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第一話『敵愾心』(ストーリーパート)

第一話『敵愾心』









 以前と違って肩より長い蒼い髪。男物の白い着物を着た若い男という点は一致。

 整った顔立ち、開いているのか分からないほどの糸目。

 しかし今はその双眸はしっかりと見開かれており、蒼の右目。そして左目は金色に輝いていた。

 そして男の得物である宝剣≪(ペーパー)(ナイフ)

 別名を朧紙(おぼろがみ)・朧神は血に塗れていた。

 誰がどう見ては犯人は分かる。


 糸目の勇者の声に、姫は顔を上げた。

 何度も聞いているはずの声が頭上から響くが、今しがたの出来事に加え、このタイミングで彼が居る事に理解が及ばない姫は、一瞬反応が遅れた、自身の名前を呼ばれた事に反射的に反応したのだ。


「アンタは……」

「はい、あの時は“勇者”という一言で名乗りを終わらせて頂きましたが、今回は魔王を打倒する勇者代表としてではなく、犯罪者討伐と姫様救出部隊として派遣されておりますので、しっかりと名乗りを上げさせて頂きます。我が名は古くから王の側近してあるガルシア侯爵家の長兄≪ワドワーズ・ガルシア≫――」


「黙れ下郎。今からぶっ殺される奴は断末魔さえしっかり上げてくれればいいんだよ……」と元祖・魔王は心底冷えたような声で呟いた。


 地獄から聞こえてきたような、底冷えする声にワドワーズも一歩後ずさる。

 耳には届いていないばずの周りも兵士も、その異様なまでに膨れ上がる、邪悪な魔力に脅え始めていた。


「どうしよう、全然傷が塞がらない!」


 細かな調整が全くできないくせに治癒魔法だけはそれなりにできるはずの妹が「傷が塞がらない」という叫びに、中ボスが反応し、魔王に近寄る。


「不味い……本物の宝刀、神剣の類いによる傷です。塞がるどころか広がる一方ですよ!!」


 あれを壊せばいいの? と小ボスはワドワーズが持つ紙刀を見て言った。

 しかし中ボスは「無駄です、この傷は刀を壊そうとも、魔法で治癒しようとも塞がりません」とだけいい、それでも中ボスは治癒魔法を掛け続けていた。


「妹君は医務室にある手術キットを。無理やりにでも傷口を縫合します!」

「私は何を」と姫は口にし、中ボスは的確に傷口を押えるように言った。


 だが、そんな様子を見つめながらワドワーズは「姫様、この男には討伐命令が下っております、助ける必要は御座いません」といい、あふれ出る血を必死に抑えようとしている姫の手を無理やり掴み、立ち上がらせた。


「ふざけないでよ人殺し! アンタを今すぐぶっ殺してあげたいけど、しないわ! どうしたか分かる?! 魔王はアンタを殺したら後ろの控えている兵士と争う事になる。だから手を出すなって言ったのよ。自分を殺そうとした相手に“殺すな”って命令したのよ!!」 


 血の涙でも流していた方が逆に正しく思えるほど、殺意と憎しみが込められた目。

 唇は血が出るほどにきつく噛みしめられており、その憎悪を全身で体現していた。


 それは目の前で臨戦態勢の元祖・魔王、小ボスやネコも同じ。

 何か変な動きを見せて見ろ。事と次第によっては人族と全面戦争をしてやると言わんばかりの態度であった。

 しかし、それすら念頭に入れているワドワーズにとって、別段それは問題にならなかった。

 既に魔王達とワドワーズ……人族との関係は最悪になりつつあった。

 いや、それどころか既に王都では魔王達魔族に憎しみを抱いていたのだから、互いに恨み恨まれの関係になっていたのだ。


「まず聞こう、“何故”このような事をした」


 元祖・魔王の言葉にワドワーズはおかしな質問をするものだと思った。

 なぜならば本来、魔王は人族にとって憎まれるべき対象。生きているよりは死んでいた方が都合のいい生き物なのだ。


 だがら魔王が居れば勇者が現れ、魔王は討伐された。

 今迄そうならなかったのが、現・魔王が人族との友好関係を結んでいたからに過ぎない。

 相手が危害を加えないなら、こちらも無暗に危害を加えない。

 そうしなければいくら馬鹿な民衆と言えども王都に、元老院達や王族たちに疑問の芽を与える。

 故に、今までは人族達も魔王達に対して大きく出なかった。


 王の娘である“姫”は攫われたニュースですら、国民は『あの破天荒な姫様の事だ、大方、親に反抗する為に人の良い魔王を利用したのだろう』と笑いながら受け入れたほどなのだ。


