第58話・3 ビーザ砦の攻防(3)
出城へ応援に行くことにした。
デーストゥラ城(右)へ通じる地下通路は、ビーザ砦の北側部分にある城壁の地下に有った。
トラント将軍との話し合いで、両出城で斜壁から火球で敵を攻撃して防衛に協力する事になった。
ビーザ砦は東西南北の城壁と中央に一回り小さいが高さが同じ城壁から成る作りになっている。
城壁の角は一段低い城壁で外壁と内壁の角が繋がっている。
街道は東の門から内側の東門へと通じ、中央の建物(城館)の側を通って、西の内門と外門から川に掛かった橋へと出る。
ビーザ砦は二重の城壁で囲われた5つの部分からなっている。
私は城館から出ると、街道を横切り北の内壁に作られた小さな通用門を通り、北側の敷地へと出た。
外側の城壁の内側部分は兵舎や倉庫などが入った部分が張り出している。
第4連隊が使っている兵舎は敷地に面して玄関が設けられていて、中へ入ると付き添ってくれているブリンカー陸尉が地下の通路へと案内してくれた。
既に戦場となっている場所で一人でうろつき回るのは危険だとトラント将軍が部下の一人を付き添いに出してくれたのだ。
長い下り階段を下り、大して歩かない内に延々と続く上り階段を上った
自慢出来ない体力弱者の私だが、今朝から使い始めた飛空魔術は強い味方になった。
疲れ知らずで登りきると、同行のブリンカー陸尉が驚いていた。
「いやぁー ダキエの姫様には驚きました。」
「初めてこの登りを経験すると鍛えた兵士でも息が上がります。」
「それなのに、息も切らした御様子は無いとはさすがです。」
尊敬の目で見るブリンカー陸尉自身も息が荒かった。
「ありがとう」
魔術の飛空で身軽にして上がって来ただけなので、褒められるとむず痒い。
言葉少なく礼を言うと、ブリンカー陸尉の息が整うのを待ってデーストゥラ城の指揮官が居る場所へ案内して貰った。
ナーバス陸尉は出城の一番高い場所に設けられた石造りの建物の中で指揮を執っていた。
「失礼しますナーバス陸尉殿。」
部屋に入り、互いに敬礼し合うと、ブリンカー陸尉が報告を始めた。
「トラント将軍からの伝言です。」
「援軍としてダキエの姫様が見えられました。」
「”ダキエの姫様には、敵への効果的な攻撃をお願いしている。”」
「”ナーバス陸尉におかれては、4面ある斜壁から攻撃するダキエの姫様への効果的な支援を期待する。”」
「以上であります。」
再び敬礼すると、答礼したナーバス陸尉が私の方を向いた。
「初めまして、ダキエの姫様。」
「ナーバス陸尉と申します。」
少し不安そうな顔で私に敬礼した。
「初めましてナーバス陸尉殿、ダキエの姫とビェスから呼ばれています」
「投石器を潰した火球と同じ攻撃で敵の指揮官を攻撃しようと考えています」
「何処を狙えばよいか教えて下さると助かります」
私の説明で投石器を潰したのが私だと分かると、喜色満面の笑顔に成った。
「あれですか!!」
「あの攻撃で投石器が潰されてホッとしました。」
「あれが使われて居たら今頃は撤退する必要があったかもしれません。」
「本当にありがとうございます、助かりました。」
指揮官の疑心が解かれると、後はすいすいと話が進んだ。
攻撃は4面有る斜壁の上から敵の指揮官が居ると思われる場所へ、4面全ての敵へ1発づつ4回攻撃する事になった。
山頂の指揮所から半地下の通路で各斜壁まで繋がっている。
最初は最も西の斜壁へやって来た。
鬨の声が響く中で防衛している兵士(20名程が居た)の広い隙間から下を覗く事にした。
斜壁の上部は張り出していて、矢狭間と城壁に物を落とせる隙間が作られている。
上部の天井は頑丈な石の板で覆われていて、投石器からの散弾の石ぐらいは防げるような作りになっていた。
石落としの隙間から下を覗くと、敵兵が斜壁に取り付いているのが見えた。
それでも斜壁の作りは良く分かる、垂直に下へと続く石壁が途中でだんだんと傾斜が緩やかになっていき裾が緩やかに広がっているのが見えた。
上から見える斜壁は単純に、崖に石を積み上げた様な石壁では無かった。
出城の周囲を取り巻くように角度を揃えて山を削り、しっかりした土台作りから行っている様だ。
斜壁の下側は少し緩やかな角度になっていて、敵兵も取り付きやすそうだ。
事実、斜壁の下側には梯子を上る兵だけでなく、石壁を直接登ろうとしている者たちがいた。
両手を使って上るため、上から石を落とすだけで、落ちてくる石を避ける事が出来なくて、簡単に落ちて行く。
梯子が多数斜壁に掛けられているが、武装した兵が上れる梯子は少なくて、大半の梯子が途中で折れている。
斜壁の構造上梯子を掛けずらい作りになっている。
斜壁の裾が緩く広がっていると上部まで届く長さの梯子だと、人の体重が掛かると折れてしまう。
梯子は木で作られる。
長い梯子は当然継手が必要になる。
人が上れる角度は垂直に近い方が梯子の最大荷重に近くなり、鎧兜で武装した兵も登る事が出来るだろう。
所が、斜めに掛けると、途中から一気に梯子に掛かる荷重が限界を超える。
上から見ているだけで、多くの梯子に取り付いた敵兵が梯子が折れて落ちて行った。
斜壁を作る時梯子を掛けても人が乗れない様に考えて作られる。
見事な築城方法だ。
15ヒロの高さが在る斜壁で下側が傾斜が緩くなるように作ったのだろう。
他にも斜壁だと下側に石の重さが集中する事や崩落の危険防止など幾つか理由がありそうだ。
横に居るナーバス陸尉が矢狭間から指さして言った。
「見つけました、敵の此処へ攻撃している部隊の大将が居ます。」
次回は、デーストゥラ城(右)での防衛戦。




