第十四話『進軍!? 勇者五千人の襲撃!?』
第十四話『進軍!? 勇者五千人の襲撃!?』
朝食を食べ、食器洗いは中ボスに任せ。
自分の役目である洗濯を始めるべく、洗濯物をかき集め、その選択物を洗濯機にブチ込み、洗剤を入れスイッチを押した。
魔王はすぐに自室に戻ると、テレビの電源を入れた。
毎週この日の朝九時はローカルテレビで、魔王が好きな番組「マタタビ求めて三丁目」を見る事に決めていた。
もちろん楽しみにしている魔王は、それを見逃さないようにと、出来るだけの用事は先に済ませ、テレビの前に座っていたのだ。
持ってきていたお茶を一口飲み、皿に移してあるせんべいをバリバリと音を立て食べ始めた。
そして、見たい番組も終わると突如、何やら鼻がむず痒くなり始めた。
「くちゅん」
「ちょっと! こっちに向いてクシャミなんてしないでよ、ピースが飛ぶじゃない。
それにしてもアンタ、随分可愛らしいクシャミしたわね」
いつの間にやら姫が魔王の隣で何やら作業をしていた。
魔王の隣で、一人ジグソーパズルを黙々と組み上げる姫。
そして何故か中ボスもその傍らで静かに読書をしていた。
「姫に中ボス、お前達はいつの間に居たのだ? ……ははぁん俺様の事が恋しくて来たのであろう!! そうだろう!!」
何故か、姫の方に、ビジッ指を指す魔王。
姫も姫で、その言葉に反応する気もなく、ただ、パズルの完成図とパズルのピースと睨めっこしていた。
「お前、少しくらい俺様の話を聴いてくれてもよかろう……」
「えっ? なに? なんか言った?」
「あっ……ごめんなさい、何でもないです」
床に「のの」字を書きながらいじける魔王。
だがふと魔王は何か思ったのかその顔を上げた。
「お前なんで俺様の部屋でジグソーパズルなんて組み上げているのだ?」
「私の部屋だとスペースが無いのよ」
「二十畳以上ある部屋に『スペースが無い』だと!? お前は部屋でゾウやキリンでも飼っているのか?」
魔王が責めるようにして言うと、姫は少しだけ言い淀む。
。
「……部屋が……てるのよ」
「あ? なんて言った?」
「部屋が散らかっているのよ!! 分かった?! 聞こえた!!?」
「うぎゃあぁぁキサマ!! 人の耳元で大声をあげるなッ!!」
席から立ち上がった姫は、魔王の耳元で大声を上げた。
その怒声に驚きながら耳を塞ぐ魔王。
少しだけ叫んだおかげで満足したのか、姫は再び席に着いた。
魔王は耳元で叫ばれたのが影響してか、右目をつぶり、右耳は手で押さえていた。
「耳が――耳がイテェ!! キーンってする!! 耳がキーンってするよ~!!」
耳が痛いと叫ぶ魔王の隣では、中ボスは冷ややかな顔をしながら、そっと自分の耳から耳栓を外しポケットに仕舞っていた。
「中ボスって何でも持ってるのね……」
「何でも――は流石にありませんが。
ですが、ドコでもドアやプルトニウムくらいでしたら今すぐに出せます。
お望みでしたら出しますが?」
「――プルトなに? プルートの仲間? まあいいわ」
姫の言葉に中ボスは残念そうに金属の塊と思しき物体を懐に仕舞った。
魔王はその光景を片目で見つめながら、「ココでそんな物出すなよ!!」と心の中でツッコミをしていた。
そんな事をしていた時。電源の入っていたテレビがザザーと音を立てたと思うと突如「緊急放送」の四文字が現れ、皆の視線がテレビに集まった。
『えー番組の途中失礼致します。
緊急速報。現在≪魔王城≫に向かって“勇者五千人”が向かっているとの速報が入りました。
付近の住民の方は家の戸締りを確認し、家から一歩も出ないで下さい。
屋外に居る方はすぐに建物内に避難してください。
緊急速報です。現在≪魔王城≫に向かって“勇者五千人”が向かっているとの速報が入りました――』
テレビから緊急速報が流れ、ニュースキャスターが伝えた内容に唖然とする魔王達。
「「「 勇者五千人!!?? 」」」
一同、驚愕と共に声を上げた。
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魔王城から五キロほど南の小さな町の大通りでは、多くの“勇者”達が集まっていた。
この町には三百人ほどしか住んでいないが、今この町の人口はその十倍以上に膨れ上がっていた。
「本日をもって貴様らはウジ虫を卒業する。今から貴様らは“勇者”である。
