王子との出会い
美しい男性に驚いたジャスミンは頭の中に引っ込んでしまい、ユイカがジャスミンになった。
生きているの?
男の口元に耳を当てて呼吸があるか確かめた。
息をしていない?!すぐに左胸に耳を当て弱く打ち付ける心臓の音を聞いた。
急がなきゃ!すぐさま男の軌道を確保して人工呼吸を始めた。一分もたたぬうちに男は息を吹き返したが、意識朦朧としていた。
それに海の塩でやられたのか、それとも何か他の理由なのかわからないが目が見えていないようだ。
このままここに放っておけない。
声が出ないユイカは意識朦朧とする男に立つようにと腕を引っ張り上げ立たせ、男に肩を貸してまるで戦争映画のラストシーンのようにヨタヨタとしながら,時どき転びながらも別邸に男を運んだ。
とりあえず着替えさせないと、、
男をソファーに寝かせあらためてその顔を見つめた。
金色の髪、すっと通った上品な鼻筋とくちびる、瞳の色はブルーだが今は瞳孔が開き少し濁っているが全体が美しく整っている。
背は高く細身だが程よく鍛えられており、首には金のネックレス、白いブラウスはシルクでボタンはくるみボタン,袖は少しゆるやかなシルエットだが手首のところが絞られておりそこも無数のくるみボタンがつけられている。
ズボンは細身で靴は履いていないが恐らくスーツを着ていたような雰囲気で、ジャケットは脱いだのか脱がされたのか着ていなかった。
どこかの国の王子様なのかもしれない。人魚姫の物語を思い出した。
とにかく脱がして着替えさせないと。
ユイカは徐にその男のブラウスを脱がし始めた。途中自分の長い髪がくるみボタンに絡まった。
仕方ない、ユイカは絡まった髪を切った。
男の体、、昔付き合っていた人の身体を見ているから平気だが、あの身体と今目の前にいる男の身体は別物。
程よい筋肉に熱い胸板、、美しい、、。
少しだけ自分の行いが恥ずかしくなったが、そんな事は言っていられない。
全部脱がしバスローブを着せてもう一度立ち上がらせてベットに寝せた。
キッチンに行きお湯を沸かし少し冷ましてから男の元の行き、声が出ないユイカは男の手に文字を書いた。
急に手を握るとびっくりされると思いまず手をそっと握り、手にひらを開かせて人差し指と中指と薬指の三本で黒板を消すように三回撫でてから字を書くようにした。
毎回会話の前にそれを行うといつのまにか男もまるで返事をする様に手を握り返すようになった。
"喉乾いていませんか"
「乾いています」
男は答えた。その声は弱々しい声だが、どこか重みを感じる心地よく響く声だった。
目の見えない男の手にコップを持たせて口元に誘導し飲ませた。その後男は静かな寝息を立てて眠った。
翌朝ユイカは召使いにスープを作ってもらい男に飲ませた。男はスープを平らげまた眠った。
数日後、男は固形物も食べれるようになり目覚ましい回復をしていった。
その間ジャスミンは出てこなかった。
ユイカは男の着替えを用意し目が見えずらい男のシャツのボタンを止めていた。
髪を纏めずにボタンを止めていたせいで髪がボタンに絡まった。ああ、また!
ハサミを取り出し髪を切った。
「今髪を切りました?」
"ええ,ボタンに絡まってしまって"
「驚きました、髪は女性にとって大切ではありませんか?」
"髪より大切なものありますからどうでも良いですわ"
「あなたの考えは女性では珍しいですね」
"褒め言葉として受け取りますね。それより大分調子が良くなりましたね"
「ありがとうございます、お陰で調子はとても良くなりましたが、まだ目の調子が悪くぼやけてほぼ見えないのです」
"瀕死の状態でしたから、きっと時間がかかりますが良くなりますよ"
「最初に比べると確かに大分見えますから、焦ってはダメですね」
"はい、必ず良くなりますよ"
「私たちはお互いに目が見えない、声が出ない、満身創痍ですね!」
"それでも生きているって人間はなかなか壊れないですね"
「あははは、壊れないって、すごい言い方するんですね。ところで名前を教えて下さい」
男が名前を聞いてきた。どうしよう。
この体はジャスミンの体、ユイカが勝手に名乗る訳にいかない。
ユイカは黙ってしまった。
「あ、出過ぎた真似を、、命の恩人にすみません、本来は自分が名乗るべきでした」
男はユイカに謝った。
"気になさらないで下さい"
「、、私はゴールドバーグ王国のラファエル・ハイドと申します」
私はその名前を知っている。ラファエルはこの国の皇太子だ。
まさかと思っていたがやはり王子だった。
"あなたは王子様ですね、、"
「、、はい、驚かせてしまいましたか?」
"何故こんなことに?"
「、、船が転覆したのですが、理由はまだわかりません、そろそろ捜索される頃だと思います」
"このようなむさ苦しいところにお連れして申し訳ございません、すぐにお城に連絡いたします"
「ありがとうございます、この御恩は必ず返します」
"いいえ、恩をきせたいわけじゃないですから、、、"
そう言って一旦部屋を出た。本宅の両親に言わなければ。
本物のジャスミンは眠ったままだ。