12杯目 そして、愛理は自認する
「はぁ……」
センパイの家で陽華さんと会い、家に帰った私は自室でため息を零していた。と言うのも、センパイがどこか遠くへと行ってしまう気がして。孤独が嫌いなセンパイが、孤独を選ぶ様になった後、初めて紹介されたのが陽華さんだった。
会うまでは、この人もセンパイを傷つける悪。と思っていたのだが……センパイと話す彼女はどう見てもセンパイに特別な感情を抱いてるように見えた。そんな彼女を見ていると、自分はここにいていいのかなって気になってしまう。
「センパイと出会ってもう10年かぁ……」
彼女のことを振り返っていると、不意にセンパイとの出会いを思い出してしまった。あれは確か……
◇◇◇
親の転勤が多かった私は、小学校3年生まで転校を繰り返していた。最後に転入した小学校。あまり馴染むことが出来ずに、気づいたらいじめが始まってしまってて。
ある時いつものように、いじめが始まった。私は、この時間がとても嫌いだった。次第に泣くこともしなくなる。泣いたら余計にひどくなるんだもん。その日もいつも通り、いじめられている間必死に耐えた。殴られ、蹴られ、終いには石も投げられる。そんな時だった……
「やめろよ! そんな大人数でそんなことして」
「げっ! 一個上の陰雄くんだ! この間空手の大会優勝したらしいよ」
「まじか! やられる! みんな逃げろ!」
その男の子の登場で、周りに居た子達が一気に逃げていく。その男の子は、私に近づき一言。
「大丈夫? 怪我してない?」
「……はい。いつものことですので……」
「無理しないで。泣いていいんだよ。立てる? ほら」
彼のその言葉を聞いた瞬間、今まで我慢していたものが止めどなく溢れ出す。その間ずっと、私に寄り添って慰めてくれた。5分ほど経って泣き止み、私は彼に送って貰いながら家まで辿り着いた。彼は、帰り際に一言だけ。
「またいじめられたら、僕のところに来ていいからね。あ、僕は4年3組、根暗陰雄!」
「ありがとうございました。私は、鈴本愛理です……」
「じゃあ、愛理! また明日ね!」
その一言に、私はどれだけ救われたことか。
その後、彼とはよく遊ぶようになった。小学生とは飽きやすいらしく、その頃にはいじめも無くなっていたが、暗くなると危ないから。と毎日いじめがなくなった後も、家まで送ってくれるようになる。
彼と話していく内に、彼の嫌いな物、好きな物色々と彼のことを知っていく。そんな毎日が楽しかった。だが、当然卒業というものがあり、1年間は全く関わらなくなってしまう。そうなってから、大切な存在に気づくことってよくあるよね。
でも私は、ただ寂しいとしか分からなかった。きっと、『好き』という気持ちがよくわかってなかったんだろう。小学校6年生を1年間、とても寂しい思いをしながら過ごした。
中学に入学し、彼を見つけると早速声をかけに行く。
「センパイ! お久しぶりです!!」
「おー! 久しぶりだね。愛理だよね?」
「はい! センパイが大好きな愛理ちゃんです!」
「ちょ、やめろってこんなとこで変なこと言うの」
あぁ。先輩との会話はやっぱり楽しいな。と思いながら、中学校2年間センパイと過ごした。体育祭、合唱祭、部活。いろいろな行事全てがセンパイと一緒だからなんでも楽しく思えた。だがやはり、卒業は来るみたいで。泣きながら身送ったのを覚えている。
中学3年生は、必死に勉強をした。センパイと同じ高校に通うためだけに……
受験勉強の甲斐あって、見事センパイと同じ高校に入学することができた。
しかし、久しぶりに会ったセンパイは、とても変わってしまっていた。
理由を聞きに行っても、答えてくれず。喋り方まで変わってしまった。キョドってるとでもいうのか、人との会話を無くしてるというか。昔孤独が嫌いと言っていたセンパイは、いつの間にか孤独を選んでしまっていた。
助けてもらった私は、なんとかセンパイの力になりたいと願った。けれどもセンパイは聞き入れてくれず……そんな時に、センパイに昔言われたことを思い出す。
「センパイ……もうこれ以上は言いません。泣いたっていいんです。私を頼ってください。センパイは私の『ヒーロー』なんですから」
私の言葉がセンパイに届いたのか、センパイは私なんかよりもずっと我慢してたであろう、涙を流した。泣いて泣いて泣きまくって、落ち着いてから話し始めた。
好きだった子に告白されたこと。それが嘘で、終いには冤罪をかけられ、誰にもバラされたくなかったら、お金を持って来いと脅されていたこと。とにかく全部話してくれた。泣きながら話すセンパイに、私は寄り添い話を聞く。かつてセンパイがしてくれたように。
泣き疲れたのか、センパイは話し終えると静かに眠った。
目を覚ましたセンパイは、一言「もう恋なんてしない」と言って家に帰っていった。
◇◇◇
センパイとの思い出を振り返りながら、私の中には一つの感情が大きくなっていた。決して認めてはならない感情。もう恋なんてしないと言ったセンパイにとって、重荷にしかならない感情。否定したいけど否定出来ない感情。どうしようもなく溢れてくるこの感情に
『私は今になってセンパイが好きだと自覚してしまったのだった』




