第二十五話『挑戦? 究極パーティーは魔王達?』④前半
「挑戦? 究極パーティーは魔王達?」④前半
ゴーレムを倒した魔王一行だったが、総勢二十名からなる追跡者集団に攻撃を受け、八人を撃退したところで相手を撤退へと追い込む事が出来た。
六人と一匹でよくもまあ、二十名を相手に出来た物だと思うが、実際は姫と小ボスは気絶。
ネコは魔力不足。妹は拳が痛いと文句を言っていたので、実際は戦闘人員は魔王に中ボス。それと元祖・魔王の三名。
だが以外にも戦いは一方的で。というのも、今回のイベントで参加権を得る為には、まず魔力測定でかなりの数値を出さないといけない事もあってか、結果的に集まっているのは、魔力の高い魔法特化の魔族ばかり。
殆どの者は、実戦不向きの長ったらしい詠唱を行い、そのことごとくを中ボスの瞬間魔法で妨害され、集中力を削がれ。その間に魔王と元祖・魔王により超接近戦での格闘と格闘魔法術で組み伏せられた。
後衛から前縁を援護しようにも、その前衛を巻き込む危険性を含んでいたのでまともな攻撃はできず、かと言って正直、前衛をしている魔族達も主な攻撃手段が魔法なので、剣や拳の間合いに接近されてはほぼ無力であった。
なので彼らは狭い通路まで撤退し、数名の前衛を盾にして撤退するしか生き残る道は残されておらず。
結果的にはその判断の速さから、被害は“最小限”に済んだ。
一見、無策としか思えない彼らの攻撃であったが、通常このような魔力特化の魔族にとって、攻撃手段は当然長距離での魔法の撃ち合い。
魔力の高い者だけしか参加権を得ていない今回のイベントでは、ほとんどのパーティー間の戦闘は広い場所での撃ち合い。
そう考えると、彼らが行った事も理にかなっており、相手も自分達と同じ戦い方をするしかないと思っていたが、それは間違い。
中ボスはともかく、魔王や元祖・魔王にとってこのような魔法は集団を敵を一度に吹き飛ばす道具でしかなく、猛者同士では長距離からの撃ち合いでは中々決着がつかない事が多い事も理解していた。
そして魔力に制限を設けられている事から、相手は同程度の魔力を行使する事が分かっているなら、同じ火力で撃ち合いをしていては、防御側の方が魔力の消耗が少ない。
それに加え、相手は数も上となったら、攻防共にジリ貧である。
こっちは数が圧倒的に不足しているが、長距離から超接近距離の近接戦闘までこなせる。
しかし相手は接近されればまともに反撃すらできない集団。
それらを踏まえれば、如何に数が少なくとも、魔王達が勝利を収める事はほぼ確定していたのであった。
そして難なく敵を撃退した魔王達。
戦闘も数分で片付き、少しすると姫も小ボスも意識を取り戻し、少し嘘の説明も交えつつ、チーム魔王は再び石畳で出来た薄暗いトンネルを進む。
「おにぃ……寒い。疲れた」
甘えるように腕にしがみ付く妹に魔王は優しく「もう少し行ったら休憩しような」と声をかけたが、正直な所、休んでいた妹とは違い、二十人相手に戦闘をこなした魔王の方がバテていたが、逆にそれを感じ取り気を利かせて妹は自分から休もうと進言していたとは魔王は気がつかなかった。
お腹が減ったと騒ぐ小ボスを中ボスがたしなめ、他の者も何か言いたげな顔をしているが、もう少しだけ行ったらと何度も繰り返す魔王。
それらを更に三度繰り返した所で、魔王達は少し開けた場所へと出た。
テニスコート二面分ほどある広い空間。天井は三メートルほどではあるが、狭あいで冷たい石畳の道で、休憩を取るよりは幾分かましであり、休むなら今が打って付けであった。
しかし皆、不思議そうな表情を浮かべ、その歩みを止めている。
ゴーレムと戦闘した場所も、地面は土ではあったが質感が異なっており、どちらかと言えば畑を想像させ、何故ここだけ湿っぽい土なのだろうかと魔王も首を傾げた。
「畑?」と姫は疑問を口にすると、一様に皆頷く。
そして同じような感想を受けるなか、小ボスが木でつくられた立て看板を見つける。
「あっ魔王様、あそこに何かありますよ」
立て看板へと皆近づくと、中ボスが「フラグの木?」と看板に掛かれた文字を読み上げ、そして看板の下に置いてあるジョウロを見つけると、その中に水が入っているのを知らせた。
「水が入っていますね、どうしますか?」
「とりあえず撒いてみたら?」と姫。
中ボスは主である魔王に視線を流し、魔王も同意するようにうなずく。
そして中ボスはジョウロ片手に数歩前に出ると、何処に撒くべきかと考えるが、ここに入ってきてから、どの場所も同じような耕された地面になっているので、とりあえず真ん中へと歩むと、そこへジョウロで水を撒いた。
「おっ? なんか生えて来たぞ」
皆が注目する中、何やらアスパラほどの細い木の枝のような物が地面から二十センチばかり伸びてきた。
まるでそれに合わせるように水を撒いた辺りから、一本、また一本と生えてくると、中ボスは慌てて魔王達が居る方まで駆け寄り、その様子を同じところから見守った。
