第九話『貧乳はBADステータス!?』
タイトルは相変わらず適当なので。気分で変わるかも……と良く言ってるが変更した事ないな……
第九話『貧乳はBADステータス!?』
「おっぱい……」
魔王は王室でエロゲのヒロインを見つめながら呟いた。
その瞳はまるで恋する乙女のような純粋な眼だった。
「…………」
「あの、魔王様、約一名。物凄い殺気を飛ばしておられる方が居ますけど、弁解か、謝罪、どちらかを早急に行った方が良いと思いますよ」
中ボスの言葉に魔王は、恐る恐る後ろを振りいた。
そこには、魔王をくびり殺すのではないか? と思うほど殺気立ってる人が一名。
ドアの前で静かに立っていた。
なんか、ゴゴゴゴとか、ドドドドとか背景に見えるのは気のせいだと思う。
いや思おう、思っておこうッ!
「なな、な、姫!? 貴様、何処から湧いたのだ!?」
魔王は、あろう事か、一番聞かれてはいけない姫に聞かれてしまったのだ。
「人を害虫や湧水みたいに呼ばないで貰えます?」
眉間に皺を寄せながら、こめかみに青筋を浮かべてらっしゃる!!??
魔王の中の腐ったエロゲ脳から醸し出される、脳内軍師が『はわわ、ご主人様。敵が来ちゃいました』とか言っている。
とりあえず脳内会議で導き出した答えは、兎に角、言い訳をするという。
何ともまあ、ヘタレ過ぎて、逆に潔いくらいの発想だった。
「すまん姫、てっきり居ないと思ってつい……」
「『つい』ッて何よ!! ――悪かったわね胸が人よりも小さくて!!
私の胸がアンタに悪さした? 迷惑掛けましたかね!??」
……うわ~『胸が人よりも小さい』って言ったよ……
素直にまったく無いと言えば良かったのに……涙ぐましいな……
「…………いや、別にお前の胸の事を言ったのではない。ただ……」
「『ただ』?」
キョロキョロと視線を左右へ向けた後。
魔王は覚悟を決めたように口を開いた。
「女性なら胸が大きいほうがッ――グアッ」
「うっさいわね! これでも努力してるのよ!! 人の努力も知らないで良く平気でそんな事言えたものね!!」
激怒する姫に対して、中ボスはゆっくりと姫に近付き、諭すように
「姫様、魔王様は完全に気絶しています」
と言い、中ボスはそっと心のゴングを鳴らした。
五分後……
「いててて……。まさか、ヒロインがロシアン・フックを顔面にお見舞いしてくるとは、夢にも思わなかったぞ」
魔王はそう言いながら、額を撫でていた。
出血こそ無いが、一撃で重度の脳震盪を起こすほどの拳が顔面に浴びせられた。
「あっ、魔王様が気絶した後も、姫様は追撃でボディーに一発入れてましたよ」
「お前ホントに“姫”かよッ!!」
魔王は、姫の方を見ると、気まずそうに眼を逸らした。
もっと姫を非難してやりたかったが、それよりも、今は腹部の方が気になっていた。
魔王は、あっそうか……昼食はカレーだったな。
と要らぬ事を考えながら腹部を擦った。
「べっ、別にアンタが憎くてやった訳じゃないんだからねッ!」
「そんなツンデレいらねえよッ!
どこの世界にロシアンフックにボディーとコンボを入れるツンデレヒロインが存在するのだ!!」
「じゃあ何!? 後で校舎裏とかに呼び出して、こっそりと闇討ちすればいいの?」
「最早、発想がヒロインじゃありませんね……」
中ボスが呟くように言ったが、姫は更に言った。
「それによ、私だって胸で物を挟むくらいの事はできるのよッ!」
「……じゃあその“小さな胸”でこの空き缶潰してみろ」
「ギネスブックに登録されるような胸はさすがに持ってないわよッ!
