⁇杯目 〜閑話〜 願い事(1)
七月七日。今日は何の日だと思う? 世間は、七夕だと思う。だが俺は違う。俺にとっては、記憶をなくして今日でちょうど二週間。そんな日だ。
……七夕の思い出。
記憶を無くした俺の中で、最後に残っている七夕の記憶……
あれは確か…………
「セーンパイっ!」
「愛理か、どうした?」
「今日何の日だかわかりますか?」
中学校への登校中、愛理がふと質問してきた。俺は、眠い頭で頑張って考える。そして、一つ頭によぎったことを言う。
「今日……七月七日……あ、七夕か」
「正解です!」
「それがどうしたんだ?」
「なんとですね、今日七月七日は近所の神社が今年から、七夕祭りを開催するらしいんですよ!」
「ほう」
「そこで、センパイどうせ一緒に行く人居なさそうですし、仕方ないので私が行ってあげます!」
「別に行くなんて言ってない気が……」
「まあまあ。そんな小さいことは気にしないでください!」
と、勝手に予定が決まってしまった。これが中学一年生の夏である。
それから3年間。毎年この七夕祭りに付き合わされることになる。中学一年の時とは違い、二、三年になると自然と友達もできている訳で。他の友達と行こうと約束をするより先に、毎年誘われ付き合わされることになる。
まあ、別に嫌だと言う訳でもないので行くのだが。そのお祭りは年を重ねる毎に、ジンクスというものができていたりする。なんでも、最初の年にその祭りで書いた短冊の願いが叶う人が続出した事がきっかけみたいなんだけどね。
自分の記憶に残っている、思い出を振り返っていると突然現実に戻された。一件の着信によって……
「もしもし?」
『センパーイ! 今日何の日だか知ってますか?』
「あぁ。七夕だろ。どうせ愛理のことだから、七夕祭りの誘いだろ?」
『……げっ! センパイなんで分かったんですか?』
「今ちょうど愛理と行った七夕祭りを思い出して居たから」
『…………えっ? 仕方ないセンパイですね〜! そんなに可愛い後輩愛理ちゃんと行きたかったんですね〜! 仕方ないので行ってあげます!』
「いや、どちらかと言うと毎年俺が仕方なく付き合わされてね?」
『うわっ! そんなこと言うんですねセンパイ!』
「まあ、行くよ。いつものとこ待ち合わせね」
『……ちょ、まだ話終わってませ……』
なんか愛理が言いかけていた気がするが、通話を切ってしまった。まあ、後で会うし別にいいか。と思いながら、祭りに行く準備をする。
短冊に書く願いを決めながら…………
◇◇◇
今日は、七夕。私は、一つだけ叶えたい願いがある。センパイの記憶が戻って、あの時のことを謝ること…………
付き合いたいとか、そんな邪なことは願うつもりはない。いくら願いが叶うジンクスがあるお祭りだとしても…………
今の私に、そんなことを願えるはずなんてない。そんなことを自分に言い聞かせて、センパイに電話をかける。出るかわからないが、意外にもワンコールで出てくれた。
『もしもし?』
「センパーイ! 今日何の日だか知ってますか?」
私は、毎年恒例の誘い文句を言う。そしてそれを聞いたセンパイは、意外なことを返してきた。
『あぁ。七夕だろ。どうせ愛理のことだから、七夕祭りの誘いだろ?」
「……げっ! センパイなんで分かったんですか?」
『今ちょうど愛理と行った七夕祭りを思い出して居たから』
理由を聞くと、考えても居ない事が返ってくる。私は、必死に動揺を隠しながら言う。
「…………えっ? 仕方ないセンパイですね〜! そんなに可愛い後輩愛理ちゃんと行きたかったんですね〜! 仕方ないので行ってあげます!」
『いや、どちらかと言うと毎年俺が仕方なく付き合わされてね?』
「うわっ! そんなこと言うんですねセンパイ!』
『まあ、行くよ。いつものとこ待ち合わせね』
「……ちょ、まだ話終わってませ……」
「……はぁ。何で私はいつもこうなんだろう」
と、私は通話の切れたスマホに向かい一人呟く。気持ちを切り替えて、私はお祭りに行くための準備に取り掛かる。浴衣を着て、髪の毛をセットして、センパイに少しでも可愛く見て貰える様にメイクをする。
待ち合わせ時間の三十分前に支度が終わり、私は急いで家を飛び出した。
センパイの待つ場所に向かって…………
◇◇◇
午後五時、近所の神社から少し歩いた所にある公園。いつもの待ち合わせ場所にて俺は、愛理を待っている。何で直接現地に集合しないかって思うだろう。一回現地集合にした年、人が多すぎて合流するまでに二時間かかったと言う過去を持つからだ。その翌年から自然に、ここで合流することになっている。
待ち合わせの時間は、五時二十分。つまり早くきすぎてしまっているらしい。俺は愛理が来るまでの間、最近ハマっているゲームをする為にスマホを横にした。ダウンロード画面を見ていると、頭上から声がする。
「何のゲームやってるんです?」
「あぁ、これ最近ハマってるRPGゲーム」
「へぇ〜。そんなのあるんですね〜! あ、絵が綺麗!」
「だろ! このゲーム絵が綺麗なんだよ」
「そうなんですね〜! …………で、いつまで私に気づかないんですか?」
そう言われ声のする方に顔をやると、浴衣姿の愛理がスマホを覗き込んでいる。長い髪を後ろで纏め薄く塗られたメイク。いつもの生意気な後輩と言う感じを思わせない程に、清楚な愛理が腰を屈めて立っていた。
俺は思わず見惚れてしまう。一緒にこの祭りに来ていた中で、こんな愛理を見た事なかった。いつも可愛いなとは思う愛理が、今日は綺麗な一人の大人の女性。そう思うと俺は、そんな愛理から目を離せなかった。
愛理はそんな俺を見て言う。
「…………センパイ。そんなに見られると恥ずかしいんですけど」
「……あぁ。わ、悪い。なんか、あれだな。浴衣も、髪も、似合うな……」
「…………ありがとうございます」
「………………」
「………………」
少し会話を交わした後、恥ずかしくなり黙り込む。愛理も同じ気持ちなのか、同様に黙り込む。俺たちは、お互い無言のまま祭り会場へと向かった。




