戦争の始まり
ではではどうぞ。
戦…戦争はこの大陸では多く起こることの一つだ。近隣諸国の小競り合いとは違う国が総力を上げて行うのが戦争だ。アリア皇国では、ここ5年間戦争はなかった。戦争を好む隣国 ザリア帝国が仕掛けてこなかったことが大きい。その為、戦争を知らない若い騎士たちも多い。死の恐怖、人殺しの恐怖などを知らない。だからこそ、若い騎士たちは自分の地位を少しでも上げようと功績を得ようとする。それが希望の一つとなって、戦争に怯えている若い騎士は居ない。だが、この中で何人のいや、何十人の騎士たちが脱落者となるのか。死の恐怖、人殺しの恐怖に体は震え、足は動かない。吐き気、嘔吐などをする者たちも出てくるだろう。この者たちをどうやってフォローするのかも戦争を経験した騎士たちの課題とも言える。年の功と言われる経験を何処まで彼らに伝えられるか。彼らを奮い立たせることが出来るのか。それが、戦争を知る者たちの役目だ。
この戦争に常識なんてない。常識なんて通用しない。戦争にあるのは強者と弱者の格差だけだ。強い者が勝ち、弱い者が負ける。そういう勝ち負けしかないのだ。それ以外は副賞として領土、戦利品、敵の大将の首などが得られるだけだ。戦争をしても何もないのだ。悲惨差が頭に残るだけ。後は残虐を繰り返した自分への恐怖とか。言ってしまえば、利点なんて少ない。国が国としてあり続けるための口実として、国の財政を立て直すために戦争をしているのだ。結局は国が利益を得るためにしていること。国が大事だという言葉を信じた騎士は無様に死んでいく。ザリア帝国は特にその傾向にある。国のためなら、騎士を無駄死にさせてまで、財政を、領土を得ようとしている。これは国としての在り方が間違っていると言って良いだろう。そんな腐敗した国が勝つことは出来ない。精鋭たちは5年前に殆んど失い、あれから五年は経っていても、強国と言われた頃の精鋭たちに並ぶほどの人材は出来ていない。それなのに戦争を行うという決断をした帝王は何かしらの考えがあってのことなのかもしれない。この戦いが後の戦争に多大なる影響を与えたのはある意味功績と言えよう。後の戦争に繋がってくる呪いの力。これが戦争を少しずつ変えたのだ。ザリア帝国滅亡も近いかもしれない。
アリア皇国神話集より
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この戦争に合図は特にない。どちらかが仕掛ければ、それが戦争開始の合図である。2人の神将と騎士団は敵軍に向かって攻撃を開始する。雪崩れ込むように敵味方の区別が難しくなる。区別することが出来るのは着ている甲冑に国の紋章が入っているからだ。それが無ければ、どっちが味方で、どっちが敵か分からない。今回の戦争に収集された神将はボルドとアルクスを除けば、2人だ。ジュナンとイノア。5年前の第一次バライム戦役で功績を挙げた名将。ジュナンは速攻の剣技を得意とする男だ。とにかく、敵を仕留めるのが早い。敵の弱点を正確に着き、死に追いやる。これは槍を扱うときも同じことだ。対するイノアは幻術を用いる異質の剣技を扱う女だ。幻術とは簡単に言ってしまえば、相手に幻を見せる術だ。この世界に存在する摩訶不思議な力。相手の苦手な物、恐怖を煽る物。これらを見せて、体が硬直したところを仕留める。ある意味で最低な剣技だ。この2人は所謂、特攻隊長的な存在でもある。それが今回の戦術の鍵を握るのだ。
「始まったな。」
ボルドは誰にも聞こえないようにぼそりと呟いた。生憎、アルクスが聞いていたため、返答してくる。
「始まった…人をむざむざと殺す殺戮が…。どうしたんだ?元気がないぞ。」
「それはな。今更戦争なんてしたくないと思うだろ?」
「そうだな、戦争が無ければどれだけ良いかなんて考えなくても分かることさ。戦争があるからこんな不運な運命を辿る人間が出てくる。」
「でも、仕掛けられたら相手しなければならない。言うなれば、赤ん坊が来て相手するのと同じだ。」
「そうだな…。赤ん坊なら、楽に楽しく出来るんだが。」
戦争とは惨いものだと2人は知っている。先の戦争を経験した者たちは知っている。戦争は最悪で、災厄な場所だと。誰もが無くなれば良いと戦ってきた騎士たちは望むのに、戦争とは絶えず行われる。歴史上の書物を見ても、戦争は何度も行われてきた。その中で、大勢の人々を巻き込み、無駄死にさせた。幾つもの町を滅ぼしたり、都市を滅ぼしたり、多数の国を滅ぼしてきている。また、戦争が原因で滅亡に追いやられた国もある。それなのに戦争は無くならない。戦争は一番やってはいけない行為と知りながら、人は戦争に手を染める。人が何度も繰り返してきた間違いを今もまた行っているのだ。
「作戦はどうだ。上手く行っているのか?」
