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過去編第二話

過去編第二話






 中ボスと共に魔界中心部に位置する――魔王城の前まで来ていた。


 魔王は城を見上げる。


「いつ来ても、馬鹿でかい城だな。瞬間移動や、高速移動系の魔法が使え無ければ、到底辿りつけないな」



「ドラゴンで飛んでも三時間。徒歩なら四日は掛かりそうですね」


 城自体の大きさも然る事ながら、人間界にある魔王城と比べれば、敷地面積だけでも三十倍、城の大きさも五倍ほど違っていた。



 そして、人属がこの場所に来た事は今まで一切無い。

 伝説などで、魔王が勇者に倒されている場所である――魔王城と言うのは、人間界に出張っている城に過ぎない。

 それは人間界を征服する為の足がかりの為に、便利上、人間界に建ててあるだけで、本来の魔王城と言うのは、魔界に存在していた。


 魔界にある、この魔王城は落城どころか、人属は入った事すら無い。

 この魔王城を、魔族の本拠地として考えるのであれば、その魔王城を落城させていない事を考えると、

 勇者は一度も魔族を屈服されたとは言えないだろう。

 

 しかしながら、人間界に建設されている魔王城には、その時代最強の魔王が住んでいる事が多い事を考えれば、その魔王を倒せれば、イコール人間の勝ちとも考えられる。



「それにしても魔王様。瞬間移動の魔法を使わなくとも、送迎用のドラゴンに乗れば良かったのではないのですか?」

「あ? ああ、その事か。

 三時間も空の上でただ、じっとしている事なんぞ、俺には出来んぞ?

 それに試験前に、あのクソ親父とも話す事もあるからな」


 魔王はそう言いながら、魔王城の扉を開いた。


「お待ちしておりました。本日試験にいらした、“魔王”様で宜しかったですか?」


 扉を開け、数歩歩いた所で、突如、初老の男が現れた。

 音も無く現れた男は見たところ執事(バトラー)と思える身なりだった。

 燕尾(えんび)服に身を包んだ男は、言葉少なく魔王達を客間へと案内した。


「“セバス”、悪いがあのクソ親父を呼んできてくれないか?」


 客間のソファーに腰掛け、初老の男――執事を呼びとめそう言った。

 執事は手に持っていた紅茶を魔王と中ボスの前に置き、「旦那様の事ですか? すぐにお呼びいたします。しばしお待ちを」と言い残し去って行った。


「“セバス”? 魔王様。あの方のお名前をご存知で?」

「いや、知らん」


 魔王の言葉に中ボスは怪訝な顔をした。


「知らんが、バトラーと言うのは元来。セバスチャンと相場が決っているだろ? だから“セバス”だ」

「アニメや漫画の見過ぎかと思いますが……」

「まあいい、それよりもだ。この客間、他に勇者が四人来るにしては狭すぎないか?」


 そう言いながら魔王は部屋を見渡した。


 二人掛けのソファーが二つ、その間にテーブルがあるだけで、その他は高そうな絵などの装飾品が飾られているだけだった。


 元々中ボスは先ほどのバトラーと同じような立場のようなものなので、ソファーに腰かげず、脇に立っている事を想定し、考えるとする。

 そうすればソファーには、魔王を座っているスペースを除く三人分の席が開く。

 他に四人、魔王候補が来る事を考えると、どう考えても足りない。


「魔王様が床で、他の候補者達はソファーに腰掛ける。それで帳尻はあいますね」

「俺も、候・補・者!!」


 そんなくだらないやり取りをしていると、再び客間の扉が開かれた。


「“まー君”!! 久しぶりだね~元気だった? パパが居なくても夜は眠れたかい?

 そうだまー君!! 今日はパパと二人で一緒に寝よう! 久しぶりだよねパパと寝るのは?」


 扉が開くと、先ほどのバトラーと共に、魔王の父である――元祖・魔王が現れた。

 ≪魔王継承試験≫が行われるこんな日でも元祖・魔王――親父は、枯葉色したヨレヨレのくたびれたスーツ姿だった。

 魔王には、それぞれ礼服のような服があった。

 黒いマントに身を包む者が多く、他にも黒を基調とした甲冑などもあった。

 しかし、親父が来ている服はどう見ても茶色のスーツ。

 こんな由緒ある式典にこのような姿で登場するなんて事、親父以外だったら処刑されてもおかしくはない。


 だがしかし、どんな場違いな格好で親父が登場しようとも、それを咎める者はこの魔界には居ないが。


 息子である魔王ですら、注意するのが億劫だが、他の人から見れば面倒だから注意をしない訳では無く、単に、恐れ多いのだろう。

 魔界では力のあるものが全て。その中で歴代最強である元祖・魔王に正面から何か言える者は限られている。


「クソ!! 離れろクソ親父!!

 うっ! 酒くせえぞ親父! 式典前から酒飲んでやがったな!!」


 魔王に抱きつき頬ずりする元祖・魔王。

 傍から見てもあまり微笑ましい情景とは言えなかった。

 何処からどう見ても酔っ払いに絡まれる一般人の構図だ。


 全身で愛情をあらわす親父からようやく脱出する魔王。


 残念そうに見つめる親父を無理やり向かいのソファーに座らせると、堰を切ったように魔王は話し始めた。


「それで親父。候補者はあと四人なんだろ? ならこの部屋のような場所が何か所かあるんだろ?

