる。彼達も今から朝食なのだろうか?
「航太郎殿、お早うございます。ごゆっくり休めましたか?」
気さくに語り掛けてくる村長に、俺は笑みを返し礼を言う。
「ああ、お陰さまでゆっくりと眠れたよ。 本当に感謝している。 それと挨拶だけで寄って来てくれたのか?」
「いえ、航太郎殿は今日の予定はどうなっていますか? もし時間が在るようでしたら、今回の取引相手である。テイラーと会って貰えませんか? 昨日の夜、彼と飲んでいたのですが職人を手配する人数や作業の規模などを事前に打ち合わせして置きたいと言っていましたので……」
(当然の意見だな。施工内容や数量が解らなければ、職人の手配や道具を用意出来る訳が無い)
「そう言う話は早い方がいい。俺の方は何時でも大丈夫だ」
「そうですか。それでしたら、朝食を取った後に商店へ案内しますので、お願いします。ではゆっくりと食事を楽しんで下さい」
ハイブ村長はそう言うと、俺達から少しだけ離れた所にある空きテーブルへと向って行った。
「リアすまないな。本当は街を観光する予定だったが……退屈かも知れないが付いて来てくれるか?」
「大丈夫です、気にしないで下さい。航太郎様が頑張ってくれているのは全て村の為ですから、ありがとう御座います」
リアも村が復興して行くのは嬉しいのだろう、笑顔でそう言ってくれた。
その後俺達は会話を交え朝食を食べて行く、昨日も思ったが此処の料理は美味しく少し食べ過ぎで苦しくなっていた。最後のお茶をゆっくりと飲み、体調が戻ったのを確認した後、俺はライド村長の元へと向う。
「村長、待たせたな。早速案内して貰っていいか?」
俺が近づくと、村長はお茶を飲んでいたが、カップをテーブルの上に置き立ち上がる。俺とリアは彼の後方を歩き、テイラー商会へと向った。
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初めて入る商会の中は以外に広く、大きな建物は3階建てと説明された。各フロアに様々な商品が陳列されている。陶器に衣服に日用雑貨まで現在でいうホームセンターの様な感じだろう。
「中々の品揃えでしょう。これから会うテイラーは一代で此処までの商店を持つように成りました。私と違って頭も周り、信用出来る者ですよ」
ハイブ村長は少し顔色を落として、そう言葉をこぼす。
一階にある、総合受付でテイラーに伝言を伝えると、直ぐに上の階層から一人の男が降りてきた。見た目はハイブ村長より少し若く見え、40前半か30後半位で表情は明るく整っている、きっと初対面の者でも心を許してしまう、そんな雰囲気を持つ男だ。
「ハイブ、さっそく来てくれたのか。そちらのお方が航太郎殿か!」
ハイブ村長の隣に立つ俺に気付いたテイラーはそう声を掛けてくる。俺の方も手を差し出し挨拶を行なった。
「航太郎だ。今回は取引の件、感謝する。よろしく頼むよ」
「こちらこそ、久しぶりの大きな取引で有りがたい位だ。互いに益がある取引をしよう」
テイラーは俺が差し出した手を強く握り返し、俺達の商談が開始された。
案内されたのは、最上階にある、テイラーの部屋だ。軟らかい椅子と精巧な細工が施された豪華なテーブル、壁に設置されている棚には高級そうな装飾品が並べられていた。ついその美しさに目を奪われてしまう。 俺達はテイラーに勧められるソファーに座り、彼は俺に向かい合う様に腰を下ろした。
「先ほども言ったが、今回は良い取引を持ってきてくれて感謝している」
テイラーは頭を少し下げた。
「礼を言うのは此方の方だ、ハイブ村長から、良い価格で買い取って貰えると聞いている。さらに村の改修工事に職人まで用意してくれると……感謝している」
俺も正直な気持ちを吐露し、頭を下げた。
それから、俺達は様々な意見を交換して行く。改修する規模、近くに森があって資材は現場調達できるのかどうか……気付いた時には数時間経過していた。
「ある程度の事は解ってきました。職人の手配はお任せ下さい。 それと金貨のやり取りはもう数日待って頂けますか? 2日後に国の王妃へ大きな商店が献上品を出し合うのですが、その準備に追われていまして……ご迷惑ですが、もう少し待っていて下さい」
「気にしないでくれ。俺の方も観光がてら羽を伸ばさせて貰うとするさ」
「おお、それなら献上会を観覧されますか? 私の店員と言う事で王室に入る事ができますよ!? それに今回はアメ玉を献上しようと考えています。もし私の商店が選ばれると、今年の王宮が購入する物品は全て当商店が取り仕切る事になりますので、私も気合が入っていますよ」
「さすがに、それは不味いだろう……アメ玉を献上するのはそちらの勝手だが、今回は遠慮させて貰う。その献上会が終れば宿に連絡をくれればいいさ」
俺はテイラーの提案をやんわりと拒否すると、そろそろ帰る事を彼に告げた。テイラーも忙しいだろうし、何時までも俺に時間を割く訳にも行かないだろう。
突然テイラーが手を叩くと、部屋のドアが開き店員が布袋をリアに手渡して来た。リアも意味が解らず、渡されるがままに袋を手に取った。中を見てみると、宝石や衣服などが入っている。
「テイラーこれはどう言う事だ?」
「いえ、これは私と航太郎殿の商談に奥様を付き合せた事に対する、私からのお詫びの品です。ハイブから聞いていますが、彼女は奥様ですよね?」
テイラーは笑顔でそう言った。俺とリアは互いに顔を見合う。 リアの顔は既に真っ赤だ。
「はぁ。アンタ達、商人は本当に抜け目が無いな……今回は有りがたく頂いておくよ。だが俺は互いに同じってのが好きなんだ。 今後はこう言うのは無しにしてくれ」
そう言うと俺達はテイラー商会を後にした。帰り道にハイブ村長にお礼を述べ宿の受付で別れる事になった。
俺の横を歩くリアは未だに顔が真っ赤である。動きもカクカクと何だかぎこちない、これは今日中に直るのだろうか? 俺はそんな事を考えながら、リアを見ていた。
「リア……大丈夫か?」
「ひゃい!!」
その仕草に俺はいつまでも笑っていた。