「ジュナンとイノアは上手く相手を誘導している筈だ。敵は先の戦争で生き残った将軍が率いているから警戒はしているけど、それでも強者には恐怖してしまうものさ。だから、その恐怖を操って上手く相手を誘導し、地獄に追い詰める。これが一番簡単な作戦だ。まぁ…ジュナンは戦闘狂ではないけれど、それに近いところはあるからな。囮にはうってつけなのさ。」
「それは分かるが。何故、イノアを本陣に行かせた。それが俺には分からん。」
「そう言えばさ、他人の前と俺の前では口調が違うんだが。」
「そんなことはどうでも良いんだよ。アルクス、教えろよ。」
ボルドの真面目な顔にアルクスは苦笑する。"ボルドも騎士なんだな…"とアルクスは思ってしまう。騎士たちにはオッサンで通っているボルドがこんな顔をすれば、苦笑をしてしまうのも分からなくはない。神将同士は仲が良い。背中を守って貰うような戦いを先の戦争で行ったのだ。仲が良くなければおかしい。12人全員が信頼している。心を打ち明けられるほどに。だからこそ、ボルドの真面目な顔も神将しか見たことがない。ボルドの副官でも、その顔を見たことはないだろう。見ない方がいい。これはアルクスの意見だが。並の騎士たちに見せるにはハードルが高過ぎる。別に真面目な顔が笑えるとか、そういう理由ではない。並の騎士たちが見てしまうと喋れなくなるからだ。体が固まり、硬直してしまう。何故と聞かれれば、その殺気と威圧にとアルクスは答えるだろう。だって、並の騎士たちが固まっているのが余裕に想像できるからだ。これは断定できる。
「分かった分かった。冗談はこれくらいにして理由を説明するよ。まぁ…彼女の騎士団が隠密行動に優れているのが一番理由として大きい。だけど、他にも理由はある。彼女には幻術という最終手段がある。どんな状況になっても、あれを使えば潜り抜けられると思ったんだ。」
「それはそうだが、もしもの時の対策もあるんだろ?」
「ああ。人数は少ないが、応援が駆け付ける。必ず騎士団を助け出せる存在を近くに配置させたから。」
「そんなのがいるのか?」
「ああ。公に発表されるまで紹介は出来ないけどな。この戦争が終わった頃に紹介できるだろう。」
「頼む。」
少し黙り込んでからボルドが唐突に呟く。
「お前の口調も変わってるぞ。」
アルクスは何も言えなかった。ただ、黙ることしか…
後に歴史上で最も最強と呼ばれる12人の神将が顔を会わせるそれに次ぐ者たちとの会合はまた後の話。
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その頃、勇者たちと灰炎騎士団は敵の城へと向かっていた。事実上の食糧庫となっている城は正に名城と呼ばれるに相応しい城攻めに強そうな造りとなっていた。この城の前線には砦が幾つかあったが、全て殻だった。人は誰1人居ない。前線に送り込まれたのは明白だ。アルクスの話に寄れば、城には1000人程度の戦力は居るだろうという話だった。そこに戦争未経験の勇者と灰炎騎士団が行くのはおかしい。普通の指揮官ならそう思うだろう。だが、その城に居るであろう敵の大半は前線の戦力としては役に立たない者や文官であるとアルクスが言ったのだ。それなら、戦争経験がない者たちでも攻め落とすのはそう難しくはない。此処をアルクスは若い者たちに戦争経験の場所として貰いたかったのだ。此処で色々と学んで貰いたかったのだ。勇者を含めて。
「ジンさん、城はどのようにして攻めるんですか?」
美紗の質問だった。誰もが思う当たり前の疑問である。平和な世界から来た者ではあれど、歴史の授業で戦の話もあった。そこで城攻めは凄く大変だと歴史担当の教師が言っていた。それなのにジンは焦っていない。逆に余裕まで感じられる。これが不思議に感じたのだ。
「内緒です。」
「何でですか?」
「強いて言うなら、味方の犠牲が少ない攻め方でしょうね。始めれば、そのうち分かります。」
「は、はあ。」
すると、ジンは城の城門のある方向とは違う方向に向かって進んでいく。これには美紗も全く分からない。他の3人の勇者の顔を見たが3人とも興味がなさそうだったので、ジンに目線を向け直す。
「ジンさん、あの~進んでいる道が違う気が…」
「これで合っているんですよ。」
ジンは何気ない顔で答えた。さぞ、当たり前のように。それが美紗を逆に混乱させる。
「ジンさん、城に攻めいるんですよね?」
「そうですよ。」
「なら、道が違うと思うんですが。」
「ああ。城門から攻めると思ってましたか。違いますよ。さっき言いましたよね、犠牲が少ない攻め方をすると。」
「城門から攻めるんじゃないんですか?」
「はい。犠牲を減らすには城門からの真っ向な攻撃だと無理ですから。」
「でも、方法がないと思います。」
ジンは不適な笑みを浮かべて言った。
「では、教えます。アルクス様が考えた策略を。城攻めは城門からの真っ向な攻撃だけではないことを。」
これは後の城攻めを大きく変えるその第一歩でもあった。
如何でしたでしょうか?
それではまた。




