過去編第一話
魔王の過去編です。通常の話とは雰囲気が違います。
過去編は数話続きますが、連続ではなく、何話に一話ずつ挿みます。
後々への布石なので致し方ないと思ってようでくださるとありがたいです。(コメディーってタグつけてるのに、いいのかな? だめそうだったら別けます)
過去編第一話
二年前、魔王は古びれたお城(?)と言うには、語弊があるのでは?
と思うほど、朽ち果てた小さな城に住んでいた。
外壁には、まるで模様のような蔦が絡みつき。
外装から想像できるように、内装の方も惨憺たる状態であった。
廊下は、ただ歩くだけで、今にも床が抜けそうなほど軋む音が鳴り。
壁紙も黒ずむようにして汚れ。豪雨の日には雨漏りの為か寝床がビショビショになる事も多々あった。
いくら駆除しようとも、何処からともなく湧いてくるネズミの処理は疾うに諦め。
今しがた、中ボスの目の前を横切ったネズミに視線を流した。
ネズミは歩みを止めると、恰も「ココは自分の家だ」と言わんばかりに、我が物顔で中ボスを睨み返した。
そんな図々しいネズミ《住民》に中ボスは近付くと、不法滞在の住民は廊下の壁に開いた、小さな穴へと逃げた。
ネズミの姿が消えたのを確認し、中ボスは再び目的の部屋まで歩き出した。
目的の部屋に着くと、可愛らしい字で「魔王」と書かれたネームプレートを見つめた。
そして、少しだけ斜めになっていたプレートを、その手で正す。
プレートを綺麗な位置に配置すると、中ボスは満足げに頬笑み。
目の前の部屋を二回だけ、ゆっくりとノックした。
しばらくすると、中からは簡素な返事が返ってきたので、そっとドアノブを回した。
しかし、そのドアは一向に開かれる様子は無かった。
ドアノブは確かに回したはずだが、その肝心のドアノブは何故かドアから外れ、中ボスの手元にあった。
中ボスが気を付けながら、ゆっくりと回したはずの、ドアノブはガチャリと言う音と共に、外れたのだった。
手に残されたドアノブを無造作にポケットに突っ込み。
またあとで修理をしなければ、と思いながら、中から開けて貰えるように言った。
中から「また壊れたのか?」と半ば呆れるような声が聞こえ、中ボスも小さくため息を吐いた。
そして、先ほどと同じガチャリと言う音を奏でながら、目の前のドアが開……――か無かった。
中ボスは、絶句しながら「今の音は、まさかとは思いますが……」と言い、ドアノブがハマっていた部分を見た。
そこには物の見事に、≪穴≫が開いていた。
中も外も、ドアノブが外れ、肝心のドアにはドアノブが外れて出来た≪穴≫が開いていた。
中ボスは、城のボロさに、遂に我慢の限界に達したのか、そのドアを魔力を使い吹き飛ばした。
部屋の中……いや、中ボスと同じようにドアの前に立っていたのであろう、“魔王”は、その魔法によって吹き飛ばされたドアと共に吹き飛ばされ。
半壊した、ドアの下敷きになっていた。
自分とは主従関係の“主”であるはずの魔王を自らの力で吹っ飛ばしておきながら、中ボスは一切の謝罪も無しに、まずは自分の主人である魔王の上に載っているドアを元の位置に、とりあえず置いた。
魔王は呻き声を上げながら、やっとの思いで置き上がると、小さな卓袱台の前に鎮座した。
既に腰掛けている魔王は、中ボスに席に着くよう声を掛けた。
すぐさま了承の返事をすると、ゆったりとしたマイペースで席についた。
綿がろくに入っていない座布団の座り心地に中ボスは再びため息を吐く。
もっとも、中ボスの目の前に座っている魔王は、座布団すら無かった。
魔王と中ボス。名前の通り、中ボスの方が社会的地位は下――にも関わらず中ボスは何も言わず座布団を使用した。
魔王の部下である中ボスは、一つしか無い座布団を自分が使う訳にもいかないのだが、だからと言って、それを魔王に渡した所で、素直に受け取ってくれるはずはない。
元来、この人はその様なタイプなのだから。
それを表すようにして、魔王は卓袱台の近くにある、電気ポットから湯をくみ取り、お茶を淹れていた。
慌てて、中ボスは「私が淹れます」と言ったのだが、魔王はヘラヘラと笑いながら「いいの、いいの」
と言いながら、中ボスの分のお茶を淹れ、それを中ボスの前に置いた。
