第57話・3 ラーファ出撃す!(3)
ラーファは覚悟を決め、両出城の防衛のため投石器を攻撃する。
デーストゥラ城(右)は掘り代わりの川を飛び越えれば、既に砦の縄張り内だ。
ここに、まだ会った事は無いが300名の第4連隊第4大隊を指揮するナーバス陸尉がいる。
私がキーグに乗ってデーストゥラ城(右)上空に差し掛かると、出城への攻撃が既に始まりかけていた。
キリアム侯爵軍の兵が川が流れている急峻な崖側を除いて3方を取り囲んでいた。
稜線の北側(ビーザ砦からは稜線に隠れて見えない)に木を切り開いて作られた広場があり。
そこから道が稜線の上へと繋がっている、其の道の先に投石器が居た。
山の稜線沿いに道が作られていて、投石器がゆっくりと動いている。
既にデーストゥラ城(右)に150ヒロ(225m)まで近寄っている。
稜線に作られた道は大勢の兵士が投石器の先で、今現在作っている最中だ。
第3連隊隊長のユリウス陸佐の話では、既に殺傷力のある石を出城の石垣を越えて届く所まで来ている。
70ヒロ(100m)まで近づけば、石垣を壊せる岩を飛ばせるようになる。
その前に投石器は破壊しよう。
先端にデーストゥラ城(右)のある稜線は東西に延びている。
私はキーグを北へと上昇させていった。
私がダキエから持ち込んだ、方位計や距離計の魔道具やマーヤが作ってくれた高度計、速度計によると。
稜線との高低差500ヒロ(750m)、投石器から北へ500ヒロ(750m)離れたところから急降下を開始した。
緩い急降下だが、乗っている私の目からは真っ逆さまに墜落している感覚になる。
目標は稜線を移動している投石器。
投石器の動きはゆっくりなので、ほぼ止まっている目標と同じだ。
火球は距離が半分(500m)を過ぎたら詠唱を始めるつもりだ。
投石器まで200ヒロ(300m)ぐらいまでに撃てるだろう。
私が急降下を開始すると、投石器の周りで押したり引いたりしていた人がバラバラに逃げ始めた。
大きな目標(投石器)が在るので、狙いが投石器だと思った人が逃げ出したのだろう。
ひょっとしたら、先ほど私がビーザ砦の西門から対岸の投石器を火球で燃やしたのを見ていたのかもしれない。
『わが身より沸き立ちし火炎に漲る熱よ、凝縮して満ちれば爆炎と成る』
「火球」
撃ち終わると、急降下から左に捻り緩く引き起こしながら、投石器の上空左側を通過する。
「ドッ!! ドオオオオオンッ!!」
キーグの胴体に隠れて見え無いが、下の投石器は火球が柱に当たり激しく爆発炎上したようだ。
爆発の衝撃波がキーグを伝わって私まで揺らす。
通過後キーグの背から後ろを振り返ると、既に投石器は炎に包まれて炎上していた。
直ぐに稜線上の道から南へと斜面を崩れながら落ちて行った。
私はそれが斜面の途中で燃えながら引っくり返っているのを見届けると、次の目標へと移動する事にした。
次は、スィニートゥラ城(左)だ。
ゆっくりと上昇しながらスィニートゥラ城(左)を狙う投石器を探す。
投石器はスィニートゥラ城(左)のある稜線に近づくまで見えなかった。
こちらの稜線沿いに道は作られて無かった。
恐らく作れるほど幅が無かったのかもしれない。
投石器は稜線の南側に斜面を削りながら道を作っている。
スィニートゥラ城(左)まで後300ヒロ(450m)ぐらいだ。
まだ投石位置まで到達していないが、ゆっくりとだが着実に近づいている。
今度は南へと移動してから反転して攻撃しよう。
先ほどとする事は同じで向きが逆になるだけだ。
位置を確認して、緩い急降下で投石器へと近づく。
『わが身より沸き立ちし火炎に漲る熱よ、凝縮して満ちれば爆炎と成る』
「火球」
「ドッ!ドッカーン!! ズドーンドゥオオオオオンッ!!」
右の時より反響音が大きかった。
左ひねりの状態から後ろを見ると、火球で燃え上がっていたが、それより崩れ落ちた崖に半分埋まっている。
火球の爆発で横の崖が崩れたのだろう。
これで投石器は3台潰せた。
上空から見た所、他に投石器を組み立てている様な場所は見つからなかった。
今日は火球を3発撃って魔力の大半を使った。
更に攻撃するには魔力の残りが心もとない。
魔力ポーションを飲んで魔力の回復を行う。
最後に昨夜使い魔が偵察する時見つけた、街道脇を切り開いた場所に材木が積み上げられていた。
そこを偵察して砦へ帰ろう。
左旋回から一周するぐらいで緩やかな上昇へと変える。
尾根を越え、キリアム侯爵軍の駐留する街道を西へと視線をやると、街道脇の林を切り開いて作った広場があった。
広場に材木や荷物が高く幾山も積み上げられている。
テントを張っている場所もあるので、キリアム侯爵軍の物資の集積場所だろう。
火球を数回撃つぐらいでは、積み上げられた山の数が多い。
焼き討ちするしかなさそうなので、油などの用意をして再度出直そう。
残念な事に、全てを焼き払うとキリアム侯爵軍が撤退しかねない、少し気力を挫く程度にしないといけない。
トラント将軍と相談しながら、どの程度の攻撃が良いのか決めよう。
ビェスからクギを刺された手加減が、とっても難しい事に改めて気が付かされた。
キーグをビーザ砦へと回頭させ、戻る事にした。
ラーファはキリアム侯爵の軍が竜騎士が飛ぶだけで、士気が乱れ、気力が失われている事に気が付いていません。
投石器を3台も潰され、兵士にも多大な被害が出ています。
それでも、キリアム侯爵の抱く野望とビェスへの憎しみは強く、撤退しないでしょう。
ビーザ砦は川の中州に作られた砦です。
キリアム侯爵からすれば竜騎士が居ても人数の差は6倍、総攻撃で半日で潰せると考えています。
次回は、ビーザ砦へ帰ってからの防衛戦です。




