切ない夜
ジャスミンはそれ以降の記憶が吹っ飛んだ。ユイカがパニックになったせいなのかジャスミンにも影響があった。
その日の仕事もほとんど手につかず、気がつけば家に戻っておりまたユイカが表に出ていた。
あの、エレノア姫、、何を考えているのかわからない怖さがある。
得体の知れない不安がユイカを襲った。
「あ、」
ラファエルにもらったネックレスが動くたびに肌の上を滑らかに滑る。ユイカはそっとネックレスに触れた。
不思議と不安な気持ちが引いていく。それと同時に甘酸っぱいような初めて恋をした時のような切ない感覚を覚えた。
ラファエル様、、あの日海で助けた時、まさかこんなに関わる人になるとは考えても見なかった。
お城で再会した時は冷たい彼が大嫌いだったけれど、彼を知るたびにどんどん惹かれてゆく。
でも、恋してはダメだ。実体のない私は恋愛が出来ない。
、、はぁ。疲れた、、こんな日は早く休もう、ユイカはため息を吐きベットに入った。
ジャスミンの部屋は二階にありその窓から城が見える。
ユイカはベットから城を見つめていたら自然と涙が溢れて止まらなくなった。気持ちが落ち着かない。
一体私はどうしたの?ユイカはラファエルの事を考えると切なくて苦しくなった。
人魚姫は王子様を助けたのは自分だと言えなかった。
私も同じ。
実体のない私は,,何も言えない。
ラファエルに好きだとも言えないのだ。
城を見つめると胸が苦しくなり、悲しい気持ちになる。
ユイカはネックレスに触れた。
ラファエル様、ネックレス、、ありがとうございます。
ユイカは瞳を閉じた。
「おはようございます」
ある日の朝、ジャスミンは執務室に入ったが誰もいない。あれ?今日は何かあった?
廊下に出て忙しく動き回る使用人を呼び止めきいた。
「ジャスミン様,今日はティーパーティーでございますよ。ジャスミン様の仕事はお休みだと思いますが、、」
「ありがとう」
お休み?、、聞いたような気が、、確かエレノア姫が主催、、。
誘われていた!
あの日ユイカがパニックになって急に代わったから忘れていた。誘われてた!
どうしよう!どうしよう!!うっかりして、家に帰ってドレス、、時間が無い、、ああ,なんてこと。
「ジャスミン様、やっぱりジャスミン様はジャスミン様ですね」
アディが現れて笑いを堪えながら声をかけてきた。
「アディ様、私は、、」
「大丈夫です。こちらに」
アディは全てわかっているようにジャスミンを先日の貴賓室に連れて行った。そこにはメイド達が待機しており
ジャスミンを有無も言わせず手際よく着替えさせ全ての支度をしてくれた。
「あの,これは一体」
ジャスミンは髪を七対三に分けられ、七の部分は緩く巻いてありそこには美しいパールの装飾がつけられていた。そしてドレスは深いブルーのマーメイドタイプで夜のドレスのような華やかさはなく、上品で質の良いしっとりとした美しい輝きがある。
人魚姫だ。
ユイカはジャスミンの姿をみて大好きだった童話の人魚姫を思い出した。
王子様を助けた人魚姫。
ジャスミンはアディにエスコートされ会場に向かった。
「ジャスミン様、本当にお綺麗で、ラファエル様が選んだドレスがよくお似合いです」
「このドレスはラファエル様が?」
ジャスミンは驚いた。ラファエル様はなんとなくユイカの存在をわかっているような気がする。
「はい、ラファエル様はきっとジャスミン様は今日のことを覚えていないだろうから用意をしておくようにと、、」
アディは何故だかわからないが、池に落ちたジャスミンと今のジャスミンは違う人に思えた。
「、、恥ずかしい次第です。」
ジャスミンは下を向き顔を赤らめた。
「けれど私もこんな美しいジャスミン様を拝見でき、エスコートさせていただき光栄でございます」
アディはやはりこのジャスミンは違うジャスミンだと思った。奥ゆかしいこのジャスミンはチェスター様が気に入っているジャスミン、、。そんな馬鹿なことは、、ないか、、。アディは小さく首をふり優しくジャスミンに微笑んだ。
「アディ様、ありがとうございます。私みたいな人間でもそう言っていただけると本当に嬉しいです。」
ジャスミンは褒められて本当に嬉しくなった。
「ジャスミン様は素敵な方です」
これは本心だ。
ジャスミンはアディに微笑んで感謝の気持ちで頭を下げ、アディも同じように微笑み頭を下げた。




