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3杯目 ほんのちょっとの勇気を出してみる

 僕は自室で1人、彼女にやってしまった事への謝罪の仕方を考えていた。

 と言うのも、これまでの人生謝る様な事が起きる関係性にまで至った人がいないからで。とこんなことを思ったが、1人浮かんだ。しかしまあ、()()()は違うと否定する。しかし、いくら考えても思いつかなかった僕は、最後の手段を取ることに。


「これだけはしたくなかったが……しょうがないか……」


と呟いた僕は、ある人物に電話をかけた。


────プルプル


『どうしたんですか〜? 陰キャセンパイ?』

「あのなぁ。その呼び方やめろって言ってるだろ」


そう。幼馴染である一個下の鈴本 愛理(すずもと あいり)である。こいつは、いつも僕をからかってくるので、正直頼みたくはなかったのだ。


『そんなこと言っていいんですか〜? 何か用があったんでは無いんですか〜?』

「別にいいだろ。お前、僕にどれだけ貸りがあると思ってるんだ?」

『……げっ! それを出すのはずるいですよ! 仕方ありませんね。要件を簡潔に、3文字以内で言ってください』

「3文字以内なんて無理に決まってるだろ。まあ、簡潔に言うと女性を傷つけたかもしれない」

『3文字って言ったじゃ……って、っえ? 今なんて言いました?』

「だから、大学で女性を傷つけてしまったかもしれないと言ったんだ」

『センパイ……ついに二次元と三次元の区別がつかなく……可哀想に……』


ほらね。こいつに相談するのがバカだった。と後悔した僕は呟く


「やっぱりお前に相談するのが間違ってたな。もういいや。じゃあね」

『……ちょ、待ってください! ちゃんと聞きますから! 切らないで……」

「本当にちゃんと聞いてくれるんだな?」

『もちろんです!』

「実は、────」


 その言葉を聞き、僕は事の顛末を話した。

 大学に向かう途中で、女の子を助けた事。その子が同じ大学で話しかけてきた事。それに対して僕は知らない人のふりをしてしまった事、そしてそんな彼女に謝りたいと思ってる事。等全部話した。それを聞いた愛理は呆れた声で言う。


『センパイ何してるんですか? バカなんですか? はぁ……そんなんだから陰キャセンパイなんですよ』

「……やっぱりやらかしたよな」

『詰んでますね。信じられないです』

「どうしたらいいと思う?」

『ちゃんと謝ってください。そしてどうしてそんな事を言ったのかの説明も』

「……わかった」

『ついでに、最近できた駅近のスイーツの美味しいお店にでも連れてってあげてください。女子は甘いものが大好きなんです! 今回のお礼としてわた……』

「ありがとうな。じゃあまた」


 何か話していたが、多分どうでもいいだろう。僕はお礼を伝え、電話を切った。なんだかんだ言って、ちゃんと話を聞いてくれる愛理には感謝している。高校時代にも……まあそれはいいか。

 その後、提案されたお店を調べているとメッセージアプリの通知がたくさんきていたが、開くことはなく眠りについた。


 そして後日に痛い目を見るのだが、それはまだ少し先の話。


 次の日、僕は少し大学に行くのが億劫だった。と言うのも、昨日彼女にあんな事を言ってしまったからである。まあ、謝ると決めたので行くのだが。色々考えていたが、ふと時計に目を移すと8時20分を指していた。今日は1限からなのでそろそろ出ないと遅刻する。急いで身支度をして足早に家を出た。


 駅について、改札に向かう僕だったが突然誰かに掴まれて、足を止めた。先に言っておくよ? 痴漢などしてないからね? 本当だよ? とまあ、よくわからない事を考えながら振り返るとそこに待っていたのは昨日の彼女だった。


「……あれ? ど、どうしたんですか……?」

「これっ! 昨日は本当にありがとう!」


彼女はそう言いながら、1枚の1万円札を差し出してきた。うん。わかるよ? 昨日貸したお金だよね? でも、ここ駅のど真ん中なんだよね。側から見ると女性からお金を巻き上げているただのヤバいやつだよ。僕。と思った僕は、彼女に言う。


「……あ、あの。ここ駅のど真ん中ですし……」

「……っあ!」


ここまで言うと、彼女は察してくれたのか、お金を引っ込めた。後は、僕の言わなければならない事だけ。と思い言う。


「……そ、それと昨日はひどい事を言ってしまいすみませんでした……」

「……あ。あぁー! あれね! 大丈夫だよ!」


許してはくれたものの、そう言った彼女の顔はどこか寂しげだった。ここで、愛理に言われた事を思い出し、僕はほんのちょっとの勇気を出して彼女に言う。


「……そ、その僕、あまり大勢の視線を受けるのに慣れてなくて、咄嗟にああ言ってしまいました。本当にすみません……」

「大丈夫だって! それより大勢の視線?」

「……は、はい。その、なんと言うか根明さん、他の誰よりもすごく綺麗でしたので……」

「……っえ」


僕がそう言うと彼女は、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め上げた。さらに僕は本題を伝える。


「……そ、それで、昨日のお詫びと言いますか……次の休みにそこに出来たスイーツの美味しいお店に行きませんか?」

「……ふ、2人でですか!?」

「……そうですね。僕友達いないですし……嫌でしたか?」

「い、いえいえ! 全然嫌じゃないと言うか、むしろ嬉し……っあ。なんでもありません! 一緒にいきましょう!」

「……は、はい。では僕はこれで……」


 僕はそう言い電車に向かった。てか今嬉しいとか言ってたような……まさか。ね? そんなこと言うはずもないしね。とりあえず急ごう。と、進もうとする僕を呼び止める様に彼女は言う。


「そ、そのっ……! 一緒に行くんですしそ、その連絡先教えてくれませんか?」

「……あ、は、はい」

「ありがとうございますっ!」

「…………」


と彼女は天使のような笑顔で言った。少し見とれてしまった僕は急いで意識を大学へと向けて歩いた。


 こうして、僕の連絡先に1人女性が増えたのだった。

 因みにその日の講義は何一つ頭に入って来なかった。


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