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第十話『怪物』ストーリーパート

 




 フィーラ平原での一戦では、両者共に痛み分け。

 兵力の二割を失った所で人族も魔族も兵を引いた。


 睨み合いは二日と続くだろうが、今すぐに戦闘に発展する事は無いはず。

 数少ない高官用のテントを使用している姫とその侍女達。

 傍らで寝息を立てているレティとミュリエルを起さぬようにと、姫は今だ明けきらぬ空を確認すると、テントから出た。

 時刻は五時前。

 今だ戦闘後の興奮でピリピリとしている警邏の兵達から隠れるように、姫は自分が乗ってきた馬がどこにいるかと探した。


 一般の兵達とは違う場所に繋がれているだろうから、簡単にわかると思っていたが、意外にも十分以上に時間を要してしまった。

 そしてなによりも馬を見つけた時と、一人の男に見つかって仕舞ったのは同時であった。


「白虎ね。なにか用?」

 姫は白虎が乗っている自分の愛馬を見つめながら、白虎に話し掛けた。


「ここを出るんだろ? 知ってるぜぇ、ここに来たのは“魔王”を討つ為だって」

「ふーん。例えそうだとしても。普通、魔王を討つ為なら魔王城に直接向かうんじゃない?」

「姫さん。アンタ、魔王が好きなんだってな?」

「――なッ!?」


 なにを言ってるのよ、と言いたかったが、不敵な笑みを浮かべる白虎の顔を見て、言い訳は無駄と判断し、口を噤む。

 姫が何も答えない事を感じ取りつつ、白虎も話しを続けた。


「結構有名だぜぇ? だから国王にも反対された、違うか?」

「そうよ」

「だがら姫さん、アンタは条件を出した。多分だがこの戦場で魔族を討てる事を証明する事が、条件の一つとかなんじゃないか?」

「ええ、父には『お前は魔族はおろか、動物ですらその手で殺める事は無理だ』と言われたわ。確かに今までの私はそうだった。だけで今は状況が違う。必要とあれば貴方も殺すわ」

「勇ましい事で」


 白虎は姫に馬を渡し、姫は少し驚いた顔をした後、すぐさまその馬に跨った。

 そして翻り、魔王城の方へと馬を向けるが、おもむろに白虎も馬に乗り移る。

 後ろから姫を抱きかかえるように、馬に跨り、たずなを奪う。

 

「ちょ!? なによアンタ!!」

「魔王を討つんだろ? なら俺も一緒に行ってやるよ」

「別にアンタに付いてきた貰う必要は――きゃあ」


 強引に馬を走らせ、姫と白虎は魔王城へと向かったのだった。



---------------------------------------------------------------------------------------------


 魔王が城を後にしてから数時間後。

 王室では中ボスや魔王軍の精鋭を含む。大隊長や作戦参謀などの現在の魔王城で指揮系統の上に居る者が集まっていた。


「正門である北門はマモットにラゼに担当してもらいます。おそらく敵の戦力の八割がこの北門に集中するはずです。そして裏門である南門はヴァナとアド。二人に行ってもらいます。貴方達に割ける戦力はあまりありません。門の内側に陣を組み、敵を引き込みつつ迎撃してください」


 中ボスは手際よく各自に役割を割り振り。その命令を元に皆、配置に付いていった。

 本来は中ボスの補助役としてラゼを手元に置いておきたかった中ボスではあったが、現在魔王城に向かっている人族の軍勢はこちらの十倍。

 籠城戦である事から五倍から七倍程度であれば勝算もあったのだが、予測より敵戦力が多い事に加え、相手の指揮官は国王自ら立っている。更には勇者の称号を持つ、高い戦闘力を持った精鋭部隊が多数確認されており、個々の力で押し返すのも難しかった。


 それらの不安要素が多くある事から、中ボスはそれらに柔軟に対応する為に“待機”の状態で居るしかなかった。

 現在の魔王城で最高戦力である自分を、余らせておかねばならぬ事に歯がゆさを覚えつつ、中ボスは演説をする為に王室を後にする。


 数週間前までは静かだった魔王城の廊下は、今では慌ただしく走り回る伝令兵が多く目に入る。

 それらが中ボスを見つけるたびに敬礼していたが、それらに答える余裕すらないのか、中ボスは真っ直ぐに目的地を目指す。

 そして魔王城三階のテラスに立つと、眼下に居る兵達を見下ろした。


 人族の軍勢が魔王城に向かっている事を確認してから一時間。

 既に戦闘用の装備に身を包んだ二万を超える魔族達が中ボスを見上げていた。

 大きな羽を持つ者や、牙や爪、角などが異様に発達した者。手足の数が異なる者。それ以外にも様々な魔族達。身体の特徴や性格。様々な魔族達は、まるで今の魔王城の全権を担っている者を見定めるように中ボスに視線を向けていた。

