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第二十五話『挑戦? 究極パーティーは魔王達?』⑤

「挑戦? 究極パーティーは魔王達?」⑤


「いやぁあああ。こっち来ないでよ!!」


 大きく発達した二本足。そして大小様々な四本の腕。そして台所でよく出没する黒い虫を想像させる油っぽく黒い外皮。

 長く細い尻尾はまるで人間の背骨を思わせるような無骨な見た目で、叩かれたら首が飛びそうなほどの勢いで右へ左へと動いていた。

 そして何よりもグロテスクな顔面。

 筆舌に尽くしがたい顔つきは、見るに堪えないほど。

 魔王が見ていた映画にはアイツによく似た地球外生命体が出て来ていたが、たぶんアレ。

 何でそんな物が居るかは知らないし、想像もしたくない。

 たぶん居るから居るんだろう。と意味不明な結論で無理矢理自分を納得させて前に進まないと卒倒してしまうほどショックな見た目なのだ。


 それに加えて最悪なのが、それとは異なる化物がもう一体。


「なんでこいつも居るのよ!!」


 随分前に魔王城に襲撃を掛けた勇者にそっくりの見た目。いやあの細目の勇者ではなく、グロの方(第六話参照)


 その時はエイリ○ンよりマシとかみんなも言っていたが、まさかそれも含めてどっちも出てくるとは思いもよらなかった。

 ただ不幸中の幸いなのが、どちらも弱いと言う事だけ。

 見た目からはどっちも勝てなさそうに思えるが、だが戦いに慣れた姫にとって相手の戦闘力のおおよその見当はつく。

 だけど、触りたくも無いし当然殴りたくもない。大鎌を地球外生命体(アイツら)の体液で汚すのも嫌だ。

 帰りたい。そのこと事に尽きた。



 不運にもその一方的な鬼ごっこは、姫以外のメンバーが戦闘を終えるまで続いていた。

 通常であれば、助けてくれてもいいはずにも関わらず、魔王はニヤニヤした顔で恍惚な笑顔で、姫を見つめるだけで一向に助ける様子はなく。

 肩に乗っているネコも嬉しいそうに笑っている所も右に同じ。

 助けてくれそうな中ボスや小ボスすらも傍観者の地位から動く様子は無く、元祖・魔王、妹もそれに続いた。

 薄情者――喉まで出ていた言葉をグッと呑み込み「助けて」と言葉少なく、それでいてか弱い女性を演じつつ、可愛らしい声で鳴くが、それを聞いて魔王は大笑いするだけで、余計に姫の中でストレスが溜まった。


「見てみろよ、今にも呪い殺さんばかりに睨みながら『助けて』だってよ!! これが笑わずにいれるか、はっハハハハハハ」


 あの高笑いの高慢ちきな顔面に蹴りでも入れてやろうかとも思ったが、息荒く後ろから追ってくる化物二体を視線を送り、それを諦める。


「アンタら、アイツ! アイツ狙いなさいよ」

「こっちの方が楽しい」「…………(コクコク)」

 二足歩行の化物はドSなのか、今では姫を倒すのではなく嫌がられる事自体を楽しみ、そして静かに頷いた六本足の化物も同じようだった。



「だっハハハ。助けて欲しいか? そうだな、今後は俺様の事を魔王様としっかり呼ぶのであれば助けてやっても……うーん。やっぱりご主人様がいいな。語尾にニャンと付ける事も忘れるな」


「死んでもイヤッ。外道野郎って呼んで、語尾に殺す(デス)を付けるならいいわよ!!」

「全然嬉しくないわ!! ならいいさ、そのままエイ○アン&プ○デター VS 姫 でもやってるんだな」

「分かったわよ、分かりました。ご主人様助けて下さいニャン! お願いしますニャン!」

「ぷッ――アッハハハハハ。かっはっ――こっ呼吸ができない。駄目だ笑い過ぎて腹筋が痛い。ホントに言ったぞ! 聞いたか皆の衆!? 今俺様はついにあの姫を超えた! ボイスレコーダーにも記録したな? よしOKだ姫。その願い叶えよう」


 魔王はパチンと指で音を鳴らすと、小ボスと妹に「行け」と命じ、やる気満々な小ボスはともかく、命令口調の魔王に些か嫌そうな顔をする妹だったが、まあ仕方ないと魔王以上に大人な態度で命令に従った。



