第十七話『珍獣現る!?』
第十七話『珍獣現る!?』
「ペットが欲しい」
こぼすようにして、そう呟いた魔王。
明らかに『また何か言い出したよコイツ』と言いたげな目が魔王に集まる。
現在王室には、姫と妹しか居なかった。
中ボスは魔王に代わり、一度魔界の元・魔王方に定期報告を行いに。
暇な為か、最近始めた“バイト”とやらに小ボスを行っているらしい。
姫も妹も渋々ながら手に持っていた本を置くと、仕方なく魔王と話す態勢になる。
妹が読んでいた本には ≪快感!! 気になる彼をBLの世界へ落としちゃえ♪≫
と、何ともおぞましいタイトルが書かれていた。
だが、それ以上に気になったのは。
≪拷問!! 気になる彼を奈落の世界へ落としちゃえ♪≫
姫の持っていた本に魔王は戦慄を覚えた。
(…………。気になる彼……俺様じゃない事を祈ろう)
心が悲鳴を上げる中。魔王の言葉に二人が返事をする。
「どんなペットが欲しいの? やっぱり『犬』とか『猫』?」
「魔獣召喚じゃ駄目なの? おにいなら、神獣クラスでも呼びたせるんじゃないの?」
「うーん、一時的なモノじゃなく……まあ姫の言う『犬猫』が一番近い……。
だがなぁ。なんかパッとしないのだ」
唸るようにして、自分の欲しい“理想”のペットを描く魔王。
「猫にしよう、ネコ。
可愛いし、ポピュラーだし。テンプレだし。普通だし。書きやすいし。もう何かと都合がいい」
「迷ってたわりには、結構あっさり決めたわね」
「おにいはネコがいいの? それならつてがあるから私に任せて」
面倒が嫌いな妹にしては珍しく、自ら厄介事を引き受ける。
少しだけ不安にもなりながらも、特に知識の無い魔王は素直にうなずいた。
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「ヘーイベイベー!! どうしだんだ浮かない顔して!!
ママの焼いてくれたチェリーパイが不味かったのか??」
「……ネコ?」
「見た目はネコね」
「かわいいでしょ?」
何だかんだ妹に任せると碌な事がないのでは? と内心思っていたが、妹は一時間もしないうちに、何処からかネコの入った段ボールを持って帰宅した。
そこに居たのは、白い毛並みのネコだった。
子猫とはいかないまでも、まだ大きくなったばかりの若いネコだった。
何故か自己紹介をするように妹が言うと、突如喋り始めたのだ。
普通にしてればネコにしか見えないが、人と同じ言葉を喋るネコと言うのは魔王も見るのは初めてだった。
ネコを飼う時、どんな名前にしようかと、色々と思いを巡らせていたが、一気に萎える魔王。
そんな魔王の気分を野生の感で読みとったのか、ネコ? が喋り始める。
「どうした? 俺の可愛さに身もだえしているのか? ふふふ、もっと愛でるがよい!」
そう言いながら、珍妙不可思議な喋るネコは魔王にフワフワで柔らかそうな腹を見せながら、ゴロゴロと床を転げ回った。
確かに見た目は愛らしいのだが、それ以上に、“喋る”というのが不気味である。
「どうしてこのネコは喋るのだ? 何かの魔法か? 一時的に言っている事が解る魔法なら知っているが。
ネコ自身が、人語を喋る魔法なんぞ、知らんぞ」
魔王は妹にそう訴えながら、ネコを指差した。
姫は物珍しそうにしながらも、“触りたい”という欲求を抑えられないのか、
喋るネコのお腹を緩みきった顔で、サワサワと撫でていた。
「いいえ、この子は始めから喋るみたいなのよ、知り合いの人も不気味がってた見たいだから、折角の機会だから貰って来た。どう? 可愛いでしょ?」
確かに可愛らしさはあったけど、それ以上に……。
「どうした? 俺を飼う決心がつかないのか? 何がお前の決意を鈍らしているんだ?
食費か? 大丈夫だ。俺はネコ以外だったら何でも食らうぞ!!!
