敵軍の事情
ザリア帝国。アリア皇国の隣に位置する大国。現在は政治的不安、経済的不安で国はパニック寸前ではあるが。財政難に、貧富の格差などの問題が重なり、今では国として破綻してしまう危機に陥っている。5年前戦争後にこんなことになるとは国王も含めて予想していなかった。その為、今の状況になった時の対策をしてこなかった。その為、建国時から使われている対策方法を用いるしか策が無かった。その策が特産物を商人に売り、その儲けで国を建て直そうとした。だが、その策は上手くいかなかった。ザリア帝国が特産物にしている物は他国でザリア帝国と同等の品質と美味しさをしているため、中々売れに売れなかった。貧富の格差も、原因の1つだ。貴族社会の中でお金が回らない。国民や大半の商人が家計に困る中、貴族はそんなことは関係がない。貴族の大半が税金で養われている。その為か、貴族と貴族お抱えの商人しかお金を使わないため、経済が回らない。そして、一番の原因がアリア皇国と結んだ条約だ。バライム戦役での大戦後、アリア皇国が提示した条約内容がこうだ。1つ 賠償金。2つ 5年間の貿易停止。3つ ザリア帝国の国民の入場を停止。4つ アリア皇国は今後、ザリア帝国が災害などに合っても、復興の支援や支援金を送ることはない。5つ アリア皇国はザリア帝国にバライムを貿易品から外すなどの様々なものがあった。これがバライム条約。これがザリア帝国は渋々同意。だが、ザリア帝国が思ってもみない出来事が様々起きた。隣国であるアリア皇国との貿易が出来ないと輸出や輸入が出来ず、欲しいものが手に入らず、他国にそれを頼むと距離が離れているため、金が掛かる。それを続けたことで財政難になったのも1つだ。
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今回の戦争は上手くいかないだろうと国王は考えている。だが、今のザリア帝国の問題を改善するためにはバライムが必要になる。だから、戦争を仕掛けるしかないのだ。バライムは今のザリア帝国には必要不可欠な物だ。これがあるとないとでは話が違う。バライムは高額な値段で取り引きされているため、輸出での利益が上がる。これで財政難、経済不安を改善するのが目的だ。
今回の戦争で出撃するのは先の大戦で生き残ったザリア帝国 四天王のブライス。力自慢の戦闘馬鹿で知られている。もう一人が四天王のグレン。彼は舞を踊っているような戦闘スタイルを持っている。戦争での花と呼ばれる存在だ。この二人が軍を引っ張る。先の大戦もあってか、有望な人材は殆んどいない。先の大戦で戦死してしまったのだ。勝つための努力を2人はしているが、正直、勝てる気がしない。
現在、ザリア帝国の王都を出て進軍中だが、軍の指揮は高くないし、兵の数も先の大戦とは比べ物にならない程、少ない。こんなことでは1日2日で負けてしまう。相手の参謀はあの軍師騎士と呼ばれるアルクスなのだから。どんな策を使ってくるか分からない中、指揮がこんなに低いのは問題である。
「どうするんだよ、グレン。」
「どうするって言われても、どうしようもないだろ。国は破産寸前なんだ。どんな負け戦でも何がなんでも勝つしかないんだよ。」
「俺達は戦死する可能性が高いんだぜ。俺は死にたくないね。5年前に思い知らされたんだからよ。アリア皇国の騎士の力を。」
「そんなことは俺も分かっている。だが、やるしかないんだよ。後、兵達がいるのにそんなことを言うな。余計に怖じ気づくだろ。」
「へいへい。」
2人が弱気になる気持ちも分からなくはない。第一次バライム戦役で現12神将と呼ばれる存在に散々やられたのだ。戦闘の差を見せられ、統率力の差を見せられ、策略で嵌められ、自分達が何も出来ないまま、敗北したのだ。それは分からないもない。それに、四天王にはまだ、2人居た。その2人が居たからこそ、大戦も長引いたのだ。2人は戦死してしまってもう居ない。だけど、彼らが居ると居ないでは話が変わってくるし、勝機があったかもしれない。だけど、今更言っても仕方がないのだが。
「どうするんだよ。俺たちじゃ、神将4人でも、厳しいぞ。」
「まずは作戦を練るんだ。少しでも時間稼ぎ出来るぐらいの作戦を。」
「具体的にどうするんだよ。俺はそういうのは分からないからお前に任せるわ。」
「お前が使えないことぐらい分かってる。そうだな…てか、地図を見ながらじゃないと分からないだろ。」
「ハイハイ。地図地図っと。ここに置いたぞ。で、どうするんだ?」
「俺達が奴等とぶつかるであろう場所はこの更地の部分だ。この土地は隣に森が、反対側には小さい山がある。俺達が通るであろう進路にも小さい山がある。まずは俺達が通るであろう進路にある山に陣を作る。その後は正面からの攻撃しか無いだろ。森の中から回ることは出来ないだろうし、山の方を行くと兵が疲れるだろうし。取り合えず、相手の動きでその後の行動は決めよう。」
「分かった。俺はそれで良いぜ。」
グレンが決めた作戦は極めて仕方がないことだ。ザリア帝国は細かな動きを苦手としている。その為、森の中で指揮をしながら動かすことなど出来ないのだ。決して、出来なくは無いが、苦手としている。また、今のザリア帝国の兵士を考えると体力を削る動きはなるべく避けたい。そうすると、自動的に山からの進撃は出来なくなるのだ。
「作戦は決まったが、こっちの兵は三万。俺とグレンで分けると、一万五千ずつだ。一万五千で、相手は今のところ、どれぐらいの兵力で来るか分からないだよな?どうするんだよ。」