----------------------------------------------------------------------------------------------



「えーと。これで合計百ポイントを超えましたね。私の予想では一位ゴールポイントは、最低でも五十はあるでしょうから、優勝はほぼ確定ですね」

「…………魔王あんた、あとで覚えておきなさいよ」

「“ご主人様”と“ニャン”を付けろ」

「ご主人様。後で死に程痛い目を見せてるから覚えていやがれですよ……ニャン」

「うわぁ可愛くねえ~!」


 ゴールに向けて一本道を歩くチーム魔王。

 愚痴を溢しながらも、魔王も姫も、そしてメンバー達はご機嫌だった。

 なんせ優勝賞金が目の前なのだ。今からその使い道を考えるだけで彼らは忙しい。


 道の奥が薄らと明るい。

 それがゴールだと確信すると、皆は誰からもなく走り始めた。

 ラストスパート。もはや邪魔する者は何も居ない。

 それは分かっているが、走らずにはいられない。

 こんな薄暗い迷宮に入って半日。

 楽なことも無かったが、その苦労ももうすぐ報われる。

 そう思えば身体中の疲れなど気にするはずもない。


 光に包まれるように、道が開け、そこは天井も無いドーム。観客席からは割れんばかりの拍手。

 そしてスタッフやその他の関係者に囲まれ、ここがゴールである事は最早疑い用も無い。


 スタッフもゴールテープへと指を指し、チーム魔王の為の花道を開ける。

 広いグラウンドをまるで観客に挨拶するかのように手を振りゆっくりと回る。


「どうだ、もっとだ、もっと俺様を崇めるがいい!」

「おにぃテレビまで来てるわよ、ヤッホ~。ちゃんと取れてる~?」


「ほへ~。ホントに大イベントだったのね~こうやって見るとその期待度の高さもうかがえるわね」

「マー君見てみて、あそこのテレビジョン。僕たちの戦闘シーンが放送されてるよ、横の小さな画面には他の選手たちが映ってるね」


「魔王様、あまり目立たないようにお願いします。私たちはあくまでお忍びで来てるのですから。ああ聞いてない……」

「主、俺、俺の戦い振りも移ってるぞ。ダイジェスト風だから物凄い活躍しているみたいだな!」


「魔王様。僕トイレ行きたい」「あ? いやいや、また後にしろ! 今は我慢」

「アンタの正体に、気がついてる奴が何割か居るみたいよ。アンタばかりに指差してるし」


 姫に言われ、気が付けば、会場は魔王コールに包まれていた。

 いやチーム名が≪魔王≫なのだから、初めはチーム名の事かと思ったが、どうも違うらしい。審査員らしき者達も魔王の顔を見つけると驚いた顔をしていたのだから。


「おっ、ありゃ昔馴染みだな」

「ん? ああ確かにあれは昔魔王様と≪魔王継承試験≫で戦った東代表の方ですね。相変わらずの成金振りですね」


 一角だけ、ストリップでも行われてるいるのかと思いたくなるほど、肌の露出がある女性たちが集まっており、その中心には髭をたっぷりと蓄えた、恰幅の良い男が座っていた。


「おーい。元気か~」と魔王が手を振る。


 周りに居た男の従者がこっちに手を振っている者がいる事を伝える。

 そしてめんどくさそうに魔王の方に視線を向け、数秒ほど凍りつくような顔でヒクヒクと引き攣った笑みで魔王に微笑み返すと、次の瞬間には椅子から転げ落ちながら我先にと魔王から逃げようと走り出した。


「ありゃ。随分と俺様も嫌われたものだな」

「……まああれを見たらそうなりますよ」苦笑いを浮かべる中ボス。


 姫は疑問に思ったのかそれを聞こうと口を開くが、次の瞬間には会場に響く大音量の声で遮られてしまった。


『チーム魔王が一位で返ってきました。もうすぐゴールです。もう一度大きな拍手でお迎えください!!』


 今まで以上に大きな音で拍手がなる。会場中に音が回る。

 もはや音響兵器の域。しかしそれが自分達を歓迎する為であれば、うるさいとも感じない。

 より一層大きく手を振り、ゴールテープに向かって皆で歩き、そして切った。


『ゴール! 一番に会場へと辿り着いたチーム魔王に、拍手を! ……おっとただ今最短コースのゲートキーパーが倒されたとの情報が入ってきました、メインスクリーンに映します』


