第二十五話『挑戦? 究極パーティーは魔王達?』②
「挑戦? 究極パーティーは魔王達?」②
ジャラジャラ。
ジャラジャラジャラ。
「これどうにかならんのか?」
明らかに隠密性を欠いた騒音を鳴らしながら魔王達は石造りの薄暗いダンジョンを進む。
「仕方ないでしょ。魔力値の上限が一人当たり200以下って決まりがあるから」
姫は涼しい顔でそう言いながら歩くが、姫も両腕に付けられた金属の質感に似た腕輪を片手当り二つ付けており、それが歩くたびに当って、不愉快なほどに音を立てた。
音の正体は腕輪や指輪。更には首輪などの様々な形をした魔道具が他の金属に接触して起きる激突音であった。
「白の指輪が一つに付き魔力値を100カット。黒色はその倍。腕輪も桁が一つ増えただけで同じ……私の場合魔力値が7200ですから、黒の腕輪が三つに白の腕輪が一つ。それで既定の200ですのでまだマシですが、パパ上様が悲惨ですね」
これはこれでそういうキャラなんだろう、と思いたくなるほどの腕輪を付けている元祖・魔王は、一つ一つは軽くても二百を超えるとなるは話しは別。
しかし特別に用意された首輪はある程度抑えられる魔力に幅があったので、結果的にこの首輪一つで五十万近く魔力を抑えていたので、実際は腕輪三十個程度で済んではいる。
それにしても親父の魔力を実質二千分の一以下にするんだから、あほらしいほどチートスペックの首輪だな。と要らぬ事を考えつつ、とりあえず納得する事にし、一同はダンジョンを進んだ。
「なんか十人全員が魔力値2OO以上のパーティーが五組以上いるみたいよ。もし戦うとなると、うちのパーティーは“どういう訳か”95低いから、なるべく避ける方が無難ね」
姫の魔王イジメは止む事は無く。それ以外の者は別段貶す訳でも、魔王をフォローしてくれる訳でもなかった。
「一括りに魔力値を下げられた訳ですし、魔法を基盤に戦う私はかなり不利ですね、肉弾戦となると殆どやれる事はありませんし」
「中ボスは確かに不利ね。となるとパパと小ボス。後は姫ちゃんが主力ね。そう言えばネコって魔力値が200もあったけど、何かできるの?」
妹の質問に、ネコは頭を傾げ少しの間黙り、答えを探した。
「ん? 俺か? ……うーん強いて言えば、“喋れる”くらいかな」
『あー』
確かに納得だと言わんばかりに皆頷いた。
そうだな、白い獣は神聖なものだと崇められる事が多い。そしてその白猫が喋るとなればそれだけで魔力が高い理由も納得できる。
「うーん。となるとコイツは魔王。アンタより役立たずかもね、盾にでも括り付けて相手の攻撃を止めるくらいはできるかしら?」
「姫様。それは動物愛護の精神からも、人道的な面から見ても相当に危険な行為ですよ……」
「それもそうね。それに愛らしいモンスターも平気でぶっ殺せるこの国の住人に、たかが白くて小さいモフモフした生命体程度で手を緩めてくれるとも思えないしね。私だったら100匹居ても遠慮なく切――」
中ボスは「それ以上は止めて下さい」といい、姫の口を塞いだ。
「戦力云々の事は今考えても仕方ないと思うの。姫がここら辺慎重なのも分かるけど、今は勝利条件やこのイベントのルールを再確認するべきだわ」
妹が今年一番で最もまともな事を言ったような気がする、と感心しながら魔王はその話しに乗った。
「そうだな。そこら辺は説明好きの中ボスと……あと猛烈に喋りたそうな親父に頼むよ……」
キラッキラした目で魔王を見つめていた男の姿を見つけ、仕方なく話しを振る事にした魔王。
そして二人はみんなの前に出ると話し始めた。
「ルールは至って単純です。ダンジョンの奥にあるゴールにいち早く辿り着く事。しかしその途中にある各種ポイントには門番が配置されており、これらを撃破する事によってポイントを得られます。そしてそれらのゲートキーパーを一応避ける事は出来ます」
「なら避けた方が楽じゃない?」
小ボスの質問にパパ上が答える。
「そうだね、だけど基本的にはこれら門番を避ける場合は、迂回しないといけないんだ、そしてその迂回した先にも少し弱くなった門番が存在しており、これは迂回すれば迂回するほど弱くなる傾向にあるから、一番強い敵を倒して最短ルートを攻めるか、或いは迂回し、交戦時間を下げるという方法もあるわけだ」
