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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

思考実験

作者: だりょ
掲載日:2026/03/12

 ここに一つの思考実験を行う。

 最初に与える文言は次の通りだ。


『もし過去に戻ってその時点より先の記憶を一切失くしたら、自分は全く同じ未来を歩むのか?』


 これを言葉通りに受け取れば、答えはノーだ。

 微小時間が経過した後の全宇宙の粒子の位置は、全ての試行で同じ結果になるとは限らない。

 というのはラプラスの悪魔でもう証明されている。

 従って、全く同じ動きをして寸分違わぬ世界が繰り返されることはあり得ない。


 これを少し読み替えよう。

 ――自分は全く同じ選択をするのか?

 例えば三食の献立、乗った電車、行った場所、歯を磨いたか否か。

 その間の思考や行動に多少の差異が認められたとしても、結果的に同じルートを辿っていたら、同じ未来を歩んだと言えるだろう。

 果たして、そうなるのだろうか?


 未来人が過去に干渉しようと思い立ったとしても、未来ではその干渉が織り込み済みの歴史が既に語られている、と言う。

 干渉しようと思い立とうが立たまいが、結果的には未来が確定していれば同じ未来になるのだ。

 その話を考慮すると、過去に戻る前に確定させてしまった未来をもう一度歩むことになるように思える。


 一方で、こんな話もある。

 ――バタフライエフェクト。

 小さな誤差が長期的に大きな影響を及ぼすことになる、かもしれない。

 そんな理論である。


 全く同じ選択をする過程で、ほんの僅かに違う行動を取ったとしよう。

 家を出て階段を下る時に、空き缶を蹴ってみる。

 落ちてきた缶を踏み、人が転ぶ。

 騒ぎの後、救急車が数台集まってくる。

 気まずくなって回り道をする。

 結果約束の時間に遅れることになって、憂鬱な気分なのもあり全く違う選択をすることになるのではないだろうか。


 もちろんそんな可能性は万に一つもない。

 しかし、その万に一つが起こってしまった場合、未来は確定しているという仮定は誤りになる。

 いくらでもタイムループの試行回数を稼いでよいなら、何万何億と繰り返して一回くらいは起こるかもしれない。


 話をもっと単純にしよう。

 記憶を失くして過去に戻った時、前の世界でできなかった行動を選び取ることができるのか?

 それは、デジャヴから外れた行動を取れるか、という話である。


 ここでパラレルワールドについて考えたい。

 もう一人の自分が存在したとして、私と彼の邂逅はあり得るだろうか?

 と問いかけたら、百人中百人が首を横に振るだろう。

 全く同じ存在が同時には存在できない、という共通の理解があるからだ。

 これはいわゆる、ドッペルゲンガーの存在に関する議論である。


 それなら、もう一人の自分が存在したとして、彼はどの世界に生きるべきなのか?

 それがパラレルワールド、平行世界である。

 平行世界と現実世界では、共時性が成立しない。

 すなわち、空間内の経過時間が一致していれば時間はズレていても構わない。

 こうすることで全く同一個体である二人目の自分の存在を許すことができる。


 しかし、それは同一個体とは限らない。

 無数のパラレルワールドが存在していたなら、その分だけバタフライエフェクトが起こる。

 自らの思考においても適用でき、同一の動きをするとは断言できない。


 さて、原点に立ち返ろう。

 記憶を失くして過去に戻った時の行動について考えていた。


 ある一時点で他のパラレルワールドの時間経過を凍結させる。

 過去に戻る時その世界は一旦破壊し、パラレルワールドの時間凍結を解除する。

 こうすることで、擬似的に時間遡行を可能にすることができるのではないか。


 この時間遡行が成立するとしたら、最初に与えられた命題の真偽は――。




 未来は変えられる。

 この答えに満足した私は、宙から垂れ下がったロープの輪に首を通した。

 ——もし次の世界があるなら、今度は違う選択をしよう。


 体重を支えていた椅子を強く蹴った。

ハルヒのエンドレスエイト観てて思いついたのは内緒です。

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