 スピーカーから入る声をよそに、魔王達は控え席へと案内された。

 と言っても会場のど真ん中なので、視線を浴びせられているのは変わりないのでいつものように完全にリラックスとはいかないが、それでも椅子に座ると一気に緊張に糸が切れた。


「ふう、あとは結果発表を待つだけね、こうもあっさりゴールしちゃうと、私たちもパーティー狩りをした方が良かったんじゃない?」


「確かに姫様の言う事はもっともですが、先ほどまで戦っていた私たちは、現在どの時点なのかは分からない事でしたし、ゴール地点に付いてみたら、自分達は既に何十番目でのゴールでしたなんて事もありえた訳です。そう言う意味ではその辺の判断はとても難しかったので、やはり当初の予定通りほどほどの難易度のゲートキーパーを倒し、最速でゴールするが一番確実だったのですよ」


「言われてみればそうね。ならここは王者らしくどっしりと後続チームの結果を待つとしますか」



-----------------------------------------------------------------------------------------------


 喧噪に包まれているはずの会場にも関わらず、魔王達はそのど真ん中で悠長に昼寝としゃれ込んでいた。

 そしてそれも一時間もすると、五パーティーほどゴール地点へと辿り着き、最強のゲートキーパーを倒したと言われるパーティーが到着すると、魔王達と同じような歓声が会場を包む。



「な、何事だ!? 敵襲か!?!?」

「魔王様、どうやら優勝候補が到着したようです」


 パイプ椅子の硬い背もたれに身体を預け、ぐっすりと眠っていた魔王もいきなり煩さを増した会場に驚き、ガバッと起き上がり、辺りを見渡した。

 そして涎を垂らしている主の口元を中ボスはハンカチでぬぐい、優勝候補とやらの方に指を指した。


「おお、またまた懐かしい奴じゃないか!!」


 颯爽と会場へと入り、その姿に視線を送り、魔王は驚き、そして歓喜した。

 “魔王”の血族を象徴する漆黒のマントを着込んだ青年は、魔王が昔見た姿とあまりに変わっては居なかったが、それでも内包された魔力の高さは魔王の目にはしっかりと映り、その成長振りをまるで親のように喜んでいた。


 青年の周りには五名の仲間が付いており、そのどれもが青年に視線を送り、そして自分達を歓迎している観客に視線を送り、その喜びをかみしめるようにまた青年を見るという繰り返しをする。


「分かった、嬉しいのは分かったからそんなに見ないでよジャニス。こらノードもだよ。せっかく凛とした態度で会場入りしようって皆で決めたのに、計画が台無しじゃないか」と怒るように言っている青年だったが、それもすぐに嬉しそうな笑顔へと変わっていた。


 どんな結果であろうとも今この瞬間の喜びを共に分かち合おうと、全力で楽しんでいる事は傍から見ても理解できた。


「いいチームね」と姫。その顔はああいうのに憧れているのが口にしないでもわかるほどに羨ましそうに微笑んでいた。


「マー君、あれって“南”の代表だよね」

「ああ、いつの間にやらあそこまで強くなっているとはな、随分と苦労しただろうな」

「ええ、あの時に今の強さがあれば、結果はもう少し変わったものになっていたでしょうね」


 中ボスも旧友にあったかのように優しげな笑みを浮かべ、そんな彼らに気がついたのか“南”は魔王達の方に視線を流し、そして魔王の姿を見つけると一瞬凍りついたような眼をした。

 呼吸が止まり、立っていられなくなったのか片膝を付き、顔を半分覆う様に手を添えた。

 如何したのかと、心配するように仲間たちが“南”の周りへと詰め寄る。

 心配する仲間たちをよそに、“南”は見間違いではないかと、その指の間から魔王へともう一度視線を送るが、やはり見間違いでない事に気がつくと、意を決して立ち上がり、魔王の方に向かって静かに一礼をすると、再びゴールに向かって歩き始めた。


 慌ててその後を追う仲間たち。

 魔王は少しさみしそうな顔をしたが、すぐにそれを止めると、笑顔で中ボスに「まっ仕方ないわな」と言い、何事も無かったかのように席に着いた。


「……ねえ中ボス。おにぃとあの優男。なんか訳ありな感じだけど、元恋人か何か?」


 よほどボーイズラブ(BL)に繋げたいのか、百八十度と異なる解釈をしている妹君に中ボスは耳元でささやく様に小声で話す。


「あの方は一度。魔王様の本気をまじかで見ていらっしゃいます」


「あー魔王継承試験の時か~そりゃ目の前で“終末(終わり)”を見せられたなら誰だってビックリするわよね、化物だーってね。私だってその場所に居たら、今だっておにぃの顔見てビクビクしていただろうしね」

