第二十四話『姫、病床に臥す』
第二十四話『姫、病床に臥す』
「おふっ……なんとファンシーな部屋なんだ!?」
部屋の状態にやや驚きながらも、魔王は手に持っていたトレイを小さな机に置いた。
トレイの上にはおかゆと、ネギや梅干しなどが乗った小皿。それ以外にも薬や水の入ったコップなども乗っていた。
朝食時に姫が居ないに疑問を覚えた魔王は中ボスにその理由を聞くと、姫が体調を崩したと聞き。
昼食は魔王がおかゆを作って姫の部屋へと来ていたのだ。
そこで見たのは――
「ゴホッゴボッ。何よ? 私が“ぬいぐるみ”を持ってちゃ悪いって言うの?」
「“ぬいぐるみ”を持ってる自体にはそれほど疑問にも思わないが。まあ……量が……」
ベットから体を起こし、魔王の方を見つめる姫。
姫の顔は少しだけ赤みを帯び。時折、せき込んでもいた。
魔王は心配そうに姫を見ながらも、部屋を見渡し、ぬいぐるみの数を大雑把に数えた。
(二十……いや三十はあるな)
大小様々なぬいぐるみ。小さいものでも、両手で抱えるほどの大きさだが、それ以上に“大きいもの”がデカ過ぎる。と魔王は思っていた。
「二メートルはあるのか、この熊は?」
部屋のど真ん中に置かれた熊のぬいぐるみ。それは床に腰を下ろすような体制で鎮座していたが、それでも今にも天井に頭が付きそうなほど巨大であった。
「お前も俺が思っているより“女の子”だったというのは分かった。だが些か多すぎないか?
流石に邪魔だろう。特にこのデケェの!」
部屋の半分を占めるほどの巨大な熊を指を指しそういった。
「“ベルセルク”は私の昔馴染みよ。血の滲むような訓練の日々も、この子のおかげて逃げずに行えたのよ。
そんな戦友を見捨てろと言うの?」
「ベルセルクだと? 蝕が起きても生き残れそうな名前だな……。
まあいい。コイツはいいとして、なら他のは駄目なのか?」
「他のも同じよ。アンタがこの子達を『邪魔』と思うように、この子達もアンタの事を『邪魔』だと思ってわ」
「ぐぬぬ、ついにぬいぐるみですら、俺様を迫害するつもりか!?」
魔王はそういいながら、バシバシと目の前にある、巨大なぬいぐるみの鼻先を叩く。
「ちょっとベルセルクを殴らないでよ!!」
「分かった、分かったから横になっておれ」
態勢を起こした姫に魔王は駆け寄り、横になるように言いながら布団をそっと掛けた。
「あんた……今日はやけに優しいわね……」
「病人に冷たく当たれるほど俺様は腐ってはいない。
それにしても貴様が病床に臥したと聞いた時はどんな難病奇病かと思ったが、普通に風邪とはな」
魔王の言葉に何故か姫は恥ずかしそうな表情を浮かべながら、なによぉ……と布団の上から少しだけ顔を出しながら弱弱しく呟いていた。
「――ぐっ!? なんだ貴様!! 顔を赤くしながらその態度は!! 可愛いではないか!!」
「…………」
「おい、普通に照れるな。こっちまで恥ずかしくなるだろう」
「もう! そんなこと良いわよとにかく私寝るから!!」
「待て待てせっかくおかゆを作ったのだ、少しくらいは食べて。薬飲んだ後、それから寝ろ!」
以外にも素直に姫は頷き、魔王も姫のベットの傍らに膝を付き、魔王は無言でレンゲでおかゆを少しだけ掬いフーフーと息を吹きかけ。
「はい、あーんして下さいね」
「……あーん」
冗談のつもりで差し出したレンゲを姫は恥ずかしそうにしながらも口を開け、それを向かいいれた。
魔王も恥ずかしそうに食べる姫につられ、カァーと顔を紅潮させ、何とも言えない甘ったるい雰囲気だけが漂う。
一度あーんとやってしまっただけに、引きに引けず魔王は一呼吸置くと再び先ほどと同じ行動に移した。
姫もその行動に一瞬驚いた表情をしたが、今度も素直に口を開けた。
(な、な――なんだこの雰囲気は!?)
(な、な――なんなのよこの雰囲気は!?)
