第五話『魔王様の給料は○○制!?』パート①
なんか気ままに書きこんでたらいつの間にやら、いつもの二倍ほどの量になっていたので都合により二つに分けました……ごめんなさい。
第五話『魔王様の給料は○○制!?』パート①
「我々は一人の英雄を失った。
しかし! これは敗北を意味するのか!?
否! 始まりなのだ!」
壇上に立つ魔王の前には、その数二千ほどの魔族が集結していた。
その雄々しく逞しい叫びは、魔王城を震わせた。
もちろん、この様な集会を開く事は、近隣の方々には了承済みである。
「私の親友! 諸君らが愛してくれた中ボスは死んだっ! 何故だっ!!」
「あの~死んでません……」
「しっ! 今良い所なの!」
魔王は脇に立っている中ボスを追い払うと、演説を続けた。
「この悲しみも怒りも忘れてはならない! それを中ボスは死をもって我らに示してくれたのだ!」
「我々は今この怒りを結集し、国王軍に叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る!」
「この勝利こそ戦死者全ての最大の慰めとなる!
国民よ! 立て! 悲しみを怒りに変えて! 立てよ国民!!」
「魔王は諸君等の力を欲しているのだ! ジィィィーーーク! マオウ!!」
(皆でジィーーークマオウッ! の連呼)
………。
「何してるの? あんた達は?」
横から姫が冷ややかな目線を送りつつ質問を投げかけて来た。
「今からコミケに突入するので、我が軍の兵士を鼓舞し―――」
「――黙りなさい、ブチ殺しますよ」
「ヒィ! すいませんでした……」
認めたくないものだな、若さ故の過ちというものを……
二千の魔族の前で人間の女性に土下座する現・魔王。
魔王自身の演説により上がった士気も、今や、先ほどの土下座でどん底状態である。
「騒がしいから来てみれば、何? 朝から演説? しかも目的は私利私欲の為ですって?」
「いや、コミケは大事な行事であり、これに赴く事は既に苦行。
各ブースを回る事は言わば行脚、重要な――」
「あんたがそんな事の為に徴集する魔族達にいくらの金が掛かると思っているのよ!」
「これはお金の問題では――」
「お金はね命より重いの!」
ざわ……ざわ……
「あの~、姫様。そのネタはそろそろ自重するべきかと」
「あら、そう」
中ボスの言葉に姫はつまらなそうに肩を竦めた。
「てな訳で、皆、このバカの為に態々来てもらったとこ悪いけど、解散してもらえる?」
《はーい》
姫の言葉に魔族達は各々帰って行った。
姫は一言「中ボス」と言い、中ボスは近くに呼んだ。
「今回の徴収に掛かった費用はどれくらい?」
中ボスは何処からか、電卓を取りだした。
計算は即座に終わり「およそ、これくらいかと」と言い、姫に電卓を渡した。
「ふん、魔王、あんたの給料はとりあえず、三十年ほど無しになったわ」
姫の言葉を聞き、驚いた魔王は即座に姫の持っていた電卓を奪った。
「三十年だとっ! 馬鹿な、俺の賃金がこんなに安いはずが……、」
姫から奪い取った電卓に映し出されている金額は……
「二万六千円?
えーっと俺が呼んだ魔族達が二千……必要経費はほとんどが電車か、一人百三十円?
……山○線の初乗り料金並みなのか、アイツら意外に近いな……じゃなくて!
俺の賃金安ッ! 年収八五〇円ほど!!」
うわっ…私の年収、低すぎ…?
魔王の言葉に姫含め中ボスすら、顔を赤くして笑いをこらえていた。
「ねえねえ、これなんかの間違いだよね? せめて時給だよね?
もうこの際多くは求めないから、後生だから時給と言って……」
姫は顔を下に向けて、必死に笑いをこらえていたが。
魔王が回り込み、顔を覗き込むと、笑いをこらい切れなくなったのか。遂に大声を上げて笑いはじめた。
「あははは、あんたホントに馬鹿ね、仮にも魔王よ?
