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第二十一話『元祖・魔王降臨!?』

第二十一話『元祖・魔王降臨!?』







 黒煙が辺りに立ち込め、姫は煙を浅く吸い込んだのか、少しだけ咳き込んだ。

 煙の所為か、苦しそうになりながらも必死に(まぶた)を開け、その双眼で“敵”を捉える。

 魔族歴代最強と呼ばれた元祖・魔王。その男の姿がそこにはあった。


「ゲボッ、ゲボッ。これが……元祖・魔王の実力なの……?」

「あれこそが魔族。そして、その頂点であらせられる、魔王の本来の力です」


 激痛で悲鳴を上げる身体を無理やり起こしながら、ひび割れた眼鏡を掛け直し、中ボスが答えた。

 その燕尾服も(すす)や土埃などで汚れ。生地自体も既にボロボロな状態だった。


 目の前に現れた巨大過ぎる魔力の渦に臆したのか、姫は脅えながら半歩下がり「勝てない……」

 と呟き、身体の奥が戦慄(わなな)くのを感じた。

 歴代最強と呼ばれようとも、全員で掛かれば勝てると予想していた。

 その考えが甘かったのだと今思い知らされる。


「戦力比は万対一って所ですね」




 

------------------------------------------------------------------------------------------



 王室では、静かにある者たちの死闘が行われていた。

 その戦いは一方的で、最早、虐殺と呼ぶ方が正しいほどだった。


「チェックメイト」

「…………」


 チェス盤を穴が開くのではないかと思うほど、食い入るように見つめる魔王。

 真剣に打開策を考えている魔王とは引き換え。

 対峙している姫は、退屈なのか、アクビを噛み殺しながら手に持っていた雑誌のページを(めく)った。


 どういう訳か、チェス盤の上には姫含め、魔王の駒も全て生き残っていた。

 にもかかわらず、魔王はチェックメイトされているのだ。


「アンタねぇ……いくら馬鹿でも、(キング)から積極的に動かすやつが何処にいるのよ?」

「王様から動かないと、部下がついてこないだろう? ルルーシュなら分かってくれるもんねッ!!」


 魔王はそう言いながら、キングを後方に下げた。

 だが、そのキングはあえなく姫の狩り取られる結果となった。

 ちなみに、このような展開が既に五回ほど行われていた。


()っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけ……」

「アンタの技量程度じゃ、何度やっても私のキングが()たれる事は無いわね」

「そうやって俺様の事を(あざ)笑っていればいい! 貴様のような“悪党”は必ずしや俺様が倒して見せる!!」


「……――現・魔王に“悪党”呼ばわりさせるとはね。じゃあ私は大悪党ね」

「やっと自覚できるようになって来たか」

「あ゛!?」

「すみません、誠心誠意心を込めた土下座しますから許して下さい」 


 姫が魔王の駒であるキングを握力だけで粉々にすると、それに臆した魔王はすぐさま土下座に移行した。


 日に日に魔王の土下座のキレが増していたが、あまり褒められるような成長内容では無かった。


 土下座をしている魔王の頭に、静かに粉々になったキングの粉を振りかける姫。


 それが気になったのか、顔を上げた魔王に対して、姫は「誰が顔を上げていいと言った?」

 と満面の笑みで訊いた。

 

