表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傲慢な男らと意固地な女  作者: 迷子のハッチ
第4章 王妃として
99/114

第58話・6 ビーザ砦の攻防(6)

 パストへの一時帰還の知らせと負傷者リストの報告。

 どうやらトラント将軍も私が一時パストへ帰った方が良いと思っているようです。


 私が帰る事を告げると、直ぐに「待っている」と答えが返ってきた。

 トラント将軍は、今の状況はキリアム侯爵の軍が撤退しかねない状況に陥っていると判断しているのかもしれない。


 私が帰る時、キーグに乗って帰る訳ですから、敵からも飛竜が飛ぶのが見えるでしょう。

 動揺した敵がそれを見て安心するかもしれません。

 安心まではしないまでも、飛竜が帰って来るまで火球での攻撃は無いと判断するでしょう。


 其の後、敵がどんな手を打って来るか、使い魔に見張らせて探っておけば、私も早めに対処する事が出来るでしょう。


 「はい、パストでビェスからの知らせが来ていると思うので、今の状況を集めようと思っています」

 「状況次第でパスト市に滞在する期間は変わりますが、明後日は一度様子見に戻ってまいります」


 私の言葉に、私がビーザ砦に戻ればビェスの動向が分かるとトラント将軍も理解したのしょう。


 確かトラント将軍はビェスの子供のころからの知り合いで、王に即位してからは軍事改革を進める側近としてビチェンパスト国軍を内側から指導してきた人だとビェスから聞いている。

 今日の戦いで、敵が脆かったのも指揮する者が失われた時の指揮権の引き継ぎが無かったからだ。


 トラント将軍は指揮権が領地毎の軍隊から国軍と言う指揮系統が一つだけの軍を作って来た人だ。

 ビェスと共に王の軍を作り上げ、今回の内戦も早くからビーザ砦を任され用意をしてきた。

 私が次に来る時は、ビェスとキリアム侯爵との決戦が何時頃になるか分かるだろう。


 トラント将軍の顔は落ち着いているが、目だけは内から漲る思いを耐えているかのようだった。

 そこには大きな戦を、決着をつける戦いを 待ち望む軍人の顔が見えた。


 「そうですか、ダキエの姫様が戻られたら・・・。」


 しばらく考え込んでいたが、元気に顔を振ってほほを叩き 気合を入れた。


 「ビーザ砦にダキエの姫様が戻られたら、再びキリアム侯爵の泣き顔が見れそうですな。」


 すごく大きな音がしたのですが、トラント将軍のほっぺたが真っ赤です。


 トラント将軍が補佐の陸尉二人をちらりと見て私へ言った。


 「陛下への報告書や提出する書類は急いで用意させます。」


 トラント将軍の返事で、ブリンカー陸尉ともう一人の陸尉は慌てて何処かへ飛んで行った。

 トラント将軍のほっぺたを見たら思い出した。

 負傷者リストを渡さなければ。


 「この書類ですが、私の侍女が治療した負傷者のリストです」

 「セリーヌが纏めてくれたのでお渡ししますね」


 セリーヌが作った負傷者リストをトラント将軍に手渡した。


 「まだこちらの報告は来ていませんが?」

 「侍女殿が治療したと?」


 そう言ってリストを読み始め、直ぐに「ほぉー!」ため息の様な声がトラント将軍の口から漏れた。


 昼7前(午前中)の激しい攻撃にもかかわらず戦闘不能者が6名だったのはトラント将軍にはあり得ない事の様だ。

 紙に書かれた数字を睨みつけるように見た後、私に向かって言った。


 「ダキエの姫様、感謝の言葉しか浮かばない事を謝罪します。」

 「セリーヌ殿と言われましたか、今日の御活躍、感謝の心で一杯です。」


 セリーヌへも貴族の礼をして謝意を伝えてくれました。


 「トラント将軍閣下、すべてはダキエの姫様が教えてくれた事を実践したまで」

 「私は教えられた通りにしただけです」


 セリーヌが慌ててしまってる。


 「そうかもしれんが、それでも治療を受けた連中は感謝しただろうと思います。」


 セリーヌが謙遜しすぎなので、二人のやり取りに割って入る事にした。


 「トラント将軍にお願いが在るのですが、今後連隊兵舎で治療を定期的に行いたいのだが」

 「トラント将軍に許可をお願いしても良いだろうか?」


 「許可なら幾らでも出します。」

 「と言うか、ダキエの姫様なら許可など要らんでしょう。」


 「それでも、この砦の最高指揮権はトラント将軍に在るのですから。」


 「確かに、その方が私としてはありがたい。」

 「では、改めてビーザ砦の治療所 全ての権限をダキエの姫様に認めます。」


 「「ありがとうございます」」セリーヌと一緒に軽く礼をして言った。


 「他にも急病人が出たらお知らせください」

 「私が此の砦に要る時なら、対応は出来ますので」


 「そりゃ、安心だな。」

 「戦の最中だが、無敵な気がして来たよ。」


 笑い声が中央城館の中に響き渡った。


 いきなりトラント将軍がほほを叩いたのは、決戦が近いと気負っての事です。

 トラント将軍は年上ですが、ビェスの幼馴染です。


 ビェスがパスト市の領主の息子時代からの遊び仲間で、事が起きた時もビェスと領地の見回りに付いて行っていました。

 臥薪嘗胆時代からビェスとキリアム侯爵との争いの時も常に側にいました。

 ビーザ砦を任されているのは、ビェスから高く信頼されているからです。


 決戦を望むのはビェスだけでは無く、他にも大勢が待ち望んでいるのです。敵も味方も。

 次回は、パストでの情報収集です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