 この様な場に馴れているのか、中ボスは怯む様子もなく。堂々とした歩みで更に数歩前に出ると、声を上げた。



「諸君、私が中ボスである。そして本来の魔王城の主である魔王様より、魔王城での権限の全てを任されている。諸君らも知っての通り、既に我々と人族は敵対関係にある。現に五時間もすれば敵の軍勢が嫌でも視界に入るだろう。数にして二十万。それほどまでの数の人族が我々に敵意を持ってこちらに向かっている」


 敵兵の数は把握してなかったのだろう。多くの兵士達が中ボスの言葉にざわつく。

 その声を無視するように中ボスは話しを続けた。


「だが忘れないで欲しい。私達の王である魔王様は、人族の兵。十万二十万程度は軽く吹き飛ばすほどのお力を持っておられる。そう、私達は魔王様が帰るまでの間、城を守りきればいいだけ。そして、このような有事に備え、魔王様と私はこのような物を準備しておきました」


 中ボスは軽く指を弾くと、広場の地面には淡い紫色に発光する巨大な魔法陣が現れる。

 慌てたように動き回る兵士達を窘め、中ボスはその足元にある魔法陣の説明をした。



「それは、不死の魔法。簡単に行ってしまえばその魔法陣の中では貴方達は“無敵”です」


 信じられないと言った様子の魔族達。

 しかし、中ボスは一人の兵士に向かって、突如魔力で出来た槍を飛ばす。

 そのような事をされるとは予想もしていなかった若い魔族は、中ボスの攻撃を認知する事も出来ずに、胸にその槍を受けた。


 即死。心臓を捉えた正確無慈悲な攻撃で、若者は死んだと誰もが思い、そしてそんな事をした中ボスに対し憤怒する者や脅える者。反応は様々であったが、数秒後何事も無かったかのように死んだはずの若者が立ち上がると、それら全ては驚きへと変化する。


「見ての通り彼は生きている。これはこの魔法陣に蓄えられた魔力が彼の破壊された心臓の代わりをしたからです、――っと安心してください、数分もすれば破壊された臓器も魔力で再生可能なので、この魔法陣がなくなろうとも彼は死ぬことはありません」


 事前に中ボスは、この若者に魔法陣の説明をし、中ボスが攻撃を加える事を伝えていたが、中ボスの事を信頼はしていても、それでも驚いているのか、知っていたはずである若者も呆気にとらわれていた。


「しかし弱点が無いわけではありません。首を飛ばされれば死にますし、上半身と下半身が分かれてしまうなどの、大きなダメージを受ければ肉体が平気でも精神の方が“死”を選択してしまい。結果的に死亡してしまいます。なので頭部の防御と、気をしっかりと保っている限りは“無敵”です。精神の摩耗が激しくなった者は、無理せず下がって下さい。長期戦に持ち込む事が出来れば我々の勝ちです。理解いただけましたか?」

 

 

 いつものように柔和な笑顔でそう聞く中ボス。それらに答えるように魔族達は大きな歓声で答え。中ボスも満足そうに手を上げ、そして彼らに勝利を約束した。


-------------------------------------------------------------------------------------



 一万からなる兵士達を各方面に散らせ、それらを魔王城前で再結集させ、出来た十二万の大部隊。

 それらを率いるは、人族の王であり。元・魔王を討ち払った元・勇者である国王。

 恰幅の良い体に合わせた甲冑は、己が存在を主張するかのごとく煌びやかな宝石や刺繍が施されていた。

 本人はあまり派手好きと言う訳では無いが、国王であり総大将であるからにはこのような格好をするべきだと副官には言われているので、仕方なくこのような出で立ちになっている。