そんなに安いはずがないじゃない、時給九百円くらい貰ってるはずよ」
「姫様、そんなに笑っては魔王様が傷ついてしまいますよ」
「中ボス、あんただって、顔、ニヤけてるわよ」
「おっと、これは失敬。魔王様、安心してください、二十時以降からは時給九五〇円になってますよ」
「いや、もうこの際、時給何てどうでもよくなって来たわ……」
魔王はその後、姫と中ボスに散々笑い物にされたあげく、実は給料は歩合制だと聞いた……
…………酷い。
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その後魔王は、悲しみを癒すべく、自室に入ったが。
そこには楽しそうにゲームをプレイしている小ボスの姿があった。
魔王は何も言う事無く、小ボスと共にテレビの前に鎮座した。
「あれれ? 魔王様、集会は終わったんですか?」
小ボスは、画面から一時も目線を話さずに、ポテトチップスを食べていた。
その手は油でギトギトに汚れ、無邪気にもその手で俺のコントローラーを握っていた。
昔から小ボスはお菓子を食べた手で、平気で人のコントローラー握るんだよな……
「あの、小ボスさん」
「なあに魔王様」
「お菓子食べながら、コントローラー握るのはどうかと思いますよ」
やんわりと注意を諭す魔王だったが、その言葉を小ボスは笑いながら一蹴し
「あはは、何言ってるの??
これ僕のコントローラーじゃないから気にして無いだけであって、自分のだったらやらないよ。
魔王様は本当に、馬鹿だな~」
何これ!? 確信犯!? 姫に負けて以来、俺は魔王として扱われて無い気がする!?
それどころかミジンコ程度にしか……。
どうせ古いコントローラーだから、買い直す予定だから良いか……。
そんな事を考えていると、ふと先ほどの事を思い出したので、その事について聞いてみる事にした。
「そういえば小ボスは、いくら給料貰っている?」
「うーとね~」
小ボスは真面目に考えているのか、左手をあごの辺りに当て、うーと、と唸りながら長考していた。
「魔王様ほどじゃないけど、夜間手当込みで月二十万くらいだよ」
JR東○本の初任給並み!? 俺がバイトどころか歩合制で働いてるにも関わらず!
悲しさのあまり、世界を征服する気が満々になったよ……
「ん? どうして凹んでるんですか魔王様? 魔王様はかなり貰っているって中ボスから聞きましたよ」
えっ? どういう事だ、先ほど口座を確認した時は、毎月三万程度しか入金されてなかったぞ?
「あれ、魔王様どこへ行くんですか?
一緒にアー○ード○アやりましょうよ、ナインボールが強いんですよ」
魔王は中ボスに事の詳細を聞く為に立ちあがり、ドアの方に歩いた、ドアを開け、去り際に小ボスに一言「指マシンガン持っていけ」それだけ伝え、部屋を後にした。
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「たのもー」
魔王は勢い良く、中ボスの部屋のドアを開けると、そこには必死に会計の仕事を行なっている中ボスが居たが、その目は、魔王の方を一瞥もする事無く、書類を食い入るように見詰めていた。
「道場破りですか? 看板はありませんが、代りにそこにある書類を三部、コピーしておいてください」
「分かりました」
魔王は書類に目を通し、適切な順番に並べると、それをコピー機へ……
「こんな事をする為に来たのではない!」
「魔王様、遂にノリツッコミも得とくされましたか」
「そうそう、そうなんだよ……じゃない、なんだこの三文芝居は! 俺がここに来た理由はだな――」
かくかくじかじか。
「ああ、その件ですか。
魔王様の現在の給料は、必要最低限を除き、その全てを先の戦いで壊れた城の修繕に回しています」
なーんだ、そんな事か……って納得いくか!!
「あのですね中ボスさん、私は魔王ですよ?」
「そうですね」 昼にサングラス掛けた司会者の問いに応える観客のような簡素な返事だな。
「魔界から支援金でなんとかならないの?」
「何を御冗談を、現在魔王城の最高権威者は姫様ですよ?
過日、その最高権威者である姫様の指示で、城の改装を行なったじゃないですか。
その費用で今年の分の予算は全て使い果しました」
「その改装で、他の所も治ったのでは?」
「はあ? あれくらいの費用で、姫様が破壊した門が治ると本気で思っているのですか?
そう思っているのであれば、まず、そのふざけた幻想をぶち殺します」
うわっ怖ッ! 今、自分の部下に『殺す』って言われたよ!
妹から貰った眼鏡の所為で余計に怖ッ! なんで下から覗き込むようにして、睨むの!?