見てなさい、このペンくらい胸で挟んで持ち上げて見せるわよッ!」
そう言い、姫はペンを持ち上げると、両手で胸を寄せ始めた。
「――ッ」
辛い……もう見てられない……。
そう思い視線を中ボスの方へ流すと。
まるで、現実から目を逸らすなと言わんばかりに此方を見返した。
「……魔王様……いくら痛ましく、居た堪れない気持ちになったからと言って、姫様の頑張りから目をそらしてはいけません」
「くそぉ……お前もしっかりと見てみろ。中ボス! 服の上からでも、姫の胸部の悲鳴が聞こえてくるようだ!」
魔王と中ボスは、最早、何故姫がペンを持ち上げようとしているのかという目的すら忘れ。
姫の苦しみに歪む顔を見つめていた。
「――――ッ!! ほら見てみなさいよアンタ達! 私にだってこれくらい、あっ……」
出来たと姫が言った直後、そのペンはまるで意思があるかのように胸からこぼれ落ちた。
そのペンが床に落ち、カタッと音を立て、その音だけが王室に響いた。
まるで無限のように感じられる沈黙が辺りを覆った。
ペンが落ちるという事がこれほど残酷だと感じるのは、これまでもこれからもこれっきりだろう。
「…………」
「…………」
「…………」
重い……沈黙が重い……盛り上がらない合コン並みに喋りづらい……。
「あっ私、そろそろ夕食の用意がございますので、これで……」
「待て中ボス、お前だけ逃げるつもりか!!
――あっ姫! 頼むからそんな悲しそうな顔をするな!
俺が悪かった! 俺が悪かったから! 謝るから! ホント、頼むから泣くなッ!
ここでお前が泣いたらこの場が笑い事では済まなくなる!」
「……だって……アンタが全部……ぐすん……悪いのよ……」
泣きそうになりながら必死に堪える姫に対して、魔王は何をする訳でもなく、オロオロと姫の周りをただ回る事しかできなかった。
まるで泣きじゃくる赤子を前にした、初々しい父親のような構図である。
「そうだッ! 角砂糖も食べたいだろ? 投げてやる……ご褒美だ、何個食いたい? 2個か?」
「ううっ……なんで『角砂糖』なのよ……。それに……ぐすん……あげるなら手渡ししなさいよ」
「御尤もで」
やはり、元医者と元患者のやり取りを元にして説得したが、失敗だったようだ。
スタンドは必須か……。
そんな事を思いながら、魔王は更に言った。
「まあ兎に角、姫。何か欲しい物とかないのか?
なーに、大抵の物なら俺の力で揃えてやる。遠慮なく言ってみろ」
魔王のそんな言葉に姫は少しだけ顔を上げた。
うわっ目真っ赤!!?? ガチ泣きだよ!?
ココで腹抱えて笑ったりなんかしたら内臓が吹き飛ぶほどのパンチが飛んで来るだろうな……。
姫は顔を上げ、その双眸が魔王を捉え、ゆっくりと姫は口を開いた。
「……ぐすん……じゃあ……――む、胸が欲しい……」
「――無理」
姫は、何で何でと子供のように言ったが。正直こればかりは魔王がどうにか出来るような事ではなかった。
「牛乳とか飲んだらどうだ?」
「そんな常識レベルの知識で皆、胸が大きくなったら。私だって苦労しないわよ!」
「じゃあ胸に効くマッサージとかはどうだ?」
「あんな事やっても胸が痛くなっただけよッ!」
痛くなるほどやったんだ……。
魔王はどうすればいいのか更に考えた。
「う~ん……」
魔王が唸るようにして考えていると、姫が突如、口を開いた。
「そうよ! 魔法よ! 胸を大きくする魔法とかないの!?」
これぞ名案と言わんばかりに笑顔になる姫に、魔王は事実を淡々と伝えた。
「胸をミサイルにして飛ばす魔法や胸から光線を出す魔法ならあるが……大きくする魔法は……
一時的な変化の魔法では意味が無いだろうし…………。
あっ! あったな一つだけ! でもなぁこれはちょっと……」
「えっどんな魔法よ!? もったい付け無いで早く教えなさいよ!」
正直一つだけ、手はあったが。これだけは言いたくは無かった。
だが、あると言ってしまった手前。今更忘れたや言いたくないと言えば命が無いだろう。
「……まあ確かにその魔法を使えば胸は大きくなるが……なるが……」
「なによ……?」
「……――胸を大きくして、三十秒後に肉体が爆散するんだ……」
無言……、嫌でも姫の、落胆の思いが伝わる。