 三重の城壁で守られた魔王城。

 そして今まさに一番最初の門が破られ、洪水による土砂のように人の波が門から流れ込む。

 それらを少し離れた所で見つめる国王だったが、次々と上がってくる報告にイラつき始めていた。



「敵は三つの城壁を使い、劣勢になれば迷わず後退を選んでおり、こちらの既に一万の兵を失っているにも関わらず、あちらへの被害は数十人程度であり、異様な強さです」


 魔族が何かしらの術を行使しているが為に、数では圧倒的に上なはずのこちらが一方的に被害を受けていいた。

 魔族の兵一人につき、三人の兵で戦闘するように言っているにも関わらず、この有り様だ。

 それに魔族の戦闘も一昔前とは違い、かなり連携の取れた物になっていた。

 城壁に取りついたこちらを、長距離戦闘に長けた種族が魔法で撃ち。

 中に入られれば、接近型の魔族がそれに対応していた。

 元来、接近型の魔族は血の気が多く、『後退』を指示されても上手く機能しない事が多いにも関わらず、魔族の指揮官はそれらが興奮する一歩手前で後退を命じているらしい。

 そのせいで突出する敵兵をこちらが数で叩くどころか、後退する敵の背中を不用意に追撃し、逆に数で叩かれる兵士が後を絶たない。


 指揮官が相当に優秀なのか、士気も高く、地形の把握も完璧で、戦力分布に不備が無いが為にいくら探りを入れようとも穴のある場所が見つからない。

 魔王と小ボス、この二人が魔王城不在なのは既に知っていたが、ならば中ボスが指揮についているのだろう。

 しかしこれほどまでの手並みとは、国王も敵ながらに惚れ惚れするほどであった。


 第二の城壁に辿り着き、損耗率が二割を超えたところで、国王は自身の育てた精鋭部隊である勇者部隊を戦場に投入する事を決めた。

 隊長、ワドワーズ・ガルシア率いる三十人からなる魔族狩りの為に育てられた対魔族部隊。

 それが勇者部隊であった。


 各自が聖剣の類いを持ち、個々の戦闘力は並みの魔族百人を相手取っても傷一つ負う事は無いほど強さなのだ。

 それが三十人。

 これで一気に形勢を逆転させ、下がった兵の士気を回復させようと考えていたその時。


「国王様! 後方より敵兵を確認! ここへ真っ直ぐ向かっています! 今すぐお逃げください」


 兵の言葉に国王は、その突破力から魔王か小ボスが戦線入りをしたかと思ったが、そうでは無かった。

 後方から接近していたのは、小ボスの形をした偽物。シゼルであったが、それを確認できたのは、二十を超えるシゼル達に包囲された後。


 あっと言う間に陣を突破され、仮設本陣はたった数秒で蹂躙の限りを受け。

 残っているのは精鋭である勇者部隊と国王の伝令を伝えた一兵卒だけであった。



「国王様。ここは我々が血路を開きます。そこから急ぎ本隊に合流してください」


 ワドワーズが一体のシゼルと交戦しつつ、大声でそう言った。

 他の精鋭も三人で一体のシゼルを止めるのが精いっぱいなのか、話す余裕すらなかったが、果敢に逃げ道を開けるべく無理な攻撃を行い続ける。


 だが、国王は動けないでいた。精鋭達が三体一でシゼル達に対応している間、その戦闘に参加していない五体のシゼル達の目を見て。


 異様な雰囲気を醸し出す五体のシゼル達。

 全身からマグマのような熱い鬼気を立ち上らせ。まわりの空気がしっとりと熱く粘ついていた。

 緑色の目をした“劣化版”とは違い。真っ赤な双眸は明らか他の者とは異なる気配があった。


 元・勇者である国王ですら、この赤目の怪物を一体相手にするのが限界。とてもできないがこの五体を突破する事は不可能。

 それは他の十五対の劣化版が居なくとも同じであった。

 それほどまでに圧倒的な戦闘力が彼ら五体には内包されているのだ。


「三体目。次ッ!」


 勇者隊の副隊長が単独で三体のシゼルを討ち。そのままの勢いで、怪物の一体に攻撃を加えようと、剣を振った。

 だが怪物は短く何かを呟くと、直径五メートルほどの防御魔法を展開。

 その魔法には国王は見覚えがあった。


「アイギス!?」

 最高硬度と引き換えに、バケツをひっくり返すが如く、垂れ流すように魔力を使う防御魔法。

 魔王や中ボス。それに元祖・魔王のように有り余るほどの魔力保有量に加え。更にそれらを器用に操作できるような熟練者で無ければ発動できぬその魔法を怪物は、何の気なしにやってみせた。


 幾ら魔族を討つための聖剣であろうとも、あれほどの防御魔法は、そう易々とは貫けない。

 副隊長クラスですら一撃を加える事が出来ないのだ。そんな怪物が五体もいて、逃げるなんて到底できるはずが無い。


 今だ防御魔法に聖剣による一撃を加えたままの副隊長に向かって、怪物は右手を上げ。

 その右手に暴力的な凶念が集中する。

 まずい。国王がそう思い動いた時には、副隊長の全身が荷馬車ほどの太さがある業火に焼かれていた。


 副隊長が倒されたのを見た勇者部隊らは皆混乱した。

 それは副隊長が死んだ事が主な理由であると同時に、その原因を作った怪物達が一斉に彼らへと襲い掛かったからだ。

 このあと起きる惨劇は誰にでも予想ができた。

 しかし勇者部隊ら精鋭達に攻撃は行われず、五体の怪物達は一様に後方へと飛ぶ。


「ははッ、随分と威勢のいいのと戦っているなぁ!」

 

