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第1話 自称アイドル、音咲らら華です♡ part3

「不合格!はーいこれでまだしばらくは自称アイドル確定でーす。」


両手を上げて、オワタ、というようなポーズを取る私。

あははと笑い、ファンには明るく振る舞って見せるが、本当のところは本当に悔しい。泣きたいくらいだ。


【プロアイドルへの道は遠いな】

「本当だよ……いつになったら、私はプロアイドルになれるのかな……。」


配信に映っていないところで、私の足は震えている。頭はボーッとして、他のことは何も考えられない。受け容れきれない辛さがどんどん溢れてくる。視界に入るのは、放置された祝い酒と、画面上の取り繕ったような私の笑顔。この感覚を、あと何度味わえばいいのだろうか。


そんなときだった。


【無理に笑わんでもええ! ¥100,000】


チャット欄に、ある一人が10万円を投げ銭したのが見えた。


「誰だよ10万円投げた人。これ本当は合格祝いに用意してたんじゃないの?もう。」


涙声ながら、びっくりして、本心から笑ってしまう。


【ずるいぞ、合格祝い金なら俺も用意してたんだ俺にも投げさせろ】

【俺も投げる】

【ワイもワイも】


次々に飛び交う、投げ銭、投げ銭、投げ銭。100円、5000円、10000円、10000円、10000円。私は呆気にとられた。


【きっと来年にはプロアイドルになってるから今祝ってもいい!】

【俺も今日稼いできた有り金やるよ】

【本当にプロアイドルになったときにはこんなはした金くれてやらないんだからな】


改めて思う。ああ、私はなんて幸せなんだろう。なんて恵まれているんだろう。


「皆ありがとう。このお礼はいつか必ず返す。私、応援してくれる皆を絶対幸せにしてみせる!」

【もう既に俺は幸せだよ】

【らら華ちゃんが元気になってよかった】


確かに今回、プロアイドルにはなれなかった。でも、ファンのおかげで、自称アイドルのままでも明日を幸せに生きていく程度には心を満たすことができる。それをたった今実感して安心し、私は元気を取り戻した。


「とりあえず、まずはお礼に歌でも歌おっか!」


隠した涙を拭い、ファンに対しそう言った矢先だった。急に、私のスマホの着信音が鳴った。


「また?あ、ごめん、電話鳴ったからちょっと出るね」

【あいよ】

【配信のミュート忘れずにね】


電話は、今度は久留美からだった。


「あ、久留美じゃーん。今配信ちょーいいとこなんだよ。見てくれてたりする?」


私は笑顔で言ったが、久留美はそれをスルーして、真剣な声でこう言った。


「お昼の電話で言い忘れてたけど、らら華、政府からのメール来てない?」


政府からのメールだと……?


「なんのこと?」

「ちょっと耳にしたんだけど、最近自称アイドルにメールが届いてるらしい。」


私は急いでパソコンの配信画面の上に、メールボックスを開く。すると、そこには確かに、政府を名乗る不審なメールがあった。


「ホントだ、結構前になんか来てる!」


迷惑メールになっていたので気づいていなかった。開くと、メールにはPDFファイルが添付されている。そちらは、小さい文字で記されていて、なかなかの長文だ。


「なにこれ、ていうか私、政府に認知されてるの?久留美も届いた?」

「いや?」

「そっかまだか。えっと、内容は……」


添付のPDFファイルを拡大して見る。【特別審査開催のお知らせ】……私がその題名だけ読んだところで、


「とにかく、内容がクソじゃなかったら期限内に返事をしておいた方がいいと思うよ。」


とだけ言って、久留美は電話を切ってしまった。


一人無言で、その内容を読み進める私。

はて。


……なんだこれは。




【おかえり】

【おかえり】

【おけーりー】

【お歌わくわく】


再開した配信の画面では、皆が私の帰りを出迎えてくれている。


「ごめん、歌なんだけど、後でいいかな。その前に、ちょっと皆に相談がある。」


【なに】

【深刻そうね】


私の不安気な顔に敏感に反応して、ファンが心配そうに声をかけてくれる。私は、すかさず話しだした。


「政府からメールが来てたの。曰く、今度自称アイドルの中から一流アイドルを一人選び出す特別審査をするらしい。」


【自称アイドルからいきなり一流アイドル!?】

【それまた急な話だな】

【プロアイドルになる審査をすっ飛ばすってことか】


皆が驚いている。当然だ。私もこの内容には驚いている。


【いいじゃん挑戦しようよ】

【一流アイドルになれば活動が自由なんでしょ?】

【参加!参加!】

【こんなチャンスほかにない!】


またとない話に、皆は私に参加を促す。私だって、泣いて飛びつきたいような話だ。


しかし、これはそう単純な話ではないのだ。


「うん、いい話なんだけど、……この審査、どうやらどっかの会場で対面でやるらしいの。で、不合格ならそのまま有罪判決が出て、刑務所行きらしい。禁錮10年。当然、そうなったらもうアイドルはできない。」


【!?】

【は!?】

【なにそれ】

【本当!?】


「うん、……あくまで政府は、自称アイドルは犯罪者と言い続けてる立場だからね。この仕置きは当然っちゃ当然かもしれないけど……。」


【ダメダメダメ!!】

【不参加で!】

【アイドル辞めるは厳禁!!】


「……だよね。あり得ない話だよ。安心して、参加しない。こんなメール、シュレッダーにかけて抹消してやるから。」


【良かった……】

【もしここでらら華が参加したいって言い出してたらと思うと】

【流石にリスクの方がデカイ】

【一流アイドルになるのは大変だろうし】

【会えなくなるのは嫌だもんね】


皆が安心してくれている。そう、これでいいのだ。これが最適解なのだ。一流アイドルなんて私には早い。こんなの誰が参加するか。そう思いつつ、そのメールの内容を改めてよく見る。いつやるのか、場所は……。


「えっと、……『参加の可否を返答下さい。返答の締め切り、12/13(月)午後7時』……って、今日の7時!?締め切りもう過ぎてるじゃん!」



そのとき、時計の針が7時半を指した。



【らら華ちゃん!!!テレビ、付けて!!今すぐ!!!!!!!!】


「え?」


私はテレビを付けた。耳に飛び込んできたのは、脳を叩きつけるような「ビビビ」というアラート音。不穏で不快な音だ。何事かと思い、私は意識をテレビに集中させた。


『速報です。政府はたった今、国民の安全を脅かす可能性のある自称アイドルに対し、一斉逮捕に踏み切ると発表しました。中継が繋がっています。』


一斉逮捕……?物騒な言葉に、私はテレビの音量を上げた。

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