「色々生えて来たね」
元祖・魔王の言うように、長さは異なるか、小さい物で五センチほど、一番大きなものでも三十センチほど、計三十本ばかりのフラグの木がポンと伸びてきた。
そしてその不思議な光景を見て魔王が「フラグの木って言うくらいだからなんか言えばいいんじゃないか?」と意味不明な事を言ったが、流石は付き合いが長いだけもあってか、中ボスは素早く理解した。
「あー……ゴホンッ――『この戦争が終わったら結婚するんだ』」とまったく感情のこもっていない棒読みで中ボスが“死亡フラグ”なるものを口にする。
しかし何の変化も無い事を確認するや否や、何だか少し恥ずかしそうに中ボスはうつむいた。
「がはは、キャラじゃないな中ボスは! 危なかったな、本当にこれで“死亡フラグ”が立ったら危険だろうに、もう少しセリフを選ぶべきだろうに」
腹を抱えて笑う魔王に、じゃあマー君お手本と、元祖・魔王が言うと、魔王もやや演技がかった様子で姫の方を向くと「姫、愛してる。結婚しよう」とマジ顔で言い放つ。
姫は、ボンと効果音ななったかのように顔を赤くした。
あれ予想していた反応とは違うな、と魔王が首を傾げるが、すると「主!! 見てみろ、ずっげぇぇぇぇぇ短かった枝が伸びたぞ!!」とネコが大声で口にし、皆その枝はどれだと言わんばかりに探し視線を這わせた。
「あれだあれ!」
ネコが必至に短い手で指を指し、ようやくの思いでそのフラグの木を見つめた。
「あの枝見てえの、さっきまで五センチ程度だったのに今は二十センチはあるぞ!」
「なるほどどうやら、このフラグの木は、水を撒いた人のフラグではなく、チームリーダーに依存するようですね」
「ちょっとやめてよ、それじゃあ私がコイツに対して恋心があるって事じゃない!」
「えー何を今さら」と言わんばかりに飽きれた視線が姫に刺さる。
魔王と小ボスは騒ぐように今伸びたばかりのフラグの木の周りで飛び跳ねていた。
「凄い、魔王様、他にも! 他にも言って!!」
「ああ良いぞ! 『俺、実は城に恋人がいるんすよ。戻ったらプロポーズしようと花束も買ってあったりして』なんちゃってな!」
新しいオモチャを手に入れた子供ようにはしゃぐ魔王と小ボス。そして小ボスにせがまれる様に口にした魔王の言葉。それは二人の思惑通り、土からはフラグの木が生えた。
「ねえ、今。魔王、思いっきり“死亡フラグ”口にしたわよね」
「うん、おにぃてば、さっき中ボスに言った事すっかり忘れてるわね」
「どうします?」
「マー君なら大丈夫じゃない? なんならあれは折っておけば、都合よく“フラグを折った”って事になるかもしれないし」
「ふむ、いいアイディアだ。主、小ボス!! たき火でもしようと思うから、とりあえず、そうとりあえずそこの枝を“折って”持ってきてくれないか」
さりげなく先ほど生えた死亡フラグの木を指差して言ったが、何を思ったのか、小ボスは「これぇ~?」と違う枝をへし折った?
「ばッ!? 違う!」ネコの静止も聞かず、小ボスは遠慮なくフラグをへし折った。
「……あー、途端に魔王が嫌いになったわ。もはや殺したいくらいにね」
確信犯としか思えないほど迷いのない行動で、姫と魔王のフラグをへし折った小ボス。
直後、姫が魔王に対して送る視線は、まるでゴミを見るように視線へと変化していた。
いや、ある意味いつも通りなのかも知れない。
「ねえ、魔王。こういうのはどう? アンタは私に大人しく降伏して、私はアンタの首をこの大鎌で切り落とす。手軽だし、早いし、抵抗するよりはずっと痛くないわよ」
「あ? あ!! 小ボスお前、違うフラグじゃないか! よく分からんが姫との好感度が最悪だ! 殺意しか感じない!!」
「え? でも魔王様に対して他の人の好感度なんてみんなこんなもんですよ」
「あ……うん。そうだね……」
魔王は静かに泣いた。
その間にありとあらゆる自身のフラグが小ボスによって刈り取られて行く様子を見つめながら泣いた。
「魔王様のフラグで焼く、干し肉は美味しいですね」
中ボスが急ごしらえで用意して安易食にしばし舌鼓を打ち。小ボスも魔王のフラグの木で得た枯れ木で火を起こし、そこで干し肉を炙っていた。
「でもほら魔王様。フラグの木はどやら、また生えて来るようですし」
火にあたりながら涙目の魔王に中ボスは再び生え始めたフラグの木に指を指しながらそう言った。
中ボスの言うとおり、この枝は一度生えれば、折って収穫され、火にくべられようが、数分後にはまた生えていた。
なので一応は元通り。
姫の口調が辛辣なのも今に始まった事ではないし、とりあえず気にしない事に決め、気を取り直して魔王は立ち上がる。
「よしそろそろ行こう、あと二時間も歩けばゴールだ。だが、ゴール前には最後のパーティー狩りが待っているだろう。俺たちはそれを突破してゴールにたどり着く」