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第十三話『最強の勇者襲来!?』後日編

第十三話『最強の勇者襲来!?』後日編



「魔王様、換え湿布ココに置いておきますね」

「ああ、すまんな」


 小ボスは、魔王城の救護室に備え付けられている戸棚から、湿布を取り出すと魔王に手渡した。

 それを受け取ると、ベット脇にそれを置いた。

 糸目の勇者はその湿布に手を伸ばし、自ら湿布の取り換えを行おうとしていた。

 既に小ボスの姿は無く、魔王はドアの方を一瞥(いちべつ)すると、そこにはなるべく邪魔をしない様にとの配慮か、気配を程よく消した中ボスが控えていた。


 魔王は、ベットの近くにある、折りたたみ式の椅子を乱暴に引っ張り出すと、勢い良く腰掛けた。



「“真剣”勝負、だと思っていましたが、随分(あなど)られたものですね」



 勇者は肩にある、古い湿布を剥がし、新しい湿布に貼り替えながら口にした。


 その言葉に魔王は得意げに笑い。


「今は悪魔(マオウ)がほほ笑む時代だ、何を使っても勝ち残りゃあいいんだよ!!」


 と言い、大口を開け笑った。

 勇者もそれに釣られてか、傷を気にしながらも笑った。



 


 一日前。



「――クッ!! ゴルゴーンアイ」

 

 魔王は危険をいち早く察知し、咄嗟に固縛(こばく)魔法を使うと、勇者の動きを封じた。


「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」


 必死に動こうともがく勇者の双眼開かれ、魔王を見つめる。

 と、その時、固縛魔法で出現した黄金のリングがパリンと音を立て壊れる。


 何故、魔法が解けたのか理由が解らず困惑する魔王。


 

 そんな魔王に対して、糸目の勇者は目を見開いたまま、まともな攻撃がままならぬ姿勢で太刀を強引に振り下ろす勇者。

 

 勇者の力に驚愕する魔王だったが、多少の負傷はやむを得ないと判断した魔王は、手に持っていた太刀を勇者の肩に向かって、力任せに振り下ろした。




---------------------------------------------------------------------------------------------


 魔王城にある救護室のベットから半身を起こす勇者。

 その傍らには、勇者の着ていた服と、勇者の得物である刀が置いてあった。

 

 救護室には八つベットが並んでいたが、勇者が使っている一つを除いて、七つの空きがあった。

 それ以外にも六つほど、このような部屋があった。そのどれもが今は使用していなかった。



「まさか、模造刀で“真剣”勝負するとは。それにあれほどの幻覚を模造刀で見せていたとは。

 中ボス殿は凄まじい術をお持ちで」


 扉の方でじっと待機していた中ボスに、勇者はそう言った。

 その言葉に中ボスは黙って、少しだけ頭を下げた。


「魔王居る?」


 姫は救護室の扉を開け、魔王が居るかどうかを確認する為に、視線を彷徨わせた。

 そして、魔王を見つけると、トコトコとやや急ぎ足で歩み寄った。

 姫は、一つの箱を抱えたいた。

 その箱は、勇者との決闘前に魔王から直接預かった物だった。

 姫はその箱を、まるで壊れ物を扱うかのように大事そうに両手で抱えていた。

 



 その箱をゆっくりとした動作で魔王に渡すと。

 魔王は箱を受け取ると、まるで新しい玩具を与えられた子供のように騒ぎながら、姫に感謝の言葉を告げた。



「おお、すっかり忘れておったわ!! 感謝するぞ、姫!」



 魔王の言葉に気を良くした姫は、魔王の行動をじっと優しい目で見守った。

 その雰囲気にのまれてか、勇者ですら、微笑んでいるほどだ。

 

 だかそんな微笑ましい光景も、魔王の要らぬ一言で終わりを告げる。






「では早速この“エロゲ”をパソコン名(真・魔王神宮)インストール(捧げ)なければ!!」






 魔王はそう言いながら、姫の肩を叩き「御苦労、御苦労♪」と言い、姫の横を抜けた。


 鼻歌が聞こえてきそうなほど嬉しそうにする魔王に、底冷えのする声が背中から響く。


(ん? なんだこの背後から迫る、死の気配は? ……これは殺気かッ!?) 