感謝の言葉を述べながら、中ボスは今から行われる、長時間に渡る説明の備えて、そのお茶で少しだけ舌を潤す。
中ボスがお茶を口から離し、湯呑を卓袱台に置いたのを魔王は目で追い。
それの動作が終わるのを見計らい。魔王は「それで、何か話があるのだろ?」といい口を開いた。
普段の魔王は、あまり“真面目”とは言えぬほど、戦闘訓練も帝王学もまともに学ぼうとしなかった。
いや、戦闘訓練も魔王を継承する為の帝王学などの勉強も“必要としなかった”のだ。
「魔王様。≪魔王継承試験≫の方ですが。その開催日程が明後日に決定いたしました」
事務な声でそう伝えると、魔王は特に驚いたような素振りも見せずに「随分と急だな」と、まるで他人事のように言い、自分の分のお茶を啜った。
「“元祖・魔王”様――“パパ上”様が日程を決めると言っても。さすがに急過ぎますね」
中ボスも魔王の言葉に同意するようにしてそう言い放った。
“元祖・魔王”――本人は『パパ上』と呼ばれるのが好きなのか、親しい魔族には、そう呼ぶように執拗なまでに言っていた。
その父の息子である魔王の部下をやっている中ボスも例外ではなかった。
目の前に座っている魔王様の“義理”お父上に当る方『パパ上』が、今の魔界を作ったと言っても良いほど、元祖・魔王様は身を粉にして、魔界発展の為に貢献してきた。
「別にあんな“クソ親父”に直接言われたからって。
態々、“パパ上”とか気持ちの悪い呼び名で呼ばなくてもいいのだぞ?」
いつも魔王は父親の名前が出るたびに、明らかに機嫌を悪くした。
けして、自分の父親が嫌いな訳では無く、周りから、『歴代最強魔王の息子』『元祖・魔王の息子』などと贔屓目で見られるのが気に入らないのだ。
何処へ行っても、魔王にもその様な目で見られ、素直に褒められた事なんて生まれてこの方無かったのだ。
何が出来ようとも、それは、≪魔王の血族≫と言う言葉で全て片付けられた。
いつものように苦い顔を浮かべる魔王に対して、中ボスはポケットにしまってあった書類を取り出した。
そして、口早に≪魔王継承試験≫に関しての書類を読み上げた。
「元祖・魔……ゴホン。パパ上様の事はまた後ほど。
いくら明後日と言っても、時間は無限にある訳ではありませんので簡単に説明いたします」
中ボスの言葉に魔王は、話が既に元祖・魔王の話しから、≪魔王継承試験≫の話しに切り替わった事を感じ、説明を聞き逃さない為か、口を硬く閉じる。
「内容は魔王様も理解している通り、試験で求められるのは“力”、魔力や体術などを含む戦闘力を測ります。
まあいつものように“実力主義”という点は変わっておりません。
参加人数は今のところ、東西南北含め五名。
私達が住む“西”からは魔王様一名だけですが。
奇妙な事に“東”から登録されているのが二名となっています。
戦闘力が規定に足りていれば、何人でも参加できるのが≪魔王継承試験≫のルールですが。
四方位から参加資格を持つ者を募ったとしても、今まででも四名以上集まった事がありませんでした。
ですが、今回は“五名”。異例の事態となっています」
中ボスはそう言い、新しい資料を取り出した。
魔王は、特に口をはさむ事無く、次の言葉を待っていた。
「こちらが私達“西”を除く、三方位の猛者です。
この資料を見て解る様に、魔王様を除き、三方位……三名の実力は“規定ギリギリ”魔王様とは雲泥の差があります。
ですが、何処からアプローチを掛けても、もう一人の参加者の名前が解らないのです。
それに関して、パパ上様にもそれとなく聞いて見ましたが、頑なに口を割りませんでした」
魔王は中ボスから資料を受け取ると、そこに視線を落とした。
魔力は当然の事ながら、使用できる魔法の種類や、それを発動させるまでの詠唱時間。
それ以外にも、戦闘センスを含む、取得格闘技なども記載されていた。
魔力上限は一般的な魔族で、その数値を“1”とした場合。
上位魔術師で“10”、上級魔法が扱える最上位魔術師ですら“80”程度。……魔王の血族の平均が80~140ほど。
しかしながら、参加資格のある三名は、100を少しだけ出る程度だった。
魔王になる為の試験……≪魔王継承試験≫で必要な最低魔力が100以上な事から、彼は魔王の血を確実に引いて居ながら、その魔力は、魔王の血族としては平凡と言えよう。