「まあ、お前は何時ものように暴れてくれて構わないぞ。その方が良い。」
「分かった。で、お前はどうするんだ?」
「俺は陣に残るよ。だが、深追いはするなよ。行き過ぎると軍師騎士の罠に嵌まるからな。」
「分かってる。そんなことは。」
「それなら、良いんだが。」
彼らは決して、負ける気はない。だが、圧倒的なまでの差を見せつけられたことにより、これで勝てるのだろうか?という気持ちになってしまっている。これだけの兵力じゃ駄目なのではないのか?この作戦で本当に良いのか?まず、これを作戦と言えるのか?などの疑心暗鬼になってしまっている。これも全て、先の大戦で負けた後遺症であるが、本人達は気付いていない。
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勝つことしか許されない今回の戦争に国王は苦痛で顔を歪めていた。絶対を求められてしまっているこの戦争。国王にだけ全てを任せて、失敗すれば、文句を言う貴族。この存在が国王を苦しめる原因になっていた。貴族社会であるから仕方の無いことだ。そう、自分を奮い立たせてきた国王でも、限界は来るものだ。今年で65歳を越え、今回の戦争に負けでもしたらという思いで国王は病に掛かってしまった。今まで、全てを自分で背負ってきた国王は今になって、思うようになっていた。もっと、市民の言葉を聞けば良かったと。
最初の頃は自分が国王になれて浮かれていた。何度も戦争を繰り返した。そして、領土を拡大していった。だが、5年前からだ。全ての歯車が狂い始めてきたのは。まさか、アリア皇国がそこまで強いとは国王も思ってもみなかった。完璧に負けた。兵力的には圧倒的有利だった自国がまさか、敗れるなんて思っても見なかった。ザリア帝国四天王。彼等が居るからこそ、私達は負けないと思っていた。慈母れしていたのだろう。今思えば、何故、こんなことをしたのかと思ってしまう。戦争戦争と戦争と特産物で国を保っていたのにその戦争で負けるなんて信じられなかったこと事態も今となっては馬鹿ではないのかと思ってしまう。戦争に絶対はない。国王の父や祖父が言っていた言葉だ。先代の国王と先々代の国王が残した言葉。だが、国王はその言葉を忘れた。国王に即位した時に。彼は妻に問う。
「マリア。私の人生は正しかったのかな?戦争ばかりしずにもっと政治改革をするべきだったかな?」
「いいえ、そんなことはありません。貴方は頑張りました。貴方はこの国の為に一生懸命努力していましたよ。私は近くに居たから知っています。恥じることはありません。貴方の行動によって領土が拡大したことに代わりはないのですから。ただ、運が悪かっただけです。悔いを残す必要もありませんよ。貴方はやるべきことをやったのですから。」
「あ、ありがとう、マリア。これで何も思い残すこともなく死ねるよ。だが、最悪でも、この戦争が終わるまでは生きていなくては。戦争に行った者の為にも。」
「そうですね。でも、ゆっくりとしていてくださいよ。今は、息子が次の即位の為の準備をしているのですから。息子の即位式は見ていってください。」
「分かっているよ。私は皆の為にまだ、死ぬわけにはいかないのだ。」
「そうです。生きてください。まだ、死んで貰っては困ります。私も寂しくなるのですから。」
それから、戦争が終わり、息子の即位式の時。
「父上、僕が貴方の意思を継いで、この国を発展させます。ですが、父上にはまだ、生きていて貰いたいです。僕が指揮しているところを見てもらいたいから。」
「ああ。分かっているよ。お前が指揮しているところを私は見ないといけないのだから。」
この時にはもう、国民いや前国王は様々な病に犯され、記憶も曖昧になっていた。その中で、家族の記憶だけが残っていた。即位式を見たい。前国王の要望により、彼は特別席で見ることになった。大勢の市民が息子を見守る。妻であるマリアが前国王の代わりに冠を渡す。本当は前国王である彼が行う予定だったが、身体を動かすこともままならないと言うことで妻であるマリアが代役としてやることになった。式は続く。宰相が言葉を紙を呼び始める。
「前国王であるジル王は領土拡大に勤しみました。その結果、ジル王即位前では考えられないほどの領土を得ることに成功しました。今は闘病をされていますジル王は今も私たちを見ております。ジル王が残した功績は数えきれるものではありません。私達は領土拡大を成し遂げたジル王を誇りに思いこれからも過ごしてほしい。以上。そして、国王となられるブロード王子から話がある。」
「僕、ブロードは前国王である父の意思を継ぎ、領土拡大を目指しながら、この国をもっと豊かにしていきたい。今は少し、大変な時期ではあるが、皆も頑張ってもらいたい。僕もそれに答えるように頑張るから。僕は領土拡大と国の活性化を目指している。僕としては、それが次の国王の即位式でなし得たと胸を張っている言えるようにしたい。だから、皆も僕に力を貸してくれ。以上だ。」
「ありがとうございました。」
宰相の言葉で締め括られたが、見事に成長している息子に嬉しさを感じる前国王。自分の意思を継いで頑張ってくれると思うと改めて実感する。これで自分は安らかに死ぬことが出来る。前国王は最後にこう思いながら、安らかに目を閉じた。ありがとうありがとうっと。
即位式から数日後、前国王は崩御された。現国王を含めて、多くの者達が涙した。それが彼が愛されている証拠だろう。