 ドスの効いた声に、恐れ再び頭を地面にこすり付ける魔王。


 そんな王室のドアが何者かによって開かれる。


「魔王様いらっしゃいますか?」


 中ボスが問いかけると、魔王は嬉しそうに顔を上げた。

 そして、姫が「顔を上げるなと言ったでしょ」と言いながら、渾身の力を手に込め、魔王に強制土下座させる。

 その勢いで大理石の床がひび割れる。

 当然魔王は苦痛に叫び声を小さくあげるが、

 それを「可哀想だ」「酷い」などと思ってくれる者はこの王室内には居なかった。


「お忙しいようですので、内容だけ伝えます」


 中ボスの言葉に、魔王は地面に額を着けながら「ふぁい」と承諾するように返事をした。


「本日午後から、以前より予定していた軍事演習の方を、開始致します。

 今回の演習内容は以前説明しましたが、『一体多数』を想定した戦闘となっております。

 もちろん私達は防衛、これは『多数側』ですね。

 多数側には城内設備や城外設備の使用、更には魔王様直下の部下の使用も許可されています。

 姫様が攻めて来た時より、数こそ劣りますが、実質的な戦力は十倍以上用意されており。

 それを突破できる者となると魔族内でも極少数なので、その中から“一番戦闘力の高い者”が選ばれております」


 中ボスの『“一番戦闘力の高い者”』という言葉に魔王は少しだけ顔を上げ、眉をピクリと動かした。

 その瞬間を中ボスは見逃さなかった。


「魔王様はもう分かっているようですが。はい、ご想像の通りです。

 敵は、パパ上様。“元祖・魔王”様です」


その言葉に、魔王はガバッと身体を上げ、姫の制止を振り切ると、その足を司令室へと急がせた。


------------------------------------------------------------------------------------------------

 司令室には既に、小ボスと妹が席についていた。

 

 それを確認すると、魔王は中央部に備え付けられている席に着き、全体を見渡した。


 中ボスも魔王の隣に立つと、魔王の命令をじっと待った。


 魔王も、姫が黙って定位置に座ったのを確認すると、口を開いた。


「魔王城の“全て”の戦力を急ぎチェックしろ」


 小ボスと妹は短くアイコンタクトを行い、コンソールを叩く。

 主に、情報担当を行っている小ボスと妹は元々相性がいいせいなのか、仕事が早い。

 現に今、小ボスは使用できる城外設備をチェックし。妹は城内設備をチェックしていた。

 中ボスもそれを手伝うようにして、目の前にあるコンソールで、新兵器含め、旧兵器のチェックをしていた。

 

高密度荷電粒子砲(マオウキャノン)。六機全て使用可能。

 それ以外にも、七五ミリ高射砲、百二十ミリ迫撃砲、近距離防空用地対空ミサイルの整備も万全です」


「城内トラップ、セントリーガン(無人機銃)の動作確認完了」


 小ボスの報告が終わる頃には、妹もそれに代わるようにして言った。

 中ボスも魔王の方を向き、小さく頷き、全てのチェックが終了した事を伝えた。


「中ボス、クソ親――……パパ上と対峙した場合の、此方側の勝算はどの程度ある?」


 チェックを終えた中ボスが魔王の方を向くと、何とも難しそうな顔をしながら、再びコンソールを叩き。

 中央モニターを使って説明した。


「正面から、姫様や妹君。それ以外にも“本気”の小ボスを同時にぶつけたとしても、十分と持たないでしょう。

 私が入っても二十分ほど。城の戦力をフル活用しても五十分で落城でしょう。

 やるとは思いませんが、魔王様が“戦う気”になって下されば、勝つ事も可能ですが……」

「中ボス。俺様に期待するな。今の俺様にはなんの力も無い」


 姫は中ボスの言葉に引っかかりを覚えながら、他の皆の顔色を(うかが)った。

 何を知っているのかは分からないが、姫以外の皆の顔は暗い。

 それは一体何に対してなのか、姫には分からなかった。


「センサーに反応あり!! 魔王様!!」


 悲鳴にも近い、高い声で小ボスが魔王に伝える。

 魔王も声を張り上げながら「少し早いが、現刻より戦闘を開始する!!」と言い放ち、皆にげきを飛ばした。


「予定より早いですね……」

「いや、むしろ遅かったくらいだな」

「よし、まずは小手調べだ。 長距離攻撃を中心に。その後、小ボス&妹が尖兵として突撃してもらう。

 無理はするな。時間稼ぎをしてくれれば十分だ。

 ネコはあれだ“寝てろ”」

「“寝テロ”!? それはどんなテロ工作だ!? 交通量の多い道路で寝るテロ行為か!?

 遅れによるダイヤの乱れは深刻だな……それによって企業に著しくダメージを与えるのが目的か!?」



 そんな一人で盛り上がるネコを放置し、中ボスは一歩前にでると

「何か秘策が?」といい、魔王はその言葉に対し、ニヤリと笑うだけだった。



---------------------------------------------------------------------------------------------------

 五分後、王室にて魔王と姫、それに中ボスが待機していた。


「小ボス達が出て行ってから十分が立つわね……」


「さすがに演習だから、殺されはしないが。逃走はどうやら失敗したようだな」


 魔王の言葉に姫も中ボスも暗い顔をした。


 だが、魔王はそれを勇気付けるようにして声をかけた。


「三人でどれだけの時間持つか」

「十分持てば御の字ですね」


 元祖・魔王の実力を知っている、魔王と中ボスだったが、相手の情報を知っているというのは、通常であれば、有利に働く。

 だがしかし、知っているだけに、二人の足は恐怖で竦んでいた。

 