貴様らは兄弟の絆に結ばれる。
貴様らがくたばるその瞬間まで、“勇者”は貴様らの兄弟だ。
今から魔王城へ向かう。殆どの者は二度と戻らないだろう。
だが肝に銘じておけ。魔王を殺す!! 我々は魔王を殺す為だけに存在する。
だが勇者は永遠である。つまり――貴様らも永遠である!」
沢山の軍服と思しく服に身を包んだ男達が集まる中、一人大きな帽子をかぶっていた男が言った。
戦場に向かう“勇者”達に激励を飛ばし、それにより勇者達は奮起した。
『サーイエッサー』
全員が一糸乱れぬ統率で声を揃えた。
帽子をかぶっている男もその返事を聴き、誇らしげな顔をした。
そのままの勢いで、男は魔王城に向かって指を指すと「進めッ!!」と短く号令を出し、すぐさま全体に伝わり、勇者達はゆっくりと魔王城へと駒を進めた。
ところ変わって魔王城では。
既に司令室に移動した魔王達。
司令室には当直の小ボスの姿と、妹と中ボスが駆け付けていた。
「勇者軍移動開始しました。現在の兵力、その数≪三千≫。
予想より少ない数ですが、後詰が控えている可能性が高いです」
小ボスがそう言い、同時にコンソールを叩き、勇者軍の映像を中央モニターに表示した。
そこに移されて居たのは小さな町にはびこる、苔の様な黒い模様だった。
それが全て人だと聴いた時は鳥肌が立つほどの人人人。
「相手は勇者だ。人と思ってかかるな。勇者にはそれぞれ長けた特徴がある。
その特徴が分からぬうちは防御に徹しろ」
「お言葉ですが魔王様。あの軍勢が全て魔王城に取り付くような事態になれば半日も経たずに落城ですよ」
「ぐぬぬ……仕方ない魔王ちゃんインパクトを全機出せ!!
使える物は何でも使え。出し惜しみは無しだ」
魔王は“姫”以外のメンバーに役割を振り。
姫は何をやればいいか聞いた。
「お前は“俺様を”護れ!!」
「はあ……ねえ。それって普通逆じゃないの?」
「戦場では勇敢な奴が一番に死ぬ!! 自分の出来る事を弁え。
出来ない事は誰かに任せる。自分が行える役割を行え!! それが戦場で生き残る術だ。
いいか? 戦場では“カバー命”だ」
「そうね。勇気と蛮勇は違うものね。アンタにしては良い事言うわね」
「おう、だからお前は遠慮無く俺様を護れ!!」
「……自信を持って言われるとなんか違う感じがするのよね…………」
魔王が胸を張りながらそう主張するが、ちょっとだけ不服な姫だった。
「魔王様、現在百二十ミリ迫撃砲、砲撃中。
緊急発進させた魔王ちゃんインパクト三機が、あと一分ほどで敵と接触します。
二分後には五機の魔王ちゃんインパクトが交戦地域に入ります。
射程は短いですが、高密度荷電粒子砲。使用可能状態で待機中」
「打てる手は全て打った。あとは結果が出るのを待つだけだ……」
魔王はそう言うと、目を閉じ。結果が出るのをじっと待った。
指揮官がどっしりと構えているだけで、兵は安心し、士気は低下しない。
それを分かっていて行っているかは定かではないが、魔王は自然とそれを行っていた。
相変わらず、底知れぬ方だ。と中ボスは思いながら、自らの仕事に集中した。
「……――迫撃砲での被害絶大。敵に十%程の被害。
魔王ちゃんインパクト現在戦闘中。一機が右脚部中破。それ以外は目立った損害は無し。
被弾した一機は後退させます。五機の魔王ちゃんインパクト参戦。
戦場は現在モニタリング不能。
現在確認できるのは魔王ちゃんインパクトから送られてくる映像だけです」
中ボスがそう言いながら、中央モニターに魔王ちゃんインパクトからの映像を映し出す。
黒煙と爆炎。轟音を轟かせながら突撃する魔王ちゃんインパクト。
多数戦を想定している魔王ちゃんインパクトでも|携帯式対戦車擲弾発射器《RPG》を大量に持った勇者には押され気味であった。
「魔王ちゃんインパクト損害率五十% 生き残っている機体全てが中破以上のダメージを受けています。
これ以上の戦闘継続は不可能です」
「よし、後退させろ」
「おにい、カメラ復旧したよ。現在勇者軍――残り二千!! 高密度荷電粒子砲は連射が無理だから。
多く見積もっても四発しか撃てない。
迫撃砲も継続して撃つけど。それでも千は切らないと思う」
「よし、これより勇者軍を城内で迎え討つ。
それまでオートで射撃をおこなっておけ。
姫は俺から離れるな、離れたら俺様が死ぬと思え!!」