 その声と共に、突如現れた白い着物を着た長身の男が、数体の“劣化版”を吹き飛ばし現れる。


「白虎!!」


 国王がその男の名を呼ぶと、白虎は軽く手を上げ顔を見る事無く答えた。

 既に戦闘エリアであるこの場所で、国王と言えども構っている余裕はないのだろう、白虎はそれを表すように刀に手を掛ける。


 白虎と共にここに来ていた一人の女性。姫は父である国王の下へ馬で近寄る。


「父上。お乗りください!」

「姫、如何してここに!?」


 激しい口調と共に姫はやや強引に国王の手を引き、自分の後ろへと乗せ、「舌を噛みますよ」とだけいい、馬を走らせる。


「白虎! 後は任せたわよ!!」

 振り返るようにそう言った姫に白虎は「応ッ」とだけ答え。刀を抜いた。

 それは姫が二度見た必殺の剣。

 数十メートル先の敵ですら一刀する魔剣。

 相手が何であろうと、“必殺”であると白虎は疑わない。

 にも拘らず、その攻撃を五体の怪物達は防御ではなく、回避して見せた。


 音速を超え。光速に近いそれを“避けた”のだ。

 今まで、白虎の放つこの技を“避けれた”人物は同じ四神を除いて、二人だけ。

 元祖・魔王と、“魔王”のみ。

 シゼル達は戦闘を積み重ね、見た攻撃、受けた攻撃を学習する。

 しかし白虎がシゼル達にこれを放つのは初めて。

 反射神経だけで避けられるような生易しい攻撃ではないはず。

 考えられるのは、シゼル達が“誰かしらの記憶”からこれらの攻撃を“学習”したとしか考えられない。

 元祖・魔王はフィーラ平原に居た事から、シゼル達に捉えられるとは考えられない。

 四神たちも同じ理由で候補から外れた。

 だが“魔王”。彼だけは違う。

 おそらく一番居る確率が高いのは魔王城ではあるが、それは確認できていない今。考えられる限り魔王が一番あり得るのだ。

 

 もし仮に白虎の読み通り、魔王の脳内に蓄積された膨大な戦闘記憶をシゼル達が取込んだとしたら、報告に上がっていたシゼル達の戦闘能力が、今目の前に居るシゼル達とは比べ物にならないほどの乖離(かいり)がある事も頷けた。


 シゼル達が見て、戦って。以外で戦闘データを蓄積するなど聞いた事はないが、白虎ほどの手練れと拮抗できいる事が、何よりもの証拠であった。


「ワドワーズ……すまないが頼み事がある」

「何だ」


 二人は顔見知りなのか、白虎はワドワーズの名を呼び、声を掛けた。


「人族と魔族は即刻戦闘を中止しろ。魔族達が受け入れないというのであれば、一方的に降伏しろ。それほどまでに今の状況はピンチだ」

「何? そんな事できるはずはなかろう!」

「姫さんに伝えろ。『魔王がシゼルの手に落ちた』と、出来るなら魔王城の総大将にも伝えられるなら同じ事を言え」 

 