 それほどにまで民衆は、今の魔王に対して好感を抱いていた。その証拠に魔王城の近くには多くの人族が住み、住民から行商人まで人族ばかりで占められ、肝心の魔王城内部にすら人族が働きに来ている始末だ。


 その事からも魔王がいかに人族から愛されているかは窺えた。


 だが、それにも関わらずこれほどまでに多くの兵士を連れて、何の勧告も無しに魔王を討伐しようとした理由は。


「魔王の従者である、小ボス。貴方が我々人族を惨殺した事によって、国が貴方とその仲間。そしてその主である魔王の討伐がなされるに至ったのです」


「へ?」意味が分からないと呆けたように声を漏らす小ボス。


 それを聞いていた姫にも元祖・魔王。ネコにも意味が理解できず困惑。

 信じられない、だってそうだろう。毎日同じ家で過ごしていた家族がある日他人から“貴方の友人は人殺しです”と言われ理解できるはずもない。


 一緒に暮らしているだけに、その時間がどこにあったかも分からない。

 同じ城で寝起きし、同じ飯を食べ。同じ時を過ごしているのだから当然だ。

 彼が殺人を犯せる時間があるのなら、自分もできるばす。しかしその余裕がどこにあろうか?

 誰もが同じ結論に至り、反論するが。


「既に百名以上の犠牲者が出ている。今集まっている兵士の家族や子供もその中に含まれている」


 そう口にしワドワーズは後ろの兵士達に視線を流し、元祖・魔王達も同じように視線を流し、その中に明らかに殺意が込められた視線がある事に気がつき、家族や子供を殺された事は事実である事が分かる。


「犯人を捕まえようと兵士や勇者志望の者達が集まりましたが、既に三十名ばかりの人死にを出しており、犯人の毒牙に掛けられたものの、その中に生き残りが居ました。その誰もが貴方とまったく同じ特徴を上げ、中には貴方の名前を上げる者すらいました。これにより貴方が犯人である事を王も認めました。そして上告により我々は貴方とここに居る姫様を除く者達の首を貰い受けます」


「待て……アリバイも調べず、弁護士も立てず、裁判すら開く事すらできないと言うのか……」


 コポッと口から血を吐きながらも、魔王はワドワーズを睨めつけ言った。


「必要ありません。あれは人族同士でのもので。貴方達魔族を擁護する為のシステムでは御座いません。誰が熊が人を襲った時に、熊相手にアリバイを聞いたり、弁護士を用意する者がいますが? 即刻猟友会が出てきて殺すでしょ? 今の貴方達は“喋る熊”です」


 そこまで言ったところで姫がキレた。

 叫び、渾身の力でその拳をワドワーズに振うが、それをヒラりと軽くよけ、がら空きの鳩尾にお返しとばかりにパンチを放ち。姫は静かに気絶した。


「王からは多少の怪我は構わないと言われていますが、これなら許容範囲ですよね」

 静かに姫を担ぎ上げ、近くにいた兵士に「丁寧に扱え」と言い、姫を渡した。


「本当に貴方達がここから生きて出られるとお思いですか?」と中ボス。

「貴方の主はそれを認めてくれると思いますが?」と余裕な笑みを浮かべ、足元で焦点の定まらない目でワドワーズを見上げる魔王。


「どうしたのですか? それともここで一戦始めますか? いいですよ、それを戦端に国境線に配置した兵が一斉に魔界へと攻め込みますよ。ここであなた方が勝利を収めたとしても、それはこれから始まる数多の戦場の一勝でしかない」


