第二十五話『挑戦? 究極パーティーは魔王達?』④後半
ゴール直前、ゲートキーパーと戦闘した場所の同じような開けた場所が現れると、そこに待っていたのは十名からなるパーティー狩りを主とした“人族”と思しき者で構成されたメンバーだった。
「最悪だな、これをする為のルールか……なるほど理にかなっている」と魔王。
それを聞いて中ボスは突っ込むように声を上げ反論した。
「冷静に判断している場合ですか? 数的不利によって、質の良さすら覆され始めましたよ?」
「確かにな、姫に二人。妹に二人。小ボスに二人。親父に二人。俺様に二人か……中ボス、各自の勝率は分かるか?」
後衛に控えている中ボスは補助魔法による援護に集中し、その防御をネコが担当する布陣。
当然魔王達が抜かれれば危険ではあったが、二対一にも関わらず並みならぬ相手を突破させないの単に、魔王達が戦闘馴れしているからできる技。
誰かひとりでも穴が出来ればすぐさまに瓦解してしまうほどの致命的な欠陥を抱えながらも、これ以上の作戦は取りようが無かった。
故に魔王は各自が現在どうなっているかを、自身の目ではなく、一歩引いたところで見ている中ボスに訊いた。
「姫様が二十%。小ボスが四十五。パパ上様は百。魔王様は同じで百。残念ながら妹君はかなり劣勢です。もってあと数分、現状では勝つことは不可能か思われます」
「ん? ……まあいいか。なら妹の援護に行かねばな」
「戦闘中にお喋りですか、随分と舐められたものですね」
間隙を縫うように会話をしていたが、どうやら相手はそれが不満だったらしく、少し強い口調と視線で魔王に迫る。
女性は、くノ一と呼ばれる女性忍者の出で立ちで、ほっそりとした肢体は速度を武器とした変則的な攻撃を主とした。
「私たちは少なくとも負ける為に戦闘している訳では無いのですがね、ねえバレスト」
そして彼女に話しを振られたバレストと呼ばれた無口な男性。
彼の手には、人を切るには些か野蛮過ぎるほどの、大きな剣が握られていた。
フィクション作品ではよく、人間大ほどの大剣が登場するが、いわばアレと同格の大きさ。
人より怪物を切る方が見た目的には正しいが、相手が魔族の王にして魔界の頂点。魔王である事を加味すれば、ある意味で正しい選択にも思える。
「……ユナ。こいつさっきからどんどん動きが悪くなっている。時間を掛ければ絶対に負けない」
「でも、そんな時間掛けてたら他のパーティーが来ちゃうかもしれないでしょ? そうなったら運任せでゴールまで走る事になるわけよ? 最強のゲートキーパーを倒した時のポイントがどの程度かは知らないけど、ただ一位でゴールするだけよりポイントは高いでしょうね。ならこのパーティーくらいはしっかりと倒して行かないと」
そう言い、彼女は飛翔し、懐へと腕を突っ込み、クナイを投擲。
三つのクナイは魔王の顔、身体、足元へと飛来するが、別段脅威ではない。
しかし、先ほども同じ攻撃を受け、それを手で振り払い、その代償として掠りキズを負い。どうもクナイには毒が塗られていたらしく、おかげさまで数十秒間だけ左手無しでこの猛攻を躱す羽目になったので、今回は回避に専念する。
「バレスト!」
ユナの声に、バレストは答えるように地面を走る。
限界まで引かれた弓のようにバレストは静から動へと一気に変動し、一直線に魔王の元へと突き進む。
バレストが弓であり矢。彼女の弓手が離されたら彼は獰猛な戦士となる。
「馬鹿でかい剣をこうも軽々と……ッと! 今のは少し危なかったな」
右左。斜め。上下と振られる剣撃。更には突きも織り交ぜられたその攻撃は素手の魔王には勝ち目すら見えないほど防戦であったが、それでも中ボスにとって主である魔王が負ける事は想像もできないし、する必要は無かった。
「バレスト!」
「!?」
魔王は空手のように腰の部分まで拳を引く。そして射抜かんばかりにその“凶拳”を振るう。
数瞬遅れ、異様なまでに殺意を放つ魔王の拳に反応出来たのは、いち早くそれに気がつき声をあけたユナ。
しかしバレストも優秀な戦士。幾重にも死線を潜り抜けた経験から、それが危険であると体が判断し、既に反射的に後退する。
「ほう、今のに反応するか……天性の勘か運がいいかは知らぬが、少し遅かったな」
