第58話・4 ビーザ砦の攻防(4)
デーストゥラ城(右)とスィニートゥラ城(左)の防衛戦。
「見つけました、敵の此処を攻撃している部隊の大将が居ます。」
ナーバス陸尉の声で斜壁を見ていた視線を、彼が見ている方へと向けた。
「空堀の向こう側で木に隠れていますが、正面になる場所です。」
「距離は此処からだとおよそ70ヒロ(105m)程になりますね。」
確かに尾根から続く傾斜が緩くなって、平らな広い場所が木立に隠れて見えています。
そこに100人ぐらいの人と馬が居るのが見えました。
「見えました、あそこですね」私が確認できたことを伝えると。
「恐らく領主クラスが2人でしょうか。」
「今攻めて来ている人数は千人程ですが、子爵クラスの率いる五百ぐらいの同じ規模の部隊が二ついますね。」
「農民を無理やり動員しているようですから、大将が死ねばこの部隊は散り散りになると思いますよ。」
今攻めている敵の事をザッと見ただけで弱点まで丸裸にしてしまった。
流石は、最先任陸尉だけあって敵の規模や内情を掴むのが上手い。
今回の戦で戦死しなければ陸佐への昇進をしてもおかしく無いだろう。
「分かりました、敵の大将を攻撃します」
どうやら敵の急所の様ですから、直ぐに攻撃する事にします。
敵を私自身の手で殺す事になりますが、心の葛藤は既に付けています。
私は、私のためビェスのためこの戦争に勝たねばなりません。
『わが身より沸き立ちし火炎に漲る熱よ、凝縮して満ちれば爆炎と成る』
「火球」
撃ち終わると。
「ドッ!! ドオオオオオンッ!!」
地響きする振動と共に爆発音が聞こえて来た。
敵の大将が居た場所は、周りの林毎爆発の炎と土煙の中です。
大きな音と爆風で、空堀の中へと攻め寄せていた敵兵が足を止め、後ろを振り返っています。
彼らも大将の居る場所は知っていたのでしょう。
空堀を這い上がり、収まり始めた土砂交じりの土煙へと集まって行った。
バラバラと集まった敵兵たちから驚きの声が上がった。
「領主さま!!」、「誰か生きていないか!!」、「子爵様が!! 子爵様が!!」
聞こえて来た声は、ナーバス陸尉が推測した通り、敵の大将たちで子爵の様だ。
私に敵の声が聞えたと言う事は、今攻めている敵兵にも聞こえたはず。
攻める喚声が少なくなり、斜壁の下で蠢いていた者共が一気に引いて行った。
まだ斜壁にしがみついて攻めようとしている者も残っているが、大半が逃げ散ってしまった。
「どうやら上手く行ったようですね。」
ナーバス陸尉が引き上げていく敵兵を見下ろしながら、嬉しそうに笑った。
「ええ、あなたの情報と分析は正確だったわ、ありがとう」
ナーバス陸尉に感謝を伝えた。
彼の情報が無ければ的確な攻撃が出来なかっただろう。
次の斜壁の場合も同じで、正面にいた敵の大将(今回は一人)を攻撃して倒すと兵隊たちは逃げ出した。
その後も、ナーバス陸尉のおかげで敵の弱点を攻撃する事が上手く行った。
大きな岩陰に隠れていたリ、攻撃を予想したのか逃げ出そうと逃亡中だったりの弱点もいたが、岩陰へは魔力は多く使うが誘導した火球で粉砕したり、移動中の標的でも爆発範囲が広いので近くへ撃ち込めば十分効果的だった。
4面の斜壁を攻撃していた敵兵は各々の大将たちが打ち取られたため、兵士が逃散してすっかり攻撃が止んでしまった。
「いやぁー、すっかり敵さん逃げてしまいましたね。」
「これなら今日、いや明日いっぱいかかっても次の戦いに兵士を集めるのは無理でしょうね。」
すっかりご機嫌モードになったナーバス陸尉に見送られて、私とブリンカー陸尉は次の加勢先のスィニートゥラ城(左)へと行くため、地下へと降りて行った。
スィニートゥラ城(左)へ行くために中央の城館まで一度戻った。
トラント将軍の居る4階まで戻る積りは無いので、そのまま南側の城壁まで行った。
通用門を抜けた南側エリアから、北側のデーストゥラ城(右)と同じような地下通路を通って、スィニートゥラ城(左)へやって来た。
スィニートゥラ城(左)はデーストゥラ城(右)に比べて狭く感じる。
斜壁の4面も狭くて高さも低い気がした。
ただ、第2連隊第4大隊を指揮するグラス陸尉がいる山頂には、高い塔が在って見晴らしがよかった。
ここから見ると、遠くに敵の本陣が置かれている見晴らし台と、下の北西に折れ曲がった川と街道が奥まで見える。
飛空で息の乱れていない私と膝に手を当て荒い息をしているブリンカー陸尉を、グラス陸尉がジロジロと見ていた。
息が整ったのかブリンカー陸尉が敬礼するとグラス陸尉が答礼した。
「失礼しました、グラス陸尉殿。」
互いに敬礼し合うと、ブリンカー陸尉がどこかで聞いたような報告を始めた。
「トラント将軍からの伝言です。」
「援軍としてダキエの姫様が見えられました。」
「”ダキエの姫様には、敵への効果的な攻撃をお願いしている。”」
「”グラス陸尉におかれては、4面ある斜壁から攻撃するダキエの姫様への効果的な支援を期待する。”」
「以上であります。」
再び敬礼すると、答礼したグラス陸尉が私の方を向いた所まで一緒だった。
「ダキエの姫様、援軍感謝します。」
「デーストゥラ城(右)での活躍は此方からも拝見していました。」
「ダキエの姫様の応援で、敵は既に浮足だっております。」
「敵が恐れて逃げ出す前に、少しでも多く攻撃できるようにお手伝いさせていただきます。」
三十代に見える若い陸尉のグラス陸尉はとても積極的だった。
塔から降りて、最初の斜壁から敵の弱点を指摘して、私が攻撃すると結果も見ずに次の斜壁へと連れていかれた。
2番目の斜壁に着いた時、敵の攻め寄せる声は無く、悲鳴っぽい声が斜壁の下で響いていた。
矢狭間に急いで近寄り、石壁に隠れながら下を見て見た。
視野に入ったそこは、督戦隊らしき装備の整った兵が逃亡しようとする兵たちを切り殺している場面だった。
グラス陸尉に敵の弱点を探して貰ったが、既に逃亡した後の様で何処にも姿が見えなかった。
「敵の大将は逃げたようですね。」
「では次点の攻撃対象として、敵の逃亡を助けるため、督戦隊を攻撃しましょう。」
グラス陸尉の提案で敵の督戦隊を攻撃する事にした。
『わが身より沸き立ちし火炎に漲る熱よ、凝縮して満ちれば爆炎と成る』
「火球」
「ドッ!! ドオオオオオンッ!!」
督戦隊を率いていると見られる隊長が居る場所を火球で攻撃した。
土煙が収まる頃には、督戦隊を含む動ける敵兵はすっかり居なくなっていた。
私の攻撃魔術の行使は今日はこれでお終いだった。
スィニートゥラ城(左)では2回攻撃しただけで、全ての敵兵が逃げてしまった。
次回は、今日のビーザ砦の防衛戦が終わり、書類整理や負傷兵の治療などです。




