第八話『合流』前半(ストーリーパート)
第八話『合流』前半
小ボスが向かったはずの村へと到着した魔王とリーリ。
魔王城が派遣している村々の中で、一番遠いこの百人ばかりの村では、至る所から火や煙、悲鳴が上がり、とてもではないが“平和”なんて印象は受けない。
火の手が上がる家屋から逃げ出す村人に、剣や槍を突き立てる兵士達。
どうやら相手の部隊は、あまり紳士では無いらしく、同じ人族である者達を嬲り、犯し、殺していた。
それを止めるような形で、魔族の部隊は戦っていたが、小さな村でも五十名単位での、派遣人数は送っているが、自分達の倍以上の敵から村全体を守るとなると、まったく手が足りていなかった。
撤退指示も届いているはずにも関わらず、辺りには魔王の私兵の躯が多く散らばっている。
この惨劇を予見していたのか、魔族の兵達はこの村に止まり、一人でも多くの村人を救おうと戦っているのだ。
一際大きな建物、この村の教会か何かだろうか、石造りで他の建物より圧倒的に丈夫な場所を、守るような形で魔族達が、必死に村人をその背後へ避難させている。
しかし、一人、また一人と。魔王の為に集まった兵が、友が死んでいく。
既に抵抗できる男も魔族も足りず、二百人以上が敵兵が教会を包囲し始めていた。
追い込み漁のように、徐々に囲みを狭くしていく敵兵たち。
それらの外側にいる魔王とリーリ。
敵が気がつくより先にまず先手を決める為に、魔王はリーリに命令する。
「……外道が。止む終えん、リーリ。抵抗する敵兵は全て殺せ。一人でも多くの村人と我が友を救え」
魔王の指示で、リーリが外道に落ちた兵士の一角に、攻撃を加える。
天から降り注ぐ無数の雷光。それはまるで神罰のように一撃で数十名の敵を炭化させた。
敵も味方も、村人も、その光景に一瞬目を奪われる。
続けざまに同種の攻撃。三撃と続いたところで、教会への道が開く。
そして初めて魔族達は、魔王とその傍らに居る少女の姿を確認する。
一人の魔族兵が「魔王様……」と口にする頃には、人族の兵も我に返り、敵を視界に捉える。
リーリは主の邪魔はしないとばかりに、魔王に対してぺこりと小さく頭を下げ、後ろへと下がる。
未だ、相手が誰だが知らないのか、無謀にも魔王に切り掛かった数名の兵士。
魔王は静かに右手を天に掲げる。
「我は魔王。魔族の王にして! 神に代わり世界を断罪する者。我が巨碗の一撃。神罰と心得よ!」
高らかな宣言から一転、小声で何かを呟いた。それは隣にいるリーリですら聞きとる事が困難なほどの小さな音でしかなかった。
「道化よ踊れ――泡沫の夢を永遠に――命よ廻れ。カテゴリー1。レベル4。≪愚者迷宮≫」
先ほどのリーリの視覚効果の激しい、派手な攻撃とは違い。
魔王が行った攻撃は、見た目には派手さが無かったが、受ける者には異様なまでの恐怖を与えた。
「なっ、なんだ!!? どうなってるんだ!」
突如、真っ黒な底なし沼が地面に現れ。ゆっくりではあるが敵兵は引きずられるように、沈んでいく。
もがけばもがくほど、早く沈み。数十秒で八名の兵士が消えた。
その様子を見ていた他の兵士達。
既にリーリの攻撃が外堀から、埋めるように開始されてはいるが、内部の兵が一気に逃走に転じれば、その逃避は一気に全体に伝わるだろう。
「ま、魔王とか言ったか…アイツ?」
「ちくしょう、逃げるぞ!」
蜘蛛の子を散らすように、逃げ惑う敵兵。
だが、冷酷無慈悲な狩人と化したリーリと魔王の手から、逃れる事は出来ず。
一方的な殲滅戦は、一分と掛からずに終わりを迎えた。
歓喜。突如として現れた増援。それは自分達が忠誠を誓い。どんな神よりも信仰している魔王その人。
剣や杖などの武器を高らかに天に掲げ、魔王とその勝利を称える。
村の各地に居る残党兵の討伐は、リーリに任せ。魔王は数名の十人隊長と、それを統括している中隊長に話し掛けた。
「中隊長。まずは撤退命令に背いたことに対して、理由を。何か弁解があるならそれも聞く」
他の魔族兵は、村を守った功績を褒めてもらえると思っていたのか、ドキっしたような顔で、会話を見守る。
「我々第十二防衛中隊は、撤退命令を受けた後、即時命令に従いました。村を後にした我々でしたが、人族の兵は次々と村人達を襲い始め。その事を村の青年が伝えに来ると同時に、我々に助けを求めてきました。独断で人族の軍隊と交戦するのは問題があるは考えましたが……」
次の言葉を待つ魔王。そして中隊長は、決死の覚悟で顔を上げると、笑顔で「ですが、助ける事にしました!」と口にする。
首をはねられる覚悟で、発したその言葉。目を瞑り、自分の行いに後悔が無いのか、穏やかな顔で、次の魔王の言葉、行動を待った。
「中隊長が命令に背き、その結果。私の、俺様の兵が無用に死んだ。軍人としては失格だな。今この時、貴様の中隊長としての終わった――次は百人隊長として頑張るがよい」
魔王はそう言うと、敵掃討を終えたばかりのリーリに視線を投げかけ、教会から背を向けた。
呆気に取られる中隊長。そして繋がっている自分の首を、撫で。やはり意味が分からないと、魔王の背後に向かって声を掛けた。
「ひゃ、百人隊長ですか……?」
「そうだ、この村に増援の兵を回す、お前がその指揮を取れ」
「!?」
「それと村人を魔王城の下にある街に避難させろ。どうやら俺様達が、防衛部隊を回した村を全て焼き払うつもりらしい。伝令兵に中ボスにその事を伝えろと言え。もはや村人を救えるのは我々しか居ないということだ……」
嵐のように来て、嵐のように魔王達は村を後にした。
背後から聞こえてくる魔王コールを受けながら。