 刹那。爆発、轟音と共に扉が吹き飛んだ。


 煙の中から、黒炎をまといながら歩く者が一人。


 その姿を見て、魔王を除く二人が一歩下がった。


「ッ!? なんて魔力なの?! 私どころか、妹ちゃんの何十倍もあるじゃない!!」


 恐れ(おのの)き、声を震わす姫。中ボスも同じような反応だった。


「魔王様……とても十分も時間稼ぎできそうにありませんよ?」


「まあ待ってろ……。――おい、クソ親――パパ上~!!」


「ん? “まー君”かい!? まー君なんだね!!

 会いたかったよ、まー君! おいで! パパがハグしてあげる」


 黒炎がさっと散り、そこからヨレヨレの草臥れたスーツを着た男が現れた。


「……え? あの冴えない刑事みたいな男が、魔界最強の王?」


 ポカーンと口を開けながら指を指す姫。

 魔王はそれに無言で頷き、中ボスも頷いた。


 元祖・魔王は「まー君!!」叫びながら嬉しそうに魔王に歩み寄った。


「これでも喰らえ~!!」


 魔王はそういいながら一つの本のようなものをパパ上に向かって投げた。

 姫や中ボスはなんなのか分からず、ただそれを目で追い続けた。


「あれは!? 僕とマー君の思い出が沢山詰まった大切な“写真(アルバム)”!!」


 まるでフリスビーを取ろうとする犬のように、パパ上は空を舞い、その両手でアルバムをキャッチした。


「はあぁん!! かわいいよまー君!!

 見て!! ほらこれ、初めてまー君が“2ちゃ○ねる”で書き込みをした時の写真だよ!!」


「どれだけ微妙なイベントでシャッター切ってるのよ!?」


 日頃培った癖か、こんな時でもツッコミをする姫。

 それが恥ずかしかったのか、姫はカァと顔を赤くしていた。


「悲しい(さが)だな。まあいい。中ボス! 詠唱準備」


 魔王が声を張らせ、中ボスにそういったが、すでに中ボスは目をつぶり、明らかに詠唱中といった状況だった。


「ねえ! 本当にあの魔力に対抗できるの!?」

「できなきゃ“終わり”だ!! とにかくそれまで時間を稼ぐぞ」


 その言葉に姫は愛用の大鎌を構え。魔王も格闘の構えを取った。


「アンタって“得物”は無いの!?」

「魔力がほとんどないのはお前も分かってるだろう!!

