第57話・1 ラーファ出撃す!(1)
トラント将軍から攻撃許可をもらったラーファは出撃する。
最上階の部屋を出た私は、西の城壁の何処から魔術を行使しようかと小走りで駆けながら考えた。
運動が苦手な私が考えながら走ると、躓くか衝突するか、何かしらのアクシデントに遭うのは直ぐだった。
「アッ!!」急こう配の階段の何も無い所を踏もうとして、頭からダイブした。
ビーザ砦の中央に在る建物は砦の最終防衛のための建物でも在る。
大き目の石組みが組まれ、最上階は物見も兼ねて3階の上に高く塔のように作られている。
3階の屋上も矢狭間の在る作りで、兵士が籠れば立派な砦として通用するだろう。
生憎高低差の無い平城なので、建物の高さぐらいしか防御の役には立たない。
そう言う事で、4階の最上階から降りるには急な階段を下りる必要がある。
今の状況が如何なのかと言うと、ただいま真っ逆さまに落ちている途中です。
慌ててはいません。
無駄に竜騎士をしていた訳では無いので、空中に放り出されてもパニックになる事は無い。
はずだ、踏み外した時は慌てたけど、咄嗟に飛空魔術を行使した。
幸い飛空の魔術の行使は成功したので、墜ちる速度はだいぶ落とす事ができた。
そこで閃いたのが、飛空の魔術を行使すれば城壁にだって簡単に登れるんじゃないか?
運動の苦手な私でも、軽々と走ったり跳んだりできる上、何だったら城門の上までもいけるんじゃないかな。
私は身体強化(金剛力)が苦手だ。
マーヤ達が簡単に使えるのに、私は身体強化を行使すると身動きできなくなってしまう。
でも、飛空の魔術なら?
そう、軽身のスキルを魔術で行う事ができるようになる。
なんで今まで思いつかなかったんだろう、飛空の魔術は空での姿勢制御にしか使って来なかった。
地上で使えば軽身のスキル以上に身軽に動けるだろう。
階段の終わりの踊り場に軽くトンッと着地して、勢いを殺しきれず尻餅を着いた。
最後まで飛空の魔術行使を切らさない様にしなければ、今みたいに慣性が殺せなくて着地に失敗する。
私は身も心も軽くなって(飛空で軽くしている)西の城門へと、それこそ軽身を使った海賊のように軽快に走り抜けた。
城門に登る階段も、数段飛ばしであっという間に城門の一番上まで着いた。
「これは? ダキエの姫様!!」
私が城門の最も上の見張り兼防御の見晴らし台へ、文字通り飛び上がって着くと。
驚いて振り返った、見知った士官の一人が私に声を掛けて来た。
昨日共に食事をした一人で西の第3連隊隊長のユリウス陸佐だ。
「これはユリウス陸佐、敵の投石器は完成が近いようですね」
私を見て驚いた後、迷惑そうな顔をしたユリウス陸佐に、一切構わず聞いた。
彼は西の城壁の最高指揮官なので、更に上の存在になる私は邪魔なのだろう。
「トラント将軍より、投石器の破壊許可を頂きまして、此処から狙う積りです」
そう言うと、ユリウス陸佐は「はっ え?」と固まってしまった。
ひょっとして、ユリウス陸佐は私が魔術の行使が出来るエルフだと知らないのかも。
エルフだと知らせたのは、トラント将軍と最初に会った時だけだった。
食事の時は何時の魔道具で耳は隠していた。
「魔術を行使して、投石器を破壊する積りです」
耳を隠している魔道具のイヤリングを外して、耳を見せながらユリウス陸佐に言った。
「なっなっ え、耳が!!」
「えっ 「「エルフ!?」」」
ユリウス陸佐だけでなく、周りに居る兵士や尉官も驚いて、後ずさりしながら私を凝視している。
そんな化け物を見たみたいに逃げなくても良いのに、私は人族じゃあないけど、人族とほぼ同じに変異したのだから。
私を”ダキエ”の姫と樹人の国の名を付けて呼んでいるのに、今の今まで私がエルフだと思いもよらなかったのでしょう。
いかに樹人の事がおとぎ話的な存在か分かります。
「ダキエのひ、姫様は魔術が使えるのですか?」
まだ信じられないのかユリウス陸佐がシツコク聞いてくる。
「使えますよ!」
「それで、キリアム侯爵軍の投石器は完成してるのですか?」
やっと落ち着きを取り戻してきたユリウス陸佐が投石器を振り返って見た後、敬礼して言った。
「ハッ、ほぼ完成しております、直ぐにでも押し出してくるでしょう。」
ユリウス陸佐の側により(彼は逃げだしたいようだ)彼が覗いてた矢狭間から対岸を見た。
城門の上から見ると、キラ・ベラ市の城門と同じで門から直接橋が対岸まで伸びている作りだった。
今は上から見ると橋げたのみが対岸の川岸まで続いていて、其処はキリアム侯爵軍が既に盾や土嚢を積んで守りを固めている。
投石器は其の更に後ろ、城門から500ヒロ(750m)は離れている場所で組み立ての最終段階に在る様だ。
既に全体は組み上がっていて、最後に移動するための車輪をはめ込んでいる。
「ユリウス陸佐、あれはどのくらい飛ぶか分かりますか?」
私が、投石器の投射距離をこの中で一番詳しそうな彼に聞いた。
「最大で人を殺せるぐらいの石が届く距離は恐らく200ヒロ(300m)ぐらいでしょう。」
「城壁を壊すぐらいの岩だとせいぜいが70ヒロ(100m)が良い所じゃ無いでしょうかね。」
ユリウス陸佐の見立てでは対岸から城門へ届きそうですね。
すぐさま破壊しましょう。
「そうですか、それでは今から破壊します」
「えっ? なんですと!?」戸惑う声がしたけど、委細構わず詠唱する。
『わが身より沸き立ちし火炎に漲る熱よ、凝縮して満ちれば爆炎と成る』
「火球!」
魔術の最長距離350ヒロ(500m)を越える距離まで魔術の効果を伸ばすには行使する魔術陣に供給する魔力が切れない様に繋いだままにする必要がある。
これが半端なく魔力を消費する。
「グググッ!!」
魔力が、行使した火球の維持のため大量に使われて行く。
『長い! 長すぎる!! まだか、まだ届かないのかな?』
一瞬の事だが、総魔力の半分近くを使ってやっと投石器まで維持できた。
「ドッン!!! ドドドドドドドドオンーーーー!!!」
投石器の周辺が火球に包まれ、次の瞬間弾けた!!
次回は、出城のデーストゥラ城(右)とスィニートゥラ城(左)へ攻撃が始まった。