 そこに他の候補者が居るのか?」

 

 中ボスは「なるほど」と関心したような声を上げたが、魔王はさらに言葉を続ける。


「なら他の候補者の中に“アイツ”が居るのか?」

 

 魔王の言葉に親父の表情が曇った。口淀むようにして、目線を彷徨わせていた。見るからに話したくないと言った顔つきだった。


「やはりいるのか……義兄(アニキ)が」

「ああ、愚息(ぐそく)は何故か何処からともなく現れたよ。

 今回の試験を何処からか聞きつけたんだろうね」


 魔王が“兄貴”と呼び、元祖・魔王である親父が“息子”と呼び親しんだ彼。

 その昔、魔王がまだ幼く、元祖・魔王を義理の父とし、暮らし始めて日の浅い頃。

 兄は、≪魔王継承試験≫に参加しようとした。

 だがしかし、当時の≪魔王継承試験≫には“最低年齢十六歳以上”という項目が存在していた。

 今でこそ、力があれば年齢なぞ不問としているが、当時は、『若輩者に“魔王”の仕事は務まらない』という昔からの因習(いんしゅう)が存在が、兄の試験への参加を許さなかった。


 そんな古臭いしきたりで、力ある自分が魔王になれない事に彼は激怒した。

 他の魔王が任期を終えるまで、ただ待っている事なんて彼にはできなかった。


 彼は早く魔王という椅子に座りたかった。古臭い風習など嫌っている彼であったが、魔王になり、実現したい事は他の歴代魔王と同じような内容だった。

 

 そんな彼を焦らせたのは、一人の男の存在だった。


 今ここにいる≪魔王≫自身が原因だった。


 もし仮に、兄――彼がこの時の≪魔王継承試験≫で魔王の座に君臨できなければ、次の≪魔王継承試験≫の時には魔王。そう、弟と争わなければならなかった。


 決して彼は弟思いな兄ではなかった。ただ単に弟である、≪魔王≫がただひたすらに“脅威”だったのだ。


 幼くして強大な魔力を体内に内包し。元祖・魔王ですら超える魔力値を誇り、生まれながらにして≪魔王≫の名を与えられは弟が。


 元祖・魔王とは血のつながりが一切ない魔王が孤児になったには訳があった。

 強大過ぎる魔力を幼い頃から持っていた魔王には、幼少時にはその力を操作するだけの技量が無かった。

 そして、彼は実の親や、暮らしていた村すら巻き込むほどの魔力を爆発させた。


 小さな町その爆発で死傷者は五百を超え、その人災は当時、一番世間を驚かせたニュースの一つだ。

 しかし、その事件も、元祖・魔王や、その他の協力もあってか、事件の真実を知る者は数少ない。

 事件の当事者である魔王ですら、真実を知ったのはつい最近なのだ。


「息子……あの子が僕のところに直接参加の意思を伝えに来たときは驚いたよ。

 なんせ“勘当”して、もう会うこともないと思っていたからね。

 あれほどの不祥事を起こしても“夢”だけは捨てられないようだね」


 前回の≪魔王継承試験≫への参加資格を持っていなかった兄は試験の当日。

 魔王候補者全員に対して喧嘩を売るという前代未聞の行動に出た。


 結果は――試験管含め、魔王候補者の全員死亡。

 己が力を宣伝するには、最高の結果であっただろう。


 そして確かに魔界は≪力こそ全て≫

 だがしかし、そんな数少ない“力ある者”だからこそ、その力は正しく使わなければならない。

 兄が行った、理性無き獣のような暴力は、魔界最強にして、実に父の手によって終止符を打たれた。


 そして、元祖・魔王を中心に、その沢山の者たちが責任を問われた。

 この事件で一番の責任を問われたのは、元祖・魔王の親友であり、当時は現・魔王は、この事件を切っ掛けに失脚。

 元・魔王として、今は魔界の相談役としての椅子に座っている。

 結果的に“魔王”の席はこの数年、誰が代わる訳でもなく、“空席”となっていた。


 “魔王”が空席なことにより、人族が勢いづき、魔族の発言力が失われた。

 そんな事態を重く見た元老院達は、新しい“魔王”を求めた。


「それにしても、よく元老院(老害)達は兄貴の参加を許可したな」


 魔王の言葉に、親父は「誰も許可はしていない」と短くいい、魔王も「どういう事だ?」とだけ言うと、次の言葉を待った。


「元老院達や、他の者たちに聞くまでも無く、許可なんて降りないさ。

 現に、報告した今でも許可なんて下りて無いよ。だけどね、皆、≪彼≫が怖いんだよ。

 ≪大魔王(グランドサタン)≫と呼ばれるほどの男の力が、その気になればアレは一人で戦争ができるほどの魔力だからね。逆らうのが怖いんだ。だから黙認するしかない」


「……親父が直接この試験に関わってる理由が、ようやく分かってきたな」

「そう、僕はただ彼が暴走した時に備えて呼ばれた、とい言ってもいい」


 その言葉を最後に、あとは試験についての説明があり、それを終えると試験会場へと向かった。


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