 だから柔道(バリツ)のような体術しか頼るものはないのだ!!」


 そんなやり取りをしているとパパ上はパタンとアルバムを閉じ「ふう」と満足そうに息を吐き、魔王達の方を見た。

「そういえば“演習”って言ってたよね? じゃあパパもここは心を鬼にして戦っちゃうぞ~♪」


 やわらかい笑顔で微笑むパパ上だったが、その屈託のない笑顔で、心まで冷えるような感覚を魔王達は感じた。


「それで、まー君とそっちの姫君。どっちが僕と相手をしてくれるのかな?」


 魔王はだまって一歩前に出た。その行動をみて、パパ上は嬉しそうに微笑み、懐から何やら袋を取り出した。


「おいクソ親父。戦闘前になにガサガサしてるんだ?」

「も~パパ上って呼びなさいっていつも言ってるでしょ? まあそれよりも、今日はおみあげを買ってきたんだよ」

「あ? おみあげ? なんだ温泉まんじゅうとかならいらんぞ?」

「ふふふ、≪十一月二十五日≫とだけ言えば、勘のいい、まー君ならわかるよね?」


 パパ上の言葉に魔王の眉がピクりと反応する。

 その反応を見て、パパ上はニヤりと笑い。袋からA4サイズほどの箱を取り出した。


 魔王は箱を見た瞬間、目の色が変わった。


 そして。


「パパ上。何なりとご命令ください」


 元祖・魔王の前で(ひざまず)くと、頭を垂れ。抵抗の意志がない事を示す。


「「(寝返った!!!)」」


 姫や中ボスが呆気に取られる。

 しかし、魔王はそんな事を気にする様子はなく、一心にパパ上が持っている≪新作ギャルゲ≫の為に媚を売っていた。


「まー君は、素直だね~♪」


 パパ上は上機嫌になりながら、魔王の手にギャルゲの箱を渡した。

 その瞬間。


「馬鹿め!! ギャルゲさえ手に入れば、親父なんかに媚びへつらう理由なんかない! ザマァみやがれ!」

「あっまー君、ディスクは僕の手元にあるよ」


 サッ

「申し訳ございません、先ほどの行いは、この愚息(ぐそく)めの気がおかしかっただけの事と思い。

 パパ上様の寛大なお心で許していただけると……」


「まー君は、ほんとに手のかかる子だな~」

「てへ♪」


「…………頭痛くなってきたわ」

「小者臭がここまで香ってきますね……あそこまでヘタレだと、逆に潔さすら感じます」

「というか、その“演習”って、≪魔王≫を討取られたら負けじゃないの」

「……はい」

「はあ~」


 重いため息が二つ、静かに木霊するか、魔王と元祖・魔王だけが妙に盛り上がっていた。


 ------------------------------------------------------------------------------------------------------

 軍事演習を終えた皆は、王室へと集まっていた。


「ううっ僕だけやられ損です……」

「まともに戦闘ができただけ、小ボスはまだマシな方よ。

 私なんて、手刀で一撃よ? やられるにしても、もう少し食いつきたかったわ」

「俺なんてレインボーブリッジで“寝テロ“していただけだぞ?」


 王室に、ノソノソとした足取りで席に着く妹と小ボスそれとネコ。

 妹には特に目立った怪我などはなかったが、小ボスは所かしこに湿布や包帯が巻いてあったりと、見た目はかなり重症である。


「小ボスは派手にやられたのね。“不本意”とは言え、不戦敗で終わった私達は無傷よ」


そふいえふぁ(そういえば)さいふぉ(最初の)の“ふぁれ(アレ)”は、なぁんだぁたったんだ(なんだったんだ)?」


 口いっぱいにお茶菓子を頬張りながら魔王が喋る。

 忙しく動く手元と口元とは別に、常に左手にはゲームのパッケージが握られていた。


「最初のアレと言いますと?」

「中ボスとか姫がぼこぼこにやられてた描写があったアレだよ」


 中ボスにそういうと他の皆もあ~といま気がついたと言わんばかりに声を上げた。


「盛り上げるための演出ってやつじゃない。どこから出てきたかは知らないし興味もないけど」

「まあ姫が言うとおり、別に俺様もどうだっていいけどな。投げっぱなしの演出や回収予定のないフラグなんてのはエロゲには付き物だし」


 それよりもだ、と魔王は言いながら、自分の後方にいる相手に怒鳴り声をあげた。


「親父!! 俺様の頭を執拗に撫でるのを止めろ!!

 それと撫でた手の匂いを嗅いでうっとりするのもやめろ気色悪い!!」


 演習が終わってからというのも、パパ上はずっと魔王に抱き着きながら、頭をなで続けていた。

 皆が席についているにも関わらず、自分だけ席にも座れず、立ちっぱなしであった。


「舐めてるだけで最高なんだ!!」

「最高に気持ち悪い笑顔で、最悪の事を口走りやがったよこの親は!!」


 (かかと)でパパ上の靴を必死に踏みつける魔王。

 しかし、そんな抵抗もさらに元祖・魔王を喜ばせるだけで一向に効果はなかった。


「それで、親父はいつ帰るんだ? 親父だって暇な身分じゃないだろ?」


 先ほどの怒り心頭で元祖・魔王に攻撃をしていたとは思えないほど涼やかな顔で魔王は問う。

 そんな表情にパパ上も真剣に答える。


「一週間はここに居るよ。元・魔王にもそう伝えてあるし、しばらくは内政も安定してるだろうしね」

「いや、ほんと帰れよ……」

「十二月十七日(ボソッ」

「どうぞ心行くまで城に居てください愛しのパパ上よ!!」


≪(また買収された……)≫


 そんなこんなで、元祖・魔王。臨時滞在決定!!



前々から話には出ていた軍事演習……過去編が進んだので、このタイミングで元祖・魔王登場です。

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