 白虎の言葉に、ワドワーズ含めた勇者部隊は困惑する。

 もはや人族と魔族で戦争をしている場合じゃないと白虎は言うが、彼らにとって今だそれは理解できなかった。

 敵はたったの十数人。

 確かに副隊長はやられたが、今は四神の一人がいるのだ。それに目的であった国王の離脱も終え。

 これで後ろを気にすることなく戦える上。国王が大部隊を引き連れこちらを援護してくれるだろう。

 それを行えるほどの余力がこちらには残っている。そう思っている彼らにとって“負け”など考えられるはずもない。

 現に白虎が五体の怪物を抑えている間に、こちらは他のシゼル達を倒しているではないか。

 それにここは仮設と言えども“本陣”。国王の知らせが無くとも時機に味方が――



「これだけ派手に暴れてまくっているのに、味方の一人も現れて無いのがおかしいと思わねえのか!!」

 白虎が叫ぶように言う。

 そうここは“本陣”なのだ。

 命令系の中枢にして、軍隊の心臓部。

 それに攻撃が加えられているにも関わらず、味方が駆けつけていない。

 それは他の部隊も“シゼル達の攻撃”を受けているからであった。



「理解したか! なら行け!」

 全てを理解した勇者部隊は白虎の指示通り、国王と姫に白虎からの言葉を伝えるべく動きだす。

 しかしシゼル達も馬鹿では無い。彼らを行かせる事が自分達の作戦の妨げになる事は理解していた。


「チッ!」

 舌打ちを討ちつつ、怪物五体と対峙する白虎。彼とてこれ以上優雅にお喋りを続けている余裕はないのだ。

 とてもでは無いが勇者部隊が突破するのを援護出来るほどの余力は無い。

 増援どころか、シゼルが増えるばかりで、既に勇者部隊を囲むように彼らの倍近いシゼル達が包囲していた。

 しかしそんな包囲網をいつの間にやら抜けていた人物が居た。


「伝令兵か!?」


 勇者部隊の者が一様に、白虎の言葉に疑問を抱き、行動に移さないでいた間。

 シゼル達の奇襲を伝えた若い一兵卒は、迷う事無くその足を進めていたのだ。

 それが彼の仕事であったが故に、この場所で誰よりも弱い彼がシゼル達の囲いを突破していた。


 任せた。そう呟くと白虎は怪物達の群れの中へと飛び込んでいった。




 フィーラ平原での一戦では、両者共に痛み分け。

 兵力の二割を失った所で人族も魔族も兵を引いた。


 睨み合いは二日と続くだろうが、今すぐに戦闘に発展する事は無いはず。

 数少ない高官用のテントを使用している姫とその侍女達。

 傍らで寝息を立てているレティとミュリエルを起さぬようにと、姫は今だ明けきらぬ空を確認すると、テントから出た。

 時刻は五時前。

 今だ戦闘後の興奮でピリピリとしている警邏の兵達から隠れるように、姫は自分が乗ってきた馬がどこにいるかと探した。


 一般の兵達とは違う場所に繋がれているだろうから、簡単にわかると思っていたが、意外にも十分以上に時間を要してしまった。

 そしてなによりも馬を見つけた時と、一人の男に見つかって仕舞ったのは同時であった。


「白虎ね。なにか用?」

 姫は白虎が乗っている自分の愛馬を見つめながら、白虎に話し掛けた。


「ここを出るんだろ? 知ってるぜぇ、ここに来たのは“魔王”を討つ為だって」

「ふーん。例えそうだとしても。普通、魔王を討つ為なら魔王城に直接向かうんじゃない?」

「姫さん。アンタ、魔王が好きなんだってな?」

「――なッ!?」


 なにを言ってるのよ、と言いたかったが、不敵な笑みを浮かべる白虎の顔を見て、言い訳は無駄と判断し、口を噤む。

 姫が何も答えない事を感じ取りつつ、白虎も話しを続けた。


「結構有名だぜぇ? だから国王にも反対された、違うか?」

「そうよ」

「だがら姫さん、アンタは条件を出した。多分だがこの戦場で魔族を討てる事を証明する事が、条件の一つとかなんじゃないか?」

「ええ、父には『お前は魔族はおろか、動物ですらその手で殺める事は無理だ』と言われたわ。確かに今までの私はそうだった。だけで今は状況が違う。必要とあれば貴方も殺すわ」

「勇ましい事で」


 白虎は姫に馬を渡し、姫は少し驚いた顔をした後、すぐさまその馬に跨った。

 そして翻り、魔王城の方へと馬を向けるが、おもむろに白虎も馬に乗り移る。

 後ろから姫を抱きかかえるように、馬に跨り、たずなを奪う。

 

「ちょ!? なによアンタ!!」

「魔王を討つんだろ? なら俺も一緒に行ってやるよ」

「別にアンタに付いてきた貰う必要は――きゃあ」


 強引に馬を走らせ、姫と白虎は魔王城へと向かったのだった。



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 魔王が城を後にしてから数時間後。

 王室では中ボスや魔王軍の精鋭を含む。大隊長や作戦参謀などの現在の魔王城で指揮系統の上に居る者が集まっていた。


「正門である北門はマモットにラゼに担当してもらいます。おそらく敵の戦力の八割がこの北門に集中するはずです。そして裏門である南門はヴァナとアド。二人に行ってもらいます。貴方達に割ける戦力はあまりありません。門の内側に陣を組み、敵を引き込みつつ迎撃してください」


 中ボスは手際よく各自に役割を割り振り。その命令を元に皆、配置に付いていった。

 本来は中ボスの補助役としてラゼを手元に置いておきたかった中ボスではあったが、現在魔王城に向かっている人族の軍勢はこちらの十倍。

 籠城戦である事から五倍から七倍程度であれば勝算もあったのだが、予測より敵戦力が多い事に加え、相手の指揮官は国王自ら立っている。更には勇者の称号を持つ、高い戦闘力を持った精鋭部隊が多数確認されており、個々の力で押し返すのも難しかった。


 それらの不安要素が多くある事から、中ボスはそれらに柔軟に対応する為に“待機”の状態で居るしかなかった。

 現在の魔王城で最高戦力である自分を、余らせておかねばならぬ事に歯がゆさを覚えつつ、中ボスは演説をする為に王室を後にする。


 数週間前までは静かだった魔王城の廊下は、今では慌ただしく走り回る伝令兵が多く目に入る。

 それらが中ボスを見つけるたびに敬礼していたが、それらに答える余裕すらないのか、中ボスは真っ直ぐに目的地を目指す。

 そして魔王城三階のテラスに立つと、眼下に居る兵達を見下ろした。


 人族の軍勢が魔王城に向かっている事を確認してから一時間。

 既に戦闘用の装備に身を包んだ二万を超える魔族達が中ボスを見上げていた。

 大きな羽を持つ者や、牙や爪、角などが異様に発達した者。手足の数が異なる者。それ以外にも様々な魔族達。身体の特徴や性格。様々な魔族達は、まるで今の魔王城の全権を担っている者を見定めるように中ボスに視線を向けていた。