 と普段は物わかりの悪い妹だが、それを聞いて納得したように頷いた。


 そして彼らがゴールをすると、現時点でのポイントが画面へと表示された。



一位・チーム≪魔王≫  180ポイント

二位・チーム≪セドナ≫ 165ポイント

三位・チーム≪中二病≫ 155ポイント

四位――


「ん? セドナって言うのか“南”か?」

「はい、あの方の名前はセドナ・ナナーヴ・ニーストですから、ご自分の名前から取っているようですね……ってまさか名前、知らなかったんですか?」


 うん――とバカっぽく答える主にため息を吐きながら、中ボスは疲れた表情で目頭を揉む様に片手で摘まんだ。

「資料はしっかり目を通すように言ったじゃないですか……まあいいです、あの時の魔王様から見れば他なんて雑兵どころか、虫けら以下でしょうし」

「そこまで思ってないわ! 戦う意志のある者には誠意をもって――」「ああいいです」と会話をぶった切る中ボス。


 魔王は拗ねた子供のようにぷくーっと頬を膨らませるが、「ちっとも可愛くありませんよ」と辛辣な言葉を浴びせられると、すぐに収束した。


 そして“南”率いるチーム≪セドナ≫がゴールした事により、既に他のチームではチーム≪魔王≫に勝利できない事が確定し、勝利勧告が行われ、授賞式へと移り。それも(つつが)無く進行すると、魔王達は優勝賞金である一千万円の小切手片手にルンルン気分で帰路へと着く。



「魔王様、ネットで、ネットでゲーム買っていい!!??」

「おう、好きなだけ買うがよい」

「やったシムシティをたのもーっと」


 無邪気に歩き、自分の城である魔王城の門をくぐる魔王達一向。 

 そして小ボスは楽しそうに棒を振り回す、それが鉄製の垣根にカンカンと甲高い音を放つ。

 

「小ボス。城の中に、木の枝なんて持ち込むんじゃありませんよ?」

「あっそういえば、これ。持って帰って来ちゃったけど良かったかな?」と小ボスが口にし、皆は訝しげな顔で「何の事だ?」と首を傾げる。

 魔王は差して気にする様子も無く、鍵を解除し、ドアノブを捻る。


「これ、魔王様が立てた、“死亡フラグ”とか言う木だったはずだよ」


 小ボスがそう口にし、魔王を除く皆が驚いたような、ギョッとしたように目を剥く。

 そして魔王はそれが聞こえて居なかったのか、ドアノブを捻り、扉を開く。


 突如、何か柔らかな物を突き刺したような、生々しい音が辺りに響く。次の瞬間には少し粘り気のある水を溢したかのようなぐぐもったような水音が床から響く。


 その正体が目の前に立っている魔王から、何かが零れ落ちた音である事はすぐに判断がついた。

 そしてその零れ落ちた物が、赤黒い血である事に気がつくのには皆、数瞬の時を要した。


「い、いやああああああああああああ」

「おにぃしっかりして、おにぃ!」


 ヒステリックのように金切声を上げた姫の叫びに同調するように、妹は床に蹲る魔王に駆け寄った。


 そんな彼女達とは違い。中ボスに小ボス、ネコ。そして元祖・魔王だけは、魔王の腹に凶器を突き立てた憎き者へと視線を外さないでいた。


 そして憎き者の向こうには魔王城のフロアー全体に広がる人族の兵士たちの姿。

 一階だけでは足りず、二階へ上がる中階段や二階全体にも広がっていた。

 しかしそんな者には目もくれず、元祖・魔王はその一人から視線を逸らさない。


「お久しぶりです姫様。国王の命令により魔王、およびその従者達の討伐が命じられました、そして危険が迫っている姫様の救出も私の任務に含まれております」


 ネコや元祖・魔王は知らないが、小ボスと中ボスは確かにその男に見覚えがあった。

 

次回より章で区分する予定です。それとコメディー回もしっかりと合間に交えたいと考えています

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