「行け……」

 魔王はそう口にした所で力尽きたのか、目を閉じた。


 勝ち誇ったような笑みを漏らし、ワドワーズは目の前に居る兵士たちに撤退を命じた。

 その様子を黙って見送るしかない魔王達。


 そして何を考えているのか中ボスにも変わらない虚ろな目で小ボスは魔王の顔を見つめているだけだった。

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 魔王城から連れ去られ……いや、本来魔王城に囚われていたのだから、救い出されたと言う方が正解なのだが、それを認めたくないので、ここはあくまで、連れ去られたで話しを進めたい。

 そうして連れ出され、馬車に揺られる事五日。姫は自分の父である国王の住まう城へと辿り着いた。



 煌びやかな装飾に国一番の建築士が設計した調和取れた設計は、お城と言う巨大なキャンバスによって作られた建築物の単位での芸術品。贅の限りを尽くした調度品などは友好国から送られた物から、王自ら探し出した一品もあり、ある意味ではこれで一番場違いではあったが、それら含めてどこか懐かしい雰囲気であった。

 それもそのはず、ここは姫が一番長きにわたって過した場所なのだから。


 王室へと通された姫は、今自分の父である国王に謁見していた。

 親子が会うのに誰かの許可が居るなんておかしいとは今では思うが、昔は疑問にすら思わなかったが、今は一秒でも早く父に会いたかった。

 

「久方振りだな、姫よ」

「父上、此度の事件。一体どういう事ですか」


 姫は話しを急ぎ過ぎてか、言葉が全くもって足りていないが、訊かれる内容を予想していただけに、相手の質問がそれに沿っているのだから、自分も用意していた回答の述べるだけであった。



「魔族の王である、現・魔王の従者である小ボス殿が人族を百十名殺めた。そしてその証拠は最早言い逃れできる物では無い。既に国民の間で反魔族の旗が掲げられ、魔王に対しても不満、疑念は日に日に増しておる。それはお前がここに来るまでに見ただろう?」


 国王の言う通り、姫はここに付くまで、馬車に揺られている間、町中の様子が嫌でも目に入った。

 声高らかに魔王を批判し、魔族の存在すら否定する者。そして多くの者がその与太話に耳を傾け、そうだそうだと同調していた。

 ある者は、家族を失った事を叫び、訴え。魔族が殺したと言い、周りの者にその特徴を伝えていた。

 彼らが配っているビラにも目を通した。

 服装から顔つき体つき。すべてが全て小ボスに酷似していた。否定的な意見でそれに目を通す姫ですら小ボス以外を想像できないほどに。


 武器がない事も更に魔族の仕業である事を決定付けた。

 人族が人族を殴り殺すなんて非効率過ぎるし、それを百人何て馬鹿らしい数をやれるはずはない。

 女子供、老人ならいざ知らず、武装した男共を素手で皆殺しにできる者なんて魔族以外に居るはずがない、と言うのが皆の意見であった。


 姫はそんな意見を馬鹿らしい、と笑ってはねのけられたらどれだけ楽か。

 

 城に付いてから、王室に入るまでも色々な者から話しを聞いた。

 だが、それは更に姫の中で小ボスが犯人であると思わせる判断材料を増やすだけだった。


 もう聞きたくない。そう思いベットに入り、頭から布団を被りたくなるような衝動を抑え、王の前に立ったのだ。


「ええ、人間には到底出来ぬ此度の犯行の数々。そして何よりも私ですら小ボス以外に思いつかないほどの類似点や共通点数々。それらを客観的に判断すれば、犯人は小ボス以外には無いでしょうね。だけどそれでも小ボスが犯人であるって決めつけるのは些か早計では?」


「確かにそうだ、魔王城がいくら犯行現場に近いと言えども、最も近かった現場でも馬で往復二日掛かるとあってはそれを隠すのは難しいだろう」


「それを分かっているなら何故!?」

「それは理解している。だがな魔王殿や中ボス殿には瞬間移動や空間転移の魔術が使えると聞いている。それを使えば町と町の移動など、瞬く間に可能であると」


「そんなの使った所は私は見た事は無い!」

「お前が見ていようと見て無かろうと、使えると耳にしているのだからそうだろう。そしてそれを使えば犯行は容易であろう」


「例えそれが使用出来たとして、私の目はどうする? この書類に掛かれている犯行時刻と私の記憶。それ比べてからでも遅くは無いはずだ!」

「その時刻にお前と小ボスが過ごした居たかどうかなど問題では無い。魔族の中には欺瞞体(デコイ)を出し、特定の人物の代わりを立てる魔術があると聞く。それを使えばお前の目撃証言など当てには出来ぬ」


