13.5杯目 ストーキング大作戦
拝啓お母さん。
大学にも慣れ、新生活もひと段落ついた今日この頃。私は朱里と、電柱の影に隠れて好きな人を、ストーキングしております。何故こんな事をするのかと言うのにも理由があります。それは、好きな人が女の子と二人で出かけると言ったからです。
敬具
と。前置きはこのくらいにして、今私たちはストーキング大作戦決行中です。私は一体、何をしてるんでしょうか。
そんなことを考えていると、朱里が私に言う。
「で、陽の好きな人はどこ?」
「……あそこのベンチ前に立っている人」
「へぇ。全く男の気配がなかった陽の、初めての好きな人があんな感じなのか」
「何が言いたいの!!」
「なんか意外だった」
「意外って何よ!!!」」
「まあまあ、そう怒るなって」
と、こんな話をしていると、根暗くんの方に向かって走ってくる女子がいた。さぁ、ここから始まるんだ。今日という日のストーキング大作戦が……
◇◇◇
何故だか僕は、今日幼馴染の愛理とデートをすることになってしまった。拒否する間もなく決まったって言うのもあるのだが。本当にあいつは、自分勝手なんだから。そんな事を考えつつ身支度をして家を出た。
待ち合わせ場所は駅前のベンチ。時間より15分程早く着き、待つこと2分。こちらに向かって走ってくる女の子が見えた。その女の子は僕の事を見つけると、大きく手を振りながら。
「センパイ〜! お待たせしました〜!」
「…………」
僕は、愛理を見て言葉が出てこなかった。
いつもとは違う大人っぽいメイク、白いワンピース。まるでその姿は、テレビに出る女優を見ている様だった。そんな僕に愛理は言う。
「センパイ! そんなに私に見とれてるなんて、惚れましたか? 私、可愛いですか?」
「……ち、違うって。そんなんじゃないけど……まあ、今日は可愛いじゃなくて綺麗って感じだね」
「……っえ!? 急に何言ってるんですか……! 口説くにはもっと雰囲気のある所で、してくださいよ!」
「別に口説いてないけどな……その自信凄いな」
はぁ。今日一日こんなんで本当に大丈夫なのか……
それにさっきから視線を感じる様な気がするし。何処からかは分からないんだけど……
それから僕達は、目的地に向かって出発した。今日の目的地。それは、水族館。デートが決まり、どこにするか話をしていると、突然愛理が言い出したのだ。
「水族館に行きたいです!!」
と。特に他に行きたい場所が思いつかなかったので、否定する理由もないし行くことになった。
水族館までは、駅からバスに乗り15分ほど。僕達はバスに乗り込み、水族館へと向かう。だがやはり、まだ視線を感じる。
その正体に気づくのは、もう少し先の話である。
◇◇◇
根暗くん達が、バスに乗り込んだので私達も急いでバスに乗った。彼らは一体どこに向かうんだろう。この先バスでってなると、水族館なのかな? 水族館なら……
私は少しの不安を抱きながら、朱里に問う。
「朱里はどう思う? やっぱり水族館なのかな?」
「この先にバスで行ける場所は他にないからね。多分水族館じゃない?」
「やっぱりそうだよね……水族館のジンクスが本当なら……」
「あぁ、なんかあったね。『イルカのショーを2人で見た男女は、幸せを呼ぶイルカのハッピーくんが恋人にしてくれる』とか言うやつか」
「そう……なんだよね……」
ジンクス。信じてる訳では無いが、ロマンはある。健全な女子大生たるもの、ジンクス等は信じてしまう……
そんな事を考えながら、つい彼の方を見すぎてしまった。ちょうど彼がバスをおりる瞬間に……
◇◇◇
バスに揺られること15分。目的地の水族館前の停留所に着き、僕達は席を立った。そんな時だった。今日一番の視線を感じ、視線の方に目をやると、居るはずのない人物と目があってしまう。
「……根明……さん?」
「何か言いました? センパイ?」
「あぁ、いや、なんでもないよ」
思わず漏れた僕の声に、愛理は不思議そうにこちらを見ていた。
僕は誤魔化して立ち上がる。そして、降りる前にメッセージを一通打ち込んでバスを降りた。
〔(陰雄)根明さんだよね? 何してるの?〕
〔(陽華)な、な、なんのこと?〕
〔(陰雄)こっちみてるよね?〕
〔(陽華)ごめん、ちょっと気になって来ちゃった。帰るね〕
〔(陰雄)そうだったんだ。大丈夫だよ。今日誘ってくれたのにごめん。また次の休みにでも行こうね〕
なんだ。朝からの謎の視線は根明さんだったのか。てっきり、愛理を狙う謎の組織とかだと思ってたから、よかった。などと思いながら、水族館へと入っていった。余談だが、根明さんは水族館前で降りることなくバスに乗り消え去っていった。
水族館に入るなり、愛理のテンションが上がる。相当楽しみにしていた様で、色々と案内されて色々な魚を見ることができた。
そんな愛理だったが、最後にこれを見ましょうと言いイルカのショーに連れていかれる。
「センパイ! このイルカショーのジンクスって知ってますか?」
「ジンクス? そんなのあるのか?」
「知らないんですね! そうですか! とりあえず、かわいいイルカをみましょうか!」
「ジンクスってなんなんだ?」
「秘密です♡」
そこまで言うなら教えてくれてもいいのにな。ジンクスって一体なんなんだよ……
とりあえず考えてはみたものの、何も知らないのにわかる訳もなく。
イルカのショーを見ることに。でもすごいね、イルカって。普通に人間より知能が高い気がする。と、感心しながら見る僕を、愛理が呼びかける。
「センパイ!」
「どうし……」
愛理の方を振り向いた瞬間、唇に柔らかい感触が伝わった。それは初めての感覚で、一瞬何が起きたのか理解できなかった。だが、すぐに理解することに。
それは、初めてのキスだった。
僕はその時、身動きを取ることができなかった。




