戦争の恐怖
付け足しで投稿し直しました。
それではどうぞ
黒服の一団の奇襲からの攻撃への移行が物凄く早かった。馬を走らせながら、帝国の兵士の首を次々と討ち取っていく。
彼らの武器はそれぞれ違った。槍や刀、剣、弓、短剣、斧、鎌、大刀、メイス、棍棒、蛇矛、クロスボーなど。
一撃で確実に敵を仕留めていく。
まるで戦いに飢えていた野生動物のようだ。
殺戮が行われるのが戦場だ。弱い者は殺られ、強い者が生き残る。そこに選別の余地はない。それは神も決めることさえ許されない。只、1つの真理はある。
――強い者は負けない。
――だが、今此処で行われているのは本当にただの殺戮=戦場なのか?
――本当は虐殺なだけではないのか?
黒服を着たある男は棍棒で頭を殴り付けて潰し殺す。
又、ある男たちは剣や槍、邪矛で首を引きちぎり殺す。
又、ある男たちは斧、鎌、大刀で身体をぶった斬り殺す。
又はクロスボーで身体を抉り殺す。短剣でボロボロにして殺す。
又、殺られるという感覚を与えられること無く疾風と言える程の早さで刀を操り、身体を抉り殺す。
今、正に戦場で行われているのは、戦場と言う名の殺戮の場所での虐殺的行為。
帝国軍は成す術のない状況に追い詰められていた。止める術は何もなかった。
あれほどの物理攻撃をされた時の対処方法をグレンは知らなかった。
黒服の者たちは"一騎当千"という言葉が似合うほどの働きをしていた。
――此方にはあれらと対等に戦える将はいない。
25人もの一騎当千の猛者たちを相手にする将は帝国には居なかった。だが、このまま兵士たちがむざむざと殺されるのを見ているのもグレンには辛いことだった。
帝国軍は決して強い集団とは言いづらい組織だ。それを引っ張っていたのが帝国四天王たちだった。
彼らが居たからこそ、帝国軍は切り盛りが出来た。だが、今は違う。四天王の内の2人が死んで、その後継者となる存在は此処には居ない。
4人で背負ってきた物を2人で背負うのだから、大変だ。
1人が指揮する兵の数も増えて、事務も多くなり、苦労ばっかりが続いた。
それでもグレンがこの国を出ていかなかったのはこの国に絶対的な忠誠心を持ち、尚且つこの帝国を愛していたからだ。この気持ちに偽りはない。でも、背負うことが出来る量にも限界があった。
グレンは自覚はしていた。
――自分の器ではこの軍を纏めることは難しい。
この気持ちが彼をこのようにしたのかもしれない。重圧やプレッシャーに耐えきれなかった男。
それが四天王の1人 グレンの正体であった。
そして、彼は決断した。
帝国軍がこれ以上傷つけられないように。
この無意味な戦いを終わらせるために。
勝てることが出来ない戦に終止符を打つ為に。
全てを考慮した上で彼は決意を固めた。
"敗北将軍"や"負け犬将軍"、"弱虫将軍"などを言われても気にしない。これが最も優先すべきことだと思ったから彼は行動を起こすのだ。
グレンは1人の兵に事を頼む。
数分後、帝国軍から交渉用の白い旗が掲げられた。
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「軍師騎士殿は何処に居られますか?前線より連絡を伝えに来たのですが。」
1人の騎士が馬に乗り、連絡代わりに遣わされたのは見れば、直ぐに分かる。だが、この騎士は急いでいるように見えた。
「何だ?交渉でも持ち掛けられたか?」
「正にその通りです。帝国軍は人質を還す代わりに停戦を要求してます。」
「自分から始めて勝手だな。その交渉の要求をして来たのは誰だ?後、人質とは誰だ?」
「はい。要求をして来たのは帝国軍四天王 グレンと名乗っております。人質になったのはイノア団長であります。」
アルクスはここで一度押し黙る。
彼は帝国軍四天王 グレンの名前を聞いたことはあった。第一次バライム戦役での敵軍の主力将軍であるからして名前は勝手に入ってくる。
評判や逸話なども聞いたことはあった。四天王の戦略を彼が一任していることも知っていた。
だからこそ、決断をするのは早かった。
「そうか。皇国の前線指揮をしているのは誰だ?」
「ジン殿です。」
「ジンに伝えろ。交渉に応じると。交渉の準備は此方でやる。場所は前線のど真ん中で良いだろう。」
「分かりました。直ぐに伝えます。」
騎士は直ぐ様去っていった。すると、ボルトが声を掛けてくる。
「どうしたんだ?」
「敵軍が停戦の要求をしてきた。人質を交換条件にな。」
「人質とは誰だ?」
「イノアだよ。グレンに捕まってしまったらしい。」
「そうか。交渉はするのだろう?」
「勿論、戦い以外の解決策があるならそれを選ぶのは当たり前だ。」
戦争を終わらせるのに最も簡単なのが2つある。
1つが戦争を力で圧倒して、敵を黙らせる手段。これが最もシンプルであるが、戦術やら戦略やらの駆け引きで戦争は長引き、戦死者も多く出る。
もう1つが平和的な交渉による解決。これは戦死者も出ないし、楽ではあるがより良い条件を提示するために策略を練らねばならないのが面倒。
「交渉の席には誰が着く?」
「俺とボルトに、ジンで良いだろう。俺が交渉については話し合う。策はあるから心配するな。」
「分かった。坊っちゃんに任せる。俺は最高責任者として行けば良いのだろ?」
「そう。俺は参謀として向かう。ジンは護衛だ。」
「だが、何故今更になってこんな交渉を始めるんだ?」
ボルトの疑問は誰でも考えてしまうことだ。自分から戦争を始めておいて、停戦を要求するとは意味が分からない。
――停戦を要求しないといけないほどの危機に陥っているのか?
――それとも、戦場に恐怖を覚えて撤退するために後ろから狙われたくないのか?
――国内で何かしらのアクシデントがあったか。例えば、内紛。又は皇帝の死。
こんな思考をしているとアルクスが意図も簡単な答えをくれた。
「今の彼奴らに俺たちと戦える戦力が無いことに気付いたんだろう。それに向こうも、これ以上被害を増やしたくないだろうし。」
「どうしてだ?」
「噂になってはいるだろ。皇帝がもう直ぐ崩御するかも知れないってやつ。あれが本当なら帝国は近々世代交代をする。大幅にな。その時に若い世代の奴等が居ないと困るだろ。国が一気に傾くことになってしまうから。」
「その話があるなら、余計に動かなかった方が良かったんじゃないのか?」
ボルトが言った言葉は正に正しいことで述べていた。
国が変わろうとしている時期だからこそ、戦争から身を離れ、国を安定させること重視する方が大事なのだ。だが、今の帝国はそんなことが出来る状況下ではなかった。
「だが、そうも簡単に事は進まない。帝国は現在、深刻な財政難だ。国の収入が少なく、国を保たせるのがやっとな状況。そこに貴族からの猛抗議。この抗議に答え、財政回復をするには戦争に勝つことだと帝国の今代皇帝は至ったんだろうな。この戦争が起きてしまったのは仕方がないことなんだよ。だからこそ、この無意味な戦争を終わらせる。」
「そんなことがあるのか。政治は面倒だな。」
「そうだな。だから、終わらせるぞ。」
第二次バライム戦役の戦闘という戦いは終わった。だが、これは1つの戦いが終わったにすぎない。
これから行われるのは交渉という戦いだ。巧みな話術を駆使して話し合うもう1つの戦い。
如何でしたでしょうか?
それではまた