 この様な場に馴れているのか、中ボスは怯む様子もなく。堂々とした歩みで更に数歩前に出ると、声を上げた。



「諸君、私が中ボスである。そして本来の魔王城の主である魔王様より、魔王城での権限の全てを任されている。諸君らも知っての通り、既に我々と人族は敵対関係にある。現に五時間もすれば敵の軍勢が嫌でも視界に入るだろう。数にして二十万。それほどまでの数の人族が我々に敵意を持ってこちらに向かっている」


 敵兵の数は把握してなかったのだろう。多くの兵士達が中ボスの言葉にざわつく。

 その声を無視するように中ボスは話しを続けた。


「だが忘れないで欲しい。私達の王である魔王様は、人族の兵。十万二十万程度は軽く吹き飛ばすほどのお力を持っておられる。そう、私達は魔王様が帰るまでの間、城を守りきればいいだけ。そして、このような有事に備え、魔王様と私はこのような物を準備しておきました」


 中ボスは軽く指を弾くと、広場の地面には淡い紫色に発光する巨大な魔法陣が現れる。

 慌てたように動き回る兵士達を窘め、中ボスはその足元にある魔法陣の説明をした。



「それは、不死の魔法。簡単に行ってしまえばその魔法陣の中では貴方達は“無敵”です」


 信じられないと言った様子の魔族達。

 しかし、中ボスは一人の兵士に向かって、突如魔力で出来た槍を飛ばす。

 そのような事をされるとは予想もしていなかった若い魔族は、中ボスの攻撃を認知する事も出来ずに、胸にその槍を受けた。


 即死。心臓を捉えた正確無慈悲な攻撃で、若者は死んだと誰もが思い、そしてそんな事をした中ボスに対し憤怒する者や脅える者。反応は様々であったが、数秒後何事も無かったかのように死んだはずの若者が立ち上がると、それら全ては驚きへと変化する。


「見ての通り彼は生きている。これはこの魔法陣に蓄えられた魔力が彼の破壊された心臓の代わりをしたからです、――っと安心してください、数分もすれば破壊された臓器も魔力で再生可能なので、この魔法陣がなくなろうとも彼は死ぬことはありません」


 事前に中ボスは、この若者に魔法陣の説明をし、中ボスが攻撃を加える事を伝えていたが、中ボスの事を信頼はしていても、それでも驚いているのか、知っていたはずである若者も呆気にとらわれていた。


「しかし弱点が無いわけではありません。首を飛ばされれば死にますし、上半身と下半身が分かれてしまうなどの、大きなダメージを受ければ肉体が平気でも精神の方が“死”を選択してしまい。結果的に死亡してしまいます。なので頭部の防御と、気をしっかりと保っている限りは“無敵”です。精神の摩耗が激しくなった者は、無理せず下がって下さい。長期戦に持ち込む事が出来れば我々の勝ちです。理解いただけましたか?」

 

 

 いつものように柔和な笑顔でそう聞く中ボス。それらに答えるように魔族達は大きな歓声で答え。中ボスも満足そうに手を上げ、そして彼らに勝利を約束した。


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 一万からなる兵士達を各方面に散らせ、それらを魔王城前で再結集させ、出来た十二万の大部隊。

 それらを率いるは、人族の王であり。元・魔王を討ち払った元・勇者である国王。

 恰幅の良い体に合わせた甲冑は、己が存在を主張するかのごとく煌びやかな宝石や刺繍が施されていた。

 本人はあまり派手好きと言う訳では無いが、国王であり総大将であるからにはこのような格好をするべきだと副官には言われているので、仕方なくこのような出で立ちになっている。



