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初出勤



ジャスミンは帝都に部屋を借り、城に勤務することにした。母や妹がいるタウンハウスには行きたくなかった。


 一人で過ごす時間が必要だからだ。近くに海はないが、近くに公園があり、夜は明かりが灯り散歩ができる。今までと同じ、生活パターンを変えず仕事ができると思った。


 初出勤に向けてジャスミンはとても前向きになっていた。


 初出勤の日、ジャスミンは動きやすい膝下丈のワンピースを着て街の様子を見ながら城に歩いて行った。


 門番に名前を言うと驚いた顔をしながらも入れてくれた。


「ジャスミン様、歩いて城にいらっしゃった貴族は初めてです」


 城の中に入ると使用人が待機しており驚いた顔をして言った。


「そうですか、街が見たくて、、」ジャスミンは言った。街は情勢を移す鏡だからと、心の中で思った。


 使用人は変わった女だと言う表情でジャスミンを見たが、その表情は見慣れたものだったので気にしていない。


 その使用人はラファエル王子の執務室にジャスミンを案内した。


 ジャスミンは勇気を出してドアをノックした。中から「どうぞ」と声が聞こえてきた。

 

ドアノブに手をかけそっと開け中に入った。


「おはようございます。本日からお世話になりますジャスミン・ホワイトでございます。」


ジャスミンはドアに横に立ちあいさつをした。


 部屋の中にはラファエルがいた。ラファエルはジャスミンの顔を見ずに


「右側の椅子に座って待ってて」と言いながら書類にサインをしていた。


 ジャスミンはクールなラファエルにすこし怖気付いた。


 頭の中のユイカは挨拶の基本も無いのかと思った。国のトップが挨拶も出来ないとは、忙しいのはわかるが顔みて言えば良いのに。


 嫌なやつ!!ユイカは頭の中で怒っている。


「はい」


 ジャスミンはグッと堪えて言われた椅子に腰をかけた。


 ジャスミン、頑張れ!ユイカは頭の中でジャスミンを応援している。


 ラファエルは海辺で助けた時、可愛かったのに。


 

「ラファエル、おはよう!」

 

 一人の男が入ってきた。


 白シャツにグリーンのウエストコートにタイトなトラウザーを履きベージュの髪はオーツバックにセットされておりグリーンの瞳はどこか愛嬌を感じる可愛らしい印象の男だ。


 ジャスミンはチェスターに驚き見惚れていた。


 "ちょっとジャスミン、しっかりするのよ"ユイカはジャスミンに声をかけた。


「おはよう、今日もよろしく」


 ラファエルは顔をあげ男を見て挨拶をした。


 、、なにこれ、ちょっとイラッとくるわね。頭の中のユイカはラファエルの態度にがっかりしていた。


"ジャスミン!!見惚れてる場合じゃないわよ"ユイカはジャスミンに喝を入れた。

 

「あ、この子?あの麗しい双子の、、お姉さん、、全然似てないな。あ、どうも」


 チェスターと呼ばれる男はジャスミンをみて明らかにガッカリした様子で会釈をした。


 ジャスミンは何も言わずに頭を下げたが、チェスターの言葉を聞いてショックで引っ込んでしまった。


 折角ジャスミンが頑張ろうとしたのに!こいつら!

 


 ユイカは突然入れ替わりこの二人に腹が立った。


 でもまだここのことが何一つわからないうちは我慢しようと思いグッと堪え拳を握った。悔しい。


 ラファエルとチェスターは書類を見ながら何か相談を始めた。


 ユイカはやることがなくその相談に耳を傾けていた。


「賭博の取り締まりの件の報告書、各領地の農産物の収穫量、輸入の種について、貯水工事の進展、宝石の輸出、、、、」


 二人は一時間ほど話をしている。


 私は何をすれば良いのだろう。


「あの、何かお手伝いできることはありますでしょうか?」


 ユイカが声をかけるとラファエルはチェスターを見て何か言えという顔をした。


「あ、メイドにお茶を持ってくるよう伝えて」


「、、はい」


 ユイカはメイドにお茶を持ってくるよう頼み黙って二人の会話を聞いていた。


 メイドがお茶を持ってきてテーブルに用意してくれ、ラファエルとチェスターはソファーに腰をかけた。


「ジャスミンもどうぞ」


 ラファエルはユイカに声をかけ、チェスターの横に座れチェスターの横を指差した。


「失礼します」


 チェスターから少し離れた場所に腰掛けて黙って手元を見つめていた。


「ジャスミン、今日ホワイト男爵は心配していたんじゃないか?君みたいな令嬢が城で働けと言われて、、」


 ラファエルが声をかけてきた。


 どうしよう、正直に一人で暮らしていると言った方が良いのかな、、


「、、、心配、、しているかは分かりません、、父の、、タウンハウスでは暮らしていませんので。」


「そうなんだ」


 ラファエルは興味なさそうに答えた。興味がないなら聞かないでほしい。ユイカはイラッとした。


「ジャスミン君の麗しい妹たちは普段何をしているの?」


 チェスターがユイカの方を向いて質問してきた。

 

 ちょっと、さっきジャスミンは君にほのかな恋心を抱いたのにもっと違う言い方あるでしょ?!ユイカはチェスターにもイラッとした。何この二人!最悪!


「、、普段、、わかりません、、」


 一緒に暮らしていないのでジャスミンも私も妹たちが普段何をしているのか知らない。どう弁明すればいいのだろう。


「もういいよ、答えたくないみたいだから。」


 チェスターは少し不機嫌そうに低い声で言った。


 え?全くそんなつもりは無い。そもそも双子のことはユイカにわかるはずもなく、ジャスミンだって同じだ。


 家族に除け者にされているんです。


 と言いたいがジャスミンの意思がわからないから勝手に言えない。

 

 ユイカは黙って硬く握りしめた手を見つめていた。なんだか空回りしてる。


 ラファエルとチェスターは会話を始めた。


 ユイカは自分がなぜここにいるのかわからなくなった。


 ジャスミンだったら尚更だ。


 自分の出来ることは自分で探さないといけないけど、きっと、この二人は私に何一つ期待もしていなくて、今は厄介だと思われている、、。

 

「ゴーン」街の教会の鐘が鳴った


 

「あ、話に夢中になったがもう昼だな。用意させるか。」


 ラファエルがユイカに聞いた。


「昼食はどうする?」


「あ、私は外でいただきます、ありがとうございます」


「わかった、一応一時間ほどだがゆっくりどうぞ」


 そう言ってラファエルとチェスターはまた話を続けた。


「では、失礼します」


 ユイカは部屋を出た。


 城の庭園に出ようと階段を降り始めた。


 ラファエルの執務室は城の二階にあり、三階から上はよくわからない。恐らく王家のプライベート空間だと思う。


 あ、お弁当が入ったバックを置いてきてしまった。


 部屋に戻りドアに手をかけた時、ラファエルとチェスターがジャスミンの話をしている声が聞こえてきた。


 


 

 

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