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第二話『姿の見えぬ敵』(ストーリーパート)

第二話『姿の見えぬ敵』





「なあ小ボス、よかったのか主と中ボスに何も知らせずに出てきちゃって」


 ネコと小ボスは目撃証言のあった町へと来ていた。

 既に大量に人死にを出しているせいか、元より数百人程度しか住んでいない町は非難勧告が出されると、数十名の兵士が警戒の為に辺りをうろついているだけで、一般人の姿は無かった。


 人が居なくなり、数日しかまだ経っていない生活の匂いがまだ感じられる木造一階建ての家で小ボスとネコは“何か”が起きるのをじっと待っていた。


「うーん。よくは無いだろうけど、どうしても犯人をこの目で見たいんだ。魔王様と中ボスは僕を加えずに事件を解決しようとしているみたいだけど、それが嫌なんだ」

「嫌って……」


 子供じゃあるまいしとネコは思ったが、見た目は子供なだけに言葉を飲み込み、仕方ないと言わんばかりにテーブルの上に座った。

 小ボスもそれに合わせるように椅子を引き、座る。


「人族の兵士に見つかったら揉め事になるのは間違いないぞ」

「いいよ、その時は殺せばいいさ」


 魔王は、小ボスは身内以外には敵愾心がとても強く、全くもって懐かないぞと聞いていたが、どうやら小ボスにとって魔王の知り合い以外は全て死のうが殺されようがどうでもいいのだろう。


「殺せばいいって……そんな事したら自分の立場を悪くするだけだぞ」

「これ以上どう悪くなるって――」


 突如、外が騒がしくなる。数名の兵士が何か話し、すぐさま違う場所へと移動を開始した。

「来た」と言い、小ボスは勢いよく席を立ち、兵士を追いかけるべく家から飛び出す、慌ててネコは小ボスの肩に飛び乗ると、振り落とされるようにとしがみ付く。



「待って小ボス――うわッ早!!」

「待ってても良いんだよ?」

「もう降りるのもこええよ!」


 屋根に飛び乗り、家から家へと移動していく小ボス、高さ、速度共に人間離れしていた。

 眼下には多くの兵士達がどこへ向かって走っており、その迷いのない動きから、小ボスは予定されている場所にへと、兵士達は移動しているのだと予想した。


「目的地は?」とネコが聞くが、小ボスは「分からない」と返す。


 そしてしばらくすると、中央広場へと兵士が集まり、その数は予想していたよりも多く、ざっと百名は居る事が分かった。

 指揮官らしき派手な甲冑を着た男が、陣形を指示、円形に広がった兵士達。

 全方位を警戒し、敵の奇襲に対処すべく動いていた。

 小ボス達も見つからぬようにと、狭あいな路地へと身を隠す。


「おいおい、百人は居るぞありゃ」

「静かに」


 小ボスは耳に全神経を集中させる為か、目を閉じ、ネコも真似をするように耳を澄ませる。

 数十メートル先から、何やら叫び声が微かに聞こえたネコは小ボスに報告しようとしたが、小ボスも気がついているのか、その方角へと視線を向けていた。


 数分、いや数十秒程度の時間が過ぎ、その声が大きくなってきた。

 視界には血だらけの兵士が必死に仲間の元へと走る姿が見える。

 密集していた兵士も、走ってきたのが味方である事に少しだけ安心を覚えるが、当然味方が血だらけになっているという事は、敵が居る事を表しているので、すぐに空気が引き締まった。


「た、助けてくれ! ヤツが出た!」


 その言葉を聞き、指揮官はすぐに馬に乗っている兵士に命令し、兵士は城がある方へと駆けだした。

 それが増援を願う物なのか、それとも半信半疑であったのが、確証に変わった事を報告する為なのかは定かではないが、それでも必死な形相で馬を走らせた兵士の顔を見れば、愉快な命令では無い事は窺えた。


 傷だらけの兵士が仲間の元へ辿り着くのに、残り十メートルのところで、事態は一転する。


「ぐはっ」


 必死に助けを求める兵士だったが、後ろから手刀で腹を抉られ、血を吐く。

 その様子を見ていた兵士達は、目を剥いた。

 どこからそいつが現れたのか全く見えず、当然、その攻撃も認知する事すらできなかったのだから。


「小ボスが二人?」とネコが口にする。


「撃て!!」


 指揮官が命令し、矢がそいつに向かって放たれ、凄まじい速度で数本の矢は回避したものの、三十本近い弓矢は、十発ほどそいつに命中し、あっけも無く倒れた。


 指揮官の指示で、数名の兵士が動かなくなった敵へと向かって行く。

 そして、完全に死んでいる事を確認したのか、兵士は後ろにいた味方に向かって手を振る。

 しかし、その手は、すぐに止まり、脅えたように味方の方に指を指し、小ボスもネコも。そして兵士達もその指先を追った。


「……嘘だろオイ」

「僕が、いっぱい……」


 気がついた時には、中央広場を囲むように十数名の小ボスに似た者の姿。

 そのどれもが浴びるように死に染まり、違いと言えば、その血が渇いて黒くなったものか、新鮮な赤色をしているかの違いだけであった。


「撃て!」

 指揮官が指示を飛ばすが、どれを良いかは分からないので、兵士たちは思い思いに矢を番え、放つ。

 しかし先の敵も数発は避け切れていたのだ、同じように数発程度であれば簡単に避け切ってみせ、一斉に兵士達へと襲いかかった。


 そこからはまさに地獄の一言。

 子供が虫で遊んでいるかのように、無邪気に兵士達の手足を引きちぎる者。

 殴るたびに声音が変わるのが楽しいのか、反応がなくなるまで執拗に殴り続ける者。

 どうすれば効率よく絶命させられるのか、急所と思われる場所のみを貫く者。

 何が目的なのか想像したくは無いが、生きたまま兵士を縄で捕縛する者。

 そんなにも剣や弓矢が珍しいのが、それらで思い思いに兵士を殺す者。

 様々な殺され方が行われている。

 悪魔が生贄片手に、宴を行えばこんな感じなのだろうとネコは思った。


 目を逸らしたくなるような光景にも関わらず、小ボスはその地獄絵図へと入って行く。


「まてどうするつもりだ! あんな奴と関わったら命がいくつあっても足りないぞ。今は主にこの事を報告する事が先決だ」とネコは説得するが、小ボスは乱暴にネコを路地の奥へと放り「助ける」と一言。