 三重の城壁で守られた魔王城。

 そして今まさに一番最初の門が破られ、洪水による土砂のように人の波が門から流れ込む。

 それらを少し離れた所で見つめる国王だったが、次々と上がってくる報告にイラつき始めていた。



「敵は三つの城壁を使い、劣勢になれば迷わず後退を選んでおり、こちらの既に一万の兵を失っているにも関わらず、あちらへの被害は数十人程度であり、異様な強さです」


 魔族が何かしらの術を行使しているが為に、数では圧倒的に上なはずのこちらが一方的に被害を受けていいた。

 魔族の兵一人につき、三人の兵で戦闘するように言っているにも関わらず、この有り様だ。

 それに魔族の戦闘も一昔前とは違い、かなり連携の取れた物になっていた。

 城壁に取りついたこちらを、長距離戦闘に長けた種族が魔法で撃ち。

 中に入られれば、接近型の魔族がそれに対応していた。

 元来、接近型の魔族は血の気が多く、『後退』を指示されても上手く機能しない事が多いにも関わらず、魔族の指揮官はそれらが興奮する一歩手前で後退を命じているらしい。

 そのせいで突出する敵兵をこちらが数で叩くどころか、後退する敵の背中を不用意に追撃し、逆に数で叩かれる兵士が後を絶たない。


 指揮官が相当に優秀なのか、士気も高く、地形の把握も完璧で、戦力分布に不備が無いが為にいくら探りを入れようとも穴のある場所が見つからない。

 魔王と小ボス、この二人が魔王城不在なのは既に知っていたが、ならば中ボスが指揮についているのだろう。

 しかしこれほどまでの手並みとは、国王も敵ながらに惚れ惚れするほどであった。


 第二の城壁に辿り着き、損耗率が二割を超えたところで、国王は自身の育てた精鋭部隊である勇者部隊を戦場に投入する事を決めた。

 隊長、ワドワーズ・ガルシア率いる三十人からなる魔族狩りの為に育てられた対魔族部隊。

 それが勇者部隊であった。


 各自が聖剣の類いを持ち、個々の戦闘力は並みの魔族百人を相手取っても傷一つ負う事は無いほど強さなのだ。

 それが三十人。

 これで一気に形勢を逆転させ、下がった兵の士気を回復させようと考えていたその時。


「国王様! 後方より敵兵を確認! ここへ真っ直ぐ向かっています! 今すぐお逃げください」


 兵の言葉に国王は、その突破力から魔王か小ボスが戦線入りをしたかと思ったが、そうでは無かった。

 後方から接近していたのは、小ボスの形をした偽物。シゼルであったが、それを確認できたのは、二十を超えるシゼル達に包囲された後。


 あっと言う間に陣を突破され、仮設本陣はたった数秒で蹂躙の限りを受け。

 残っているのは精鋭である勇者部隊と国王の伝令を伝えた一兵卒だけであった。



「国王様。ここは我々が血路を開きます。そこから急ぎ本隊に合流してください」


 ワドワーズが一体のシゼルと交戦しつつ、大声でそう言った。

 他の精鋭も三人で一体のシゼルを止めるのが精いっぱいなのか、話す余裕すらなかったが、果敢に逃げ道を開けるべく無理な攻撃を行い続ける。


 だが、国王は動けないでいた。精鋭達が三体一でシゼル達に対応している間、その戦闘に参加していない五体のシゼル達の目を見て。


 異様な雰囲気を醸し出す五体のシゼル達。

 全身からマグマのような熱い鬼気を立ち上らせ。まわりの空気がしっとりと熱く粘ついていた。

 緑色の目をした“劣化版”とは違い。真っ赤な双眸は明らか他の者とは異なる気配があった。


 元・勇者である国王ですら、この赤目の怪物を一体相手にするのが限界。とてもできないがこの五体を突破する事は不可能。

 それは他の十五対の劣化版が居なくとも同じであった。

 それほどまでに圧倒的な戦闘力が彼ら五体には内包されているのだ。


「三体目。次ッ!」


 勇者隊の副隊長が単独で三体のシゼルを討ち。そのままの勢いで、怪物の一体に攻撃を加えようと、剣を振った。

 だが怪物は短く何かを呟くと、直径五メートルほどの防御魔法を展開。

 その魔法には国王は見覚えがあった。


「アイギス!?」

 最高硬度と引き換えに、バケツをひっくり返すが如く、垂れ流すように魔力を使う防御魔法。

 魔王や中ボス。それに元祖・魔王のように有り余るほどの魔力保有量に加え。更にそれらを器用に操作できるような熟練者で無ければ発動できぬその魔法を怪物は、何の気なしにやってみせた。


 幾ら魔族を討つための聖剣であろうとも、あれほどの防御魔法は、そう易々とは貫けない。

 副隊長クラスですら一撃を加える事が出来ないのだ。そんな怪物が五体もいて、逃げるなんて到底できるはずが無い。


 今だ防御魔法に聖剣による一撃を加えたままの副隊長に向かって、怪物は右手を上げ。

 その右手に暴力的な凶念が集中する。

 まずい。国王がそう思い動いた時には、副隊長の全身が荷馬車ほどの太さがある業火に焼かれていた。


 副隊長が倒されたのを見た勇者部隊らは皆混乱した。

 それは副隊長が死んだ事が主な理由であると同時に、その原因を作った怪物達が一斉に彼らへと襲い掛かったからだ。

 このあと起きる惨劇は誰にでも予想ができた。

 しかし勇者部隊ら精鋭達に攻撃は行われず、五体の怪物達は一様に後方へと飛ぶ。


「ははッ、随分と威勢のいいのと戦っているなぁ!」

 

