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四章(3)

 時は現在に戻り。

 ユースの操るクルトの荷台に、銀星は膝を抱えて小さく座っていた。

 昨夜、夜叉と劉が消えたあと。今ならまだ、助かる人が居るかもしれないと思いはしたものの、渦を巻く炎と頭上から落下してくる家々の残骸に阻まれ、やむなく炎の街から離れた。十分安全だと思えるところまでやってくると、そこで数時間の休憩を取り、翌朝帝呀山を目指して再び走り出した。

 出発してしばらく経つというのに、今まで誰も口を開こうとしなかった。

 ——一番最初におかしいと思ったのはユースだった。見えるのは砂か岩か、時々枯れた木だけ……だったはず。それがいつの間にか、青々とした草に囲まれ、葉を沢山茂らせた木も視界に捉えるようになっていた。

 おい、外を見てみろよ。なんか妙じゃねえか? 

 中の三人に向かってそう言おうとした瞬間、木が、枝が、クルトに襲いかかってきた。それらはレミリアが配置した使役魔、腐敗した樹(ドリアードツリー)だった。

 「きゃああ〜!」

 枝が幌を破って中に侵入はいり、銀星と結芳の体に絡み付いて、締め上げた。

 「二人とも! ……ぐはっ!」

 昴が駆け寄ろうとしたが、別の枝に薙ぎ払われ、クルトの外へと弾き飛ばされた。どうにか受け身をとり、起き上がった所へ別の枝が攻撃を仕掛けてきた。

 「雷光!」

 小型のナイフから電撃がほとばしる。だが、大してダメージは与えられなかった。

 「くっ、小の位ぐらいではダメか。なら……」

 今度は手のひらに乗るぐらいの円盤を取り出し、迫ってくる枝へ飛ばした。

 「千の攻撃 万の守り 我が契約の名において現れよ、疾風迅雷!」

 風が枝を切り裂き、雷が幹を撃つ。しかし、四方八方から襲いかかってくる無数の枝が相手では、焼け石に水程度の効果しかなかった。

 「くそっ!」

 彼らしからぬ悪態をつく。どうにかして銀星たちのほうへ向かいたかったのだが、それは難しいようだ。

 (皆は無事か……?)


 案の定、他の三人も苦戦していた。

 ユースがひとまず銀星と結芳を枝から開放したが、その直後に走った大きな衝撃に、荷台の中を転がった。

 「な、なんだいきなり。新手か?」

 辺りを見回してみると、使役魔カールが苦しげにもがいていた。ユースは手綱を引いて鎮めようとするが、むしろ余計に暴れ出してしまった。

 「ぐっ……。おい、結芳! こいつら一回、戻せ! このまんまじゃ、こいつらイカレっちまうぜ!」

 木や枝が絡み付いているのはけがの功名と言えた。暴れるままに、走り出さずにすんだ。とは言っても、こんな錯乱状態が続けば、いずれショートを起こして手が付けられなくなる。しかし、呼びかけられた結芳にそんな余裕はなかった。

 「じ、状況、見て言……えっ……!」

 ユースが振り返ると、二人は再び木の枝に捕らえられていた。舌打ちして、二人を助けようと操縦席から立ち上がったとき、ひときわ大きく使役魔カールが暴れた。

 「うぉ⁉」

 操縦席から転がり落ちたユースの足が地面についた瞬間、ザクッと嫌な音がした。

 「ぐあ‼」

 派手に血が噴き出した。

 「ユースさん!」

 「……っ、こいつか!」

 痛みに顔をしかめる。見れば、ユースのふくらはぎに人喰い草(マンドグラス)が噛みついていた。同時に、突然使役魔カールが暴れ出した理由も分かった。さっきまでただの草や花だと思っていたモノが、使役魔カールの足に噛みついたに違いない。

 運輸の使役魔は足を傷つけないよう、使役魔の中で一番足の皮膚が硬い。それをいとも容易く突き破るとは、なんという鋭さ、強度か。

 (人喰い草までいやがったのか。……っつ! 腐敗した樹に気をとられてまったく気づかなかったぜ)

