ラファエルの結婚
ラファエルの結婚式当日。
ジャスミンとチェスターは控室にいるラファエルに挨拶に行った。エレノアは別の控え室にいてここには居ない。
ドアを開け中に入るとラファエルは窓辺に立ち遠くを見つめていた。
その日のラファエルは全身白の正装姿で、この国のトップとしての威厳と品格、そして美しさがあった。
その輝くようなオーラは見る者達を圧倒し、この人こそ皇帝だと誰もが認められる姿だった。
「ラファエル、やっぱお前は王族なんだとつくづく感じるな」
「チェスター様,本当ですね、今日のラファエル様は圧巻です」
ジャスミンもチェスターの意見に同意しながら二人はラファエルの近くに行き頭を下げた。
ラファエルは少し俯きながら「ありがとう」と短く答えた。
ジャスミンはそんなラファエルを見て胸が痛んだ。おそらくラファエル様はユイカに会った。何があったのか分からないがあんなにユイカに会いたいとしつこかったのに、急にユイカの事を言わなくなった。
ただ、、笑顔もあまり見せなくなった。
ユイカも何も言わない。
「ラファエル様そろそろお時間でございます」
アディが声をかけた。
「じゃ,そろそろ俺たちも行くか」
チェスターがジャスミンに声をかけた時、ラファエルがジャスミンに言った。
「、、ジャスミン、お願いだ、ユイカと話がしたい、一瞬でもいいからユイカを出してくれ」
チェスターはラファエルの気持ちに配慮し、そっと部屋を出た。
ジャスミンは迷ったがこんな時までユイカに会いたいというラファエルを放っておけなかった。けれどユイカの気持ちを考えると苦しくなる。ジャスミンは迷ったがゆっくりと息を吐き、目を閉じた。
「あ、」
ユイカがラファエルの目の前に現れた。
「、、ラファエル様、、今から式ですか?」
ユイカは美しいラファエルの姿を見て胸が詰まった。、、おめでとう、、と言えない。ラファエルから視線を外し少し俯いた。
エレノアとの結婚を心から喜べない、、こんな顔を見せたくない、、そう思い胸元に隠れている真珠の指輪をドレスの上から握った。
ラファエルは切ない眼差しをユイカに向け、言葉に詰まりながら話し出した。
「、、ああ、そうだ、、、。今から、、、。、、、ユイカ、、私は、、」
何も言わないで、、何も聞きたくない、、。
ユイカはラファエルの言葉を遮るように話し始めた。
「ラファエル様、私のいた世界で緊張した時にするおまじないがあるんです」
ユイカは指輪を握っていた手を離し、戸惑うラファエルの手を両手でそっと握り、手をひらを開かせて人差し指と中指と薬指の三本で黒板を消すように三回撫でてから字を書いた。
その瞬間ラファエルはあの日のことを思い出しその衝撃で息が出来なくなった。
まさか!
「この書いた文字を飲み込むんですよ、そうすると緊張が消えるんです」
ユイカは微笑みながらラファエルに言った。
……「ユイカ、、。あなただったのか、、あの日、溺れた私を助けたのは、、私を介抱したのは,,ユイカだったのか、」
ラファエルは瞳の奥に熱いものが込み上げた。ユイカは私に何かを望むことは一度も無かった、、ジャスミンの為に幸せを願い、私のために何も言わずに、、。ラファエルは胸の奥にある熱い気持ちを吐き出すように深く息を吐き上を見上げ瞳を閉じた。そして瞳を開け万感の思いを込めてユイカを見つめ、その手を握りそっと自分の口元に当てた。
ユイカもラファエルを見つめた。ラファエル様、、、覚えていたんだ、、。忘れてると思っていたのに。もう、それだけで十分。
ジャスミンはチェスター様と幸せになり、今日ラファエル様はエレノア姫と結婚し幸せになる。これで、、
この物語は、ここで終わるのが正しいんだ。
ユイカは決意した。この世界に私が居なくて誰も困ることはない。ジャスミンとチェスターが幸せになる為に私は戻らなきゃいけない。
あの日、瀕死のラファエルを助けたのはユイカだと思い出してくれても、、人魚姫の王子が自分を助けてくれたのは人魚姫だったとわかったとしても、、、
もう進んでしまった運命と動いてしまった気持ちは、、きっと変えられない。
ユイカはラファエルを見つめた。ラファエルは瞬きもせず私を見つめている。私を見つめるラファエルを、この瞳と心に刻んでおこう。ずっと忘れない。
ユイカはラファエルから視線を外し胸元の指輪をもう一度握りしめた。ラファエル様がくれたこの指輪。本当に嬉しかった。
ユイカは息を吸い、全ての思いを吐き出すよう深く息を吐き、顔を上げラファエルに笑顔を向け言った。
「、、私、もう、、行くね」
、、ありがとうジャスミン、さよなら、、ラファエル様
その瞬間ユイカはジャスミンに代わった。
ラファエルは頭の中が真っ白になった。もう少しユイカと、もう一度話がしたい。
「ジャスミン!ユイカを、もう一度ユイカを出してくれ,ジャスミンお願いだ」
必死で懇願するラファエルにジャスミンは突如号泣した。その瞬間ラファエルは嫌な予感がし息をのんだ。
号泣しているジャスミンが嗚咽をこらえながら絞り出すように言った。
「、、ラファエル様、、ユイカが、、ユイカが消えてしまいました。」
ラファエルは心臓を鋭い鉄の矢で貫かれたような衝撃を受け、震える手で胸元をおさえながら声にならない声で呟いた。
「消えた?、、嘘だろ?」
あまりの突然な事にラファエルは愕然とした。なぜ消えてしまった、ユイカ、なぜなんだ!ラファエルはよろめきながら一歩後ろに下がり壁にもたれかかった。震える唇に手を当て息を呑んだ。首を締めらたように喉の奥が詰まる。上手く息ができない。
ユイカ、、嘘だ、、居なくなったなど、受け入れられない、、。
ラファエルは全てを投げ出し今すぐにでもユイカを探しに行きたい、だけどユイカを探す方法が何一つわからない。じっとしていられなくなり体を壁から起こし、部屋の中を歩き回った。
そしてドアの前で泣き崩れるジャスミンを掴み言った。
「ユイカ、、、ジャスミン、、ユイカを、、」
ラファエルは目の前で声を殺し泣いているジャスミンの両肩をもち言った。
「もう一回!ジャスミン、、もう一回だけユイカを呼んでみてくれ!!」
ジャスミンは涙を流しながら首を横に振り嗚咽を漏らしながら言った。
「ユ、、ユイカは、、消え、ウッ、、消えて、、」
ジャスミンはこの現実を言葉にする事が辛く言葉に詰まり顔覆った。
ああ、これ以上ジャスミンにユイカを呼んでくれと言うことは出来ない、、。
ジャスミンと私はかけがえのない人を失った。
ラファエルはジャスミンの肩から両手を力なく外し、拳を握りしめユイカを想った。なぜこのタイミングでユイカは消えてしまった、なぜ、、ラファエルは唇を噛み締め胸元を掴み衝撃に耐えようとしていた。
ユイカ、、、あなたがいない現実に、、心が、、ついて行けそうにない。
「ラファエル様!お時間です」
、、、けれど、そう、これは、、自分が選んだ、、道。
ラファエルは目を閉じて全ての感情を押し殺し静かに部屋を出て行った。
ドアの前で聞いていたチェスターはラファエルと入れかわり部屋に入った。
チェスターは声を上げ泣き始めたジャスミンを抱きしめ、ラファエルの苦しみを思い静かに涙を流した。