どうしてこうなった!? と二人で思いながらも、食事は進む。
時々せき込む姫を魔王は無言で背中をさする。
その度に弱弱しくも姫は小さな声で「ありがとう」とお礼を述べ。
ドキドキと鼓動が激しくなり、次第に声すらとど来ないほど心臓の音が大きくなる。
そして魔王はついにこの胸の高鳴り、痛々しくも温かい感情の正体に気がついた。
(これは……)(これって……)
「なあ姫。俺様、今猛烈にドキドキが止まらぬのだ……」
「わ、私もよ魔王……私も胸が痛いくらい鼓動が激しいの……」
「やっぱりこれって……」
「うん……」
「「不整脈!?」」
原因不明の不整脈に混乱する魔王達。何か重大な感染病やウイルスに感染しているんじゃないかと狼狽え始める。
「く、空気感染!! バイオハザードに違いない!!」
「まだそうと決まった訳じゃないわ!! もしかすると心筋症かもしれない!?」
「れれれ、冷静になるのだ!! まずは深呼吸だ!!」
魔王に言われ、互いに深呼吸を行う。
しばらくして落ち着いたのか、二人とも胸の高鳴りは無くなっていた。
「…………どうだ姫?」
「大分落ち着いたわ……」
「ふう……ならば平気か」
落ち着いたところで魔王はポケットに仕舞ってあった物体に気がついた。
先ほど妹から、姫にあげて、と渡された物。中身は栄養ドリンクと聞いている。
ビン状のそれを何気なくポケットから取り出し――――そして仕舞った。
(…………『ビンビン絶倫栄養ドリンク。今日のあなたはボッキボッキ♪』ってなんだよ……妹め、変な物仕込みおって)
「それなに?」
「へ!?」
何故か病気で注意力散漫にも関わらず、姫はあざとく魔王が一瞬だけ取り出した小瓶を見逃さなかった。
ピンチ、魔王はそう思い、だらだらと汗を流し。どもりながらも答えた。
「あれだ!! ……うーん。そうオロナミンCだ!!」
咄嗟についた嘘。しかしながら魔王はこれで誤魔化せると思っていた。
なぜなら姫は“炭酸”が嫌い!! これなら興味も無くなるはず。
「“栄養ドリンク”って書いてあったわよね」
どうしてそこだけ読めたんだよ!! と心の中で猛ツッコミをしながら、更に好都合な言い訳を考えようとしたが、名案は浮かばなかった。
「こうなれば!!」
魔王はそう口にすると、ポケットに手を突っ込み、ドリンクを手に取ると蓋をあけ。勢いよく一気にドリンクを飲み下した。
「???」
「――ぷはぁ!! 飲んでしまったものは仕方ない。俺様の栄養となって消えた!!」
「まあアンタがそんなに栄養ドリンクが好きなら、それはそれで別に私は構わないけど……」
その後、姫は薬を飲み。再び布団を被り、横になった。
これで一安心だと、思い魔王はトレイにおかゆの容器を乗せ、部屋を出て行こうと思い立ち上がろうとした。
「ちょっと待って」
「はあはあ……な、なんだ……」
「えっどうしたの魔王!? 顔真っ赤よ!?」
「いや、大丈夫だ。それでなんだ?」
「寂しいから私が寝るまで部屋に居てくれない?」
いつもとは違い、寂しいと口にする姫。病気をすると寂しいと感じる場合が多いと聞くが、ここまでとは。
仕方なく、魔王は再び傍らに座り込む。
姫もそれで満足したのか、瞼を閉じ、完全に寝る体制へと移行した。
「はあはあ……ッ! はあはあ……駄目だ……色々と駄目だ」
何やら込み上げてくる感情をグッと理性で抑え込み。必死に耐える。
先ほどから姫の顔ばかり盗み見るように見つめる魔王。
「あれか……不整脈に栄養ドリンクが重なって。スーパー不整脈に……」
爆発しそうな心臓と、下腹部に潜む魔王の“魔王”は、今にも暴走しそうなほど自身の存在を主張していた。
「馬鹿か俺は!!」
部屋のまわりをぐるぐると歩き回る自分に乗りツッコミを行い。何やら自分の中の何かが爆発しそうではあるが姫が寝たかどうかを確認する。
「……スー……スー」
「ッ!! 寝たか!! くっ……堪えろ!! なんだか知らんが堪えろ俺様!!」
自分の意志とは違い姫の方に引き寄せられる右腕を左腕で必死に抑え込み。勢いよく回れ右をし、ドアの方を向く。
トレイは置きっぱなしだが、この際どうでもいい。今はここから脱出する方が優先だと思い、ロボットのようにぎこちなくはあるが、ゆっくりと移動した。
「……耐えた……俺様は耐えたぞ!!」
背中でドアを閉め。部屋の外でガッツポーズをする魔王。
だが今はとにかくこの胸の高鳴りを鎮める事が優先。
博識な中ボスなら何とかしてくれるだろうと思い、直接聞くことにした。
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「ふう」
最近はラジオのせいで、どうも仕事が多い。
手当を貰わないとやってられないな。と中ボスは心の中で愚痴を溢しながら一息つく。
気分転換に目の前に、山積みになっている書類を片付けようと思い、まずは一番高く積み上がり、一番邪魔になっている中央の山。そこにある書類移動される。
書類を退かすと、その向こうには、自分の主人である魔王が立っていた。
肩で息をしながら、耳まで顔を紅潮させている魔王。
何事かと思い、勢いよく席を立つと、そのことによって魔王の全体像が映り。
異様な雰囲気を漂わせている股間へと自然と視線が行く。
苦しそうに膨らむ股間。息を荒くしながらゆっくりと中ボスに近寄る魔王。
「はあはあ……。もう駄目だおかしくなりそうだ……」
「あ、あの魔王様。一体何の御用ですか?」
背中に嫌な汗がツーンと垂れ。中ボスは魔王の歩みに合わせるように後ずさる。
≪今が“最悪の状態”と言える間は、まだ“最悪の状態”ではない≫ シェークスピア
(ありがとうございますシェークスピアさん。でもこれは“最悪の状態”です!!)
脳内に浮かんだ格言を自分でツッコミを入れる。
しかし、事態は一向に好転する様子はなく、ついに――
「中ボス……お前じゃないとダメなんだぁああああああああ!!」
その後、中ボスは転職を真剣に考えた。