「勇者撃退に、魔王護衛が追加されてる気分だわ………」
ため息を吐きながら姫が言った。
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魔王城、玄関口。
「それで、結局何人の勇者が城に取り付いたの?」
姫がアクビを噛み殺しながらつまらなそうに訊いた。
「最終ゲートを抜けた勇者の数はおよそ八百。迎撃機能の殆どを失っていますので、今は入りたい放題です」
「あの“勇者”達。殆ど勇者としての血が薄いのか、早期勇者警戒用センサーでも中々引っかからなくて困るのよ。見逃した子も居るだろうけど、最終的にココに来る数は、ざっと千百って所ね」
中ボスの言葉に妹が付け加えるように言った。
姫自体も、この城に居た魔族、殆どを返り打ちにしたほどの実力があるので、今回の勇者には特に危機感を抱いてはいなかった。
「来ました」
小ボスがそう言うと、魔王城の玄関扉が破られる。
一気に五十名近い勇者が雪崩込む。
中ボス達も戦っているので姫も仕方なく戦闘に加わった。
「何だ! あれは“姫様”!? 救出目標が我々を攻撃しているだと!?」
「きっと、催眠術か何かだ。傷つけずに捕縛しろ!!」
姫の姿にうろたえる勇者達だったが、抵抗する姫を『傷つけずに捕縛』なんて、到底人が成し得る技では無かった。
そんな事をしているうちに、五十名ばかりの勇者はあっという間に全滅した。
しかし、倒したのも束の間。再び同じような数の勇者が雪崩れこむ。
「ちょ――と。面倒ね!! らちが明かないわ。あっ――魔王そっちに五人行ったわ」
中ボス達の攻撃を抜け、五人だけ魔王の前に立った。
「ふふふ、貴様が魔王だな!! 我ら勇者は≪デス・サントリー≫の異名を持っている。
我らと戦って無事でいた魔族はいない!!」
「デス・サントリーだと!?」
勇者の言葉に、驚く魔王。姫は戦闘しながらも「何それ、清涼飲料水メーカー?」と何やら言っていた。
「我の名前は≪ペプシ≫、勇者としての必殺技は、指からペプシを出すという恐ろしい技だ!!
ふはは、怖かろう!!」
水芸? と魔王はふと思っていたが、ペプシと名乗った勇者が後ろに下がり、次の勇者が魔王の前に立った。
「我は≪なっちゃん≫。我も指からなっちゃんを出す事からそう呼ばれた」
「何だがお前らが不憫に思えて来た……」
「我の名前は≪伊右衛門≫。お茶を入れるのが上手いっという理由だけでこの隊にスカウトされた」
「人員不足だ!! 露骨に人員不足が垣間見れるぞ!!
人員不足の為に、最早、指から液体を出すと言うカテゴリーだけでは集められなくなったか!!」
魔王がまくし立てるようにして言うと、伊右衛門と名乗った男は「でも給料は良いです」と小さな反論をしていた。
「貴様ら下がれ。魔王よ、我は凄いぞ!! 我の名は≪黒酢にんにく≫!! 指から……」
そこまで言ったところで魔王が「ちょっと待って今調べるから」と言い、ポケットからモバイルノートパソコンを取り出し、何やら調べ始めた。
「あっOK、分かった。これもサントリーなのね。いいよ続けて」
魔王は公式ページを見た後、確認が終わったのか、そう言い放ち、勇者の言葉を待った。
「…………ゴホン。我が名は≪黒酢にんにく≫グボァ――!!」
突如、黒酢にんにんと名乗った男含め、魔王の前に居た勇者五人は倒れた。
「はあ、まったく何て長ったらしい紹介してるのよ。アンタ達が“商品説明会”を開いてる間に、アンタ達以外の勇者、全部片付いちゃったわよ」
姫はそう言いながら、ペプシと名乗った男を靴で突いた。
「くそ、不覚であった……ガクッ」
「自分から『ガクッ』って言う人、初めて見たわ」
「貴様、折角俺様もノリノリで勇者の話を聴いていたと言うのに、邪魔をしおってからに!!
まだ最後の勇者の紹介を訊いていないだろう!!」
魔王はそう言いながら、倒れているまだ“商品説明”とやらをしていない勇者に近付いた。
「お前の名を訊いていなかったな。聞かせてくれ」
「我が名は≪コカ・コーラー≫をデス・サントリー最強と呼ばれし男……ガクッ」
「「他社メーカー!?」」
姫と魔王のダブルツッコミで、勇者五千人の襲撃は幕を閉じた。
魔王「クッ!! ≪デス・サントリー≫……なんて恐ろしい連中なんだ(棒読み)」
魔王も脅えるデス・サントリー。その内、他の回で出そうと少しだけ思う作者であった。