 魔王の背中から視線に、嫌な汗が吹き出る、本能が振り向かずそのまま逃げろと叫んでいるにも関わらず。

 それを無視すると、ゆっくりと後ろを振り向いた。




『……勇者様、こちらへ』

『えっ? 一体なにがどうしたと言うのですか???』


 魔王が硬直するなか、中ボスは逸早く危険を察知し、勇者の腕を自分の肩に回し、勇者の身体を起こし。

 何が何だが解らず困惑する勇者を、多少強引ながらも窓の方へ連れ出した。



「ねえ魔王、質問があります」


「……はははっ」


 乾いた笑いを浮かべる魔王。それに対し、姫は、凍えるような悪魔的な笑みを浮かべ訊いた。


「私がアンタの事を思い、大事に抱えていた“物”って“エロゲ”だったの?」

「イエムマム!!」



 鬼軍曹を前にした新兵のように、条件反射で敬礼を行いながら答える魔王。

 誠に綺麗な敬礼とは対照的に、反対側の手にはしっかりとエロゲが握られていた。



「魔王? アンタさっき勇者になんて言った?」


 姫の言葉に ? マークを浮かべる魔王。その顔を見ながら、姫は笑った。

 それは笑顔ではなく、頬笑み。悪魔の……


「“今は悪魔(ヒメ)がほほ笑む時代”よッ!!」


 凄まじい閃光と爆音と共に。魔王は窓から飛び出した。




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「勇者よ、それで私の娘は奪還できたか?」

「魔王自ら一対一を申し出てくれましたが、結果は……」


 国王城に戻り、国王とのお目通りを許され、国王の前で片膝を付く、糸目の勇者。

 当然、姫を連れ帰る事は叶わなかったので、任務は失敗。

 勇者はどんな処遇も甘んじて受ける覚悟で国王の前に立った。


「まあ元より、“姫”を助け出して欲しいと思ったからお前に命令を出したのではない」

「では何故?」


 国王の言葉に疑問を覚え、下げていた頭を上げ質問した。

 多少、舌足らずな、質問をする勇者だったが、それに対して国王も、気を悪くしたようすは無く、淡々と答えた。


「娘の現状を知りたくてな。それでお前を向かわせたのだ。

 それに、どうせお前程度では今の魔王は到底太刀打ちできんかっただろう?

 見た目や性格が“あれ”でも魔族のトップである“魔王”の地位についてる男だぞ?」


 仮にも糸目の勇者は王都最強という事になっているにも関わらず、国王は勇者に向かって「お前程度」

 と言い放った。


 侮辱としか取れる言葉に勇者は怒りはおろか、嫌悪感すら覚えなかった。

 確かに自分は無力だった。

 たとえ本気を出した所で、魔王どころか、その部下にすら自分は太刀打ちできないと考えていたからだ。

 

