第57話・2 ラーファ出撃す!(2)
ビーザ砦前の投石器は破壊した、次は両出城へ攻撃している投石器だ。
燃え上がる炎の中に投石器だった木材の崩れ落ちる音が響いた。
「ガラガラ・・・ドッシーーン!!」
太い材木が燃えて木材が割れる音が響く。
「パキパキーッ・・・バキーーン!!」
火球の破裂する音と組み立てていた物が崩れる音で、人が上げる悲鳴はかき消されている様だ。
人の叫ぶ声が聞えて来たのは、投石器が炎の中に崩れ去ってからしばらくしてからだった。
喚き立てる声は此処まで聞こえてくるが、それも「オオーーッ、ワォーーッ」と大勢が立てる騒めきに消されて、何を言っているのか分からない。
「潰せましたな。」
ユリウス陸佐の声が、ようやく戦を前に覚悟を決めた男の声として聞こえて来た。
先ほどまでは、まだ本格的な覚悟をする前だったのかもしれない、何処か浮ついた感じがしていた。
今は、敵の死に動じない、恐らく自分を含めた味方の死をも許容した覚悟を感じる声だ。
「そうね、これで 此処での戦いが始まったのよ」
「幸先の良い事に、敵の機先を制して大物を潰す事ができたわ」
キリアム侯爵軍の混乱を見ながら、ビーザ砦攻防戦の始まりの狼煙を上げた事に一抹の後悔をおぼえた。
敵となった以上殺し殺される間柄だ。
いずれが先に手を出したかと言えば、パスト市で襲われて返り討ちにしたとは言え、カトリシアを襲撃したキリアム侯爵側だろう。
カトリシアに切り掛かった以上、私と間違えたからなど些細な事だ。
それでも、此処ビーザ砦の最初の攻撃は私が撃ち込んだ。
火球は投石器を破壊するだけの威力を持っていた。
この後も私は戦で敵を多く殺すだろうと、悲しみと共に諦観している自分に気が付いていた。
ビェスにしてもキリアム侯爵にしても、互いに相手が死ぬまで戦う決意だろう。
今回で決着が付くように、私はビェスに全面的に力を貸す。
エルフから見れば人族の争いは他人事だ。
どちらが勝とうが負けようが、人族の争いに加担する事は聖樹島にいる時ならば考えもしなかった。
今は違う、ビェスと言う人族の夫がいる。
私もエルフから人族へと外見は変わらなかったけど、寿命は間違いなく人族と同じになった。
もうエルフでは無い、人族としてビェスと共に生きて行く。
キリアム侯爵とも戦うし、ビェスのためなら人殺しも厭わない。
ただし、魔女として戦いで死んでいく人の数よりも多く、人を救う事を誓おう。
この誓いは誰にも言う事は無いし、誰にも悟られない様にする。
この誓いは私がビェスと共に生きて行くためにも、大事な誓いだ。
”殺すなら、それより多く生かそう”、私が生きている限り誓おう!
心に誓いを秘め、私は次の戦いに出かけなければならない。
デーストゥラ城(右)とスィニートゥラ城(左)の二つの出城を守るため、敵(キリアム侯爵軍)の作る投石器を破壊する。
今度は、空からの攻撃になるだろう。
キーグに念話で呼びかけて、神域から出て来て貰う。
竜具は神域の出入り口に置いてあるのでそれも引っ張り出して貰う。
私が西門の上から飛行場の在る中央部のエリアへ移動するのは一瞬だった。
ユリウス陸佐に別れを告げて、物見の塔から飛び降りたのだ。
ビーザ砦は砦の真ん中を街道が通っている。
東と西に門が在るが、砦の中にも壁を築いて通行を遮ることが出来る。
その壁が中央の建物を囲む城壁で、ビーザ砦を中央と東西南北の5つのエリアに分けている。
西門から飛び降りた私は、そのまま街道を走り、中央の城壁を飛び越えるように城壁の積み上げた石を足場に数回のジャンプで乗り越えた。
中央城壁を越えれば、其処は土がむき出しの飛行場だ。
私が、西門から飛行場へと走って来る間に、キーグが竜具を口にくわえて引っ張り出しながら神域から出て来た。
「KYAAAOOOOOOO!!」
飛行場で先に待って居たキーグから歓迎の鳴き声で迎えられ、少し耳が痛くなった。
キーグが張り切って甲高い声を上げたからだ。
竜具を取り付けやすいようにキーグが背を屈め、首を私へ向けて頻りに息を吹きかける。
「急いで竜具を着けろ!」と言っているのだ。
キーグが張り切っているのが伝わって来て、私も一人分の竜具を急いでキーグに取り付けた。
キーグの巨体に取り付ける皮製の竜具は私が全体重を掛けても、未だ遊びが在る。
そのための道具として梃子を使った締め具がある。
前足、背の翼、背中の鞍、交差するように皮の帯を掛けて締め具で締め上げる。
しっかりと締め上げて、固定する。
空中でのキーグの動きで緩む事がない様にしっかりと締めて固定できているか確認すればキーグに乗れる。
私が竜具を確認して乗り込むと。
キーグが声高く、戦いの雄たけびを上げた。
飛行場を数歩走り、一気に空中へと羽ばたき、上昇する。
最初は、デーストゥラ城(右)だ。
次回、左右の出城の攻防戦。