「そんな事を言ったら、小ボスに似ている人物であれば全員が犯人の容疑が掛かる!!」

「ならお前は知って居るのか? 人間界に居て。完全装備の兵士や勇者候補を十五人も一方的に殺せて。この手配書に似ている人物を? ん? 小ボス殿以外に誰が居ると言うのだ? 分かっただろう姫。お前の友人も、“お前が好いている魔王も”。皆敵なのだよ」


「ええ、確かに私は魔王の事が好きよ。まだ知らないところもあるし、正直なんか隠してる事もあるようだけど……だけどね! 私は魔王も、小ボスも、他の皆も。理由も無しに一方的に人を殺すなんてとても思えないのよ!!」

  

 まさかここで素直に自分の恋心を認めるとは思っていなかった国王は、はぁ~――と重くため息を吐き、そして。


「この頑固さは誰に似たのやら。……分かった、静観している反戦派の元老院達をまとめ上げて、主戦論派の(いくさ)馬鹿共を抑える。ただし抑えは二週間が限界だ。国民も不満も今や怒髪天を突く勢いだ。もし今後も犯行が収まらないのなら一週間どころか五日も抑えられないと思え。それと当然だが、城内から出る事は禁止だ、それを破れば、私も主戦論派に加担すると思え」


 そう釘を刺され、姫は王室を後にした。



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 その頃、魔王城では。


「困った物ですね……」


 中ボスは頭を悩ませていた。

 グルグルと医務室にあるベットをうろうろと歩く。その隣ではベット横たわり呑気に“薄い本”を読んでいる魔王の姿。何の為に頭を抱えているのが馬鹿らしくなりながらも、早急にこの事態を収束させるか考えていた。


「ダッハハハ、こりゃいい展開だ、その発想は無かったわ~」

「魔王様もどうするか考えて下さい!」


「え? 何を?」と心底意味が分からないと言わんばかりに返事をする魔王。


「小ボスの件ですよ! 前々から小ボスに似た者が人を殺めているとは報告には上がっていましたが、ここまでの事態に発展していたなんて……今は魔界の情報収集能力の嘆いている時ではありませんね。とにかくです! 人族はもはや犯人を小ボスに決めつけて居ます。そして小ボス引き渡しを命じて居ます。ちなみに私達の首も同時に要求していますよ」


「うーん。いっそ欺瞞体(デコイ)でも差し出したら?」

「そんな事しても数時間は誤魔化せても、王都に運ぶ間に絶対に魔力が切れますよ、そしたらただの土人形になるだけです。そしてなによりもそんな、デコイを代わりになんて事をしたら、もっと恐ろしい事になりますよ!」

 

「だろうな、わあってるわあってるよ。多分姫が小ボスを庇う時にその辺の話しも出るだろうしな」


 分かってるなら言わないで下さいよ――と不満げな目でそう訴える中ボス。

 仕方ないと言わんばかりにベットの上であぐらを組み、一応はまともに考える体勢へと魔王は移る。


「まあ大方予想もついているさ、お前が見せてくれた資料の通りなんだろ?」


 魔王はベットに付けられたサイドテーブルを引き寄せ、渡された資料にもう一度目を落し、中ボスは既に内容を暗記しているのか、再び補足するように説明を開始する。


「はい、あまりこのような事は言いたくありませんが、小ボスは魔族が作り上げた人工生命体です。魔族の殆どが接近戦が得意でない事を補う為に作られ、人族を超える超強度な肉体と、更に自身の高い魔力での肉体強化の付加魔法(エンチャント)も容易に耐えられ、その戦闘能力は従来の勇者すら軽く凌ぐほどですからね」


