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第二十話『姫って馬鹿? それとも天才?』

『姫って馬鹿? それとも天才?』







 突然ですが、姫が変だ。

 ああ、どれくらい変と言うと、たとえば……


「おっ中ボスと姫か、あいつら何してるんだ?」


 廊下で頬を赤らめながら中ボスに話しかける姫。

 まるで別人のように、モジモジとしながら中ボスに何かを話す。

 中ボスは然もいつもの事言わんばかりに、微笑みながら姫に返事をした。

 そして、姫はハッとした顔をした後に、嬉しそうに笑った。

 更に魔王を驚かした事が……。


「……ありがとう中ボス」


 少し恥ずかしそうにお礼の言葉を口にする姫。

 そんな姫を今週だけでもう三回も見かけている。

 三回とも全てが全て、まったく同じと言う訳ではないが、短く言ってしまえば

 ≪恥ずかしそうに話す姫≫ → ≪微笑み、言葉を返す中ボス≫ → ≪嬉しそうに喜ぶ姫≫

 大体このような内容だ。


 俺様とて、疑問に思っているので、何をしてるのか訊こうともしたさ、だがな。


「中ボス、姫。お前ら何してるんだ?」

「ちょ、魔王!!? アンタこそ何でここに居んのよ!!」


 明らかに動揺を見せる姫。そんな姫に代わり、何やら説明をしようとする中ボスであったが、姫はすかさずそれを阻止。


「ああ、それはですね――」

「何でもないわよ!! 行くわよ中ボス!!!」


 そんな事をいい、姫は中ボスの腕を持ち、引きずるように廊下を移動した。

 突き当りまで行った所で、曲り、そして魔王の視野から消えた。


 その後、それとなく中ボスに訊いても、苦笑いを浮かべながら、話をはぐらかすばかりで、まるで話にならなかった。



 姫に直接訊こうともした。だか、返って来たのは“言葉”ではなく“拳”だった。

 姫は魔王が疑問に思っていた事を話すと、一気に顔を紅潮させ、次の瞬間にも有無を言わす事無く、殴られた。

 気がついた時には魔王は、王室ではなくその部屋の前である、廊下で寝そべっていた。

 

 自分で考えても理由は分からず、聞こうものなら、気絶するまで殴られる。考えようによっては口封じかもしれない。俺様はもしや触れてはいけない禁忌にでも触れているのだろうか?


 やはり納得できない魔王は都合よく、自室へと来た妹にこの事を話した。

 多少、話は端折りはしたが、言いたいことは伝わったと、確信している。


「……恋ね」

「鯉?」

「おにい……そういうベタなボケは要らないわ」

「すまんすまん。それで“恋”ってどういう事だ? 姫が中ボスに惚れてでもいるのか?」

「きっとそうよ! いいえ、そうに違いないわ!」

「いやいや、それは無いだろう」

「おにいの姫が寝取られる……姫をめぐり。魔王と中ボスの血を血で洗う、醜い泥沼の争い。

 そして、行きつく先には……魔王×中ボスが織り成す、主従関係を超えた禁断の愛!!

 更に小ボスが加わり……ねえ、この先どうなちゃうのおにい!?」

「俺様に訊くな!! どこまで妄想すれば気が済むのだお前は!? それに元々俺様は姫のような貧乳女なんぞ好きではない!」

「へぇ~……そうなんだ……胸が大きな人が好きなんだ……。はぁ~……死ぬ?」


 声音、更にはその恐ろしいセリフを聴けば、最早「誰だ!?」などと聞く必要もない。ヤツだ……いつの間にやらヤツが俺様の背後に……。


 今回はタダではやられんぞ! と心の中で意気込み、素早く振り向くと、既に目の前まで距離を詰める姫。

 何故か飛び上がり、その両足を魔王の腕に絡ませる「白か……」などと考えていると、次の瞬間には意識を失うかと思うほどの激痛が走る。


「うぎゃぁあああああああああああああッ!!」

「古代魔法! ≪腕ひしぎ逆十字固め≫!! 飛びつき付きの姫アレンジバージョンよ!!」

「普通にプロレス技じゃないか!! ぎゃああもう止めろぉおおおお!!」


 物凄い勢いでスカートがまくれ上がっていたが、それを垣間見る余裕は魔王にはなく、ただひたすらに姫から与えられる痛みにのた打ち回る事しかできなかった。


 たっぷり五分間ほど技を掛け、満足した姫はようやく魔王を解放した。

「いい汗かいたわ」とうっすらと掻いた額の汗を腕で拭い、ソファーに座る姫。

 その隣には涼しい顔をしながら、我関せずと言わんばかりに妹はただBL本に視線を落としていた。


 姫や妹は対照的に、魔王は下着まで汗でぐっしょり。

 通常では数秒と持たない関節技を五分も掛けられれば、滝のような汗も出ると言うものだ。

 何度となく失神をし、そして痛みで再び覚醒。地獄のような痛みのループに魔王の精神はすり減るどころか、発狂寸前の域にすら達していた。


 叫び声すら上げられぬほど体力を使い、次は声にならぬ声をかすれた喉から発し、その次は声すら出なくなった喉に変わり、体中の筋肉が痙攣(けいれん)と言う形で痛みを表現した。


「『グロ注意』とか『15禁』のタグを付けるべきだったか――ガクッ」


 ここですかさず『まおぅううううううううううううう!!』と悲しみの叫びが聞こえてもいいだろう? そんな期待をしながら、チラチラとソファーに居る二人の反応を(うかが)った。


