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遠く、辺境の地へ・1

 ヴァレンティーナが勘当された噂話がまた流れ始めた頃。

 家を出て二週間が経った。

 まだ二週間ではあるが、途中で転移屋で高額な代金を支払って馬車ごと転移し、かなり遠くまで来た。


 広大な農地や、豊かな森が広がる辺境の地。


 何度か荒くれ者を鎮圧したり、迷った老人を保護したりと行く先々で人助けをしてしまう。

 麗しい美青年ヴァレンティーナと美少女二人の噂もまた流れ始める。


 そして今、とある山の麓にヴァレンティーナとアリスはいた。


「ヴァレンティーナ様~これこれ! 食べたかったんですよね~紫リンゴと豚肉の甘辛串焼き!」


「リンゴと……? 合うのかい?」


 ここは山林道に入る前の村で、名物料理がある。

 一休みしていたヴァレンティーナに、アリスが買って持ってきたのだ。


「この紫リンゴはここの特産品で! 甘じょっぱくて美味しいんですって~食べましょ!」


「ありがとう」


 川で馬に水をやり、少し整備された草むらの上に座る。

 その隣にアリスのために、ハンカチを敷いた。


「男前過ぎるでしょう~ヴァレンティーナ様」


 そう言いながら、アリスは座って一本をヴァレンティーナに渡す。

 ここはちょっとした観光地になっているようで、若い娘達がヴァレンティーナを見ては『すごく美形よ』『王子様だわ』とうっとりと見ている。


「様を付けなくていいと言っているのに」


「だって長年のクセですからねぇ」


「私とお前は姉妹のように育ったのだから、そのクセくらいどうにかなるだろうに……。私はもう令嬢ではないのだから」


「私にとってはヴァレンティーナ様はヴァレンティーナ様なんですよ。私を拾ってくださった王子様なのですから」


「拾ったもおかしいし、王子様もおかしいだろう。ん、これは美味しい」


「もぐもぐ……うん! 紫リンゴの甘酸っぱさがまるでソースのように豚肉とマッチしますねぇ。贅沢な値段だったけど、これは食べて正解ですねぇ」


 金はまだ余裕はあるが、いつまでも旅人を続けていればいつか金は尽きる。

 どこかの村か町で家を借りて、仕事を探したいとヴァレンティーナは思っていた。

 

「また深刻そうなお顔をして! なんとかなりますよぉ~もぐもぐ。もう一本食べようかな」


「はは……アリスの気楽さには救われる」


 アリスは幼い頃に、母を病気で亡くして彷徨い歩いていた。

 その弱りきって野垂れ死に寸前のアリスを、ヴァレンティーナが見つけて保護した。

 当時はまだ少し元気だったヴァレンティーナの母が、住み込みで面倒を見ることを許可したのだ。

 今思えば、病気がちで先の短い自分に代わるように、アリスを傍においてくれたのかもしれない。


 アリスは幼い記憶に、その時のヴァレンティーナを覚えている。

 それからずっと、ヴァレンティーナのメイドとして友人として妹として傍にいるのだ。


「今日はこの山を越えなければならないね。最近は野盗も見なくなったらしいが、明日の朝に山を越えた方がいいだろうか」


「それが明日は朝から大雨だって、雨が降ると山は通行止めになる可能性が高いようですよぉ」


「宿は……満室っぽいな」


「しかも此処は割高なんですよぉ~まぁ私とヴァレンティーナ様なら野盗ごとき! シュバ!」


 アリスが食べ終えた串を、剣のように振る。


「自分の腕に過信はいけないが、今日は強行突破した方が良さそうだね」


「はぁい!」


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