「人族と魔族の間で二百年にも渡って行われた戦争の忘れ形見、旧時代の異物だな。親父がもし止めずに過激派が同じのを作り続けたら今もこの戦争は続いていただろうな」

「はい、パパ上様。そして元・魔王様の働きでこの計画は凍結。施設も破壊したと聞いていますが、どうやら研究は続いていたようですね……」


 そう、何を隠そう、小ボスは魔王や中ボスが生まれるより前に、魔族によって作られた人工生命体であった。先にも述べたように勇者をも凌ぐ戦闘力を持ちながら、それらを大量に生産しようと言うのだ、世界中のパワーバランスを容易に壊す事が出来る悪魔の兵器。それが小ボスだった。


 だが、これが大量に作られれば、どのような悲劇を招くのか分かっていた元祖・魔王と元・魔王によってこれらの計画は凍結され、唯一の完成品である小ボスは記憶を削除され、封印されたが。

 魔王の戦闘力を理解している元祖・魔王達により、魔王の護衛役兼、魔王がその力を暴走した時に抑え役として再び現世に蘇ったのだ。



「今振り返っても、あの時の小ボスは凄かったよな」

「そうですね、今では考えられないほど凶暴でしたからね、確かにあれを(ぎょ)することが出来たのは魔王様、貴方だけでしたものね」


「ああ、それにしても当時の主戦派と科学者共は、小ボスを操る事が出来ると思ったんだろうな、……何とも愚かだな」

「神にも負けぬほどの究極生物を自らが作りだし、最終的には全種族の戦闘データを蓄積した化け物を作る予定でしたし」

「世界を征服したいのか、世界を壊したいのどっちかにしろよな……」


 少し前に魔王も、姫に戦争がいかに愚かか説いた事があったが、物わかりのいい姫ならいざ知らず、この手の連中には何を言っても無駄だったと親父も言っていた。


「兎に角、小ボスのコピーが作られている施設の発見、および破壊が当面の目標ですね」

「しかしまあ、その施設がどこにあるかが一番問題なんだがな~」


 そこまで言った所で、今度は元祖・魔王が医務室へと入ってきた。

 難しそうな顔をしていたが、魔王の元気そうな顔を見て、すぐに笑顔へと変わった。


「まー君。傷の具合はどうだい?」

「すこぶる良い。こういう時にだけは、自分の能力に感謝だな、親父の方はどうしたんだ、こんな時間に」


 魔王は部屋にある時計を見てそう言った。

 時刻は既に深夜を過ぎ、現在は三時。普通に考えたら起きている時間では無い。


「ああ、魔界の方でも人族が国境付近に軍を常駐させてるから、こっちも軍隊を置かない訳にはいかないからね、僕はその指揮を担当するって訳さ」

「元・魔王のおっちゃんに任せられないのか?」


「内政に加えて、軍隊の指揮までは流石にね。手が足りないのはどこも一緒だよ。今はまだ国民には人族との関係が悪いなんて事は知らないだろうけど、あと三日もすれば嫌でも気がつくだろうね。なんせ魔界には今人族の姿は見当たらないし、反対に人間界に居る魔族も僕たちを除いたらごく少数だよ」


 元祖・魔王は、じゃあ任せたと呑気に手を振ると、城を後にした。

 “また一人”減ってしまった事に中ボスは再び頭を悩ませる。


「妹君に続いて、パパ上様もですか……」

「俺様直属の部下ならともかく、妹も親父も一応は上が居るしな。戻れと言われたら従わざるおえないだろう」

「既に魔界に来ている人族の使節団も撤退していますし、いよいよってところですね」

「ああ、城に働きに来ている人族の方々にも(いとま)を取らしたが、城外の街々に関してはどのようにすべきか」

「小さい街ですが、それでも四千人が常に暮らしていますからね。持てるだけの私財を持って、出て行って下さいと言って。はいそうですか、とはいきませんからね」

「こうなると、やはり早急に事件を解決しなければならないな……そういえば小ボスどうした?」


 魔王は今日起きてからまだ小ボスの姿を見ていなかった、時間にして十二時間以上も見ていない。

 不思議に思った魔王は、中ボスに小ボスの居場所を聞くが、見ていないとの返答が返って来た。



「まさか!」


 二人は飛び出すように医務室から出ると、小ボスがどこに居るか探し始めた。

 だが城中を探すも、二人は小ボスの姿を見つける事は叶わなかった。

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