……いや何も無いのなら食った事はねえけど、ネコだって食らってやるぜぇ」
器用にも肉球をこちらに向けながら、招き猫のように手を振り、愛嬌を振り撒いていた。
「ねえ魔王。それで、どうするのこのネコ。喋るのは確かに不思議だけど、それ以外は普通よ。
飼ってもいいんじゃないの?」
姫がネコの首筋をなでながら、そう言った。
ネコも気持ちよさそうにゴロゴロとノドを鳴らしながら「話がわかる人間だなアンタ!! 生憎、胸はちと小せぇが。ココロはでけぇな!!」と、姫を褒めた?
「待て待て!! いくら悪態吐いたからってネコの首を絞めるのは色々と不味いッ!!」
喋るネコの首を絞めている姫の腕を強引に振りほどこうとする魔王。
既に首を絞められているネコには意識がなく、口から泡を吹きながら、白目を向いていた。
「ゲッボ、ゲッボ!! ……外道! 非道! 悪鬼! 極悪! 下郎! 屑!
こんな愛らしい俺によくもこんな事ができるもんだ」
文句を言うネコに対して姫はひと睨みくれてやると、すぐさま「ヒィ!」と言いながら魔王の後ろに隠れた。
魔王も、まるで自分を見ているようだ。と内心近しさすら感じながら、同情を寄せていた。
「それで、この気色悪い喋るネコは何処の保健所に持っていけばいいの?」
「さっきと言ってる事が真逆だな。器の小さい奴だな、だから胸も小さッ――いててててててッ」
姫の手のひらが魔王の顔面に近付き、アイアンクローが炸裂した。
万力のような力で絞め付けられた魔王は、激痛に顔を歪めた。
「私が連れてきといて言うのはなんだけど、今更捨てるのはちょっとどうかと思うわよ。
とにかく名前でも付ければ愛着も湧くはずよ」
フォローするようにして妹が言うが、姫は短く「非常食。あるいは“肉”とかにしましょう」と言い、非常食だと言われた当“猫”も青い顔をしながら「えらい所に来てしもうた」と言いながら、頭を抱えていた。
「とりあえず、ネコだと可哀想だし。“ハチ公”とかでいんじゃないか?」
「魔王、アンタそれ《忠“犬”》よねそれ! 犬じゃない!! 余計に混乱するわよ!」
「山猫とかいんじゃないか! かっこいいし! 駄目なら鴉でも――」
「駄目よそんなの!」
「御堂さんがいい。 名前は孝典で!!」
「なんだかよく分からないけど、妹ちゃんに決めさせちゃいけないって事だけは分かったわ」
姫の言葉に頬をぷくーと膨らませながらに拗ねる妹、そんな妹は反撃とばかりに「じゃあ姫は何かいい名前が浮かんでいるのよね?」と投げかけた。
「ん? 猫でしょ? なら名前も“ネコ”でいいじゃない」
「「愛着わかねぇよ(ないわよ)!!」」
妹と魔王が同時にそういうと、姫は「うーん」と唸り。やっとのことで真面目に考え始めた。
「“野田総理”とか、偉そうな感じでいいんじゃない?」
「あのな姫。今は良くても、一年後とかに“元”総理って付けなきゃいけなくなることを考えると却下だろう。
あの国はコロコロ総理を変えるからな、あれはただの民衆の非難を浴びるための的だ」
「おにいおにい! “シュレディンガーの猫”とかいいんじゃない!? 生きてるか死んでるかが分からないという、儚げな存在感が漂ってて!!」
「待て待て!! これじゃあ埒が明かない。
ここはこの“ネコ”自身に決めてもらおう! せっかく喋れるのだ、自分で決めてもらってもよかろう」
魔王はそういうと、姫も妹も渋々従った。三人の視線が猫に集まった。
「そうだな、俺の事は“ご主人様”とでも呼んでくれ」
その後、三人からボコボコにされた猫は、結局、名前が≪ネコ≫で満場一致した。
新キャラですよ、新キャラ!!
基本的な立ち居地は、魔王と同じなヘタレです。