 そして、それらに飛び込んだ小ボス。

 その戦闘力はまさに圧倒的だった。

 殆どの者が一撃で消し飛ぶように殺され、今だかつてない事態に、敵は反応できないのか、無抵抗に近かった。

 いや、小ボスはその偽物とは、速度もパワーも技も経験もすべてが段違いなまでに優れていた。


「……大丈夫?」

 数少ない生き残りの捕縛された三名の兵士に向かって、小ボスは言葉を投げかけるが、放心状態でまともに口が利けない兵士達は、ただ頷くだけだった。


 小ボスは兵士に近づくと、兵士達は殺されると思ったのか、大声で喚く。

 しかし、小ボスは無言で兵士達を縛っていた縄を引きちぎると、どうやら敵で無い事が分かったのか兵士達は困惑したような、それでいて安堵したような表情を浮かべた。


「アンタ、コイツらの仲間じゃないのか」

「違うよ、たぶんこの子達は僕の模造品(コピー)。訳が分からないだろうけど、僕にも上手く説明できない」

 それだけ言うと小ボス、コピー品へと近寄り、それらを観察する。

 そこへネコも合流し、兵士達は小ボス達に何か言いたげな表情であったが、近づくのがよほど恐ろしいのか、小ボス達を警戒しつつ、今は生きている兵士が居ないか探す。


「小ボスに瓜二つだな。服装はボロッちいマントとかだが、それ以外は一緒だな」

「目の色が違う」と小ボスがいい、ネコもコピーが緑色。小ボスの目は薄い青色である事に気がついた。

「ホントだ、まあこの程度では判断材料としては難しい所だな。ん?」


 ネコは見間違いかと思い、器用にその手で目を擦る。

 だが、やはり見間違いでは無い。


「おい、こいつ、なんか溶けていってないか」

 スライムのように突如溶けだし、周りを見ると他のも同じように溶けだしていた。

 一番最初に殺されたのは既に姿がない事から、どうやら死ぬと消える性質があるらしい。


「うわっグロいな~」

「そう?」

「俺はお前さんみたいにこういうのには慣れて無いの!」


 怒るようにネコはそう告げ、その様子を見ていた兵士達も、やはりこの者は敵では無いと思い、意を決して三人は小ボス達へと近寄った。


「あの、助けてもらってありがとう御座います。その僕らでは力不足でしょうけど、私達も同行しますので、是非王都にいらして、共に身の潔白を証明してはどうですか?」

「そうです、このままでは貴方はいずれ大規模な討伐隊に殺されてしまいます」

「その前に一刻も早く誤解を――」


「多分無理だよ、君たちはともかく、他の人たちは信じない。君たちも見たでしょ、あれだけ見た目がそっくりだったら目撃者には『アイツに違いない』って必ず思われる。そうしたら結局僕は殺される」

「ですがこのままでは……」

「うんそうだね。僕は馬鹿だけど分かってるつもり、だから僕は今はこの子達を一体でも多く倒して時間を稼ぐ、あとは魔王様達が何か策を見つけてくれるはず」


「“魔王”……」

 兵士はその言葉を噛みしめるかのように口にした。

 彼ら人族にとって魔王とは干ばつや洪水。台風に雷。決して抗えないと言う意味ではそれら自然がもたらす天災と何らの違いが無いほど、恐怖の対象であり、人の形をした厄災なのだ。

 今の魔王が友好的なんてどうでもいい。それは魔王に恐怖する者にとって「今年は自然災害があまりなかったな」程度の気まぐれとしか受け入れていない。


 だがら彼らにとって、この危機的状況を何とかできるのが、魔王であると言われるのは、些か首を傾げたくなるのだ。

 

「貴方には助けと貰った恩がありますから言います。即刻人間界にある魔王城を捨て、魔界へ帰って下さい。そうすれば人族も無暗にそちらに攻撃するような事も無いでしょう」

「ううん。それは駄目。魔王様が言ってた。『昔は人間界にある魔王城は、侵略の象徴だった、だが今の魔王城は人族と魔族の架け橋になる為にある』って」

「ですが、多くの人がもうそのような目で魔王城を見ていません。いずれ恐怖は国中を包み、国民の恐れや不満は魔王城へと向くでしょう。そうなれば人族は魔王城に攻め込むでしょう」


「そうはならない」と力強く小ボスが言う。


 そして「魔王様なら何とかしてくれる」そう笑いながら、彼らは去って行った。



 そんな背中を兵士達は無言で見送り、姿が見えなくなり、後方からは多くの騎馬隊が、土煙を巻き上げながらこちらに向かってくる姿が見えた。


「……どう説明したものか」

「ありのまま話すしか無かろう」

「信じて貰えるといいが」

「助けてもらったんだ。信じて貰えるまで俺は言い続けるぜぇ」

「俺もだ」

「……長い日になりそうだ」


 こうして、三名の兵士達は無事救出され、別々に調書をとっても内容の不一致がない事から、その報告は信憑性が高いと思われ、報告書は国王の手元にも届いた。


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