「あっこれ美味しい」

「でしょ? おにいは嫌いって言ってたけど、私は結構好きなのよね。しかも、カロリーも低いのよ」


 チョコレートを食べながら意気投合する妹と姫。技を掛けられた時は痛みで、今は悲しみで涙が零れる。


「いや、あのさ。無視って酷くないか?」

「起きたのね」

「ねえおにいももう一回食べてみてよ。やっぱりおいしいわよこれ」

「そんな事よりも!!」


 魔王はソファーに座る二名、特に姫の方を見つめると、今度こそは、と思い話した。


「お前最近変じゃないか? いつも中ボスにべったりで。一体何を企んでる!?」

「た、企むって人聞きの悪い……。私は! あれよ……あのその……」

「モジモジしてる姫って予想以上の破壊力ね……私の中の何かが目覚めてしまいそうだわ」

「頼む! これ以上覚醒しないでくれ」

「――うん。そうね。言うわ」

「おっあれだけ渋った割には男らしいな」


 決意の意志を口にした姫だったが、やはり言いづらい事なのか、モジモジと口ごもっていた。


「その……常識……力って言うの? その常識力って言うのがあんまり無いらしいのよ私……」

「はっ?」

「ほら……アンタも私を馬鹿にするんでしょ……」

「い、いや馬鹿にはしてない。常識が分からないって言うと具体的には?」


「……例えば、……この前中ボスに教えてもらったのは……カタツムリの殻無しがナメクジだと思ってたわ」

「女の子なら別にそんなもんだろう」

「あーその気持ちわかるわよ姫。私もそう思ってたから、無理矢理、殻からカタツムリ出したら死んだもの」

「あっごめんなさい……流石に私もそこまではしてないわ……」

「まああれだ。知ろうとする心意気は褒められる行いだ。俺様にもドンと訊くがいい」

「いざ、なんでも訊けって言われても。別に浮かばないのよね」

「おいにおにい。私こんな本持ってるよわ」

「おっ、何々。≪サルでもわかる常識クイズ≫。なんか一時期、えらく≪サルでもわかる≫シールズ出てたよな。まあいい。よしでは小学生編から行くぞ」

「……ええ、かかってきなさい!!」

「姫の目が本気よ」


 昔のスポ根マンガとかなら、目に炎が宿っていそうなほど熱意が籠る姫。

 やる気になった姫に答えるように魔王は問題を読み上げる。


「第一問。小学生低学年の算数だ。度数法だな懐かしい。『全方位角か36●度?』 ●に当てはまる数字を言え。……うわっ簡単」

「ふふ、この程度簡単よ。答えは“365度”よ!!」

「うわぁあああ“5度”増えた!! 1年――365日とごっちゃになってるのか!? 

 もう俺様が手におえるレヴェルじゃねえ!! 妹よ、パース」

「えっ!? ちょ、ちょっとおにい、本投げないでよ!?

 仕方ないわね……じゃあ二問目。北極の動物と言えばホッキョクグマや、セイウチなどが有名ですが。

 では、南極に住む動物を一つ上げなさい」

「うーん……ヒント頂戴!!」

「えっ!? まさかのヒント要求なの? うーとそうねぇ……白と黒の色をしていて。ヨチヨチと二本足で歩く動物なんて有名なはずよ。よく水族館でもアイドル扱いしてるし」


「パトレイバー……いえ、違うわ!! 答えはクロスボーンガン○ムX1ね!!」


「いねえよそんなもん!! 妹が言ったのはペンギンだ!! お前だってペンギンくらいは知ってるだろう!!?」

「えっペンギンって寒いところの動物でしょ?」

「おう、だから南極に居るんじゃないか」


 魔王がそこまで言った所で姫は両目を固くつむり。片手でこめかみを抑えながら、もう片方の手で「ちょっと待って考えるから」と言い、熟考を始めた。


「納得できない……ねえ南極って南国のさらに向こう側だから。暖かいんじゃないの?」

「「…………」」


 互いに黙る妹と魔王を見て姫もようやく焦りはじめ「えっ違うの!?」と狼狽した。


「お前。その格好で南極行って来い……今は冬だからマイナス90度とか味わえるかもな」

「……ごめん」


 自分がどれだけ愚かだったのか悟り。凹む姫。

 魔王達も何とかフォローをしてあげたかったが、励ます言葉は何一つ頭に浮かばなかった。


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その後、中ボスと合流した魔王達は、姫に常識と言うものを一週間に渡り教え続け。姫も挫ける事無く問題を解き続けた。


「では問題!! 円周率、小数点以下50桁まで答えよ」

「π=3.14159265358979323846264338327950288419716939937510」

「よし! 姫、正解だ」

「既に常識力のカテゴリーから外れているような気がしますが、姫様が本当に覚えきるとは……一週間ほど前とは比べ物にならないほどの常識人ですね」


「問題! 黒色火薬に必要な材料は?」

「硝酸カリウム。硫黄。木炭粉」

「流石だ。姫!!」

「えっへん!!」


「これが最後だ。汚名を返上するんだ! では問題!!

 北極の動物と言えばホッキョクグマや、セイウチなどが有名ですが。

 では、南極に住む動物を一つ上げなさい」

「クロスボーンガ○ダムX1よ!!!!」


 この問題だけはいくら教えても、治らなかった。


 結論。南極には ガン○ムが生息している。


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