 その声と共に、突如現れた白い着物を着た長身の男が、数体の“劣化版”を吹き飛ばし現れる。


「白虎!!」


 国王がその男の名を呼ぶと、白虎は軽く手を上げ顔を見る事無く答えた。

 既に戦闘エリアであるこの場所で、国王と言えども構っている余裕はないのだろう、白虎はそれを表すように刀に手を掛ける。


 白虎と共にここに来ていた一人の女性。姫は父である国王の下へ馬で近寄る。


「父上。お乗りください!」

「姫、如何してここに!?」


 激しい口調と共に姫はやや強引に国王の手を引き、自分の後ろへと乗せ、「舌を噛みますよ」とだけいい、馬を走らせる。


「白虎! 後は任せたわよ!!」

 振り返るようにそう言った姫に白虎は「応ッ」とだけ答え。刀を抜いた。

 それは姫が二度見た必殺の剣。

 数十メートル先の敵ですら一刀する魔剣。

 相手が何であろうと、“必殺”であると白虎は疑わない。

 にも拘らず、その攻撃を五体の怪物達は防御ではなく、回避して見せた。


 音速を超え。光速に近いそれを“避けた”のだ。

 今まで、白虎の放つこの技を“避けれた”人物は同じ四神を除いて、二人だけ。

 元祖・魔王と、“魔王”のみ。

 シゼル達は戦闘を積み重ね、見た攻撃、受けた攻撃を学習する。

 しかし白虎がシゼル達にこれを放つのは初めて。

 反射神経だけで避けられるような生易しい攻撃ではないはず。

 考えられるのは、シゼル達が“誰かしらの記憶”からこれらの攻撃を“学習”したとしか考えられない。

 元祖・魔王はフィーラ平原に居た事から、シゼル達に捉えられるとは考えられない。

 四神たちも同じ理由で候補から外れた。

 だが“魔王”。彼だけは違う。

 おそらく一番居る確率が高いのは魔王城ではあるが、それは確認できていない今。考えられる限り魔王が一番あり得るのだ。

 

 もし仮に白虎の読み通り、魔王の脳内に蓄積された膨大な戦闘記憶をシゼル達が取込んだとしたら、報告に上がっていたシゼル達の戦闘能力が、今目の前に居るシゼル達とは比べ物にならないほどの乖離(かいり)がある事も頷けた。


 シゼル達が見て、戦って。以外で戦闘データを蓄積するなど聞いた事はないが、白虎ほどの手練れと拮抗できいる事が、何よりもの証拠であった。


「ワドワーズ……すまないが頼み事がある」

「何だ」


 二人は顔見知りなのか、白虎はワドワーズの名を呼び、声を掛けた。


「人族と魔族は即刻戦闘を中止しろ。魔族達が受け入れないというのであれば、一方的に降伏しろ。それほどまでに今の状況はピンチだ」

「何? そんな事できるはずはなかろう!」

「姫さんに伝えろ。『魔王がシゼルの手に落ちた』と、出来るなら魔王城の総大将にも伝えられるなら同じ事を言え」 

 

 白虎の言葉に、ワドワーズ含めた勇者部隊は困惑する。

 もはや人族と魔族で戦争をしている場合じゃないと白虎は言うが、彼らにとって今だそれは理解できなかった。

 敵はたったの十数人。

 確かに副隊長はやられたが、今は四神の一人がいるのだ。それに目的であった国王の離脱も終え。

 これで後ろを気にすることなく戦える上。国王が大部隊を引き連れこちらを援護してくれるだろう。

 それを行えるほどの余力がこちらには残っている。そう思っている彼らにとって“負け”など考えられるはずもない。

 現に白虎が五体の怪物を抑えている間に、こちらは他のシゼル達を倒しているではないか。

 それにここは仮設と言えども“本陣”。国王の知らせが無くとも時機に味方が――



「これだけ派手に暴れてまくっているのに、味方の一人も現れて無いのがおかしいと思わねえのか!!」

 白虎が叫ぶように言う。

 そうここは“本陣”なのだ。

 命令系の中枢にして、軍隊の心臓部。

 それに攻撃が加えられているにも関わらず、味方が駆けつけていない。

 それは他の部隊も“シゼル達の攻撃”を受けているからであった。



「理解したか! なら行け!」

 全てを理解した勇者部隊は白虎の指示通り、国王と姫に白虎からの言葉を伝えるべく動きだす。

 しかしシゼル達も馬鹿では無い。彼らを行かせる事が自分達の作戦の妨げになる事は理解していた。


「チッ!」

 舌打ちを討ちつつ、怪物五体と対峙する白虎。彼とてこれ以上優雅にお喋りを続けている余裕はないのだ。

 とてもでは無いが勇者部隊が突破するのを援護出来るほどの余力は無い。

 増援どころか、シゼルが増えるばかりで、既に勇者部隊を囲むように彼らの倍近いシゼル達が包囲していた。

 しかしそんな包囲網をいつの間にやら抜けていた人物が居た。


「伝令兵か!?」


 勇者部隊の者が一様に、白虎の言葉に疑問を抱き、行動に移さないでいた間。

 シゼル達の奇襲を伝えた若い一兵卒は、迷う事無くその足を進めていたのだ。

 それが彼の仕事であったが故に、この場所で誰よりも弱い彼がシゼル達の囲いを突破していた。


 任せた。そう呟くと白虎は怪物達の群れの中へと飛び込んでいった。

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