 更には自分の目の前に居る国王――元・勇者。

 国王はその昔、元祖・勇者には遠く及ばぬとも、歴代勇者の中ではかなりの力を持っていた。


 今はその力が衰えたとは言え、生ける伝説とも言える元・勇者に対し言い返す度胸も、資格すら負け犬である糸目の勇者には無かった。


「それで、勇者よ。姫は魔王城で近頃は何をしていた?」


 国王は、勇者を態々魔王城に出向かせた、本来の目的を果たすべく、娘の近時を訊いた。


 勇者は答えに詰まったのか、難しそうな顔をしながらも、短く、簡潔に思った事を告げた。


「あまり長くは居なかったので、多くの事は語れませんが。

 良い意味でも悪い意味でも今も昔もあの方は“姫”でした。

 それより気になるのは魔王の扱いですね。

 …………一言で言えば姫様の≪従者≫。……いえ、あれは最早“奴隷”でしたね」


 その言葉に国王は一瞬、キョトンとすると。

 すぐさま合点がいったのか、大声で笑って見せた。





 一方その頃、魔王城では。


「魔王、お茶」

「はいはい」


 短く返事をすると、お茶を入れる魔王。


「肩」

「はい、ただいま」


 大急ぎで急須を置き、姫の後ろに立つと、程よい強さで、肩をもむ魔王。

 忙しく動く魔王に、すぐさま、新しい命令が飛ぶ。


「ちょっと魔王飛んで見なさいよ」

「空に?」

「ジャンプよ、ジャンプ。ほらほら飛んで飛んで」


 魔王が飛び跳ねるたびに、チャリンチャリンとポケットの中の硬貨が踊るようにして音を立てた。


「ん」


 姫は乱暴に手を魔王の前に出すと、魔王は半泣きになりながら、ポケットから財布を出した。

 

 しかし、魔王が財布の中身を覗こうとした時、

 その財布が手の上から消える。

 すぐに、魔王は自分の財布が姫に取られた、という事に気が付いた。

 だが、たとえ、取られた事が解ったとしても、それを取り返すような真似が出来るはずもなく。

 魔王は姫と言う名の、台風が過ぎるのをじっと、辛抱強く待つしか無かった。


「七千円? シケてんわねぇ」


 姫はそう言いながら、器用にも、五メートルほど離れている小さなゴミ箱に魔王の財布をゴミ箱へ投げた。

 財布は綺麗な弧を描きながら、ゴミ箱に吸い込まれるようにして入った。

 見事にゴミ箱へ送り込まれた財布に満足したのか、姫は小さく「よっしゃ」

 と言いながらガッツポーズをし、そのまま王室を後にした。


 音を立て閉まるドアを悲しげな目線で見送る魔王。

 

 そして、魔王の近くでずっと佇んでいただけの中ボスも、魔王の財布入りのごみ箱を『燃えるゴミ』と書かれた、可燃物専用の大きなゴミ袋に移し、それをきつく縛ると、口を開いた。


「魔王様があんな物、姫様に預けるから……」

「うるさいヤイ!!」


 魔王は涙ながらに、中ボスが縛ったゴミ袋から、自分の財布を取り出すと、そう言い放った。


 悲しさに目を赤く腫らせながらも、再び椅子に腰かけ。

 近くに置いてある炭化した箱を手元に寄せると、中から粉々になったエロゲ(ゲーム)のディスクを取り出した。


「これ……メーカーに問い合わせたら保障してくれるかな……?」

「――“ディスク爆砕保障”とか聞いた事無いですね」


 中ボスの言葉に魔王は「瞬間接着剤とかで治らないかな」と呟きながら粉々になったディスクをパズルのように組み合わせる。


 そんな魔王の肩を中ボスはポンと叩くと、ゆっくりとした動作で首を横に振った。


 魔王はそこで耐えられなくなったのか、突如粉々になったディスクが入った箱を持って王室から出て行った。





 その夜、姫は、自分が粉々にしてしまった魔王のエロゲを小ボスに頼み買って来て貰い。

 

 そして、そのエロゲを魔王に渡し、魔王は感涙しながら姫に感謝した。


 

 その光景を見ながら中ボスは思った。


(あのゲームを買うお金って、元は魔王様のお金では?)


 姫の行動を中ボスは見つめながら、見事な“飴と鞭”だと関心した。

 

ちょっとストーリーに直接関わりのある台詞がチラホラ。

まあ適当に行き当たらばたりで書いて来た『姫の従者は魔王様!?』

真面目回も少し片付いた所で、元のコメディー路線に帰るか。



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