第1話
幕末、さる譜代大名の家臣に大崎彦右衛門長幸がいた。大崎家は永代家老の家格であり、家禄は二千石であった。
当月の2月は彼が月番で藩政を取り仕切っていた。
彼は齢40代で家老の中では若い方であるが、勤勉実直で藩士からの評判が良かった。
6月には殿様が江戸へ参勤する。その準備で家臣は忙しかった。
そんなある日、お城の月番家老が執務する御用部屋に一番家老がやってくる。
彼は一番家老木村修理の派閥に属していた。
「修理様、いかがされましたか?」
「彦右衛門殿のご子息長正殿によい縁談があるのじゃ」
一番家老より縁組の申し入れがあり、長幸は一つ返事でお受けした。
縁組の相手は下級武士の田村数右衛門の娘雪江で器量がよく奥の侍女をしていた。また、身分を釣り合わすために雪江を一番家老の養女にして嫁がすことに決した。
一番家老の持って来られた縁組なので、誰も文句は言えなかった。
長正は殿様の近習として仕えていて、歳は二十歳であった。この6月には長正は参勤のお供をするので祝言は急がれた。そして3月の初旬の吉日に盛大な祝言が行われた。
長正と雪江は3カ月程は屋敷で一緒に暮らしたが、間もなく長正は参勤のお供に江戸へ出立し、雪江は国元で留守番であった。
長正の出立の前日、雪江は身籠ったかもしれないと夫に告げた。長正は嬉しく父や母にすぐに知らせた。
長正は後ろ髪を引かれる思いで国元を後にした。




