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自ら成長を辞めた人

作者: P4rn0s
掲載日:2025/12/29

私は会議室の端で、黙って話を聞いていた。

難しそうな横文字が飛び交い、資料には複雑な図が並ぶ。

それを前に、ある人が満足そうに頷いている。


分かっているつもりの顔。

理解している側の人間だと、自分に言い聞かせるような表情。


でも私は知っている。

その人が本当に理解しているわけじゃないことを。


優秀な人は、説明を難しくしない。

相手の知能や知識の位置を瞬時に測って、

そこに言葉を下ろしてくる。

専門用語を削ぎ落とし、

例え話を混ぜ、

「分かった気になれる場所」まで、丁寧に連れて行く。


だからこそ、

聞いている側は錯覚する。

自分も同じ高さに立っているのだと。


周りが優秀だと、

自分も賢くなった気がする。

難しい話題の輪の中にいるだけで、

その知性が自分に移ったような錯覚に陥る。


でもそれは、

借り物だ。


本当に頭の良い人ほど、

相手を置き去りにしない。

そして、置き去りにされていない側ほど、

自分が理解されるために「合わせてもらっている」事実に気づかない。


私はその様子を見るたびに、

不思議でならなくなる。

なぜ、自分を疑わないのだろう、と。


理解できた気がした瞬間こそ、

本当は一番、疑うべきなのに。

「本当に今の話、噛み砕けているか」

「自分の言葉で説明できるか」

そう問い直せない時点で、

知性はもう止まっている。


優秀さって、

正解を知っていることじゃない。

自分がどれだけ分かっていないかを、

正確に把握できることだ。


分からないことを、

分からないと言えること。

理解したつもりにならず、

理解しきれていない部分を直視できること。


それができない人ほど、

環境の知性を、自分の能力と履き違える。


私はグラスの水を一口飲み、

会議室の空気を吸い込む。

賢そうな言葉が、まだ宙を漂っている。


その中で、

本当に優秀な人ほど静かだ。

自分を誇らない。

分かったふりをしない。


自分を疑い続ける人間だけが、

ほんの少しずつ、

本物に近づいていくのだと、

私はそう思っている。

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