「ちなみに一度倒された門番は、もう現れない。なので強いパーティーの後ろを付いて行く方法もありますが、当然、門番撃破のポイントは得られません。しかし他のパーティーを撃破する事によって得られるポイントもあります。そしてそのポイントは撃破されたパーティーの所有しているポイント数を丸々得られるし、当然パーティー自体を潰した事によるポイントも加算されます」
「ふむ、なら大きく分けて3つのタイプのグループができる訳か」
「おにぃその3つってどんなの?」
「1、強い敵を倒し最短でゴールを目指すタイプ。2、迂回し、交戦時間を下げ安全にゴールを目指すタイプ。そして3つ目がとくに厄介だ」
魔王がドヤ顔で少し溜めてから、3つ目を言おうとしたら、横から中ボスがそれを言ってしまう。
「3つ目は他のパーティーを撃破し、ゴールによるポイントを捨て、パーティーキルによって得られるポイントで。最多ポイントを狙うタイプです」
「ん? 厄介なのは分かるけど、最強の門番を速攻落して、ゴールを目指せば関係なくない?」
「妹君のいう事ももっともですが、ですが考えてもみて下さい。貴方が相手のパーティーを襲うならどのタイミングですか?」
「うーん。一番理想なのが、一番強い門番を倒して疲弊しているパーティーを後ろからやっつける事かな? 実質最強のパーティーと戦闘する事になるけど、魔力の上限はあるから差は殆ど無いから、戦闘直後なら、ちょっと劣っていても楽々勝てるしね」
「正解です、このようなパーティーキルを狙うタイプは、必ず目を付けたパーティーが戦闘している途中か、戦闘後を狙ってくるはずです。当然前を行くパーティーは後ろの敵にも気を付けねばなりません。後ろに敵が居ると言うのは何ともやり辛い状況ですから、下手したら戦闘前にこちらは精神的に疲弊するかも知れませんね」
なるほど、と姫は妹は感心した様子で頷いた。
「だから後ろからなんか変なのが付いてきてるのか」と妹。
勘のいい姫はもとより気がついており、元祖・魔王、中ボスも同じく気がついていた。
「主、俺さっぱりわからないけど、後ろからなんか来てるらしいぞ」
「あぁ? 三回も迂回した俺様達に付いてきている? はは、まさか~」
「魔王様、嘘ではありませんし、冗談でもありませんよ。確かに追跡者が居ます。それも二パーティー規模」
「はっ!? 何でそんなに居るんだよ!?」
「利害の一致で互いに共闘する事を決めたのか、或いは元より二十人全部身内で構成されているかです。正直、今回の賞金額を考えると、そのような事態が起きる事は予測済みですが、まさか私たちに目を付けてくるとは」
「僕やマー君達が注目を集めちゃったからね。出せる力はいつもと比べると相当に低いから、あんまり他と差別化を測れないけど、熟練度も他とは違うからね。そこに目を付けたかも知れないね」
「どうしますか魔王様。後ろの敵をまず撃退すると言う選択肢もありますが、その場合、道を戻る事になりますし、正直敵はこちらが向かって行った場合、後退する可能性が高いですから、余計に時間もかかりますよ」
「いや、いいこのまま門番まで突っ走る」
魔王は方針を変える気はないと言い。姫は二十人を相手にしなければいけないのが面倒なのか、少し不機嫌そうに顔を歪めた。
「えー、二十人って……今の火力だときつくない?」
「そうか? ……うーんそうでもないと思うんだけどな」
凄まじく楽観的に見える魔王の意見に、不服そうな姫。
しかし何故か他の者はまったくと言っていいほど反対する気は無いのか、黙って魔王の後に続いた。
「主は余裕そうだな。何か秘策でもあるのか?」
「ん? そんなの無いさ。ただ言える事はこのパーティーでやれない事は無いと思っているくらいかな」
揺らぐ事ない信頼。それを目にした気がして姫はそれ以降口を噤んだ。
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「うわ……でけえゴーレム。大きさだけなら間違いなく最大級クラスだな。これを見ると、最短ルートの方はどんな化物が出ているのやら」
開けたドーム状の広場は、屋内野球もこなせるほど大きく。
中には見上げるほど大きな土人形の姿があり、その土人形の後ろには結界が張られた扉があった。
どうやら門番を倒さないと通れない仕掛けらしく、ずるして横を通るなんて事は無理なようだ。