 腰に佩いていた剣を抜くとふくらはぎの肉を食いちぎろうとしている人喰い草を切り払った。そして、カールの手綱を掴んで操縦席へと戻り、地面へ向かって剣を突き刺した。

 「千の攻撃 万の守り 我が契約の名において現れよ、草薙焰!」

 剣を中心に、放射状に炎が広がっていく。炎は腐敗した樹にまで燃え移り、呪詛にも似た苦悶の声が上がった。

 銀星と結芳は、自分たちを拘束していた枝の力が緩むのを感じて喜びかけたが、幹の真ん中が裂け、黒い穴があいたのを見て顔色が変わった。

 「く、口……?」

 結芳のつぶやきを聞き取ったのか、ガバッと穴が大きくなり、結芳を呑み込もうとした。

 「ヒッ!」

 恐怖で顔が歪み、喉から引きつった悲鳴が漏れた。

 「結芳ちゃん!」

 銀星はなんとか抜け出そうと、もがいた。だが、炎が燃え移りながらもせっかくのエサは手放すまいと、銀星を捕らえている枝に力がこもった。

 「結芳ちゃん⁉」

 「結芳!」

 異変を察知し、ユースと昴がこちらを向く。そして慌てて駆け寄ってこようとするが、ユースはふくらはぎの痛みに膝が折れ、昴はまだ残っている使役魔たちに阻まれた。

 「あ、あぁ……」

 目に涙を浮かべ、いやいやと首を振る結芳。

 銀星の目には全てがゆっくりと、スローモーションのように見えた。

 このままでは結芳は、血と臓腑をまき散らして死ぬか、あるいは髪の毛の一本も残さずこの世から消えるかの二択だ。——そして、そんな光景は、容易に想像できた。 


 嫌だ。


 銀星はそう、強く思った。


 ここに来るまでに救えなかった人がたくさんいる。

 家族も、敵対している姉以外はみんな死んでいる。

 だから……だったら……せめて友達だけは…………。


 銀星の想いに呼応するように、右手の腕輪が輝きを放つ。

 「い、いやああっっ!」

 「結芳!」

 「結芳ちゃん!」


 友達だけは、絶対に死なせない。


 ブレスレットから光の矢が放たれた。光は腐敗した樹を倒し、二人を解放した。

 「なっ……?」

 突然のことで、三人も何が起こったのか分からなかった。それは使役魔たちにも同じことだった。

 「わっ、あっ」

 突然解放され、結芳はバランスを崩した。さっと背中にまわる腕の温もりを感じて、パッと上を見ると銀星が優しく微笑んでいた。そして、おもむろに右手を掲げる。再び腕輪が輝きだした。

 「天の女神よ。悪なるモノを滅し、私の友をお守りください。……千の攻撃を以て万の者を守らん。我が契約の真名において、汝、いざ現れ給え。蒼穹!」

 放たれた光の矢は次々と使役魔たちを倒していった。五分とかからず、使役魔たちは一掃された。

 「……ごめんね」

 「へ?」

 長いため息をついたあと、銀星が言った言葉に結芳は戸惑ったように聞き返す。

 「私が早くにこの力を使っていたら……みんなに怪我をさせなかった。……みんなを守れたのに」

 「え、あ、いや、えっと」

 慰めようにも、思うように言葉が出なくてただバタバタしている結芳を見て、銀星はクスッと小さく笑った。

 「怪我は、ない?」

 「え、あ、うん。だいじょう……っ」

 言い切る前に涙がぽろりと零れた。

 「あ、あれ? 何で、ないっ、泣いてん、だろ?」

 頑張って泣き止もうとしているのに、涙はどんどん出てくる。それを見て、銀星はそっと結芳を抱きしめた。

 「大丈夫よ、結芳ちゃん。もう、大丈夫」

 ぽんぽん、とあやすように銀星が結芳の背中を叩く。そこで、結芳は自分が何故泣いているのか分かった。——安心、したのだ。死の恐怖はもう去った。

 分かったとたん、せきを切ったように涙が溢れた。

 「ぅ、うわーん! 恐かったよお! うわあーーん!」

 「よしよし。もう大丈夫だからね」

 「ひっ、い、ぅう、うわーん!」

 ユースと昴は二人をぽかんと眺めていたが、お互い顔を見あわせると肩をすくめ、苦笑しあった。

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