「…………ぐすん……ずみ゛ま゛ぜんでじた゛」
魔王、半泣きを超えて、本気泣きである。
「では、魔王様。ご自分のお給料と、お命。どっちが大切ですか?」
今度はまるで子供をあやすようにして、声音を変え、優しく肩を叩き。中ボスは魔王をドアの方へ歩かせた。
「………自分の……命です…ぐすん、ごめんなさい」
「はい、分かって戴ければいいんですよ、では私は政務に戻りますので、王室や自分の部屋で良い子にしていてください」
「……うん」
「あっそういえば魔王様」
「…………、まだ何かあるの?」
部屋から出ようとした時、中ボスに呼び止められ、後ろを向く。
「魔王様って切手集めも趣味の一つでしたよね?」
「――? まあそうだけど」
訳が分からないと言った具合に、顔を顰める魔王。
そんな魔王の顔を見て、中ボスは突如、嬉しそうに微笑み言った。
「私、切手の事、馬鹿にしてましたよ。あれって意外に高く『売れる』のですね」
……えっ? 売った? 売ったって言いましたこの鬼畜眼鏡は?
「あっ……あの。
それは『自分の切手を売った』のか、それとも『魔王の切手を売った』のかどちらでしょうか?」
「あはは、もちろん後者ですよ」
ガダッ
「どうしたんですか魔王様? また土下座とは、本日は『土下座日和』ですか?」
「……うん。もういいんだ……俺の切手が皆の役に立つのであれば」
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「へ~それは悪い事したわね。
でもねあんなメルヘンの世界の中でしか見た事のないようなお城なんて、魔王に相応しくないと考えたのよ」
中ボスに追い出され。王室に入ると、姫と小ボスが居たので、先ほどのやり取りを説明した。
「だって。『まさにココが魔王城!』みたいな見た目にしたらさ。
『おっここ、魔王城じゃねえ? ちょっと殺って来るか』って感じで勇者が来るかもしれないし……」
「心配症ですね魔王様~。そんな居酒屋に入るサラリーマンみたいな感じでは入って来ませんよ。
入ってくるとすれば元より殺る気満々ですよ」
「それにね、一番気に食わないのは、何で深夜にライトアップしてるのよ? パレードでもやるの?」
「それなら昔やってましたよね」
「やってたの!?」
「その事か、確かにパレードではないが、連日のように花火を打ち上げていたら近所に怒られた」
「……正直、あんたは既に王国軍じゃなくて、近所の主婦に統治されてない?」
「そんな事ないぞ。その花火云々言った主婦の方が、昨日のカレーを作ったんだぞ」
「えっ!? おすそ分けなのあれ? 九人分ってあまり過ぎよ!!」
「うちのシェフだ」
「…………」
「パートか何かなの……?」
「専属シェフだ」
驚きを隠せない姫とは違い小ボスは「おいしいよね~」とニコニコしながら言ってと。
姫は席から立ち上がり魔王に怒声を飛ばした。
「あんたね、その人間であるシェフが国王軍の命令で毒を盛るように言ったら、一発で死ぬわよ!!」
「佐藤さんはそんな人じゃないッ!」
「魔王様、庭師の方も佐藤って苗字ですよ」
「確かに苗字は同じだが、皆、庭師の方は『シザーマン』と呼んでるからいいだろう?」
「――その庭師が不憫でならないわ」
シャキン、シャキン
「えっ!? なにこの音!? ハサミ!?」
「ん? シザーマンだな。丁度いい、そっちの窓から覗いて見ろ」
馬鹿馬鹿しいと言いたげな顔を魔王に向けた後、渋々窓際に向かう姫。
だが、その余裕綽々だった笑みも、窓から庭に視線を向けると、瞬く間に消えた。
「…………、シザーマンでいいわ」
そう言い、姫は疲れた顔をしながら、力なく元いた席に付いた。
直後、小ボスが思いだしたように口を開いた。
「それよりも魔王様、城の方の修繕ってやっぱりもう終わってると思いますよ」
えっ? それはどういう事だ!?
疑問に思う魔王は小ボスに対し、続きを促す。
「あのですね、魔王城改装の時に門などの施設設備はすべて直したと中ボスに聞いたよ」
「では、俺の切手を売って得た金はどこへ消えた?」
《…………》
《横領か!?》
魔王含め、どうやら皆同じ結論にたどり着いたようだ。
「では、私の切手代は無駄だったのか!?」
「今の話を何の疑いもせず、鵜呑みにしたらそうね」
「とりあえず中ボスに聞いてみましょ」
姫の提案に乗り、再び中ボスの部屋を目指した。
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