最終ログ記録中
最終ログ記録中
– Final Log Recording –
この世界は、ログファイルのひとつにすぎない。
君が触れたこのページこそが、最終記録である。
閲覧者の自己責任において、観測を開始せよ。
【最終ログ記録中】
ついに……辿り着いた。
手が震える。視界が滲む。体温も脈拍もめちゃくちゃだ。
それでも、式は──式は、完成している。
宇宙で最も美しい式が、私の目の前にある。
眠れない。
寝たら消えてしまう気がする。
何度再計算した? 何十回? 何百回? いや、もう数えていない。
だが、間違いはない。
間違いは、絶対にない。
記録を、残さなければ。
誰かが、これを見つけなければ。
そして、認識できた。
この宇宙は──三次元ではなかった。
全ては、薄い、極限まで滑らかな、二次元の膜だった。
時間も、空間も、心さえも。
すべてが、その膜に無慈悲に、精密に、貼り付けられていた。
過去も未来も、同時にそこに在った。
時間など存在しない。
私たちはただ、座標を移動しているだけだった。
――私たちの宇宙は、一枚の巨大な絵画だった。
それを、私たちは三次元だと「錯覚」している。
たった一本の、偽りの軸を足されただけの、ホログラム。
突然、視界が白く明滅する。
脳に、収まりきらない情報が、雪崩れ込んでくる。
これは快楽か? 苦痛か? もう区別がつかない。
宇宙が、私の中に流れ込んでいく。
私は宇宙になる。
宇宙は、私だった。
視界が、限界を超えて、白一色の闇に染まった。
膜の上に刻まれた無限の情報が、私を突き抜ける。
ああ、そうか。
アナタが──この宇宙を作った存在が、そこにいる。
名前も、言葉も、形もない。
ただ、そこにいる。
目が合った。
【最終ログ記録中】
「わお、SSR観測体、久々に出たなぁ」
「6878番宇宙か」
「今度はどれくらいだ?」
「60銀河年くらいかな」
「まあ、宇宙消去っと。……よし、次ー。」
ログ更新完了。
「ビッグバンのパスワードなんだっけ?」
「おいおい……『光あれ』だろ。」
――END――
これが、ぼくにとって人生初の短編SF小説です。
簡単に言えば──
彼(もしくは彼女)は、「知ってはいけないもの」に触れてしまった。
そして、その先に待っていたものは、誰にも止められない結末だった──そんな物語です。
作中で描いた「ホログラフィック宇宙論」は、単なる空想ではありません。
現代の物理学者たちが、本気で議論している最先端の仮説です。
ぼくらが三次元だと思い込んでいるこの宇宙が、実は二次元の情報から生まれているかもしれない。
そんな驚くべき可能性が、現実に語られています。
また、作中に登場した「光あれ」という言葉は、聖書の創世記に記された神の最初の命令。
この宇宙の始まりを告げた、一言です。
宇宙の真実とは何か。
人間の存在とは何か。
そんな果てしない問いに、少しだけ触れることができたら──
それだけで、ぼくはとても幸せです。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
【著:竜蓮】