一撃で相手を屠らんとする必殺の攻撃は言葉通りの“必殺”となる。
「ぐはっ?!?」
胸へと直撃した拳は、まるで心の臓を抉るように深く胸に当たる。
幸い貫通している訳では無いので死んだわけではないが、相手が力を緩めなければ確実に穴が開いていただろう。
そんな配慮すら分からないままバレストは地に伏した。
驚愕に打たれ、何が起こったかも理解できぬ――だが狼狽して居ては今度はこちらがやられる、数拍で体勢を立て直したユナだったが、その数拍の隙で魔王が攻勢に出ない理由は無い。
彼女が魔王の姿を見失っていた事に気がつき奥歯を噛みしめ「まずった!」と声を上げた。
「この程度で動揺し、くノ一が後ろを取られるとはな、もう少し場馴れする事だな」
魔王は一言そう添えると、彼女の首筋に向かって手刀を放ち、呆気も無く気絶する。
防戦と思われた戦いから一転。魔王が攻勢に移行して五秒で片が付いていた。
それは元祖・魔王も同じであった。
「親父、小ボスの方頼む」
「マー君はどっちに行くの?」と元祖・魔王の疑問に短く「妹」と答え、走る。
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「最悪、最悪。最悪最悪最悪!! 相性が最悪なのよぉ!!」
愚痴るように目の前に迫った射突を交わす。
妹の前に現れたのは瓜二つの顔つきをした少年二人。
年齢的には中学生程度には発育しているので妹より大分体格は上。
そして獲物は槍。右手でしっかりと下部の柄握り。左手が添えられている柄には何か筒のような物が通してあり、これは“管槍”と呼ばれる武器で、通常の槍が片方の手を筒のように添えて突きを放つのだが、この管槍は手で作った筒とは違い。金属の管を使用する。これによって格段に摩擦を減らし、数段高い刺突能力を生み出している。
彼らは通常の槍を駆使した場合は三度突きを入れるが、この管槍を使うことによって五度刺突してくるのだから恐ろしいと言えよう。
そして妹の武器はトンファー。拳とほぼ同等の超接近を想定した攻防共に優れた武器ではあるが、通常の剣での攻撃よりも回数、速度。共に上の管槍による攻撃は往なすだけで精一杯。
間合いを詰めて、相手の武器を封じようにも一対一でもそれをするのは難しいにも関わらず、二対一ではそんな希望すら捨てねばならなかった。
「卑怯なのよ! 間合いの外からチクチクと!」
只管に往なす。刺突による体力の消耗による隙を狙うが、二人分の体力と自分の体力が果たして比べられるほどあるのか?
こんな事なら普段からおにぃみたいに身体鍛えておくんだったな――と考えるが、今さら後悔したところで戦闘が好転する訳でもなく、体力も押され始めるのにそう時間は掛からなかった。
「ほらほら、どうしたどうした!! 手も足も出ないとはこの事だなダッハハハ」
「馬鹿! 下がれ!!!」
調子付くように攻撃の手を一切休めずに突きを繰り返すが、妹は起死回生の一手へとついに動く。
けして二人同時ではなく、一方が前衛。もう片方はフォローの体制で陣形が組まれているだけにチャンスを掴もうにもすぐに後衛からの牽制が飛んできていたが、相手に油断させ、このまま押し切れると思わせ、深追いを誘発させた。
それを一歩引いた所から見ていた兄は気がつき、弟を守る為に、横から突き飛ばすように妹の一撃を代わりに受けた。
「がはっ」
「兄貴!? なんだ!? 何が起きた??」
弟が確実に命中し、尚且つ致命傷になると放った攻撃は、何故かはずれ、気がついた時には後ろに控えていた兄が肩で突き飛ばすように自分と代わり。次の瞬間には右肩へと痛烈な攻撃を見舞われていた。
だが攻撃が来ると分かって防御態勢を取っていたおかげで代わりにダメージを負ったはずの兄は大事には至っていないように思われた。
数歩後退するように下がる二人。
追撃が来るかと思い弟は相手を睨みつけるが、しかしそれは来ない。
どうもあれでほとんどの体力を使い切ったらしい。どうやら追い詰められて必殺の一撃を放つにいたったのだろう。
「兄貴、大丈夫か? すまない俺が至らぬばかりに……」
「深追いするなとあれほど忠告しただろうに、一対一では俺たちはあのガキには勝てない。それにしても碌な訓練を受けてないと思って油断した……」