「五メートル以上あるわね」
「姫、あれは十メートル級だ」
補足するように魔王が言う。
まだ距離がある上に、その土人形はあぐらを組んでおり、全長は掴み辛いので目測を誤るのも仕方は無い。
「どうやって戦います?」
「小ボスと妹。それと姫は前衛。親父と中ボスは中衛。ネコと俺は後衛だ」
「主、主。俺防御魔法張れるぜえ?」
「おっそれは初耳だな、なら俺様の肩に乗ってろ。防御はお前に託した」
「おう任しとけ、と言っても範囲は五センチだけどな」
『せまッ!?』
総ツッコミも終わり、全員が配置に着くと、それを待っていたと言わんばかりにゴーレムが立ち上がる。
どうやらゴーレムは素手ではなく、自身と同じような色をした剣を持っていた。
化け物じみた大きさに、その手に持った剣。
リーチに関してはこのドーム内の五分の一程度を占めていた。
「手足に気を付けろ、今の魔力値だとまともに蹴りを入れられたらそれだけで気絶するぞ」
「了解だよ、妹ちゃん。姫ちゃん行くよ」
「ちょっと小ボスの癖に私より先行するつもり! 待ちなさいよ! 姫も行くわよ!!」
「はあ……チームワークもへったくれも無いわね」
中ボスによる高速化の付加魔法を受け、二人が本来のスピードに近い速度で動く。
「自分の魔力を肉体強化に回せないってこんなに厄介なんてね」
妹はゴーレムの右足に愛用のトンファーで渾身の一撃をくれてやったが、相手は毛ほどもダメージを受けている素振りはない。
それどころか気がついてすらいないのかも知れない。それほどまでに手応えが感じられなかった。
妹は「かったーい!」と叫ぶようにそう言い、妹に続く様に足元に攻撃をした姫や小ボスも同じような感想と結果が待っていた。
そして姫達に負けじと、中ボスとパパ上も攻撃に転ずる。
「世ノ悪意ヲ愛スル者ヨ」
「生命ノ理ニ背キ。今宵我ノ求メニ応ジ」
「現世ニ姿ヲ現サン」
「「ケルベロス召喚!」」
二人の持てる魔力を使い、現状不可能に思える召喚行為を行う。
「えっ、ケルベロス!? 特上級の召喚魔法でしょ!?」
姫は心底驚いたのか目の前に敵が居るにも関わらずその動向に目を背ける事は出来ない。
同じように他の者もその召喚を視線を送る。
地面が禍々しく黒い光を放つ。
そこから湧き出るように悪の陰気と共に紫色をした煙が立ち上る。
「マー君成功したよ!」
既に確信しているのか、パパ上はそう声を上げ、歓喜する。
周囲数十メートル分も紫色の煙に覆われ、ゴーレムすらその力に押されてか、一歩後ずさる。
そして、霧のような煙が晴れ、ついに恐ろしい冥府の番犬、ケルベロスが姿を現した。
「あぁ?……子犬?」
魔王は呆気に取られたようにその“恐ろしい番犬”の姿を見つめる。
「体長一メートルどころか、チワワ程度しかないわよあの三つ首」
噂に名高い冥府の番犬ケルベロスは、最大の特徴とも言える三つ首で。目の前に居るこの“ケルベロス”も確かに三つ首ではあったが、如何せん小さい。
禍々しい雰囲気を放ち。近寄る者を威圧する邪気は、まさしく本物のケルベロス。
しかし“小さい”
目には凄まじく強い力が籠っており、目を合わしただけで逃げ出したくなる眼光。
大地を揺らすほどの巨体はどこへやら、今は片手で持ててしまえるほど小さな身体。
鼓膜が破れ、大気を震わすほどの咆哮は、キャンキャンと煩わしく吠えるチワワの鳴き声に変わり。
本来は、重厚な鎧に身を包んでいようとも、いとも簡単に切り裂いてしまう鋼のような鉤爪は、コンクリートの上を散歩してしまったら摩擦で爪を痛めてしまうほど弱く。
どんな名工が作った剣ですら、歯が立たない戦車のように硬い外皮は、撫でれば癒しをプレゼント。フワフワ毛皮へとチェンジしていた。
「これ……強いのか?」
「どうやら“三つ首”と言うカテゴリーだけで魔力を使い果たし、他は子犬レベルに成り下がったようです。残念ながら戦闘スペックは見た目通りです。と言っても魔力値に制限が設けられているだけで、供給量自体は通常通りですから、すぐさま魔力値200くらいは回復するので、無尽蔵に“これ”を召喚できますけど、如何致します?」
「もう要らねえよ!」
≪ゴーレム討伐に、子犬防衛が追加されました≫
※ちなみに次回にはチワワ(ケルベロス)は登場しませんので悪しからず。