「なな、何よそれッ!? それって魔法じゃなくて経絡秘孔を突く技じゃないの!?」
「ああ~、だから魔法名が『巨乳爆砕拳』だったのか、長年の疑問に遂に答えが出たな」
なるほど、だから魔法詠唱の時にアタタタとか言ってたのか。
後でパパ上に答え合わせを願おう。
「だが、姫がこれほど悩んでいるんだ……俺も姫に協力するぞ!」
「食らえ! 『巨乳爆砕拳』ッ!!!!」
「いやぁぁぁ止めなさいよッッッ!」
「くそ、避けるな姫! 他の秘孔を指してしまったら大変な事になるぞ!」
「本命に指しても、他に指されても。どっちにしても危険よッ!」
姫と魔王は鬼ごっこのように王室を縦横無尽に走り出した。
「待て姫! くっ! 姫こっちを見ろ! ゴルゴーンアイ!」
「えっ? なによ! ……ちょっと!? 何よこれ身体が! 動かない!」
「あはは、時期に口すら動かなくなるぞ。これでゆっくりと『爆乳爆砕拳』が使える」
「……魔法名変わってるわよ!」
「――ゴホン。がははは食らえ『巨乳爆砕拳』ッ!」
魔王がそう言い、姫の身体に触れようとした瞬間。
「ッ!? ぐあ! 何だこの光は?!!」
「食らいなさい……」
「くそ? 姫は何処だ……ガァ! ギャ! ――バボラ!」
力なく倒れた魔王を見下ろす姫。
「はあはあはあ……久々に本気を出す破目になったわね」
そんな事を言っていると、王室のドアがゆっくりと開き。
中ボスが滑るようにして入って来た。
「魔王様、姫様。夕食の準備が……なんですかこのボロ雑巾は?」
「俺だ中ボス……」
「汚らしい布っきれが喋った!?
じゃ、じゃなくて魔王様でしたか? どうしました? 雑巾の真似ですか?
それなら渡り廊下でお願いします。丁度汚れていますので」
ヨロヨロと立ち上がる魔王、そして、服のホコリを手で払いながら、中ボスに言った。
「お前、それでも俺の従者……ん?」
「どうしました魔王様、やっぱり雑巾の真似を……え?」
魔王と中ボスの視線は魔王の胸部に当てられていた。
「魔王様はいつからそんな所に風船を仕込む趣味があったのですか?」
「あっ、ああああ。これはッ! まさかッ!」
狼狽する魔王の視線は姫を追い求め彷徨った。
「ふふふ、アナタの後ろよ、魔王様。
正直、初めてだから上手くいくか分からなかったけど、アンタが何度も同じ攻撃をやるから見たままを真似て見たけど。どうなるかしらね?」
「こっ、これは『巨乳爆砕拳』!? 魔王様早く解除をッ!」
「わっ、分かっている。今やってる所だ」
「あと十秒」
「うわぁぁぁなんかカウントダウンしてるぅぅぅぅぅぅ!?」
「あと八秒」
「くっこれか! ――あわわ、足が勝手に!?」
「あと六秒」
「ばっ! 馬鹿ですか魔王様!? それは『残悔積歩拳』ですよ!
アミバが受けたやつです!!」
魔王の足は、魔王の意志を無視して、後ろに向かって歩き始めた。
「あと四秒」
「うわぁこれも最終的に爆散するではないか!? 不味い! 余計に爆弾を増やしてしまった!?!?」
「懺悔は終わった?」
「まだです!」
「あら、残念」
「――ッ!?」
「……爆発してない?」
覚悟を決めて目を硬く閉じていた、魔王はゆっくりと瞼を開けた。
「あら、まあ仕方ないわね、所詮見よう見まねでやってみた、猿真似程度ですもんね」
「ふう~良かった……」
「アンタも馬鹿ね、完璧に術が成功しているかも見極められないなんて」
「仕方なかろう! 姫なら正直成功されるのではないか? と思わせられるほどの実力が……あるのだから……」
「ちょっと魔王、喋りながら後ろ歩きで遠くに行くの止めなさいよ。声が遠いでしょ」
「あ? ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
魔王の意志に従わない足。
魔王は王室のドアに向かって歩き、今まさに部屋から出ようとしていた。
取り乱す魔王に対して、中ボスは至って冷静に言葉を放つ。
「魔王様が自身に行った残悔積歩拳は完璧に決まっています……。そして誠に残念ですが……時間です」
最後の瞬間、魔王は王室から廊下に出た。
魔王の悲鳴だけが廊下に響いた。
その後、魔王は三日ほど姿を晦ましたが。何事も無かったかのように戻って来た。