ラファエルの気持ち
ラファエルは数日前、ユイカが出席している会議がまだ終わっていないと思いあの通路を通った。
その日は朝から忙しくスケジュールが押してしまい次に会う要人との約束の時間の遅れる訳にはいかず、ユイカがいる会議室の通路を使った方が早く行けると判断しあの通路を使った。しかしあろうことか、会議が終わっており私が現れた瞬間ユイカは通路の端に立って頭を下げた。
最悪だ。
前日も城のエントランスで騒ぎがありチェスターがユイカが面白いことに巻き込まれていると笑いながら報告してくれた。ユイカが?少しだけでも姿を見たい、そう思いエントランスに出た。しかし誰かが私が来たことを大声で告げ城の前にいたユイカは慌てて私に頭を下げた。ユイカ!そんなことをしないでくれ!ユイカの姿を見た時に自分の立場を思い知った。公の場でユイカの近くに行く事は許されない。そんなことをしたらユイカを危険に晒してしまう。すぐに近くにいたアディに様子を見にゆくように告げた。
自分の思いと現実は乖離している。今回も最悪の偶然が重なりユイカは廊下の端に立ち私に頭を下げている。今私の後ろにはエレノアとヘレンがいる。まるでユイカに見せつけるかのように私はこの二人を連れユイカの前を通らなければならない。頭を下げるユイカの手を握りここから逃げる事ができたら、、そう思いながら手を握りしめユイカの前を通り過ぎた。
しかし事件が起きた。エレノアがユイカに絡んだのだ。「あなた、今すぐ顔を上げて!」エレノアは敵意を隠さずこともあろうにユイカの顎先に扇子を当て顔を上げさせようとしている。エレノアの声と行動に周りの空気が一瞬にして凍りついた。
その姿を見た瞬間ユイカを庇おうと踵を返した時アディが私の手を握った。感情的になれば結果的にユイカを追い詰めることになる。冷静に、出来るだけ怒りを抑えながらエレノアを牽制し、その場を離れた。ユイカは体を硬くし震えていた。今すぐにユイカを安心させたいと思う心と行動がバラバラになってしまいその日はエレノアと一言も会話をしなかった。ユイカを怖がらせたエレノアに対し嫌悪感が募る。あの日ユイカの心に暗い影を落としたことはわかった。
すぐに会いに行きたい、けれどその願いは叶わず、それでも少しだけでもと出かけようとした時、たまたま早く起きた要人に出会ってしまい出かける事ができなかった。ユイカに会わなければ、、タウンハウスに戻れていないアディに明日にでも一瞬でも良いからユイカを見てきてくれと伝えた。
エレノアに絡まれた翌日エデルにユイカの様子を聞いたが、大丈夫とだけ報告を受けた。本当に大丈夫だったのかと問い詰めたがエデルはそれ以上何も言わなかった。大丈夫なわけがない。エデルが何も言わない事が答えなのだ。きっとユイカに口止めをされたのだとわかった。エデルを問い詰めたかったがユイカがそれを望まないならばと目を瞑り引き続きユイカを頼むとだけ伝えた。その日、ユイカは休みをもらっていたが、ずっと眠っていたと様子を見に行ったアディが言っていた。その報告を受け今すぐに行ってユイカと話がしたかったが分刻みのスケジュールに追われ願いも叶わず、翌日また最悪の偶然が重なった。
休日のはずのユイカはなぜか城に出勤していた。私は結婚の祝いとして注文していた装飾品をヘレンと共に取りにゆく約束をしており馬車に乗り込んだ時ユイカが現れた。
なぜこんなタイミングで、、。もうこれ以上私達に頭を下げるユイカを見たくない。なぜこんな姿を一番愛しているユイカに見せなければならないのか、、。早くこの場を離れようそう思い馬車を走らせるように手を上げた時、向かいに腰掛けていたヘレンが突然言った。「そこの使用人、そのグローブを持って来なさい」
この女はユイカに何を言っているんだ?ラファエルはその言葉を聞き頭に血が上り立ち上がった。馬車の入口からユイカを見ると頭を下げたまま手にヘレンのグローブを持っていた。ユイカは意を決したように歩き出そうとした。やめてくれ、ユイカにこんな姿を見せたくない。「持って来なくても良い、新しいものを買おう」ざわつく気持ちを抑えようやく言えた言葉だった。なぜ私は愛する人の前でこんなことを言わなければならないんだ、、。
ユイカは頭を下げ馬車が見えなくなるまで上げることはなかった。
私は一体何をしているんだ、どうでもいい女に付き合い、自分の命を捧げても惜しくないユイカを大切に出来ずに傷つけている。一刻も早くユイカの所に行かなければユイカが私を諦めてしまう、私から逃げてしまう。
その翌日にヘレンと聖堂で式を挙げた。私の心はユイカのことで溢れかえっていた。何をしても何を見てもユイカのことしか浮かんでこない。どうやって式をしたのかさえはっきりと覚えていなかった。最後の晩餐が終わったのが明け方だった。そのまま部屋に帰り入浴を済ませ着替えているとダスティンが部屋に飛び込んできた。
エレノア様に懐妊の兆候が見られると。一体何を言っているのか分からなかった。なぜならそんな行為をした覚えがないのだから。
ユイカがこの世界に戻ってきて一度だけ、ヘレンとの初夜だけだ。望まない結婚、望まない行為。
エレノアはなりふり構わなくなってきた。先日のパーティでエレノアは突然私の前に立ちキスをしてきたのだ。人前で私が拒否できない状況だとわかってそんな行動を起こしたエレノアを心の底から軽蔑した。そこまでして私から何を得ようとするのだ?あの時、ジャスミンとユイカを毒殺しようとした時、なりふり構わず殺してしまえばい良かったと私に思われているエレノアは満足そうな笑みを浮かべ私から離れた。たまたま近くにいたジャスミンはエレノアの行動に気が付き私を心配するような顔をし私を見つめた。ユイカが愛しているジャスミンは私の事も大切に思ってくれている。それだけで心の中が暖かくなった。私は微笑みを浮かべジャスミンに大丈夫だとジェスチャーした。けれど本音は到底受け入れられないキスだった。もう既に愛のない行為ができないほど私はユイカだけを深く愛している。本当は愛のない結婚など平気じゃなかった。そのためにチェスターと努力をしてきたが運命の歯車は私の意志と無関係に回ってしまった。
どんなに心が否定しても現実は、エレノアは私の本妻で,ヘレンは第二夫人だ。私が命をかけても惜しくないほど愛しているユイカは何者でもない。私が自暴自棄になるほど愛しているユイカは私の妻ではないんだ。