「どういう事だ?」と弟は兄が言いたい事を一割も理解していないのか、心底言ってる事が分からないと首を傾げた。
「アイツ、こっちの呼吸を読んでいやがった。それに加えて自分は“呼吸外し”の技。危うく最悪なタイミングで最悪の攻撃を貰う所だったって訳さ」
「攻撃は吐く時の動作で行えばより力が出るって兄貴は言ってたな、逆に吸う時は力が出ないって」
「ああ、逆に相手から打撃技を受ける時は、柔である吸う時の方が、衝撃を吸収できるから然程ダメージはない。だがさっきのお前は攻撃の瞬間に打撃技を貰う所だった訳だ、下手すると一撃でやられていただろうな」
「それと呼吸外しってのは――」
「お勉強の途中申し訳ないけど、そろそろいいかしら?」
その言葉に兄弟は今まで相手から視線を外していた事に気がつき、慌てて彼女の方を見た。
そして気がついてしまった。今まさに勝機が“潰えた”事に。
「おにぃ、これで二対二ね?」
「うーん。どうだろうか、妹。お前本当に本気出してたか?」
「うんん。出してない」と天真爛漫なまでに無邪気に微笑んだ。そして魔王も「だよな、中ボスが今のままだと負けるとか言ってたから何事かと来てみたら……やっぱり遊んでただけか」
魔王は苦笑いを浮かべ、そうかそうか。と納得したように頷き「ならやっちゃえ」と言葉で背中を押した。
「兄貴、どうやら俺たち手加減されていたらしいよ」
「おかしいな、その必要性も無い様に見えるんだがな、まあいい、今度は俺が前に行く」
「あいよ」
重力から解放されたかのように兄が空を舞う。そして地面すら貫こうとばかりに上空から自らの重量ですら武器として扱う。
超高速撮影で見てるかのように魔王の目にはその降下が見えて居た。
妹の身体目掛け、その槍を突きたてる。
指先一つ動かさず、今だ不動の妹が、次の瞬間には串刺しになるようなビジョンすら見えるほど、切先は目の前まで迫る。
だが、その槍は寸前で妹が右へと半身をずらし回避した事により、不発。
伸びた槍を戻すより先に、右手に持った妹のトンファーが槍を上から覆う様に叩き。そして下からは自らの左足が上へと伸び、槍を上下共に挟み込むと、次の瞬間には相手の武器が軽い破砕音と共に、無残にもへし折れた。
あまりに早すぎる行動に声すら上げられる、本能だけで後退に道を選ぶが、しかし本気を出した妹にとって、自分の突撃スピードが相手の後退スピードに劣るはずもなく、得物を失った兄は、その追撃をいなす事も許されず、弟がフォローに回るよりも先に、妹の得物が相手の額へと吸い寄せられるか如く命中する。
「うわぁ…痛そう……」
呟く魔王をよそに、妹が攻撃の為に突き出した右腕が、伸びきっているのを見つけるやいなや、兄の仇とばかりに管槍を放つ。
しかし、その点のような槍先は、異様なまでの戦闘センスを持つ妹にとって、受け止める事も容易であった。
「嘘だろ!? 槍先をトンファーの先っぽで合わせるように防御するなんて!?」
化け物じみた集中力があれば成せるのか、魔力馬鹿と呼ばれた妹であったが、格闘センスも化物。
超高度を誇る妹のトンファーが相手の雨のように降り注ぐ槍先を受け止め、破壊するのに四撃もあれば十分であった。
「何だコイツは!?」
完全に槍先がつぶれ、ただの鉄の棒の化した管槍は、もはや本来の性能はとても発揮できず、勝敗は決していた。
弟は倒れている兄が気絶しているだけであると確認すると、武器を捨て、その場であぐらを組み。視線を敵へと送り「好きにしろ」と言い、腐るように負けを認めた。
「随分諦めがいいのね。おにぃどうする?」
『悲しいけどこれ、戦争なのよね!』「ん? なんか言ったか?」
何故かポータブルDVDプレーヤー片手にアニメを鑑賞している魔王にため息を吐きながら妹は「降参って事で規定通り退場して頂戴」と投げやりな感じで兄弟に投げかけると、弟も兄を担ぎ上げ、黙って外へと出て行った。
「それでおにぃ、小ボスの方も片が付いたみたいだし。残るは姫だけだけど。……どうして“あれ”に姫を当てたの?」
妹は自分以上に最悪の相手と対敵している姫に対して同情の念を込めて視線を送った。
「プレ○ター&エ○リアン vs 姫」とふざけたような口調でそう口にする魔王。
妹は分かっていた事を態々口にされた事に笑い堪え切れなくなったのか、腹を抱えて笑っていた。